『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』161
「アオナ~?」
[アオナ]どしたの?
「バグって変なところに出た」
[アオナ]バグ? 運営に報告じゃないかな。
「一応、システムメッセージでこの場所に出るって案内があったから、バグかどうか疑わしいんだけどね」
[アオナ]罠とかそういったランダムテレポートみたいなものかな。どんなところかわかる?
「システムさんの話では、●●●に出現って言われた」
[アオナ]……その場所、大丈夫?
「うん。前に聞いたみたいに、消えることはなさそう」
ギンガに話したように、場所の説明をする。あわせて、細い線で繋がっていることや、パーティー、フレンドによる違いの予想も伝える。
[アオナ]その場所って、上下はあるの?
「上下?」
無重力状態に近いため、体感で上下は感じられない。周囲は暗闇に星だから上下はわからない。目印になるものはあるかなぁ?
[アオナ]アカネは、光が星に見えるんだよね?
「うん」
[アオナ]それなら、惑星とか見える? あるいは、大きい星とか。
「ちょっとまってて」
惑星? それに星の違いかぁ。確か、普通の星と惑星を見分けるときって動くかどうかだったよね。星は遠いから星座の形を保つけど、惑星は近いからよく動く。正直、短時間で動くかどうかは判断できない。むしろ、ほとんどの星が動いているように感じる。
じゃあ、大きさで見分けられるかと言うと、一番大きく見えるのは目の前の蒼奈の星。離れた場所にあるギンガの星はこれより小さい。けど、蒼奈が言う星の大きさの違いは遠近感による違いじゃなくて、実際に大きいかどうか。そうなると、見えている範囲で大きさの違いがあっても、サイズが違うかどうかの見分けは、この場に居る私には判断がつかない。
うーん。あ、いや。最初に知りたいのは上下があるかどうかだ。惑星がどうとかがメインじゃない。
周囲をじっと眺めていると、星が集まる場所に偏りがあるように感じた。一方向だけ星の数が多い気がする。
そのまま蒼奈に伝えると、そちらに近寄れるかどうか聞かれた。近寄れはできるけど、結果を伝えるためにまた戻らなきゃならない。蒼奈たちの星って運べるのかな?
蒼奈の星を手で押すと、途中で反発して反対側に動く。これは、進行方向に押せば運べるかもしれない。
蒼奈の星を押しながら、足だけでなんとか泳ぐように動いてみると、お互いをつないでいる細い線に引っ張られるように他の星も動いてきた。引っ張られ方は、糸のように蒼奈を中心として引っ張られるわけじゃなくて、離れている距離を保ったまま移動している。
それじゃあ、ギンガたちの方はと見てみると、そっちとは距離が離れてる。私がつながっている線だけ伸縮しているようで、他のみんなの線は長さが固定化している。
どうせならギンガの方も運びたいので、戻って反対側の手を使って押しながら進む。
しばらく進むと、多く見えた方向にある星の数は、さらに増えてきた。近寄ったことで、細かい星が見えるようになったみたい。
「明らかに星が多くなってきたよ」
[アオナ]星は止まったまま?
「どうかな。動いてる気がするかも」
[アオナ]なるほど。――アカネ、ちょっと実験するから、僕の星がどうなるか見てほしい。
「はーい」
言われた通り、蒼奈の星をじっと見ていると、どこからか小さな光が飛び込んできて、一瞬蒼奈の星が強く光り、そこから別の方へまた光が飛んでいった。飛んでいった先を確認すると、さっきの星が集まってる方向だ。手元の光は、元の強さの光に戻った。
その話を蒼奈にすると、もう一度実験するから見てるように言われて、また蒼奈の星を見続ける。
[アオナ]どう?
「変化ないよ」
蒼奈から返事が来るまで、目を離さずにじっと見ていた。間違いなく変化はない。
[アオナ]そっか。最初のは死亡してリバ石に飛んで、後のは帰還石で飛んだ。帰還石はそっちに変化が無かったのか。
「うん。見落としてないよ」
同じ復活するのでも、何か違うみたい。リバ石復活と帰還石で分かりやすい違いはアイテムの有無だけど、それだけかな?
