『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』146
「次はここだよ!」
案内されたゲートをくぐり外に出ると、山の上に出た。周囲にはダンジョンへ人を呼び込むような施設もない。
ダンジョン側はというと、そちらも岩で埋まってた~。
「ピクシーしか出入りできないんだね~」
岩の一部が欠けてゲートの一部がわずかに露出しているだけの状態だ。これでは、普通の人はこれがダンジョンや妖精の国への入り口とは思わなさそう~。
「誰も来ないから、安全に出入りができるんだよ! 意外と街も近いよ!」
パタパタと上昇するニャットちゃんを追うように、あたしも上昇する。木々を超えると、遠くに街が見えてきた。川沿いの街で、活気がありそ~。
あれ、見たことあるかも?
川だけではなく、街道の方向も確認する。川沿いの街。十字に伸びる街道。
後ろを振り返り、そちらへ続く街道を見る。今いる山と、離れた位置にある山の間を縫うように街道が続き、その先は寒そうな雪が降る地域が見える。
「あの街、フローベールだよ~」
「知ってるの?」
「あの街の国でみんなと会ったんだよ~」
「そうなんだ! じゃあ、良い国だね!」
「うん。良い国だよ~」
ふむふむと頷くニャットちゃん。フローベールには行ったことあるらしいんだけど、もっと小さな町だったらしい。
「じゃあ、次に行こうか!」
妖精の国へ戻って、別のゲートまで案内してもらう。
これもさっきと同じで、ある程度歩いたらすぐに到着した。ゲートに入ると小さな建物の中に出た。
どれほど小さいかというと~、妖精が人間と同じくらいの感覚で過ごせるようなサイズしてるミニチュアサイズの家~。その中に、ゲートがすっぽり入っている。
「このゲート、小さすぎない~?」
「これでも大きくなったんだよ。最初見たときは、屈まないと入れなかったんだ!」
そうなんだ~。考えてみたら、不思議でもないよね。あたしたちが確保してるダンジョンは作られたばかりのような、魔物も弱く規模も小さなダンジョンだったけれど、あれが最小サイズだってことはどこにも書いてなかったよね。
ピクシー以外のプレイヤーが何とか通れる程度のダンジョンというだけで最小って思ったけれど、あれより小さいダンジョンが存在することもあるよね~。
……あれ? ゲートって大きくなるんだっけ?
「ゲートって、大きくなるの~?」
「うん! 気が付いたら大きくなってるよ!」
理由を聞いても知らないそうなので、そういうものだと思っておこう。
とりあえずここから外に出ることにした~。家のような造りなので、出口の扉も作られているんだ~。
扉を押し開けて外に出ると、見知らぬ川と山の中腹に出た。振り返って家を見ると、神社でよく見るような小さなお社だった。お賽銭入れのようなものもあるな~。
日本っぽい? ヴィナス王国かな~?
お社があんまり汚れてなくて綺麗。きっと誰かが掃除してるかも~。
上空に飛び上がって、近くに街か村が無いか確認する。家は見えないけど、煙のようなものが立ち上ってるのを発見~。そっちへと向かうと、木々に囲まれた家をいくつか発見した。
家と言っても、ほとんどが屋根がついているだけの倉庫に見える。壁がはがれて中の道具が見える。その家々の中で人が住めそうな丈夫そうな家が数軒ある。そのうちの1軒は、家の外に食べ物が吊るして干してあるから、人が住んでいるんじゃないかな~?
