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あちーぶ!  作者: キル
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『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』171

 建物は街の外壁に接しているように作られている。これって、壁を登られたら中に侵入できるから良くないんじゃないかな? 侵入者よけのために、この部分の外壁だけは登りにくくなるように上部が外側に曲線の返しが付いているから、直接登ったりロープを投げてひっかけるようにはできていない。

 それでも、わざわざ外壁に修正を加えるよりは、離れた場所に作った方がいいに決まっている。ということは、ここでなければならない理由があるんだろう。


 建物は、扉も窓も閉まっているため、中に入れないようになっている。けどそれは、人が通れるサイズであって、猫なら外に居る牛の柵の隙間から中に入ることができる。

 誰かに見つからないようにゆっくり警戒しながら進み、柵の中に忍び込んだ。中に入ると牛が寄ってきて顔を近づけるので、こちらも顔を近づける。これで受け入れられたのか、追い出されることなく柵の中を自由に歩けた。牧場で暮らす猫みたいな感じでちょっと楽しい。


 ガチャリと扉が開く音がしたので、音から離れて[猫潜伏]を使う。牛の模様が白黒なので、同じ白黒の私にとって保護色になっていいかもしれない。


 扉の方を見ると、男性が2名ほど現れた。ひとりは扉の前で立ち止まり背伸びをして、もうひとりが牛の群れの中を歩いている。


「これだっけ?」


「そうそう。そいつが10日前な」


 男性たちは選んだ牛に紐をつけて建物へと連れて行った。さすがに後ろについていくのはリスクが大きいので、建物の隙間を探す。柵より外側の窓は全て閉じられていたけれど、柵の内側に面した壁には、換気口のような部分は入れそうなので、近くに居た牛に登らせてもらい換気口へと飛び移る。


 換気口はダクトのように道が続いている。進む方向からは緩やかな風が吹き続けているので、何かしらの魔法の風が流れているんだと思う。風の強さをひげで感じ取りながらダクトの換気口から中を覗く。真下には何もなかったけれど、音がする方を見るために頭を下へ向けて乗り出して覗く。


 ――思っていた以上に、悲惨な光景だった。連れていかれた牛は、目隠しに耳栓をつけられていた。そして男性のひとりがその牛を巨大な曲刀で攻撃している。一撃で倒された牛はその場で消えて、同じ姿のまますぐ傍でリスポーンした。

 牛からは肉がドロップしているので、もうひとりの男性が拾い上げて箱の中に入れている。その間に、また牛が倒されて肉がドロップして牛がリスポーンする。

 リバ石がすぐ近くに見える。ほとんどの街には、リバ石は街の中か門の付近にある。この牛の復帰地点をあのリバ石にしているから、この場所に建てられたのか。


 普通なら、動物や魔物は倒されたら魔石になって消える。ドロップ品も落とすけれどそれで終わり。もし目の前の光景と同じようなことをしようと思ったら、魔石を使って蘇生しなければならない。普通は、蘇生魔法を連続して使うことができないからやらない。

 帰還石でも同じことができるけれど、帰還石の復帰場所は各国に1か所しかない。そのため、同じことはしていないと断言できる。


 プレイヤーも条件さえ合えば持ち物をドロップする性質がある以上、他の生物にドロップが存在しないってことはないのか。考えたら、蒼奈が見せた『ヒトの骨』はNPCのヒトのドロップじゃないかと思う。

 これがやりたかったことの全てじゃないだろうけど、食料事情だけを考えれば賄えるのは確かだ。同じことが植物にでも適用されるかも。地面に植えられてるかはわからないけど、水耕栽培なら出来そう。


 換気口を戻り外に出る。牛の背中に乗っかるのは悪い気がしたので、地面へ直接ジャンプ。地上に降りた私に何頭かの牛が鼻先を向けてくるからこちらも鼻先で返事をしたけど、さっきと同じ気持ちでは返事できない。

 柵から抜け出し、一度振り返ってから外壁沿いを歩く。木を登れば塀の中に入れそうな場所を何度か見つけつつ、別の門まで移動すると、さっきと同じような建物が門の付近に建っていた。牛や豚の柵があった場所には、鉢植えが並んでいる。さっきと同じように、収穫できるところまで育ててから刈り取って食料をリスポーンで増やすんだろうな。


 結局、魔石の無い生物は見当たらない。


『この先に見える森はどうだ?』


アカネ:森?


