『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』148
抵抗することなく相手の指示に従って行動したので、拘束されるようなこともなく別室に移動した。
ギンガたちがそれぞれ別の部屋に移されたのは、各自で事情聴取するためらしい。部屋の中にはギンガの他に兵士さんが3人いて、それぞれ武装をして立っている。
話しかけても、「椅子に座って待っているように」と言われるだけなので、おとなしく待つことにした。
コガネ:魔法使いらしい男女のペアが入ってきて、監視されながらの事情聴取だった。ここに来た経緯を聞かれたから、目的は冒険と龍について調べるため。何をしてたかは、事件当日にイアドの街に入ったこと。到着後すぐに商業ギルドに納品したこと。冒険者ギルドの書庫で事件を知ったことを伝えた。
キリ:こっちにも来た。同じように答えるね。
アカネ:疑われた理由は言ってました?
コガネ:猫と龍の組み合わせが言い伝え通りだったからとは言ってたけど、詳細はわからなかった。
ギンガ:言い伝えを調べればよかったね。
ミカン:話がねじ曲がって伝わってんだろうな。
アカネ:みんなは普通の部屋に捕まってるの?
コガネ:そうだね。アカネちゃんは?
アカネ:今、真っ暗な箱に入って運ばれてる。触った感じ、金属の檻かも。
ミカン:猫と龍が問題なら、アカネの方が危険視されてるかもしれんな。
キリ:終わりました。質問は同じだった。猫と龍について聞いてみたら、他国の龍が国内に来た場合は、自分たちの龍を害する目的で来るって伝わってるみたい。過去に龍が来た例として、猫を操っていたと伝わってるから警戒対象だったみたい。
ミカン:なるほど。っと、来た。こっちも聞いてみるか。
アカネ:どこかに箱が置かれた。何か話してるから聞いてみるね。
ギンガ:はーい。
ミカン:終わった。なんか、「卑劣にも我らの愛する猫を操って」とか言ってたから、アカネの方は大丈夫だろ。
アカネ:何か魔法を使ってる。なんだろ?
キリ:憑依とか操作って思われてるなら、解除系の魔法かもね。
ギンガ:こっちにも来た!
部屋にノックの音がして、同室に居る監視の兵士さんのひとりが扉を開ける。さっき部屋に入ってきたテイラルトさんだ。ギンガの向かい側にある椅子に座り、手には木の板のようなものを持っている。クリップボードかな?
テイラルトさんは、他のみんなにもした質問と同じことを聞いてきたので、みんなと同じように答えた。なにやら、首を上下にうんうんと頷いている。
「他の者たちも質問をいくつかしてきたからな。ひとつなら答えよう」
「うーん、ひとつかぁ」
ギンガ:ひとつなら質問して良いって言われた。
キリ:そんなこと言われなかったよ。
ミカン:あー、うちがさんざん質問したからかもな。
ギンガ:聞きたいことある?
コガネ:アカネちゃんも含めて、誤解が解けたら開放されるかどうかかな?
「誤解がとけたら、猫と一緒に解放されますか?」
「猫か……猫は、君らの何なのだ?」
「友達です!」
テイラルトさんは、口元に手を当てて考え込むポーズをとる。そんなに難しいことなのかな?
「事件との関係性を調べる間は、しばらく待機してもらうことになる。容疑から外れたら解放されるだろうが、猫の状態によっては君らと同じくして解放されるかはわからん」
「アカネ、猫はどうなるんですか?」
「質問はひとつだけだ」
そう言い残して立ち上がったテイラルトさんは、部屋の外に出ていった。
部屋の中で扉の開け閉めをしていた女性の獣人兵士さんは、こちらに向き直るとギンガの目を見てきた。
「テイラルトさんはおっしゃってませんでしたが、わが国では猫を害することはあり得ません。食事と寝床と遊具を約束しましょう」
真面目な顔をしてそんなことを言うから、思わず笑っちゃって、「お願いします、ボールが好きです」って言ったら「わかりました」って、ほほえんだ表情で返事をしてくれた。これで茜は大丈夫だよね!
ギンガ:終わった! アカネにボールの差し入れがあると思うよ!
アカネ:ボール?
ギンガが部屋で話したことを伝える。といっても、あんまり多くないからすぐ終わった!
コガネ:犯罪者って扱いにはなってない気がするよね。
キリ:取り調べはしてますけど、無理やり何かを聞き出したいようには思えません。
ミカン:ま、念のためって感じか。そもそも根拠が薄いからな。
ギンガ:根拠が薄いの?
ミカン:聞く限り昔話を元にした取り調べだからな。300年前の人間が『注意しろ』って警告を本に書いて、それを現代の人間が真面目に受け取るか?
アカネ:難しいかなぁ。
コガネ:災害などの実害があったならともかく、過去にここへ来た私たちは、この国に何も害をもたらしてないからね。
キリ:猫の名前と龍の特性が完全に一致したから、捜査せざるを得ないのかもね。
アカネ:テイラルトさんが来て、部屋の魔法使いさんに話してる。憑き物は落とせたかって。魔法使いさんが効果を感じないって言ったら、しばらく続けるようにって命令されてた。
ギンガ:ずっと魔法使うことになるね!
