『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』239
~~~アカネ~~~
蒼奈が扉を閉めるまで見送ってから、部屋へ振り返る。猫に戻ろうかなと思うけど、その前にひとこと。
「ミカン先輩、ログインしてませんか?」
「さすがにアカネにはバレるか」
蒼奈とここで話を始めたあたりにログインしていたのは気が付いた。蜜柑先輩が興味ありそうな話だし、話しかけてくるかなって思ってたけど、ずっと寝たふりしてたみたい。
「起きて話をしてもよかったのに」
「いや、さすがにアオナに悪いかなと思ってな」
「アオナが気にしてたなら、多分外にでも行ったと思います」
「そりゃまあ、そうか」
首を噛むだけだからね。とはいえ、学校やゲーム内といった場所では、家の中よりは接触しないような距離感を保っているから、今回は外に出た可能性は高そう。
家でも別にべたべたくっついてるわけじゃないけど、仲のいい姉妹的な感じの距離感だから、外に居る時よりは家のがくっついている場面が多いかな。
そんな話をしている最中に、10分経過したから[シェイプシフト]が解除されて、元のケモケモな獣人姿に戻った。個人的にはこっちのが特別感があっていいけど、確かに毛におおわれた皮膚を噛むのは難しいかも。
特に人型でいる理由もないので、猫の姿に戻る。おちつくー。
黄里先輩が戻ってきて30分もしないうちに、蒼奈が戻ってきた。聞きたい話は全部聞けたみたい。
外に出たら夜明けになっている。外には、最初に会ったヴァンパイアのリトナラスさんがいた。多少の光は大丈夫なんだ。
「また来るのを待ってるからね」
「はい、たくさんお世話になりました。また来ます」
蒼奈の頭をなでるリトナラスさんの様子に、短時間でずいぶん仲が良くなったんだと思った。仲のいい知り合いが増えるのはゲームの楽しみだよね。
「その猫が、アオナちゃんの家族なんだね」
リトナラスさんの視線が私に向いた。進化のきっかけになったのだから気になるのかも。私の目の前に屈んだリトナラスさんは、頭や背中を優しく撫でて「ありがとうね」と話しかけてくる。猫に声をかけるような話し方だったから、返事はしない方がいいかな。
村の小屋から離れて山を下る。とはいえ、そのまま移動するのは時間がかかるので、ヴァンパイアの村から適度に離れたあたりで帰還石を使って王都マールスへ移動した。
マールスに到着後は、そのまま初期時代へつながるダンジョンへ向かう。ここからサアターン王国を目指して、王笏の獲得と、上手くいけばオリハルコンチャレンジ!
アカネ:オリハルコンは、ふたつの属性が混ざってるんですよね?
ダンジョンまでの道のりは人通りが多いので、直接会話はしない。
「ゼルザさんの見立てではそうだね。実物も見せてもらったし、間違いないと思うよ」
アカネ:全部の属性を混ぜたらどうなるんですか?
「プラネトルムになるんじゃね? そこまでの調査してないからわからんけど」
プラネトルムは、それぞれの龍から受け取るアクセサリの素材。普通の人が鑑定しても素材がわからないうえ、専門家のゼルザさんが鑑定しても材質を完全に把握できるような物じゃないらしい。
「仮に作れたとして、武器に向いている素材とは限らないわな。アカネの首輪を見る限り、強度はあるけど粘度もある素材に見えるぞ」
アカネ:ゴムとは言いませんけど、結構動きますよね、これ。
「アカネの意思で外すことはできるけれど、僕らが外そうとしても外れないからね。魔法の効果を乗せることに向いた素材なんだと思う」
金属製品のような冷たくつるつるした触り心地だけど、押し込んだ感触は革製品に近い。曲げようとすれば曲がるので、これを武器として作っても柔らかい武器にしかならなさそう。
ダンジョン前に到着したので、洞窟内で入場の順番を待つ。猫の入場料はかからない。
アカネ:他のゲームみたいに、アダマンタイトとかヒヒイロカネってありそうですよね。
ミカン:魔力の混ぜ方によってはあり得そうだけど、どうだろうな。オリハルコンは割と他の金属と比較して上位に位置されることが多いのに、2属性で作られてるんだろ? 3属性でアダマンタイトとか出されてもな。
キリ:アダマンタイトは、硬くて丈夫だけど魔力伝導が悪いイメージだよね。オリハルコンより低位の扱いとするゲームもいくつかあるし、2属性でオリハルコンならこのゲームでは出てこないんじゃないかな。
順番が来たので、ダンジョンに入る。ダンジョンを管理している人からは、ペットが勝手に移動しないようにしてほしいと言われたので、蒼奈が私を袋に入れてから抱きかかえて中に入った。
道順に沿って移動している途中で、蒼奈が立ち止まる。
「ここで試してみます」
事前に蒼奈がダンジョン内で実験すると言っていたので、先輩たちもうなずいて止まり、黄里先輩に私が移された。
蒼奈が覚えた【吸収魔法】をここで使うらしい。
「……[MANADRAIN]」