「こんにちわ~」
外に人が居なかったから、開いている玄関から声をかける。
「はーい。どちらさん――妖精さんかい! なにか用かい?」
家の奥からは中年の女性が現れた。服装は着物っぽいけど、作業着なのか色々と汚れている。
「えっと~、ここってどこの国ですか~? あと、近くの街ってどっちにあるの~?」
「国はね、ヴィナス王国さ。街は、そうだね。この山をそっちに下ると街道に出るから、そこを右に進むとディトラの街に出るよ」
「そっか~、ありがと~」
そうお礼を言って気が付いた。この人、この質問しただけで[妖精のいたずら]の成功率が一気に上がってる。
「ひょっとして、すぐ近くのお社を掃除してくれてるの~? ここをあっちに進んだ方の~」
「あのお社ですか? 時々ですけどね。昔からこのあたりの人は、あのお社を大切に守っているんですよ」
なるほど~。妖精サイズの建物を見てうれしかったから、それが影響してるのか~。
何か魔法をかけてほしいものがないか聞いてみたら、井戸をお願いされたので、そちらに魔法をかける。これでおいしい水が出ると良いね~。
手を振って女性とお別れしてから、お社に戻る。ゲートをくぐった後で、どこに出たかの報告。
「――ニャットさん、妖精の国って7つの地域に分かれていますか?」
「そうだね! 人間みたいに別の国じゃないけど、7つには別れてるよ!」
妖精の国にあるゲートには、妖精の国とヒトの国へと渡るゲートの他にも、妖精の国の別の地域へと移動できるゲートがあるらしい。その地域へ向かうには、ゲートをくぐらないと入れないのだとか。
「そっちへ案内しようか?」
「いえ、最初に入ったところへ戻りましょう。ミク先輩、いいですか?」
「いいけど、どうするんよ?」
「僕らのダンジョンの後ろを削って入りましょう」
「そうね。出現位置はランダムとはいえ、人が通れるゲートが無いのならそこを通るしかないわよね」
最初は、ゲートの出現場所を覚えて、戦争時代に移動して覚えたゲートをなんとか削って中に入る予定だった。
けど、今回みたいに妖精しか入れないゲートも存在するとなると、確実に入れるところを作った方が早いのかも。
「ランダムじゃないと思います。多分、僕らのダンジョンの出入口はあっちかそっちのどちらかに出てくるでしょう」
蒼奈が地面の2か所を示す。位置は、フローベールへの出口の左右だ。
「マーキュリ王国の出現位置は固まってるってことかな?」
「多分そうです。案内されたのが土、海、水、金の順でしたので、天を抜かしましたが惑星の並び順でしょう。それに、タルタン、ターサラ、フローベール、ディトラは、島の中央からほぼ等距離にある街です。ベリクも同じく等距離にあるので、ベリクに近い僕らのダンジョンはこの近辺に出現するはずです」
「土から海へはちょっと距離があったんよな」
「妖精の地域が7つなのは、どうして?」
「アクアさんの管轄してる土地が、島の中心を除く、中央部をドーナツ状にした山岳地域です。龍の封印地も惑星の軌道のようなドーナツ状で分割されています。それが妖精の国と対応しているのならこの地域は土龍の管轄地域に対応した妖精の国の地域だと思いました。今のところ、出口の全てが土龍の管轄地域なので」
そういえば、アクアちゃんは土地の管轄地域が今の国の境界じゃないって言ってたよね~。管轄地域は中央の山岳部分らしくて、国家としてはヴィナス王国の王都がアクアちゃんの対応都市だったはず。
説明を聞きながら、最初に入った入り口に到着する。
「それじゃあ、また後で来るよ~」
「どれくらいかかるの?」
「うーん、ライエの村のダンジョンに戻って、そこから帰還石でマーキュラスに戻って、ベリクに移動して、ゲートを削る時間もあるから……最短で3日はかかる?」
「ライエに向かう乗合馬車の本数が少ないのよね」
マーキュラスに到着すれば、川や馬車での移動はしやすいから、問題ないんだよね~。
「わかった! じゃあ、預かった魔石の蘇生準備して待ってるね!」
「お願いします」
「おねがい~」
蘇生そのものは妖精の国で行うわけじゃないけど、直前までの準備は妖精の国でやるらしい。妖精の国で蘇生させても、出口がほとんどないからね~。
妖精の気まぐれで蘇生するときは、妖精だけが出られるゲートから魔石を持ち運んで、蘇生して放置することがあるとか。気が付いたら裸で森の中に居る人なんかは、そのパターンみたい。
蘇生の準備をニャットちゃんにお願いして、サアターンの封印地のゲートをくぐる。あたしたちのダンジョンが、ここに繋がってるといいな~。
妖精の国の気候は、対応した外の管轄地域の気候と同じではありません。他の妖精の地域と今いる地域では、気候が違います。




