『ピッツァ! ピッツァ? シティ!?』02
「フラテッリ・ピッツァ! 性懲りもなくまた来たか!」
「ふっ。俺のことはエルマーさんって呼びな!」
ライバル店の1つで、フラテッリ・ピッツァ。うちと同じく安さと速さを売り物にしている。
制服は、うちの店と同じように上はポロシャツだけど、ベースカラーが緑色。左の胸元には手のひらサイズのマルゲリータのワッペンが付いている。下はブーツカットというか、パンタロンというか、とにかく裾が広がった茶色のズボンをはいている。
制服のデザインは昔から変わらないらしく、伝統的なフラテッリ・ピッツァの制服だとか。
ヘルメット代わりの帽子は濃い茶色のキャップで、あご紐を結べるタイプ。乗馬で使ってそう。
このゲームは定期的に誰かと勝負するバトルミッションが発生する。これまでも2度ほど勝負をした。さすがにゲーム初期のライバル店だからか、さほど強いわけじゃないけれどミッション発生回数は多い。
今回の勝負は、タイムアタック。指定時間内にデリバリーを完了させるようだ。前回はピザ作りだったので、今度はそれを届けるって趣旨なのかな。
フラテッリ・ピッツァの店員、エルマーが私と似たようなバイクに乗って隣に並ぶ。バイクはカラーリングが違うだけかな? 性能は同じと思っていい。
道路にはなぜか縦に並んだ信号がある。上から、赤、赤、緑だ。上から順に光が点灯し、赤が消えて緑が光ったらスタート合図だ。
それとは別に、私にだけ15分を示す数字が見える。ゲーム的には15分以内に配達しなければならないようだ。
スタート位置に着く。
赤、赤
バイクのアクセルをしっかり握る。
緑!
『START!』
緑になった瞬間にアクセルを回す! でも、勝負だけどスピードは全開にできない。なぜなら速度違反があるから!
この大通りは最大時速50キロまで出せる。そのギリギリを走っているのだけど、
「おいおい! そんなノロノロ走って勝てるのかよ!」
そう言い残してエルマーが加速をして追い抜いていった。そして案の定、パトカーが登場して後ろから追いかけられている。
パトカーに追いかけられるロスは出来るだけ避けなければならない。少なくとも序盤では避けるべきだ。
大通りを走り、26番通り付近の最初のデリバリー先に到着。バイクを降りてマルゲリータ2箱を手に取り、インターホンを押す。
「ソレッレ・ピッツァです! お届けに参りました!」
「お、来た来た。待ってたよ」
玄関が開き、赤いアロハシャツを着た白髪のおじいちゃんが出てきた。証明書を見せてピザを2箱渡し、お金を受け取る。お釣りが無いピッタリの金額を受け取ったので、タイムロスが無い。
「ありがとうございました、またよろしくお願いします!」
おじいちゃんに礼をした後、急いでバイクに戻って走り出す。後12分を切った。
このまま真っすぐ走って、次は31番通り。通りから左に入って少し進んだところだ。通りの看板を見つけて左に入る。
ウーーーー!
違反:ウインカー表示義務違反
ええ! またウインカー?
とりあえず、パトカーが来る前に隠れる。ちょっと距離はあるけど、走ればなんとかなると思う。
ピザの箱6箱か……いや、がんばろう!
持って走るには重いけど、何とかデリバリー先に到着。インターホンがないけど、玄関が開いている。
「ソレッレ・ピッツァです! お届けに参りました!」
「はーい、まってて」
部屋の中に向けて呼びかけたら、返事があったのでほっとした。しばらく待つと、茶色いエプロンを身に着けた中年の女性があらわれた。
「ありがとうね。じゃあ、代金は……まってて、小銭出すから」
「はい」
現実だとキャッシュレスが一般的だけど、ゲーム世界だと何かと硬貨を使うので、このやり取りも珍しくもない。ただ、今回みたいなタイムアタックだと不便だなと思う。
どうせ待つのなら最後のデリバリーの準備を……この袋に入れて……よし。
「またよろしくお願いします!」
お金を受け取りバイクに戻る。残り7分。
警察はいない。次は35番通りの右奥だ。
バイクを走らせて大通りに出るために左に曲がる。
ウーーーー!
