『ピッツァ! ピッツァ? シティ!?』04
「キウスさん! みんなどうしたんですか!」
緊迫感のある声が聞こえた。茶子と顔を見合わせてから工事現場の中に入り、パルトさんの声が聞こえる方に行くと、屋根と周囲を布で覆われた簡易テントの下で、作業着を来た男女が3人地面に倒れていた。
「……腹が……痛い」
倒れている女性に駆け寄ると、お腹を押さえて腹痛を訴えている。テーブルには食事途中のピザが大量にある。ドリンクもあるから原因はわからないけど、状況から食事が原因だろう。
「ヤバい、車両が! 君たち、救急車を頼む! 僕はあの支持車両を直してくる!」
急いで支持車両に向かうパルトさん。緊急車両の連絡先を茶子と調べて、茶子が連絡をする。
茶子が連絡している間に外を見ると、今では私の目から見ても支持車両のT字アームがビルから離れている。
「反対側も離れているのか!」
パルトさんの操作する車両はなんとか保っていそうに見えるけれど、ここから奥に見える車両は誰も載っていないからか、建物がグラグラ揺れているような気がする。
誰かが操縦しないと建物が倒れそう……他の作業員は食中毒。この流れ……私が操作するのか!
気持ちを切り替えて、急いで車両に向かい座席に座ると、目の前にはビルとT字アームの映像と共に、レバーの操作方法が表示された。
4つあるアームの切り替えボタンに、上下に移動するボタン、前後左右に動くレバー、位置固定のボタン。今必要なのはこれだけだ。T字の向きを変えるボタンもあるけど、映像を見る限り今は使わなさそう。
アームを1つだけ重点的に操作するとバランスが悪くなる気がしたので、切り替えボタンを何度か押して徐々にアームをビルに接触させていく。
中央、左右、中央、左右……。
どうだろ? ビルに全部のT字アームをくっつけたけど、これでいいのかな?
『そちらで操作してるのは誰ですか? 助かりました』
車両のスピーカーからパルトさんの声が聞こえる。
「先ほど見学に来てた者です。なんとかビルにアームを設置させたんだけど、これでいいですか?」
『君か! うん、問題なさそうだ。後は各アームの位置を固定してもらえれば完了だ。車のエンジンを切っても固定状態で継続される』
「はーい」
ボタン操作をしてアームを固定……よし。
固定も終わったので、操作方法を確認してエンジンを切り、車から降りて茶子のところへ移動した。
簡易テントには、薄黄色い服装の人たちが倒れている人の傍にいた。
「どうなった?」
「うん。救急の人が来て助けてくれた~」
救急の人だったのか。奥に見える黄色い車は救急車かな? 赤いランプが光ってる。
「さっきはありがとう、助かったよ」
パルトさんもやってきた。途中で一度すれ違って、私が操作した方の確認をしてもらったのだ。
「何とか操縦できて良かったです。それより――」
「やーっぱり事故が起きたんですかぁ!?」
「だから言ったじゃないですか、こんな建築なんて危ないって」
「マルゲリータに豪勢な具材はいらんのだわい」
パルトさんに話を聞こうとしたら、工事現場に新たな人たちがやってきた。10人程度いるだろうか?
手には赤文字でビル建築反対を書いたパーラーやフライパンを持っている。
「すみません、工事現場は危険なので敷地に入るのは控えてください」
パルトさんが前に出て、団体に声を掛けに行く。
「そこの子どもらだって工事関係者じゃないだろ! その子らが入っていいなら俺らだって問題ないだろ!」
「だいたい、こんな高層建築を増やす方が危険だろ! 俺らだけじゃなく子どもにも問題を残すつもりか!」
「今まで3階までの高さで美しい景観を守ってきた俺らマルゲリータ市民を馬鹿にするようなこんな建築、誰も望んじゃいねーよ!」
「こんな救急車が来るような危ない工事なんて、さっさと中止してしまえ!」
その団体は口々にこの工事現場の悪口を言いながらパルトさんに詰め寄る。手にしたパーラーやフライパンをポンポン投げてきて危ない。
そんな中、パルトさんは色々説明をしているが、相手は聞く耳を持ってくれていない。
「……すみません、ちょっと聞いてください」
そのパルトさんの後ろから新たな男の人が現れた。さっきまで倒れていた人の一人だ。
「ここの現場責任者のキウスです。先ほどの救急車は、工事の事故ではなくピザの食あたりです。救急隊員の人からもそう診断されました」
キウスさんの隣に立っている救急隊員の人もしっかり頷いた。
グッと黙ってしまう団体の人たち。
「ち、ピザの食あたりなら仕方ないか」
「事故じゃなかったのかい、ったく、人騒がせな」
え、ピザの食あたりってわかっただけで、ここまで勢いが削がれるの? ピザすごくない?