種族魔法の割には他の種族魔法と比べて言語らしさがあるため、[マナドレイン]と聞こえた。私が使う獣人魔法は、他の人が聞いたら全部「にゃん」だから、効果が伝わりにくい。敵だけならいいけど、味方にもわからないのは不便なところ。
詠唱後もしばらく壁に手を当てていた蒼奈は、1分程度で効果が終わったようで手を壁から離した。
「回復できました。戦闘中は難しいですが、それ以外ならダンジョン内で魔力回復できます」
蒼奈がヴァンパイアの人たちから説明を受けた【吸収魔法】のうち、普段使いしやすいのはダンジョンの壁からMPを吸い取ることらしい。吸収されることにダンジョンが抵抗することもなく、魔力をどれだけ吸収しても問題ないとのこと。欠点は生物から吸収するよりも時間がかかるそうだけど、休憩時間に使えば問題ない。
「治癒魔法のレンドマナがあればかなり便利そうだな」
「はい。あれはマナドレインと相性がよさそうです」
治癒魔法には、MPを相手に貸し出す魔法がある。渡したMPを相手はすぐに使わないと、レンドマナを使った人がMPを消費するだけになるけど、もしマナドレインを持っている人がレンドマナを使えると、貸し出すMPが無限に近くなる。
種族縛りのあるマナドレインだから、マネできる人は少ないことで見逃されてるのかもしれない仕組みかもね。
実験も終わったので、ダンジョンを進む。別の階層に移り、外に出たら初期時代に到着だ。
この時代は帰還石が使えないから、飛んで移動することはできない。茶子がいれば妖精の国を経由してショートカットできたかもしれないけど、普通の人は妖精の国の入り口を開けることもできない。
そのため、ほとんどのプレイヤーは最短ルートを選ぶ。マアズからサアターンへ移動するには、サエバからミスマに続く山道を馬車で進むのが一般的だ。その方が川に近く、移動速度が速い。
「ボフォス、エンケラのルートで良いんだよね?」
黄里先輩がルート確認をする。マアズ王国に入る2ルートのうち、遠回りするルートを今回選択する。ミスリルやオリハルコンの献上も早めにこなした方がいいとは思うけれど、行ったことないところに行くのは冒険の楽しみだから、ついでに行ってみようって話になった。
「海龍の王笏を戻すのが遅れるけど、良いのでしょうか?」
「オリハルコンが必要ってのも、封鎖された場所に合法的に入りたいってだけだからな。アカネもチャコも、今ならアオナだって隠れて潜入可能だから、強引に入れるかもしれないが、今回の場所はわからん」
アカネ:割と色んな家に侵入してると思うんですけど、今回の場所は違うのですか?
「今回は王家から明確に侵入が禁止されている。例えばだが、城の庭に無断で入るのと、城の宝物庫に無断で入るのでは、双方禁止されていても罪の重さがかなり変わるだろう? 今回の厳重さからすると、無断で入れば犯罪者として扱われるだろうな」
「王の休養地にメテオストライクが落ちたとき、兵士さんをすり抜けて入ったけど犯罪じゃなかったです」
「その後に巨大な穴を開けられたことで、厳格な進入禁止になったからな。最初の封鎖は緩い感じの制限だったんだろう」
「多少の犯罪は見逃されることが多いよね。そうじゃないとゲームにならないから」
犯罪……心あたりがあるな。
アカネ:魔法書を無断で持ってきたときに、アチーブで【猫ばば】を獲得しました。
「……アカネちゃん、犯罪履歴や称号に変化は?」
アカネ:特にないです。
人が落とした直後の本を盗んだらアチーブがついて、学校で盗んだときは何もつかなかった。どちらも所有者があるものだから、犯罪であることには変わりない。蒼奈が人の住まなくなった廃墟の街から、本や資料を持ち出すのとは明確に違う。
「窃盗し放題ってわけじゃ無さそうだが、猫だから犯罪となる条件が緩いのかもな。猫が魚を盗んだところで本気で追い詰めるようなことはしないだろ? 【猫適応】がカンストした結果、そのあたりの判定が猫並みになったんじゃないか?」
「僕の場合は、同じことをしてもアカネの様にはならないってことですね」
「それはわからんが、同じにはならんと思うぞ。アカネの場合は猫に『戻る』感覚だからな。人の法の適用外になっていてもおかしくはない」
ずいぶん長いこと猫で遊んでいるから、このゲームは猫の姿で遊びに来ている感覚になっている。不便があるかもしれないけど、ゲームシステムからも猫と認められてるのはうれしい。
「どうします? 戦争時代に戻ってネプチュン王国に入りますか?」
王笏の欠片を元に戻すのが最初の目的。犯罪を犯すことなく戻せる可能性があるのなら、強硬してしまっても構わないかもしれない。
どうするべきか、蜜柑先輩が腕を組みながら悩んでる。そんな蜜柑先輩の肩を黄里先輩が軽くたたく。
「迷ってるなら、先輩たちに相談してみよう。全体の方針にかかわるからね」
猫の魚泥棒の動画を何気に見たら、あっという間に時間が経過していた。魚を咥えて走る姿は必死なんだろうけど見ているこちらは可愛く感じます。