違反:ウインカー表示義務違反
わかった、これ曲がったら違反になるんだ! 曲がる前に何かやらないとダメっぽい。35番通りはまだ距離があるから、このまま35番通りまで直進したら確実にパトカーが来て捕まってしまう。
警察から逃げるために、急いで目の前の33番通りを右に曲がり、さっきの孤児院へ向かう前にバイクを隠した場所で潜む。
「さっきのはどうにかなったけど、大通りに出るときに曲がるから、またパトカーが追いかけてくるんだよね。ウインカーってどうすれば……そうだ!」
バイクを置いて、孤児院まで走る。玄関のインターホンを鳴らして少しのやり取りの後、先ほどの修道女さんが出来てた。
「先ほどの……どうされました?」
「あの、ウインカーについて教えてください!」
事情を説明するとバイクまでついてきてくれて、優しく教えてくれた。修道女さん優しい。
お礼を言って、デリバリーの続きを開始する。大通りに戻る直前、左へ曲がるためにウインカーを出して曲がったら問題なく曲がれた。残り3分。
大通りを進んですぐに、目の前の34番通りからエルマーが出てきた。
「俺はもう次でラストだ! 35番通り!」
「私もそうだよ! 35番通りの茶こげビル!」
「マジか、目的地同じじゃねーか! 2階の6号室!」
「隣じゃん! 2階の7号室!」
デリバリー先が隣同士なのはやはりゲームだからだろう。ゴールは同じってこと!
茶こげビルの位置を思い出す。35番通りに入って少し奥だった。つまり、隠れる場所があるってこと。
視界に35番通りが見えた! アクセル全開! 交通ルール無視でダッシュだ!
ウーーーー!
違反:速度超過
パトカーが来るまでにデリバリー先までたどり着けばいい! 加速していると、隣にいたエルマーも少し遅れて加速している。大丈夫、まだ勝ってる!
35番通りを右に曲がる。
ウーーーー!
違反:ウインカー表示義務違反
忘れてた! でも既にスピード違反で追われてるから関係ない! バイクについている後ろが見える鏡を見ると、少し離れたところでパトカーが追いかけてきている!
狭い路地裏に入り、2度ほど角を回って茶こげビルに到着! バイクを、駐車場に停めてある大きな車と隣の建物の壁の隙間に隠し、ピザを持ってビルへ向かう。
エルマーは、バイクを隠すこともせずに、ビルの前にバイクを駐車して、ピザを持って走っていた。隠した分だけ私の方に時間のロスが出て階段の到着が一歩遅れた。
エルマーの背中を追って階段を駆け上がる。走る速度は変わらなさそうだ。一番手前の部屋は201だから、私の方が奥の部屋になる。
エルマーが206のインターホンを押すタイミングで後ろを駆け抜け、207のインターホンにぶつかるほどの勢いで素早く押す。
「ソレッレ・ピッツァです! お届けに参りました!」
インターホンから返事があったのでしっかり挨拶をする。あぁ! エルマーのが先に扉が開いた!
少し遅れて、こちらも中から緑のワンピースを着た壮年の女性が出てきた。スパッと間を開けずにピザを渡す。
「ありがとうね。料金は、これでいいかしら?」
「はい。こちらお釣りとなります」
お釣りを間髪入れずにサッと差し出し、レシートを即座に提出。
「またよろしくお願いします!」
『GOAL! 1st:ソレッレ・ピッツァ 14:08』
よっし! さっきのデリバリー先でお客様がお釣りを出す時間の間に準備しておいた作戦。おつりをあらかじめ全部用意しておくのがはまった! 料金が決まってるなら、細かいお釣りは準備しておいて、あとは出された金額に応じてお札を調整すれば素早く対応できる。支払金額が決まっているデリバリーならではの作戦だ。
上手くいかない可能性もあったので賭けではあったけど、なんとか勝った!
『GOAL! 2nd:フラテッリ・ピッツァ 14:14』
隣を見ると僅差で負けたエルマーが悔しそうな顔をしてこちらを見た。
「次の勝負こそ負けないからな!」
そう言って階段へ向かってがに股で進んでいく背中に向かって、
「次もうちの店が勝つから!」
と声をかける。
今回は僅差だったけれど、私がウインカーを知っていればもっと余裕で勝てたに違いない。
そう思いながら階段を降りるエルマーを見送る。
帰らないのかって? そりゃあ、まぁ、ね。
「くっそー! 減点かよ! あいつのバイクは!? 無ぇじゃねーか!」
町中になぜかスタート用のシグナルがありますが、深く考えずに設置しました。時間制限はアカネだけの縛りですが、スタートを同時にさせたかったので、エルマーの目に見えた方がいいかと思っただけです。




