『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』170
~~~アカネ~~~
見知らぬ場所を指定してリバ石で復帰。予想では、ここがプルトさんたちが私に向かわせたかったルートだと思う。
「あっ、来ました!」
戻った直後に見えた景色は、どこかの街中で広場っぽい。すぐそばの男性が何やら叫んでこっちを見ているので、全力でダッシュしてどこかに隠れることにする。
体の動きからすると、人ではなく猫の姿みたいだ。ついさっきまで人の姿だったから、こっちに来たときはどんな姿で戻るか心配だったけど、猫の姿で復帰できたみたい。
「ちょ、逃げた! 追いかけろ! あと誰か報告に行け!」
幸いなことに屋外だったから、どこへでも逃げることが出来そう。柵もあるようには思えないし、どこかの家の脇道にでも入ればとりあえず大丈夫かな?
このあたりの家の造りが隣り合って建てられているから、入り込む隙間がなさそう。とりあえず花壇に飛び乗り、斜め上に見えた水が入った壺の縁に乗り、そこから窓へと飛び乗って、屋根から伸びる雨どいまでジャンプして掴まり、そのまま屋根へと登る。
赤い屋根伝いに何軒か走り、周囲に人が居なくなったのを確認して周りを見渡す。多分ここ、初期村だ。当時は屋根の上から見ることがなかったので、ここからの景色に見覚えはないけれど特徴的な建物が見えた。前に蒼奈が言ってた、教会の塔だ。
中に入ると捕まるよね……。情報収集のために捕まるのはありだと思う。でも、それは自由に街を調べた後でも遅くはない。
[猫五感]を使って周囲の音を聞く。私を探す声が聞こえてくるけど、それほど人数は多くなさそうだ。街をあげて捜索されたらかなわないけど、少数なら逃げられそう。
屋根の影を探して、[猫潜伏]で隠れる。邪魔の入らないうちに、ここでの目標を整理しておこう。
魔石を消失させる魔法の本があれば探したい。蒼奈の言う通り、廃墟時代で使ったらどうなるかは試してみたい。もちろん、初期時代でも。
他には、この街に住む人がどんな人なのかを知りたい。具体的には、魔石があるのかないのか。それと、自分たちがどの所属として感じているかも気になる。既にプルト王国って意識があるのかもしれない。
そのふたつを調べつつ、ここで何が行われているかわかると良いかも。誰が主導をして何の目的で活動をしているのか。7つの王国に馴染めずに、ここへ来て生活をしているだけなら良いんだけど、どうにも怪しい感じがする。
7つの王国が戦争をしている目的が病気の解消なら、各国を征服してしまったプルト王国はそれとは目的が違いそう。
アカネ:アルルさん、聞こえますか?
返事がない。王笏を戻したばかりだから、まだ遠距離通話ができないのか。龍の目で見えてもらえればわかることも多いと思ったんだけど。――あ。
アカネ:アクアちゃん、聞こえますか?
『聞こえとるぞ、さっきのアルルへの呼びかけもな。そうか、アルルが先か』
アカネ:ああ! ごめんなさい!
『まぁよい。そなたにはアルルの称号があるからな。我もやろうとは思ったがアルルに睨まれるのもかなわんのでやめたのだ。これを機に次に会ったときに称号を渡すのもよいな』
アカネ:称号って渡すものなんですか?
『ものにもよるが、渡せるものもあると考えるといい』
そういうものなのか。となると、母ネコの子って称号も直接もらったものかもしれない。
『それで、何か用か?』
ここの場所、来た経緯、何を調べたいかを伝える。私の能力だと調べきれないから、アクアちゃんの能力だとどうか訪ねてみる。
『魔石の有無か。調べたことはないな。調べ方でもあるのか?』
アカネ:恐らくですけど、魔石が無い人は魔玉がありません。それと、存在を示す色が茶色かオレンジ色みたいに変わってるかも。
『魔力感知で良いのか?』
アカネ:魔力感知を持ってない私が見えたので、あれが魔力かどうかははっきり言えません。魔力感知で見える魔力はヒトと魔物が違う色をしているって聞くので、別のものかもしれません。
『ふむ。とはいえ、今からそれを知ったとしても、比較できる魔石を持つ者がおらねば違いを感じることもできぬぞ』
あ、そうかも。明確に調べる方法がない以上、比較して違いを見つけるしかないんだけど、それには違う対象がふたつ以上はないと比べられない。私を含め全員が魔石が無い人だったら、どうあっても見分けることはできない。
[猫潜伏]を切って、屋根の端まで移動して地上を眺める。
隙間なく屋台が並び野菜や調理済みのごはんが売られている様子は、街の規模は小さいながらも活気があって楽しそう。ここから見える人の表情は、笑顔だったり真剣だったりと様々だけど、暗い感じはしない。
アカネ:私と街の人を比べて、違いはありますか?
