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あちーぶ!  作者: キル
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『ピッツァ! ピッツァ? シティ!?』01

 センタービルの最上階付近にある部屋で、男は皿の上に乗っている四角く切り取られたピザを左手でスッと手に取り、一気に食べる。右手は仕事のため、常に何かの作業をしている。


「やはりピッツァは良い。焼けて香ばしいドゥは食欲をそそり、赤く美しいトマトソースは口の中を爽やかな香りで彩り、チーズの濃厚な旨味と甘さが、ドゥとトマトソースを調和させてひとつの芸術に昇華している」


 部屋には石窯があり、そこでピザ職人がピザを焼いている。男がピザを頼んで3分以内には注文のピザを作り、綺麗に切られて木製の皿で提供している。


 10分で5枚ほどピザを食べたところで、男は職人が調理している作業台を見る。そこには、四角くピザを切った残りの部分が積みあがっている。


「コルニチョーネか……」


 6枚目のアツアツピザを3口で食べた男は7枚目を待つことにした。


~~~~~~


 ジリリリリリリ!


「はい! ソレッレ・ピッツァです! はい! マルゲリータでピザ8枚、カルツォーネ6枚ですね! お届け先は……わかりました! お値段は……はい、それでは、すぐお届けに参ります!」


 私が手にしていた黒い電話の受話器を本体に置くと、チンと小さな音を立てる。


「ミカン先輩! 注文14枚入りました!」


 後ろを振り返り、業務用の冷蔵庫を開けている蜜柑先輩に声をかける。


「アホかー!! 薪窯が1つしかないんだぞ!」


 左肩にピザのワッペンがくっついた赤い半袖ポロシャツに、黄色で短めのキュロットスカートの制服は姿が、私と比べてめちゃくちゃ似合ってる蜜柑先輩が叫ぶ。普段は長く伸ばしたままの髪を後ろでまとめているのも仕事人って感じになってかっこいい。



「生地をどんどん伸ばすよ~」


 茶子は発酵が終わったピザの生地に粉をまぶしている。粉がまぶされることで、べたべたした生地もさらさらになって伸ばしやすくなる。


「チャコちゃん、場所がないからカルツォーネ先に作るよ!」


 トマトソースとチーズとバジリコを運びながら、黄里先輩が茶子に指示をする。作業台が小さすぎて14枚を広げるスペースはない。カルツォーネは半分に畳むから、作業スペースに余裕ができるよね。


 作業台にピザ用の打ち粉を振りかけて、茶子が粉をまぶした生地を置く。手で押さえ、指でグイグイと引っ張って広げ、とりあえず丸っぽい形に整える。カルツォーネは折りたたむし、焼くために移動させると生地が伸びるので、この時点で完全に丸くなるように細かくこだわる必要はない。

 トマトソースを塗り、チーズを……。


「チーズ切ってない!」


「あー、切るから待ってて」


 蜜柑先輩がモッツァレラチーズをスライスしている。その間にバジリコを添えて、別の生地を取り出し伸ばす。


「アカネ~、チーズ入れておくよ~」


「チャコおねがい!」


「薪窯いけるよ!」


 窯の火を確認していた黄里先輩から焼く許可が下りる。


「キリ先輩3つできました~!」


 チャコが畳んだピザ生地をくっつけるための霧吹きを手にしながら、完成の報告をする。それを受けて、黄里先輩がパーラーにカルツォーネを乗せて薪窯に入れていく。パーラーは料理で魚とかひっくり返すフライ返しのでかい道具だ。


「箱持ってきました!」


 私は、カルツォーネの生地が終わった後、店の奥に箱を取りに行っていた。ピザを作るだけじゃなくてデリバリーしなくちゃいけないのだ。


「すぐ焼けるから蓋開けておいて!」


「はい!」


 焼き時間は2分程度。短いけれど、薪窯だとすぐ焼けるみたい。作業台ではない別のテーブルに箱を並べて、蓋をパカパカ開ける。


 さっそく3枚焼けたようで、黄里先輩がパーラーに乗せて持ってきたカルツォーネを箱にスライドさせる。

 箱の蓋をして、断熱鞄に詰め込む。この間にピザ用の箱を8箱また持ってくる。


 作業机では3枚のピザが焼きの準備を待っている状態だ。すでにテーブルは手狭になっているので、トマトソースとスライスされたチーズとバジリコとオリーブ油を茶子に持たせて、蜜柑先輩が4枚目を作っている。粉チーズが作業机に残されているのは蜜柑先輩の慈悲だろうか。


「アカネちゃん!」


「はい!」


 黄里先輩が追加のカルツォーネを差し出してきた。先ほどと同じようにスライドさせ、箱に詰め断熱鞄に詰め込む。


「アカネ! 地図確認しな!」


「了解!」


 蜜柑先輩の指示を受け、店の壁に貼り付けてある地図を見る。この地図に書かれている範囲がデリバリー可能な地域だ。ピザの四分の一サイズの扇形をした地域が、私たちの担当地域だ。チェーン店らしく、他にも3店舗あるらしい。


