『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』151
~~~アオナ~~~
初期時代は帰還石が使えないので、馬車を乗り継いでライエの村まで移動してダンジョンへ向かう。戦争時代に移動して帰還石でマーキュラスへ移動。そこからはいつものルートで自分たちの家まで帰還した。
「最初は初期時代でニャットちゃんと会うんだよね~?」
「そう。それで位置関係を把握してから、戦争時代の妖精の国に入る」
初期時代にて、僕たちのダンジョンの裏側を削りながら茶子の質問に答える。茶子はサイズがサイズなので、ダンジョンの裏側を削る作業には向いていない。一緒に作業しているのは、採掘を覚えている萌黄先輩だ。
「思ってる以上に後ろにこびりついてるよね、ただの土なのに」
「他のダンジョンが片面だけなのは、裏を削るのが大変だからかな~」
「削っても普通は使い道がないから、綺麗に整える以外の意味がない。労力に見合わないから整えてないんだろうね」
未黒先輩と紫帆先輩は、戦争時代の裏側を削っている。あっちは硬い土だけではなく木の根がくっついているから、土魔法が使える未黒先輩と植物魔法が使える紫帆先輩が綺麗に整えている。
削ってる途中で茶子に妖精の隠れ家を使ってもらったけれど、削り取りの作業が楽になることはなかった。表面が変化するなら落としやすくなるんじゃないかと思ったけれど、土で埋もれている箇所は対象外だった。仕方がないのでコツコツと削り落とす作業を続ける。
未黒先輩たちの方が先に終わったようで、先に戻ってきた。あちらは、植物魔法が効果を発揮したようで、根を動かしたら半分以上が見えるようになったらしい。戻ってきたふたりにも手伝ってもらい、ようやく初期時代のゲートを綺麗にすることができた。
「それじゃあ、開けるね~」
鈴のように聞こえる茶子の魔法が終わると、傷がついたゲートは綺麗な板に変化して、妖精の国への入り口が開いた。未黒先輩が手を入れると、裏側なのに手が中に吸い込まれていった。
「それじゃ、向かうんよ」
サイズが小さい入り口なので、屈んで入り込む。未黒先輩、紫帆先輩、萌黄先輩に続いて僕が入る。茶子はゲートを開き続けなければならないので、順番は必ず最後になる。
中に入ると、先輩たちがニャットさんと話をしていたので、ここが予定通りの位置に出たとわかってホッとした。姿がまたコウモリになっているので、萌黄先輩が拾い上げてくれた。
出てきたゲートは、地面に突き刺さった石に見える板だ。これが最初からここにあったのか、ゲートを開いたから出現したのかは不明。前者ならダンジョンの数は有限、後者なら無限と思われる。
それがわかったからって何かが変わるわけじゃないけど、自分たちだけでダンジョンをひとつ占有しているので、無限ならちょっとだけ安心というか、罪悪感は薄れる。
最後に出てきた茶子をニャットさんが迎えに行くのを見ながら、改めてこの場所がどの位置なのかを確認する。前にフローベールに出たゲートに近い。
「それじゃ、目的地へのルートと、周辺の地形確認するんよ」
次は、戦争時代のゲートからここに来なければいけない。その時に案内してくれるニャットさんが居るかわからないし、周辺の景色も変わっているのかもしれない。
できるだけ土地の特徴を覚えることで、比較すれば同じ箇所をいくつか見つけられるかもしれない。同じ個所が見つかれば進行方向が確定できるので、詳細に記録をつけていく。
最低でも、この近くで起動しているゲートの配置や距離は調べておく。きっと、今使えるゲートは戦争時代でも使えるように整備されているだろうし、場所も変わることが無いはず。
ゲート以外にも、特徴的な土地の情報を集めて、サアターンの封印地にあるゲートまでのルートを覚えた。
「魔石の蘇生ってどうなりました?」
「魔力を集めてる最中だよ! もうしばらく経ってから、向こうの世界で元に戻すね。どこで復活させよう?」
「マーキュリ王国の人だから、同じ国のがいいわね」
「それなら、ニャットちゃんをわたしたちのゲートから出入りできるように登録するんよ。あれって、コガネ以外できたっけ?」
「僕ができます」
「じゃあ、さっそく行こうか~」
