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あちーぶ!  作者: キル
32/261

『ピッツァ! ピッツァ? シティ!?』02

「フラテッリ・ピッツァ! 性懲りもなくまた来たか!」


「ふっ。俺のことはエルマーさんって呼びな!」


 ライバル店の1つで、フラテッリ・ピッツァ。うちと同じく安さと速さを売り物にしている。

 制服は、うちの店と同じように上はポロシャツだけど、ベースカラーが緑色。左の胸元には手のひらサイズのマルゲリータのワッペンが付いている。下はブーツカットというか、パンタロンというか、とにかく裾が広がった茶色のズボンをはいている。

 制服のデザインは昔から変わらないらしく、伝統的なフラテッリ・ピッツァの制服だとか。

 ヘルメット代わりの帽子は濃い茶色のキャップで、あご紐を結べるタイプ。乗馬で使ってそう。


 このゲームは定期的に誰かと勝負するバトルミッションが発生する。これまでも2度ほど勝負をした。さすがにゲーム初期のライバル店だからか、さほど強いわけじゃないけれどミッション発生回数は多い。


 今回の勝負は、タイムアタック。指定時間内にデリバリーを完了させるようだ。前回はピザ作りだったので、今度はそれを届けるって趣旨なのかな。


 フラテッリ・ピッツァの店員、エルマーが私と似たようなバイクに乗って隣に並ぶ。バイクはカラーリングが違うだけかな? 性能は同じと思っていい。

 道路にはなぜか縦に並んだ信号がある。上から、赤、赤、緑だ。上から順に光が点灯し、赤が消えて緑が光ったらスタート合図だ。

 それとは別に、私にだけ15分を示す数字が見える。ゲーム的には15分以内に配達しなければならないようだ。


 スタート位置に着く。


 赤、赤


 バイクのアクセルをしっかり握る。


 緑!


『START!』


 緑になった瞬間にアクセルを回す! でも、勝負だけどスピードは全開にできない。なぜなら速度違反があるから!


 この大通りは最大時速50キロまで出せる。そのギリギリを走っているのだけど、


「おいおい! そんなノロノロ走って勝てるのかよ!」


 そう言い残してエルマーが加速をして追い抜いていった。そして案の定、パトカーが登場して後ろから追いかけられている。

 パトカーに追いかけられるロスは出来るだけ避けなければならない。少なくとも序盤では避けるべきだ。


 大通りを走り、26番通り付近の最初のデリバリー先に到着。バイクを降りてマルゲリータ2箱を手に取り、インターホンを押す。


「ソレッレ・ピッツァです! お届けに参りました!」


「お、来た来た。待ってたよ」


 玄関が開き、赤いアロハシャツを着た白髪のおじいちゃんが出てきた。証明書を見せてピザを2箱渡し、お金を受け取る。お釣りが無いピッタリの金額を受け取ったので、タイムロスが無い。


「ありがとうございました、またよろしくお願いします!」


 おじいちゃんに礼をした後、急いでバイクに戻って走り出す。後12分を切った。


 このまま真っすぐ走って、次は31番通り。通りから左に入って少し進んだところだ。通りの看板を見つけて左に入る。


 ウーーーー!


違反:ウインカー表示義務違反


 ええ! またウインカー?

 とりあえず、パトカーが来る前に隠れる。ちょっと距離はあるけど、走ればなんとかなると思う。

 ピザの箱6箱か……いや、がんばろう!


 持って走るには重いけど、何とかデリバリー先に到着。インターホンがないけど、玄関が開いている。


「ソレッレ・ピッツァです! お届けに参りました!」


「はーい、まってて」


 部屋の中に向けて呼びかけたら、返事があったのでほっとした。しばらく待つと、茶色いエプロンを身に着けた中年の女性があらわれた。


「ありがとうね。じゃあ、代金は……まってて、小銭出すから」


「はい」


 現実だとキャッシュレスが一般的だけど、ゲーム世界だと何かと硬貨を使うので、このやり取りも珍しくもない。ただ、今回みたいなタイムアタックだと不便だなと思う。

 どうせ待つのなら最後のデリバリーの準備を……この袋に入れて……よし。


「またよろしくお願いします!」


 お金を受け取りバイクに戻る。残り7分。

 警察はいない。次は35番通りの右奥だ。

 バイクを走らせて大通りに出るために左に曲がる。


 ウーーーー!