『うむ。そなたの話では、魔石を抜いたら街の中央で復帰であろ? ならば、徒にそのあたりの生物の魔石を消したら街が蘇生したものだらけよな。森の動物や植物、魔物なんぞも比較対象になりうるぞ』


アカネ:あっ! そうだね! さすがアクアちゃん!


 街の中に入ろうか迷っていたけれど、進む方向を変えて森へと進む。[猫五感]を使いながら周囲に危険がないか確かめながら進む。いくら魔物が魔石を持っていたとしても、いきなり遭遇するのは危ない。


 歩きよりは早いペースで進んで、森が目の前に見えるところまできた。小さな生物の反応はあるけれど、動物なのか虫なのかわからない。出来ればネズミ程度のサイズだとありがたい。

 大型生物に警戒しながら森の中に入る。森の入り口は猫の背丈を超える草が生えているから、先に何があるか分からないまま森へ入る。けれど、入り口を超えたら日が当たらなくて草がほとんど生えてない場所があるので、猫でも森の中を自由に散策できる。


アカネ:木でも比較はできるんだよね?


『可能だが、できるだけそなたらのような動物が良い。魔石の位置を探りやすいゆえな』


 植物は根元に魔石がとどまることもあれば、生長にしたがって上へと魔石が持ち上がる種類もあるそうだ。その点、動物なら魔石の位置は胸にあるのが普通。魔力感知じゃない、新しい手法で魔石を見てもらうんだから、そのあたりで戸惑うことは避けたい。


 ん――[猫五感]に反応。木の上……いた!


「[ケージ]!」


 木の上でこちらを見ていたリスに向かって、物質魔法を発動。さすがに魔法への対処はできないようで、木の枝の一部を巻き込んで檻の中に閉じ込めることに成功した。


 魔法で作った檻はリスが居た木の幹に突き刺さっているため、木の幹に手をかけて上に上り近寄る。


アカネ:魔石、あるのかな。


『知らぬが、あるものとしてみよう。アカネ、横に並べ。そなたと比較しながら確かめる』


 光の球状態で現れたアクアちゃんは、私とリスが見比べられる場所に浮き上がる。光の球なのでどこを見ているか分からないけれど、上下左右に動いているから、入念に確かめているのがわかる。


 リスは檻を歯で噛んで開けようとするけれど、魔法の維持をしている間なら、小動物に壊されることはない。リスのかわいらしい行動を見ながら癒されていると、アクアちゃんから「これだろうか」というつぶやきが聞こえた。


アカネ:何かわかりました?


『魔玉に意識を割いて確認したが、色の違いはわからぬ。しかし、そなたの魔玉があるであろう箇所と、この動物の魔玉では感じ方が違う。そなたの魔玉は深い感じがするな。穴があるとでも言えばいいのかも知れぬ』


アカネ:別の場所にある感じでしょうか。


『それも少し違うな。魔玉はそなたの中にある』


 あの空間の光が魔玉の本体かと思ったけど、ちょっと違ってるみたい。向こうがコピーのようなものかな?


『他の動物でも試してみよう。この感覚で良いか掴みたい』


アカネ:はーい。それじゃ、他も捕まえますね。


 その後、森をうろついてネズミや小鳥、池があったので魚を捕まえて調べた結果、リスと同じような結果になった。魚だけは食事のためと割り切った結果、魔石を持った生物だった。

 リスキルでドロップするのであれば、こういった手段をNPCが取ることもある気がします。食糧難も解消されますし。ただ、わざわざプレイヤーに見せるようなものではないでしょう。茜のように特殊な方法で入らない限り、プレイヤーが見ることはなさそうです。

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