「でもな、ワシらは建築反対なのは変わらないのじゃぞ!」
「浮遊都市のことを考えたら高層建築なんて建たない方がいいに決まってんだ!」
「何か変な事態が起きたら、このビルとっとと解体しなさいよ!」
そう言い残してその団体は帰っていった。勢いがすごかったけど、建築を反対する人たちが居るのは理解した。何で高い建物が立っていないか不思議だったけど、土台や技術の他に、住民の意思もあってこの高さの家になっているのか。
「すまないね、妙なことに巻き込んで」
パルトさんと一緒にやってきたキウスさんが頭を掻きながら話しかけてきた。
「いえ。それよりお腹は大丈夫ですか?」
「ピザの病気に効く薬を飲んだからな。俺はもう大丈夫だ、ありがとう」
俺は、というところで、キウスさんは簡易テントを見る。残りふたりのうち、男性が救急車に搬送された。女性は横たわって寝ているけど、問題はないらしい。
「あいつは、摂取量が違ったからな。病院で処置すれば治るから、お嬢さんらが気にかけるほどの症状じゃない」
「というわけで、助けてもらってすみませんが、こちらも書類等で忙しくなってしまいそうです。またどこかでお礼させてください」
パルトさんが申し訳なさそうに話しかけてきたけど、もともとはただの野次馬で見学にきただけなので、逆に申し訳なく感じる。
「いえ、無事に終わって良かったです」
「それでは、パルトさんもキウスさんも、またどこかで~」
お別れの挨拶をお互いにして、私たちは建築現場から離れた。
『ストーリーミッション:CLEAR!』
「クリアだ~」
「こんな感じで進むのかー」
キックボードを取り出し、歩道をノロノロと並んで進む。会話するのはこっちのが都合がいい。
「私はビルを支える車を動かすミッションだったけど、チャコはなんだった?」
「救急隊員のサポートした~。ピザ治療専用の医療器具を使ったよ~」
医療器具の操作もゲームの定番だよね。人命がかかってる瞬間はすごく緊張するから、その緊張感を味わわせる医療専用のゲームがあるくらいだ。
「それにしても、怪しかったよね」
「そうだね~。良い筋肉だったけど、一番怪しい~」
パルトさんの行動が全部怪しく見える。ひとりだけピザを食べなかったのも、支持車両にパルトさんが乗り込んだ後で、ビルの支えから車両の支えが離れるように見えたのも。
「最初に音が鳴ったのは何だろうね」
「奥の車両を先に操作したとかかな~? 乗り込んだ時点で離れてたんでしょ~?」
「あ、なるほど」
反対側の軋みがこちらに聞こえてきたのか。……奥に行くの危なかったんじゃないかな?
「あの団体が支持車両を操作した可能性は0だよね」
「少しも触れなかったからね~」
もし事故で問い詰めるとしたら、支持車両が欠陥品だと言うチャンスだったのに、そんな様子はなかった。救急車が来たことだけの抗議だった。
別のどこかに犯人が居る場合は、私たちが中に入って簡易テントに全員が集合したタイミングで、こっそり外へ出ていくパターンかな? それだったらもうわからない。
「一度戻って先輩に報告しようか?」
それでも、初めてのストーリーミッションクリア! どう話が繋がるかわからないけど楽しみだ。
お店に速く帰るために、歩道から道路側にでてスピードを上げた。
ピザに薬物が混入しても、たいていはピザの治療薬で直すことができます。