 大通りにでて外側の地域に向かって33番通りを右に曲がる。今まで大通りに面した建物ばかりのデリバリーだったから、初めてわき道に入るみたい。ちょっと楽しみ。


「アカネちゃん!」


「はい!」


 黄里先輩が今度はピザを差し出してきた。今度は4枚焼き上げたようで、完成はもうすぐだ。

 断熱鞄に入れようとしたところで、茶子が新しい鞄を差し出したので、そちらに入れる。カルツォーネの入った鞄はすでにデリバリーするバイクに蜜柑先輩が運んで行った。


「ここ変わるからバイクに~」


「お願い!」


 箱詰めを茶子に任せて、バイクへ移動しシートにまたがる。ヘルメットはかぶらないけど、代わりに黄色のサンバイザーを被る。強い風が吹いても吹っ飛ばない謎の帽子だ。


 エンジンのスイッチを入れると、地上から浮き上がる。エンジンをかける前にバイクを支えていた4つの足は本体に吸収され、今は宙を浮いている。タイヤがない浮遊式の乗り物だ。


 外観の色は、赤色と黄色を使ったカラーリング。形状は、前のガラス部分から屋根を通って後ろまでつながる円形で、その後ろにある荷物を載せる部分が四角いので、横から見るとアルファベットのPを横に向けたように見える。

 運転席はやや広く、なんとか2人乗りができる。ライトは丸くてかわいい。バイクの後ろは、プラモデルでお世話になったウインチに金属ワイヤー。ここに牽引車両を追加すると、ピザの運搬量が5倍に増えるらしい。


 バイクが揺れる。後ろの荷台に残りのピザが詰め込まれたらしい。


「いけるよ~」


「了解! いってくるね!」


 グイっとハンドルのアクセルをひねって走り出す。バイクの正面のガラス部分に、周辺地図が出てくるけれど、ナビをしてくれるわけじゃない。


 走っている地面は白っぽい石畳で作られていて異世界っぽい雰囲気がある。横幅も広くて、バイクを走らせると開放感があって楽しい。

 左右には街路樹があり、歩道の先に家々が連なる。その家も、赤い屋根に黄色か茶色の壁で出来た家がほとんどで、統一感があるのがこだわりを感じる。


 30番通りまで来たところで、チャットに連絡が入る。


チャコ:注文がまた11枚来たから早くもどって~


 とのことで、時間がない。注文が多くなりすぎて捌けないと評判が下がり借金が増える。注文を断ると、借金は増えないが評判は格段に下がる。


 33番通り確認、右へ回る!


 ウーーーー!


 やばい! なにか違反した!


違反:ウインカー表示義務違反。


 ウインカー? なにそれ。

 それはそれとして、パトカーのサイレンは聞こえてもすぐにパトカーが来るわけじゃない。こっそり隠れたら回避できるありがたい仕様だ。


 今いる場所はちょうどデリバリー先に近いので、バイクを陰に隠してピザを持って走る。目的地に到着。倉庫のように見えるから、個人宅では無さそう。インターホンを押す。


『はい』


「ソレッレ・ピッツァです! お届けに参りました!」


『わかりました、お待ちください』


 ちょっとだけ待った後、入口が開いた。教会の修道女さんのような女性が現れ、後ろには子どもが何人もいる。修道女さんの服装は全体的に薄い黄色で、額の布は緑色だ。


「ありがとうございます、助かりました」


 私は、首から胸にぶら下げた証明書を見せる。この証明書は正式に認可されたピザ店の店員であることを証明している。これさえあればピザのデリバリーにおいて通行止めされることはなくどこへでも移動できる。交通違反はまた別だけれど。


「こちらこそお待たせしました。ご注文の品はこちらです。お値段は……」


 ここは孤児院のようで、昼食のピザを注文したらしい。

 孤児院でデリバリーというのが違和感ありそうだけど、この世界の人たちは1日3食ともピザを食べている。窯がある家も多くはなく、大抵はデリバリーで食事を済ます。


 おかげで、ライバル店が多すぎ問題が発生している。

 うちの店の売りは、安さと速さだ。孤児院でも気軽に注文ができるほどの安さで、お客さんには好評だ。もちろん、他の店にも似たような安さと速さを売りにしている店があるので、これだけで優位に立てるようなものではない。


「「「おねえちゃんありがと~」」」


 デリバリーが終わり孤児院から店へ戻ろうとするところで、孤児院の奥から子供が何人か手を振ってるのを見た。微笑ましく思い、手を振り返す。


「またよろしくお願いします!」


 と声をかけて、バイクにもどる。幸いにもパトカーを警戒する表示は消えているので、安全運転で店に戻る。


「アカネ! 地図確認、3件あるから急いで!」


 帰ってすぐに、蜜柑先輩の言葉を受け慌てて地図を確認する。新たにピザをバイクに詰め込んで出発準備を終え、バイクにまたがったところで、大きなバイクのエンジン音が聞こえた。振り返ると、見知ったバイクがいる。


「よう、アカネ! 今から勝負だ!」

 しばらく1話3000字を超えたラインを目安にして進めていきます。

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