私の目を通してアクアちゃんが地上の人たちを眺める。アクアちゃんに出てきてもらって見てもらえば、私が移動して上から見下ろす必要はなかったんだけど、ギンガの姿や光の球の状態はちょっと目立ちすぎだよね。
『特に違いは分からぬな。色が茶色いと言われたらそう思えるが、真っ白と言われたらそうとも感じる。そなたの言う色の違いを正しく受け取れているかもわからぬ』
アカネ:そうですね。私の見た光が魔力かどうかもはっきりしてないですからね。
魔力を見る方法と同じで良いかどうかも分からない。そうなると、魔石を持った生物と私を比較する必要がありそうだ。
この街の人ではわからない。魔石を持っていない人が集まったの街かもしれない。あの教会内に、魔石を持った人が居るかもしれない。話に聞いた限りでは、そういった施設のようだから。けど、あの場所に向かうのは今じゃない。
考えながら街を見下ろすと、いくつかのお店を見て気が付いた。食べ物が豊かだよね? 外の街と変わらないほどの食料ということは、同じ程度には生産しているはず。
この世界、食料の素材もアイテムドロップというシステムに依存している。植物は、本体まるごとドロップしていることが多く、肉類は倒した時点で別の肉の塊がドロップしている。
けど、それは魔石がある前提。魔石がないプレイヤーは一部イベントアイテムを除き、装備を含んだすべてを保有してリバ石に飛ぶ。これが魔石が無いNPCに適用されるのなら、動物にも同じ現象が起きてもおかしくない。つまり、魔石の無い動物にはドロップがない可能性はないだろうか?
屋根伝いに郊外へ向けて歩く。もし想像通りなら、動物の飼育は魔石を持っている動物に限っている可能性がある。
正直、肉の解体施設に行くのはちょっとためらう。未成年で見えるものに規制があるから、直接的な表現を見ることが無いのは助かるけど、それでも見たくない。
普段食べてる肉は培養肉だから命とか気にしたことがないけど、ゲームだと昔みたいに動物から手に入れるから、ちょっと残酷なんだよね。
とはいえ、ゲームなので割り切ることは必要。選択してこのゲームを遊んでいるんだから、世界観に口出すほど嫌ならやめればいいだけ。
とりとめもないこと考えながら郊外へと進む。[猫五感]を使って動物らしき匂いを辿っていけば到着するはず。
途中でどうしても降りなければ進めない場所まで来たので、周囲を警戒して地上に降りる。道行く人の視線を感じるけど、多分大丈夫。ただの猫です。
匂いは街の外からするけど、外に向かうには街の外壁を越えなければならない。外壁の出入口には見張りがいるので、あの場所を通ったら捕まる気がする。
再度屋根に上って乗り越えられそうな場所を探すと、背の高い木が見つかった。人なら途中で折れそうだけど猫なら登れそうなので、そっと近寄って木に登り外壁の上まで登った。
外壁の上から降りれそうな場所を探すと、飛び乗れそうな木があったので、そちらへジャンプして地上に降りる。辿っていた匂いを確かめると、外壁のすぐ近くで動物が集まっている匂いがする。
外壁付近で飼ってるんだ? 牧場的なイメージだと、もっと離れてると思った。
匂いのする方へ近寄ると、柵に囲まれた牛や豚が何頭かいて、門の付近にある大きな建物と柵が繋がっていた。多分、あの建物がそうなんだろう。
意を決して建物に近寄る。実際どうしているのか確かめないと分からない。
――蒼奈に見せてもらった『ヒトの骨』。最初からヒントがあったのを、すっかり忘れていた。
魔力感知による色の違いは、蒼奈がケイブキャタピラーに使った時の設定です。人類、動物、魔物の区分や、敵対かどうかによって色が変わります。