違反:ウインカー表示義務違反


 わかった、これ曲がったら違反になるんだ! 曲がる前に何かやらないとダメっぽい。35番通りはまだ距離があるから、このまま35番通りまで直進したら確実にパトカーが来て捕まってしまう。

 警察から逃げるために、急いで目の前の33番通りを右に曲がり、さっきの孤児院へ向かう前にバイクを隠した場所で潜む。

 

「さっきのはどうにかなったけど、大通りに出るときに曲がるから、またパトカーが追いかけてくるんだよね。ウインカーってどうすれば……そうだ!」


 バイクを置いて、孤児院まで走る。玄関のインターホンを鳴らして少しのやり取りの後、先ほどの修道女さんが出来てた。


「先ほどの……どうされました?」


「あの、ウインカーについて教えてください!」


 事情を説明するとバイクまでついてきてくれて、優しく教えてくれた。修道女さん優しい。

 お礼を言って、デリバリーの続きを開始する。大通りに戻る直前、左へ曲がるためにウインカーを出して曲がったら問題なく曲がれた。残り3分。


 大通りを進んですぐに、目の前の34番通りからエルマーが出てきた。


「俺はもう次でラストだ! 35番通り!」


「私もそうだよ! 35番通りの茶こげビル!」


「マジか、目的地同じじゃねーか! 2階の6号室!」


「隣じゃん! 2階の7号室!」


 デリバリー先が隣同士なのはやはりゲームだからだろう。ゴールは同じってこと!


 茶こげビルの位置を思い出す。35番通りに入って少し奥だった。つまり、隠れる場所があるってこと。

 視界に35番通りが見えた! アクセル全開! 交通ルール無視でダッシュだ!


 ウーーーー!


違反:速度超過


 パトカーが来るまでにデリバリー先までたどり着けばいい! 加速していると、隣にいたエルマーも少し遅れて加速している。大丈夫、まだ勝ってる!

 35番通りを右に曲がる。


 ウーーーー!


違反:ウインカー表示義務違反


 忘れてた! でも既にスピード違反で追われてるから関係ない! バイクについている後ろが見える鏡を見ると、少し離れたところでパトカーが追いかけてきている!


 狭い路地裏に入り、2度ほど角を回って茶こげビルに到着! バイクを、駐車場に停めてある大きな車と隣の建物の壁の隙間に隠し、ピザを持ってビルへ向かう。

 エルマーは、バイクを隠すこともせずに、ビルの前にバイクを駐車して、ピザを持って走っていた。隠した分だけ私の方に時間のロスが出て階段の到着が一歩遅れた。


 エルマーの背中を追って階段を駆け上がる。走る速度は変わらなさそうだ。一番手前の部屋は201だから、私の方が奥の部屋になる。


 エルマーが206のインターホンを押すタイミングで後ろを駆け抜け、207のインターホンにぶつかるほどの勢いで素早く押す。


「ソレッレ・ピッツァです! お届けに参りました!」


 インターホンから返事があったのでしっかり挨拶をする。あぁ! エルマーのが先に扉が開いた!

 少し遅れて、こちらも中から緑のワンピースを着た壮年の女性が出てきた。スパッと間を開けずにピザを渡す。


「ありがとうね。料金は、これでいいかしら?」


「はい。こちらお釣りとなります」


 お釣りを間髪入れずにサッと差し出し、レシートを即座に提出。


「またよろしくお願いします!」


『GOAL! 1st:ソレッレ・ピッツァ 14:08』


 よっし! さっきのデリバリー先でお客様がお釣りを出す時間の間に準備しておいた作戦。おつりをあらかじめ全部用意しておくのがはまった! 料金が決まってるなら、細かいお釣りは準備しておいて、あとは出された金額に応じてお札を調整すれば素早く対応できる。支払金額が決まっているデリバリーならではの作戦だ。

 上手くいかない可能性もあったので賭けではあったけど、なんとか勝った!


『GOAL! 2nd:フラテッリ・ピッツァ 14:14』


 隣を見ると僅差で負けたエルマーが悔しそうな顔をしてこちらを見た。


「次の勝負こそ負けないからな!」


 そう言って階段へ向かってがに股で進んでいく背中に向かって、


「次もうちの店が勝つから!」


 と声をかける。

 今回は僅差だったけれど、私がウインカーを知っていればもっと余裕で勝てたに違いない。

 そう思いながら階段を降りるエルマーを見送る。

 帰らないのかって? そりゃあ、まぁ、ね。


「くっそー! 減点かよ! あいつのバイクは!? 無ぇじゃねーか!」

 町中になぜかスタート用のシグナルがありますが、深く考えずに設置しました。時間制限はアカネだけの縛りですが、スタートを同時にさせたかったので、エルマーの目に見えた方がいいかと思っただけです。

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