『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』238
「整える、ですか」
「はい。あなたの体内に渦巻く魔力を整えることで、進化することができます」
黄金音ちゃんを見る。魔族に限らず、生物の体は魔力でできている。それをどうやって整えるんだろう?
「魔力操作とは違うのですか?」
「それは動かすだけなので、整えるとは違いますね。様々な魔力を混ぜ合わせて整えるといった方が近いでしょうか」
なんか、ケーキを作る光景が思い浮かんだ。小麦粉、砂糖、卵を混ぜてる様子。綺麗に混ざるとうれしいよね! 混ぜすぎると膨らまないからあんまり混ぜれないけど、同じ色に変わるのは楽しい!
「ある程度の年齢になった魔族なら、その準備はできます。あとは、進化するかどうかは本人次第ですけどね。コガネさんが進化に足る成長をしているかはわかりませんが、そのきっかけは作ってあげられます」
シベリルさんは立ち上がって、「こちらへどうぞ」と黄金音ちゃんを招いた。黄金音ちゃんだけ立ち上がったら、「みなさんもいらしてください」と言われたので立ち上がってついていく。
到着した場所は、小さな部屋だった。部屋の中央には、おなかの高さまである机があった。
「魔力を均一化するには、様々に変化した魔力を出来るだけ多く集めたほうが効率が良くなります。とはいえ、魔族がひとりで集めることができる魔力にも限度があります。得意な魔法によって偏りができますからね」
机に置いてあった紙を広げる。ギンガからも見ることはできるけれど、何が書いてあるか読めない。古代語とかかな?
「そのために、魔力を集める儀式を行います。ただこれは、あなたの所属する国に影響を及ぼしてしまうので、同意するかどうかは慎重に考えてください」
「国ですか? マーキュリ王国から変わるのでしょうか」
「そうですね。この場所で儀式するので、所属はヴィナス王国となります。同じ共同体の仲間になると、魔力のつながりが作られます。その際は、血縁かどうかは関係ありません。儀式により、ここにいない仲間とも魔力をつなげることができます」
黄金音ちゃんを見上げる。ひとりだけ所属国が変わっちゃうのかも。
「魔力がつながることで、仲間同士がお互いの不均衡な魔力の偏りを無意識で交換することになります。その結果、体内の魔力が均一化されて、やがて進化まで至るのです」
「クブレさんも同じ共同体なのですね?」
「そうです。このことで何か言ってましたか?」
「魔族の兄弟とは言ってましたけど、具体的には何も」
黄金音ちゃんは続けて、「近く、こちらへ伺うと言付かっています」と付け加えた。
「面倒くさがりなあの子らしいですね。では、コガネさん。共同体に入るかどうかは別として、あなたの今の状態を調べても良いでしょうか?」
シベリルさんの言葉にうなずいた黄金音ちゃんは、右手をシベリルさんに向けるように促された。シベリルさんは、差し出された右手の掌を上に向けてじっくりと眺めはじめた。手相占いみたいな感じだ!
「……既に別の集団に属しているようですね。何人かはわかりませんが、さほど多くはないようです」
「魔族と交流をしたことがほぼないのですが、そういうこともあるのですか?」
「聞いたことはないです。ただ、魔力の均一化が進行し始めたのがごく最近ですね。何か心当たりはありますか?」
コガネ:ソウルリンク?
モエギ:それしかないよね。フレンド登録したのはかなり前だからね。
ギンガ:クラン登録もずっと前だよね!
「はい。つい最近ですが、ここに居る仲間や他の場所にいる仲間と新たな繋がりを持ったことがあります」
「なるほど、このふたりとですか」
萌黄先輩やギンガを興味深そうに見てくるシベリルさんに、黄金音ちゃんは、「おそらくそうです」と返事をした。
「今のところ、この共同体に入って魔力をつなげる方法は魔族としか結べたことはありません。試しにヒトやドワーフの方にも協力してもらいましたが、彼らと繋がりを持つことはできませんでした。もちろん、私たちの仲間と宣言するのは自由ですが、実際の効果はありません。よろしければ、コガネさんが繋がりを持った方の種族を教えていただけますか?」
黄金音ちゃんの手から、握っていた手を放したシベリルさんに、ギンガたち全員の種族名を伝えた。
「全て種族がバラバラですね……。一応、ヒトや鬼人、ヴァンパイアがいるので、緩やかではあるけれど均一化は進むでしょう。それでも、ピクシーみたいに純粋な妖精もいるため、コガネさんがどのような進化をたどるかは未知の状態になります」
「進化が出来ないということはないのですか?」
「進化はするでしょう。ピクシーなど妖精族の影響で汚染された魔力が薄まり、複雑な変質が薄れるかもしれません。特徴の少ない単純な構造として魔力が均一化されることでしょう。体質の変化により魔力の回復がどうなるかはわかりませんが、進化について心配することはありません」
進化はちゃんと出来るんだ! ちょっとだけホッとする表情をした黄金音ちゃん。見た目はあんまり変化ないけどね!