[アオナ]こっちで妖精に聞いたことなんだけど、プレイヤーって魔石が存在しないとか。
「無かったの? 私って魔力病になったことあるけど?」
[アオナ]それは多分、肉体に魔力が過剰に貯蓄されたんじゃないかな? その話はちょっと置いておくんだけど……プレイヤーに魔石が無いこと。さっきアカネが言ってた、プルトさんに魔法をかけられたって話。その後、エリスって人に魔石が無いことを確認された話。その状態で、帰還石を持たされずに別の街で会おうと言われて切られた話。それをまとめると、リバ石復活には、魔石を持ってないのが前提じゃないかと思う。
「ふんふん。――あっ! だからアオナはさっきリバ石で復活したのか。つまり、ああ! ここ魔石か!」
[アオナ]じゃないかな? 全ての生物に魔石は必要。でも、僕らには存在しない。その解答が、その場所。別の場所にあるそこが、魔石の代わりをしている。
「じゃあ、プレイヤーの魔石変わりの場所が●●●ってことなんだ」
[アオナ]ついでに、光ってるのが個人の魔石に該当するってなると、アカネの周辺に光っているのがプレイヤーの魔石で、遠くにある星の集まりが地上のNPCの魔石なんじゃないかな?
「なるほどね。ということは、ここは地上の真上か真下にあたるのか」
[アオナ]あ、そうか。真上って可能性もあるのか。地下だとずっと思ってた。
「暗いからね。でも、上か下かを区別する手段は無いよ」
[アオナ]方位磁針でも無理そうだよね。
「アイテム使えるのかなぁ」
ゲームのUIは動くので開いてみる。いくつかのパネルは灰色になって使えない。ログアウトはあるから普通に出られるな……。アイテム欄が開く……あ、これだけ使える。
「使えるアイテムあった。アストロラーベ」
[アオナ]そういえば直したんだっけ。
「座標が全然集まってないから使いどころがまだないんだけど――なんか光ってる」
取り出したアストロラーベがぼんやりと光ってる。おかげで暗い中でも盤面の文字を読むことができる。調べた座標は殆どないけれど、試しで入れてみる。
ダイヤルを回して、アルルさんの座標を入力。すると、アストロラーベと星の集まりをつなぐように光の線が繋がった。
そこからさらにダイヤルを回しても、光はつながったままだ。
次にわかる座標は、ジュピィタ王国の王都ジュピトリス。ここに合わせると、アルルさんの時に繋がった光が消えて、別の光がアストロラーベにつながった。
最後に、ネプチュン王国の王都ネプラスの座標を入力。ネプラスの座標を入れる直前までジュピトリスとの光がつながっていて、ネプラスを入力すると、また光が交代するように位置が変わった。
これ以上の座標は知らないから、調べようがない。ただ、3か所も座標を入れたらわかることがある。今いる場所は地上より下にある。光の線が指し示す王都や龍の位置関係が、地図を下から見た位置になっていた。
[アオナ]アカネのいる場所から見える星の集まりって、その1か所しかないの?
位置関係を調べた結果を蒼奈に伝えたら、そんな質問が返ってきた。改めて周囲を見回すけれど、星の集まりが見える場所はここしかない。
「うん。丸い板のように集まってる場所が1か所。他は星が見えるけど散らばってて、真っ暗な空間にぽつぽつと光ってる」
[アオナ]じゃあ、このゲームのタイトル。ここが島のような大きさだと思ってたから他に大陸があると思ってたけど、他に地上が無いのなら、このサイズでも大陸って言えるね。
「あぁ、そうかも。小さくても、この世界では最大サイズなのかもね」
[アオナ]その上で、大陸を制したのがプルト王国なら、それが覇者なんだと思う。ひねりが無いけど、裏は取れた。後は●●●が、未来でなぜそうなってしまうのか。
「前に言ってた真っ暗な世界に変わったって言うのは実感できるけど、こうして中に居ても、攻撃性はなさそうだけどね」
世界が暗闇に覆われたというのが、今いる場所の光景と同じなら納得できる。暗闇に星のような光。状況はよく似ている。
けど、●●●の中に居ても私を排除するような動きはなさそうだ。むしろ、調子はかなり良い。時代が違うからかもしれないけど、生物を排除するような雰囲気はなさそう。
[アオナ]調べてほしいことがあるんだけど、いいかな? わからないかもしれないから、適当に切り上げてもいいよ。
惑星と星の見分け方を星の瞬きで区別することができますが、茜たちは諸事情によりそれを習っていません。




