『ピッツァ! ピッツァ? シティ!?』09
先輩たちは先ほどの外出で、お金持ちの人と知り合うイベントがあったらしい。ひょっとしたらアチーブの3番目、1枚10万Pのピザを受注できる相手がその人の可能性もあるので、機会があれば私たちにも紹介するかもしれないとのこと。
「それで、その金持ちさんとの繋がりがそのピンバッジなんですね」
「そう、ピザのピンバッジ。私たちがピザのアクセサリーを1つも持っていなかったのを憐れんで、その人が持っていた物を押し付けられたともいうけどね」
「あたしとアカネも、アクセサリー付けてないから~、周りの人から憐れに思われてる~?」
「それはあるかもな。ここではピザのアクセがオシャレアイテムに大変身してるぞ。周り見てみろよ」
そう言われて注目してみると、確かにピザのアクセサリーを持っている人が目につく。全員かも?
「今はピザ屋の制服着てるから、ふたりとも違和感ないけど、私服は考えないとね」
『システム:ストーリーミッションが付近にあります』
そんな話をしながら、昼時間に35番通りの奥までバイクを1台運びつつ集合した。集合時間前だったけど、マードレ・ピッツァの4人は先に来ていて、バイクに飛行ユニットを取り付けている最中だった。挨拶したかったけど、それより先に話をしなければならない人がいる。
この場にはマードレ・ピッツァの4人以外に、先日の緑の服のメイドさんと、緑の作業着を着た50代に見える、濃い赤髪を短めのショートヘアにした鋭い目つきの女性が居る。挨拶をするなら、こちらが先だろう。
「こちら、皆様の業務進行をまとめてくださるアエラ様です」
「ようこそ、みなさん。これからしばらくよろしくお願いしますね」
「「「「よろしくお願いします」」」」
それぞれ顔合わせも終わり、マードレ・ピッツァの皆さんに軽く挨拶をした後、私たちのバイクにも飛行ユニットを取りつけることになった。
バイクの座席のシートを開けた下にある空間の、さらにその下を開ける。そこへ飛行ユニットのコアを取りつける。この場所なら後付けの飛行ユニットが外れることもない。加えて、飛行中はこのコアに体が吸い寄せられるので、落下することもないようだ。
ハンドル部分に飛行用のボタンと別の計器を取りつける。この計器は飛行可能な残り時間を表している。燃料の消費速度が地上を走るときと違うため別で取りつけて時間を把握するらしい。飛行ユニットによって燃料の消費量が違うため、ユニットを交換するごとに計器も取り換えるとか。
座席横に主翼、後ろに尾翼が取りつけられる。羽根はなくても飛ぶらしいけれど、あった方が安定するらしい。翼は折りたたみで、手元のボタンでいつでも開いたり閉じたりできるそうだ。
「全員、一度乗ってみよう」
黄里先輩の提案によって、それぞれが1度は乗り込んで空を飛んだ。
ハンドルの飛行用のボタンを押すと、飛行状態と地上走行が切り替わるみたいだけど、バイクの下に地面に該当するものが一定時間なければ飛行状態へと自動で切り替わるので、操作ミスでの墜落は防止されている。
バイクのハンドルが前後にも動くように変わっていて、それで空を飛んだり降りたりできる。
体の体重を移動させれば傾くのは空でも変わらない。低い位置でめいっぱい傾けてみたけど、ひっくり返るほどにはならないようだ。
飛行状態だと、ハンドルを急に動かしてもいきなり曲がったり上昇はしない。停止に近い状態ならぐるぐるその場で回転が可能。
大通り以外は入り組んだ道が多いこの都市では、空を飛ぶより地上を走る方が便利そうだ。空を飛んでいるバイクをほとんど見かけないのはこのせいかな?
