『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』237
~~~ギンガ~~~
食後にマーキュリに移動してお菓子屋を発見したけれど、閉店近くて商品が少なかったから、朝早く買いに来ますってお店の人に伝えておいた。
宿屋に泊まり、早朝にお菓子を受け取ってから、ヴィナス王国へ移動した!
孤児院は、王都ヴィリスから少しだけ離れている場所にあるみたいで、ヴィリスとドワンの間にある小さな村にあるらしい。
「孤児院って都市の中にあるイメージだった!」
「私も。少し離れた農村にもあるんですね」
「現実の歴史でよく聞くのは、都市から離れた教会は巡礼者が利用しやすいように街道付近に建てられて、そこに孤児院を併設してるのだとか。教会のないこの世界の孤児院は、孤児を育てるだけの施設だから別の事情があるのかも」
さほど離れていない距離にある村には、すぐに到着した。何軒か家が固まって建てられて、背丈ほどの木の柵で囲まれている村だった!
門をくぐって村の中を進み、通りにいる魔族の村人さんに頭を下げて道を進む。奥に見えるちょっと大き目の建物が目的地の孤児院だ。見た目は普通で、みすぼらしいとか、生活に困って建物の修理ができないといった様子はない。
子どもが集まってるんだから騒がしいのかなって思ったけど、近くまで寄っても子どもたちの声は聞こえてこなかった。
「入り口はここだね。――すいませーん、どなたかいらっしゃいますかー?」
黄金音ちゃんがドアをノックしてからしばらくすると、中からギンガたちと同じような年齢に見える魔族の女性が中から出てきた!
「はい、どちら様でしょうか?」
「初めまして、コガネと言います。クブレさんの紹介でこちらの院長先生に伺いに来ました」
「あぁ、クブレ君! わかりました、中へ上がってください。院長室へ案内します」
女性の案内で中に入る。靴を脱いで家にあがり、木の廊下を進む。廊下に面した部屋は暗く、扉の隙間から中を見ると、子どもたちがそれぞれ布団をお腹にかけて眠っている。全員、魔族の子供だ。布団を蹴り飛ばしている子もいるのが可愛い!
廊下を右に曲がって、奥の部屋の扉を開く。和風っぽく引き戸だ。
部屋の中は、院長室だけあって仕事用の机や小さな本棚がある。けど、それらは壁際に小さくまとまっていて、全体的には何もない部屋だった。
「こちらに座ってお待ちください」
座布団を3つ持ってきた女性は、3人が横並びになるよう床に置いた。
その後は女性は部屋の奥に行ったので、ギンガはいつも通り正座で座る。黄金音ちゃんも一緒。萌黄先輩も同じように正座をしている。
「ふたりは、正座をよくするの? 当たり前のように揃って正座だけど」
「モエギも同じじゃない?」
「私はふたりを見て正座にしたからね。足に乗せずに地面に座り込んだ方が楽だし」
「そういえば、女の子座りしているモエギはよく見かけるかもね」
地面に座り込む萌黄先輩をギンガはあまり見ないから知らなかった!
「コガネちゃんとギンガは、お稽古で正座すること多いからね!」
「普段は崩して座るけど、座布団を見るとどうしてもね。癖になってるかな」
「そっかー。何か座るコツでもあるの? 痺れない方法とか」
「コツなら、親指を――」
正座の方法を話し始めたところで、さっきの女性がおぼんをもって戻ってきた。目の前に床に、お皿に乗った湯飲みを並べてくれる。湯飲みには、既にお茶が入っていた。このお皿、名前があったはずだったけどなんだったかな?
「こちらをどうぞ」
「はい。あ、すみません。こちら皆さんでどうぞ」
黄金音ちゃんがストレージから、今朝受け取ったお菓子の箱を取り出して渡す。子どもたちと、職員が何人か居るだろうと想定して多めに購入してきた。
「あら、ありがとうございます」
女性は両手で受け取った後、奥の部屋へ置きに戻っていったあと、こちらに戻ってきた。ギンガたちと真向かいになる位置の座布団に正座で座った。
「それでは、本題ですね。孤児院の院長をしているシベリルと言います」
すごく若い院長先生だ! クブレさんの話していた人って、この人でいいのかな?
