『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』231
「どんな学校なの~?」
「普通ですよ? 勉強をするだけですね」
普通の学校ってのがよくわからないな~。あたしたちみたいに、勉強用のカプセルに入るわけじゃないでしょ~?
「見に行っていいの~?」
「えっと……。お母さま、どうでしょうか?」
シェリマさんがチュリアさんを見る。部外者だから、無理なのかな~。
「シホさんやミクさんは難しいけど、チャコさんなら良いでしょうね。ピクシーの好奇心を抑える前提で学校は作られてないですから」
「ピクシーだから、学校も止めはしないと思うよ」
サリアスさんも念押しで大丈夫って言ってくれた。じゃあ、少しだけ学校を見に行こうかな~。
「ピクシーって、それほど信用されるんよ?」
「ピクシーは基本的に善良でいたずら好きで好奇心旺盛ですが、いたずらといっても、大事にはなりません。ピクシーにいたずらされて大変な目にあった人は、その前にピクシーに悪意を持って対応した人ばかりですから」
妖精魔法[妖精のいたずら]がまさにそうだよね~。妖精に悪意を持った人には高い確率で悪いことが起きるよ~。
「率先して悪いことをするようになったら、ピクシーの姿を保てないですね。その姿のままと言うのが、善良な証明なんですよ」
「姿がかわるの~?」
「魔物に近くなりますね。そうなると普通に街で過ごすのは難しくなります」
そうなのか~。善良と言われてもピンとこないけど、姿が維持されているなら問題ないって判断されているんだろうね~。
あ、シェリマさんがこっち見てる。待っててくれるのかな?
「学校にいくよ~。いいかな~?」
「もちろんです。それでは、お婆さま、お母さま、行ってきます。皆さんもまた後で」
家を出て学校へ向かう。住んでいる家より少し上の方にあるようで、緩やかな上り坂が続く道を登っている。飛んでるからあたしには関係ないけど~。
道の途中にある看板でシェリマさんが立ち止まる。ここで友達と待ち合わせなんだって~。看板は街の区画を表しているみたいで、これを目安に家を探すんだって~。
「シェリマちゃん、おはよう! あれ、その子は?」
「おはよう、エティセリちゃん。いまうちに来てる冒険者の仲間の子です」
シェリマさんと同じ制服を来た緑の髪をしたエルフの女の子がやってきた~。手を差し出してきたので、指先を両手でつかんで「チャコです~」と挨拶をする。
再び歩き出して学校に向かう途中で、学校生活の話をする。語学、歴史、計算などの基礎的な学問から、魔法や体を使った戦闘訓練などを同年代のエルフと一緒に勉強するらしい~。
同年代と言っても年齢に幅があって、見た目では似たような年齢に見えるシェリマさんとエティセリさんは2歳の差があるけど、同じクラスで勉強をしているんだって~。
「生まれてくる子どもは多くないからね。2歳の差でも近いほうなんですよ」
子どもが全く生まれないまま10年経過することもあるんだって~。もちろん、イオの街だけの話だから、他の街には毎年子どもが沢山生まれてくる街があるかもしれないらしいよ~。
坂を登った先に、木におおわれている木造の大きな建物が見えてきた~。大きくて広そうだから生徒が沢山いるのか聞いてみたら、勉強を学ぶ子どもから研究をする大人まで、学問に関することを一か所にまとめた施設なんだって~。ホツナルさんもここの研究者のひとりらしいけど、毎日来ているわけじゃないみたいだよ~。
木製の門をくぐって、左手の建物に入る。大人たちの研究棟は右手らしい。さすがに大人たちの研究棟は大きな建物が建てられてるよ~。
中に入って正面の階段を登る。2階の廊下を進んでふたつ目の部屋がシェリマさんたちの教室なんだって~。
教室には他のエルフも数人いて、それぞれに自己紹介をした。ピクシーを見たことある人は誰もいなかったみたいで、色々質問されたけどちゃんと答えられたかな~? 生粋のピクシーじゃなくてプレイヤーだから、少しずれた所はあったかも~。
先生がふたり入ってきて、生徒はみんな椅子に座った。最初はあたしに気が付いた先生たちとも挨拶をして、何も問題なく授業が始まった~。