「思ってたより不便だね~」
「2階にあがるだけで、地面を100メートルは進めるよね」
「どちらかというと、落下防止が一番大切なんだろうね」
「便利だったら街中は空飛ぶバイクであふれていたな」
とはいえ、新しい機能にはわくわくする。出来ることが増えるのは良いことだ。
準備ができたけれど、もう少し待つようなので、マードレ・ピッツァの人も交えてお話しながら待機する。
「ミテラなんて、やる気出しすぎて、朝から受話器の前でずっと待機してたからな」
「ちょっとマドラさん、それはだまっててくれてもよかったのでは!?」
今はお互いの経験談や失敗談を話すことになった。
「キリもピザ作った作業台にそのまま寝たから、打ち粉が顔中にべったりだったな」
「そこまでベッタリじゃないから!」
と言った感じでお互いの親睦もどんどん深まっていった。
しばらくすると、町の最外周の崖下から、巨大な鉄の薄い籠がせりあがってきた。
「お待たせしました。こちらのゴンドラで都市下部へ向かいます。それでは、こちらを」
アエラさんが差し出したのは沢山の紐だ。なんだろ?
「このように身に着けてください。落下防止のハーネスです」
あぁ! 歴史の本にあったあれだ。工事している人がベルトを体に巻いてた写真を見たことがあるけど、あれかぁ。
現代だと工事現場ではどの高さでも歩けるから転落ってないんだよね。
歴史の遺物に出会えるのもゲームの良いところである。アエラさんの付け方を真似して身に着ける。
これを身に着けるためにスカート禁止だったんだね。てっきり空を飛ぶからだめなんだと思った。
ゴンドラの入口が開き、中へ入れるようになると最初にアエラさんが中に入った。それに続くように、私たちがバイクを引っ張って入り込む。9人とバイクが入っても、まだ4倍は人が入れそうだ。
アエラさんが身に着けた紐を私たちに見せる。
「ハーネスについたランヤードを、ゴンドラの手すりにつなげてください。この部分を押せば、はめ込めるようになります」
お手本として手すりに紐……ランヤードを手すりに接続した。それを見て、私たちも同じようにつなげる。
ランヤードをつなげている間、メイドさんは人の背丈ほどもある大きなコンテナをゴンドラに運び込んでいる。
「これは?」
「今回の依頼に使う食材です。途中で補充も難しいので、余裕をもって入れてあります」
コンテナはバイクみたいに浮遊していて、メイドさんの手元のコントローラーで動かしている。
ゴンドラにコンテナを積み終わったらコントローラーをアエラさんに渡し、メイドさんはゴンドラから外に出て、こちらを振りかえる。
「それでは、旦那様方へのピザの支援、よろしくお願いいたします」
そう言ってメイドさんが礼をしたら、ゴンドラの扉が閉じた。ガコンと振動が一瞬した後で、ゴンドラが徐々に下がっていった。
ゴンドラの下がる速度は遅すぎはしないけどゆっくりだ。それでも、既に10メートルは下がってるかな。
「皆さんは下層に行ったことはありますか?」
移動中、私たちに向かってアエラさんが質問をしてくる。当然ないので首を横に振るが、ミテラさんたちも行ったことはないと答えている。
けど、マーレさんだけは違っていた。
「何度か、工場見学で下の階層に入ったことはあります。15番通りと27番通りには複数回入りました」
それを聞いて頷くアエラさん。
「ええ。一般的に、工業製品や地下で作ることが可能な農産物は、マーレさんの言う通りそれぞれの通りから下の階層で作られています。皆さんの家族が働いていることもあるでしょう」
マドラさんが頷く。
「ですが、その場所は生活圏の一部であり、階層で言えば中層に当たります」
ゴンドラはどんどん下がっていく。そろそろ50メートルという所で、視界が開けて、強い風が吹き込んできた。
視界には『円形浮遊都市・第1番艦 マルゲリータ』の下層である裏側が見える。光が上から差し込まない裏側は、至る所で光がきらめていて、まるで星空のように見える。ただし、光の反射によって見える金属部品が、星空でないことを証明している。
「こちらが、浮遊都市の裏側である下層、アンダーピールです」
ピザを窯で焼く道具の名称は、パーラー、パーラ、ピールといくつもあるようです。どれを採用しても問題なさそうなので、普段使う道具としてはパーラー、下層の名称にピールを採用してアンダーピールです。