キリ:操られてたわけじゃないからね。効果も発動しないからその人も大変だ。
兵士さんに見守られながら椅子に座ってみんなと会話していると、部屋にノックがされて後に、別の兵士さんが扉を開けて現れた。どうやら移動するみたい! 黄金音ちゃんたちも同じく移動するんだって。
途中で黄里先輩と一緒に歩いている集団と合流。別の部屋に通されると、黄金音ちゃんと蜜柑先輩が先にいて椅子に座っていた。案内してくれた兵士さんとはここで別れて、ギンガも部屋に入って椅子座った。部屋には最初に会ったトラトルさんがいる。
黄里先輩とギンガが座ってすぐに、部屋にテイラルトさんが入ってきて、ギンガたちの前の椅子に座った。
「さて。君たちに『王の休養地』の襲撃について聞いたのには理由がある。当時の王宮記録に記載があったのだ」
テイラルトさんが近くにいるトラトルさんに目をやると、彼女は抱えていた本を開き私たちの前に広げた。
「この文、『龍が猫を操り、我が国の龍を消滅させる恐れがある』『過去に操られた猫が龍の居る場所までたどり着き攻撃を行ったが、わが国は防衛をした』とあります。この記述は、200年ほど前に書かれています。実際、300年ほど前に猫が龍に操られ国内に潜入した事件があったようなので、その顛末についての補足でしょう」
トラトルさんは、開いた本の部分を指で示しながら説明してくれる。その部分を見ると、確かにそんな風に書かれていた。
「300年前の人は、事件の詳細を書かなかったのですか?」
「現存する潜入された記述は、当時の侍女の日記しか残っていないのだ。それ以外の公式的な記録は事故により消失している。侍女の記録では、猫の名前と毛色、龍が木龍であることが書かれている。操られた猫は相当暴れまわったそうで捕獲は困難を極めたそうだが、最終的には当時の騎士が捕まえたとある」
テイラルトさんが答える。この人の座る姿勢が、背筋が伸びててなんだか威厳がある。
コガネ:事故による消失って、わざと消された?
ギンガ:王族が関わった出来事だから、いろんな場所に残ってるはずだよね!
キリ:100年の誤差があるから、その間に記録を消したんだろうね。
「こちらの本、見せてもらっていいっすか?」
「では、こちらの手袋を着用してお願いします」
トラトルさんが手袋を取り出し、蜜柑先輩に渡す。手袋をはめた蜜柑先輩は、本を手に取りペラペラとめくる。本の後ろのページを開いて熱心に見ている。
ミカン:あった。やっぱりプルトって名前がある。こいつが消した犯人か?
コガネ:サアターンの儀式の場所を別の場所にしたのも、その人だったよね。400年代だったかな?
キリ:時代的に400年差ってことは、長命な種族でしょうか。
アカネ:前に会った人なら、見た目は人間だったよ。
ギンガ:アオナも多分長命種だけど、見た目はちょっと色白の人間だよ!
ミカン:見た目じゃあわからないってことだな。同一人物かどうかもわからんし。
「こちらは編集されてますが、原本ではないのですか?」
「原本は既に失われています。これは原本を写本したものと伝わっていて、現在では底本となっています」
それを聞いてから、蜜柑先輩は本を机の上に戻し手袋を外す。これ以上の正確な情報なないのかも。
「『王の休養地』が襲撃されて間もなく、侍女の日記に記載された黒白でアカネという名の猫が、木龍に操られてこちらへ来た。ここまで符号が一致しているのなら、過去のわずかな記録で信頼度は高くなくとも、君たちを見過ごすこともできない。申し訳ないがしばらくはここに居てもらいたい。君たちの証言が正しいかどうか各所に連絡を取っている最中だ。現在『王の休養地』の問題で混乱もあるため、結果は明日以降にはなるだろう」
蜜柑先輩が手袋を机の上に置いたタイミングで、テイラルトさんが話をした。
話を聞く限り、ギンガたちがここにとどまるのは仕方がないかなって思う。滞在場所や食事は用意してくれるそうだけれど、移動の自由は制限されるとか。あと、部屋の外など各所に兵士が配備されるらしいけど、それは仕方がないよね。
部屋にノックの音が響く。扉近くの兵士さんが開けると、3人の男女が入ってくる。女性が一番年齢が高いのかな? あとは若い男女だ。若い男女は後ろの兵士さんと同じように並んで、年齢の高い女性だけが前に出てきた。
「ネプチュン王国、学術総合研究所に所属するコトルマと言います。皆様は龍と共に来たということで話を伺いに来ました」
コルトマさんはギンガたちの前の席に座った。木龍について話をする必要はあるからね、専門家が出てきたに違いない!
アカネ:あ、プルトさんがこっちの部屋に来た。
別室で事情聴取をしても、こっそりと相談できるのだからあまり意味はないのですが、NPC側にはわからないので、プレイヤーはやりたいほうだいです。