授業の形式は、ひとりの先生が前で説明をしつつ黒い壁に白い文字を書いて、もうひとりの先生が生徒を見回って説明の補助をしている感じだった。前の先生の説明がどんどん流れてくるから、覚えるの大変そう~。
授業中に飛んでると迷惑になるかな~と思いつつ、教室の中を探索する。今日の授業の予定表が書いてあって、この後は実技らしい。弓の練習を学校でやってるって言ってたな~。
地図らしきものもあったけど、知ってる地図だったので新たな発見は無し。窓から外を見ると、この教室に居るエルフたちよりも背が低そうなエルフ3人が、弓の練習をしている様子が見えた。ずいぶん小さい時から弓を使うんだね~。
探索の区切りがついたので、少し授業を集中して聞いてみる。古代エルフ語の授業のようで、精霊魔法に使われる言葉が近いみたい。そうは言っても、精霊魔法ってあたしたちからすると『――――――』のように全然聞こえない言葉だから、授業を聞いてみても何を言ってるのかよくわからない。発音の練習をする場面もあるんだけど、かろうじて口から空気が漏れ出てるような音が聞こえるくらいで、何を話しているかさっぱりだよ~。
それなのに先生たちは『シェリマさん、良い発音です』とか褒めてるから、何か違いがあるのは間違いなさそう~。
何とか発音を聞き分けようとするけれど、結局わからないまま授業が終わった~。
次は実技なので、外に移動するらしい。シェリマさんたちは鞄から手袋を取り出して移動。弓矢の練習するときに付けるんだって~。
さっき教室から見えていた、小さいエルフたちが練習していた場所にたどり着くと、倉庫らしき小屋から弓矢をそれぞれ取り出し、使い込まれた防具を身に着けていた。手袋以外は学校の備品なのか~。メンテナンスは先生がやった方が確実なのかもね~。
「チャコさん、私たちはこっちですよ」
倉庫の中に何があるのか観察していたあたしを、シェリルさんが手招きする。ここでグループがふたつに別れるらしい。
「あちらは上級グループで、今から森林に入って狩りの練習ですね。私たちは中級なので、ここに入ります」
シェリマさんが案内した先に見えたのは、学校に隣接した場所にあるダンジョンの入り口だった。
「ダンジョンだ~。危なくないの~?」
「このダンジョンは小型の魔物ばかりなので、狩りの練習に使われています。外の森と違い、未知の魔物が出てくることがないので比較的安全に練習ができます」
なるほど~。確かにダンジョンに出てくる魔物の種類は固定されているから、突然レベルが高すぎる魔物に出会うことはないのかも。先生もついてくるだろうから、安全に過ごせそうだよね。
そんなお話をしながらダンジョンに近寄ると、気が付いたことがあった。このダンジョン、周囲が全部削られてる~。
「これ、誰かが掘ったの~?」
「元々山の一部に埋まってたみたいだけど、削って使いやすくしたって聞いてます。これを見た人はみんな、ダンジョンが浮き上がってることに驚くんですよ」
浮いていることは知ってたから、大きな驚きはなかった。驚いたのは全部削られてること。つまり、後ろから妖精の国に入れる可能性があるってことだよ~。
後ろに回り込む。山を削りだして取り出した割には、表面がかなり綺麗。きっと丁寧に磨いたんじゃないかな~?
「そちらは裏側です。普通のダンジョンは裏側が壁に埋まるなどして見えなくなっているので、見られるようにしたこのダンジョンは貴重な資料ですね」
「裏側って、何か詳しい話はないの~?」
「私は聞いていません。調べている先生もいると思いますけど、生徒には教えられていません」
うーん。教えたほうが良いのか、そうでないのかわからないな~。ここから妖精の国に入ったら、ダンジョンの裏面ってつるつるの壁面に変化するんだよね。今のところはかなり綺麗だから気が付かれない気もするけど、調べてる人が居るのなら細かい傷も見ていそうなんだよね~。
……あとでこっそり入ってみよ~。
イオの街はエルフが多い街ですが、それでも大都市と比較すると田舎なので、単純に田舎ゆえの子どもの少なさです。学校が立派なのは、エルフの傾向として学問を好むことと、長い寿命の暇つぶしに近いものがあります。