僕たちのゲートは、他の人が入れないように設定しているので、当然ゲートから出てきても他の人が外へ出ることはできない。通過できるように登録することで、ニャットさんが自由に使えるようになる。
外に出て、ゲートから出てきたニャットさんに向けて[アドミニストレータ]を使い登録する。問題なく魔法がかかった後は、遊ぶように金庫室化された空間を出入りしている。
「ありがとう! でも、チャコちゃんがいないとこっちに来れないから、もうしばらく妖精の国で準備してくるね!」
「は~い、おねがいね~」
「お願いします」
「まかせて!」
ニャットさんはくるりと空を飛んでから、ゲートに入っていった。
その様子を見て、そういえばと思い魔石を取り出して、金庫室の境界を通す。これは通るのか。金庫室が出入りの管理を判断しているのは魔石か魔玉の通過じゃないかと思ったけれど、そうではないらしい。
「アオナさんが持ってるからでは?」
僕の行動を見ていた紫帆先輩が横から声をかけてきた。言われてみれば、通過する権限を持つ人に所有権のあるアイテムだから、通過できるのかもしれない。服装がいい例だ。
地面を転がして中に入れる……入るな。
「どこまで転がせば僕の所有権が消えるんでしょうね」
「武器を落として死んでも、リスポーン地点では装備状態で復活なのよね。案外かなり遠い所でも誰かに拾われない限り所有権は残ってるのかもしれないわよ」
そういうものかと思いつつも、捨てたものや紛失したものが、リスポーンしたら戻ってきたという話は聞かないから、どこかで所有権の有無の境界はあるのだろう。
「シホちゃん、アオナちゃん。戦争時代に行くよ」
ゲートの反対側から萌黄先輩から声をかけられると、既に未黒先輩と茶子の姿がなかったので、ダンジョンに入っていったんだろう。紫帆先輩とふたりでダンジョン側に移動し、順番に入っていった。
「すごいことになってるね」
「木の根が問題だったんよ」
戦争時代のダンジョン入り口に建てた小屋は、木が生えているのを生かした建築にしようと話し合ったので小屋の中に木がある。デザイン的に面白いからってことで建てたんだけど、まさか木の根をはぎとるとは思わなかったため、木が生えている箇所の土が大きく抉り取られている。魔法で向きが変わっていびつになった木の根が見えている。
「後でまた木の板を集めて~、ギンガにお願いしないとね~」
「木が成長する分だけ空間をあけたのが英断だった」
もし木の幹のサイズにピッタリはまるように建築していたら、床をはがす必要がでて困ったことになっていた。
「じゃあ、ゲート開けるね~」
茶子がゲートを開く。開いたゲートに未黒先輩が手を差し伸べたら中に入ることができたので、妖精の国側でブロックされていることはなさそうだ。
先輩たちの後に続いて中に入る。妖精の国の景色は、木に囲まれてるのは変わらないけれど、植物の生長具合が違うので見た目がかなり変わっている。それでも、近くのゲートや地形を確認して目的地を探る。
「ゲートの位置に変化はないですね」
「歩数がおおよそ同じね。これなら向こうのゲートも位置は同じでしょうね」
「道が変わってるから~、間違えないないように進むよ~」
目的の方向を調べ終わったので、茶子の先導でサアターンのゲートに向かう。さすがに斥候職なので、方向感覚は誰よりも鋭い。
途中で妖精に会うことは無かったのだけれど、茶子が「妖精さん結構見てるよ~」と教えてくれた。接触はしてこないけれど、遠目から見ているみたいだ。妖精は好奇心が強そうに感じたけれど、そうじゃない妖精も沢山いるのかも。人と同じように、妖精もきっと各個人の個性はそれぞれあるんだろう。
よく考えたら、妖精の国という独自の世界があるのにわざわざ別の世界に行くような妖精は、総じて好奇心が旺盛のはず。だから、人が会う妖精はほとんどが好奇心のある妖精だらけになってるに違いない。
そんなことを考えながら進むと、サアターンのゲートが見えてきた。その場所には何人か妖精が集まってるようだ。茶子がいるから大丈夫だとは思うけど、友好的に話ができるといいな。
作中でダンジョン探索をしている描写はほぼありませんが、空き時間とかパーティーの入れ替えのタイミングなどでダンジョンに通っています。レベルを上げるための狩りやドロップ品の収集に使っています。