「しかし、前例がないのでいつ進化するかはわかりません。明日にでも進化するかもしれませんし、数年先かもしれません。出来るだけ早く進化したいのであれば、私たちの共同体に入るのが一番かと思います。コガネさんの能力であれば、参加して数日以内には進化が始まるでしょう」
数日! 進化できるかどうか知りたかっただけなのに、進化そのものが目の前にある! やっぱりゲーム内の事情は、NPCに聞くのが一番いいよね! けど、進化するのに国が変わるのか。国の違いって戦争くらいしか今のところ意味はないけど、どうするのかな。
「シベリルさんの共同体に入った場合、元のつながりはどうなりますか?」
「他の魔族と同じであれば、元のつながりは変化しません。実際、複数の共同体を渡り歩く魔族もいます。所属する集団が変わっても魔力のつながりが途切れたとは聞きません」
そっか、国が変わる以外にも、ギンガたちとのつながりが消える可能性もあったんだ。魔族の共同体は掛け持ちが大丈夫そうだけど、ギンガたちのソウルリンクは別パターンでの繋がりだから、本当にそれと同じかどうかわからない。ソウルリンクが切れるかもしれない。
「……現状で可能性があるのであれば、しばらくはこのまま過ごします。もし進化が必要になったのであれば、改めてこちらに伺いたいと思います。それでよろしいでしょうか?」
「はい。まだ若いのですし、2~30年くらい試してみても良いんじゃないでしょうか。進化が難しければ、同じ共同体になって進化しましょう」
2~30年もゲームは遊ばないと思うけど、これって時代移動でどうにかなる問題なのかな? 均一化する本人が移動しちゃうから、だめな気がするけどね!
「シベリルさん、魔族が進化した場合はどのような変化がありますか?」
「魔族の場合、進化しても種族名は変化しません。その代わり、【暗黒魔法】が使えるようになります。自然と使えるようになるので、暗黒魔法を覚えたと感じた時点で進化が終わっています」
「暗黒魔法――どのような魔法ですか?」
「戦闘に特化した魔法ですね。闇と炎による攻撃が特徴なので、【電光魔法】と対極のように扱われますが【肉体魔法】と同様に身体を強化する魔法も含まれるので、魔法使いだけではなく戦士にも好まれますね」
ヴィリスの街中では、刀を佩いた魔族を沢山見かける。魔族と言えば魔法使いのイメージが強いんだけど、この街では近接戦闘をする魔族も沢山見かける。きっと、暗黒魔法の影響があるんだと思う!
「あとは、体全体の強度が上がるとか、魔力の扱いが上手になるなどありますが、そのあたりは個人差ですね。明確に進化がわかるのは暗黒魔法です」
ステータス補正もしっかり入るみたい。進化したらステータスに影響があるのは助かるからね!
黄金音ちゃんはその後もいくつか質問をして、聞きたいことは全部聞けたみたい!
お礼を言って席を立ち、出口まで移動する。途中、魔族の子どもたちが寝ている部屋を見ると、ふたりほど起きていた。手を振ったら、ふたりとも元気に手を振ってくれた! 元気がいいね!
「また機会があれば、遊びにいらしてくださいね」
「はい。次はぜひ子どもたちとも交流をさせてください」
入り口から出て、挨拶をしてから別れる。途中で振り返ったら、シベリルさんの隣に子どもがふたり来ていたから、お互い手を振りあってお別れをした!
絵具を全色混ぜたら真っ黒になってまとまるってことです。妖精は白なので色が灰色になるかもしれないってことですね。