「本日はよろしくお願いします」
黄金音ちゃんが礼をするので、ギンガも一緒に礼をした。萌黄先輩とギンガも、このタイミングで自己紹介をした。
「本日はどのようなご用件で当院まで?」
「魔族の進化について伺いたくて来ました」
黄金音ちゃんがそう言ったとたんに、シベリルさんは目をぱちぱちと何度も瞬いてから、頭をコクコクと何度も頷いた。
「なるほど、だからクブレ君はこちらに案内したんですね。コガネさん、失礼かと思いますが、今まで魔族との交流はなかったのですね?」
「恥ずかしながら、魔族で交流している知り合いはいません」
「そうでしたか。私は、今年で248歳になります。恐らく魔族の見た目や年齢についてもあまりご存じないと思いますが、どうでしょうか?」
「おっしゃる通りです。私は単に、魔法が覚えやすいと思っているくらいでして、詳しく知りません」
「一般的に、魔族が進化についてわざわざ調べることはありませんね。普通に魔族と過ごしていればわかる話です。知らないのは、若い孤児や、他の魔族と交流をしない魔族くらいでしょう」
ヴィナス王国以外の国で過ごすプレイヤーは、全員に当てはまりそう! 他の国だと、NPCで魔族ってあんまり見かけないからね!
「家族の有無なのでしょうか?」
「いいえ、孤児でも問題ありませんよ。妖精はわかりますよね? あの妖精と対極に位置するのが私たち魔族なんですよ」
「妖精と対極」
「はい。妖精の場合、魔力で体が作られていると言われますが、正確には魔力になる前の純粋な力が多く集まって作られた体です。魔族、魔力、魔法、魔石。全て魔が付きますけど、この『魔』とは何かわかりますか?」
「わかりません」
「魔とは、純粋な力が他のものに触れて染まってしまった状態です。ヒトが純粋な力を取り込む際に、魔力に変換して魔法を使います。魔法を使った後に拡散された魔力の残滓は、各属性に変えられたことで、さらに変化した――言い換えるなら汚染された魔力になります。その魔力の行き先が、私たち魔族なのです」
「あの――魔物とは違うのですよね?」
黄金音ちゃんが小さく手を挙げて質問する。魔物にも『魔』ってついてるもんね。
「本質的には同じです。言ってみれば、魔族も人も妖精も、魔力で体を構成している点では、魔物と同じです。純粋な力と魔力の割合が大きく違うだけですね。魔物の場合、魔力の汚染度が非常に高く、知性が薄れて攻撃性が高まった存在です」
魔物と人が同じなのは魔石が人の体にもあるってわかった頃から予想してた。体が魔力で作られているって話も、帰還石の仕組みを考えると予想できたからね!
でも、魔力濃度の違いが、種族を分けているのは初耳! 魔力濃度って、魔力病に関係していたと思ったけど、もう少し違った部分があるのかな? 聞いてみよう。
「魔力病の魔力濃度とは違うの?」
「魔力病と汚染度は、少し違うかな? 魔力病は魔力の集まり方の違いで、汚染度は魔力の質が変わっているってことなんです。例えば、コップとバケツの違いが魔力病で、水の色が違っているのが魔力の話ですよ」
「なるほど!」
シベリルさんのギンガへの話し方が、子どもに言い聞かせる感じに変わってるのは気のせいかな? けど、わからないことが少しわかったので満足!
「汚染度って聞くと怖いのですが、大丈夫なんですよね?」
「適切な量であれば問題ありません。むしろ、魔法を使うにあたっては非常に便利です。既に何かに変化している魔力であれば、変換のために労力を使わなくて済むのですから。魔族に魔法が得意な人が多くいるのはその影響です。それに、汚染された魔力は純粋な力と比べてどこにでもありますから取り込みやすいのも特徴です。魔族は魔力の回復速度が速いでしょう?」
魔族の固有能力は、【魔力回復】って聞いたことがある。どこにでもある魔力を吸収することができるから、魔力の回復速度が速いのか!
「ここまでの話で、魔族の体が他の種族と違う魔力が多く満たされているのはわかりましたよね? ここからが進化の話になります」
いよいよ本題だ! 思わず姿勢を正してしまう。
「汚染された魔力は汚染されている故に、魔力にどうしても偏りが出てしまいます。進化するにあたって、その偏った魔力を均一になるように整えなければなりません」
お寺に行ったときに出してもらうようなお茶をイメージして書いてます。院長室は仕事場兼寝室なので、布団を敷くために床は広いです。テーブルはあるのですが、奥にしまってあります。急な客だったのでテーブルを用意する暇はありませんでした。




