『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』143
茶子とニャットさんであろうピクシーは、空でくるくる回りながら飛んで、しばらくしたら降りてきた。
「はじめましての人もいますね! ピクシーのニャットです!」
空中に飛びながら器用に礼をするニャットさん。手は茶子と手をつないだまま、綺麗なお辞儀をする。
こちらも挨拶をしてお辞儀をする。
「話は聞いています! 妖精の国を通過したいんですよね? ちょっと待っててください」
ニャットさんはそう言った後で、僕たちの周りをくるくると飛んでいる。視線はこちらを見ているようなので、何かを確認しているんだろう。
「うーん。アオナちゃんは入れるかどうかわかりません」
「入れないかも?」
「はい! 種族的に、妖精の国へのゲートをくぐれるかどうかわからないですね。中に入っても消滅するかもしれません!」
「鬼族は大丈夫なんよ?」
「能力は下がりますけれど入れますね!」
ヴァンパイアは入れないのか。逸話としては妖精のような自然的な存在ではなく、死者が蘇った存在のような怪物だから、妖精の国へは入れないのかもしれない。
「消滅って、キャラが消えるとかじゃないよね」
「さすがにそれは厳しいんよ。リバ石復活のはずなんよ」
「リバ石って何?」
ニャットさんが前のめりで未黒先輩の正面まで来た。リバ石が見えないNPCにリバ石の説明か。どう言えばいいんだろ?
「帰還石を持たなくても、同じように使える復活場所だよ~。装備も落とさないんだ~」
「復活! 便利だね!」
考えてる間に茶子がそのまま説明して、ニャットさんはそのまま話を受け入れた。考えすぎてたみたいだ。
「それで、帰還石って?」
アオナ:そういえば、この時代って帰還石での復活は無かったか。
シホ:ミカンが実験して効果が無かったって言ってたわね。
モエギ:復活についても知らないのかな?
ミク:復活の概念は、おそらくあると思うんよ。盗賊の魔石がこの時代だったはずなんよ。
チャコ:どうせなら、全部説明しちゃう~?
アオナ:このあとの案内を考えると、未来と行き来できる話をした方がいいかもしれません。戦争時代の妖精の国を通過する方法を聞くのですから。
ミク:じゃあ、全部話してしまうんよ。
帰還石や、復活について説明をした。「うんうん!」「ほうほう!」といった風に元気よく返事をしてくれる。
「それじゃあ、みんなの体は魔石が無いからリバ石で復活なんだね!」
話し終わった最期に、そう締めくくったニャットさん。いや、まって!
「僕たちには魔石が無いの?」
「ないよ! チャコちゃんもないから、珍しいピクシーなんだ!」
「そうなんだ~」
「全ての生物に魔石ってあるんじゃないの?」
今までの情報をまとめると、そんな結論になる。人だけじゃなく、動物や植物にすら何かしらの魔石があるとされてきた。それが、僕たちには、プレイヤーにはない?
「うん、何にでも魔石はあるはずだよ。だから、チャコちゃんにも魔石はあると思うんだけど、多分その体には無いんだよ!」
モエギ:シープのサーバーにデータがあるとか、そういった話なのかな?
ミク:それならわかるけど、ゲームのNPCがそれに言及するとは思えないんよ。
アオナ:サーバーにデータがあるかどうかなら、NPCも同じですからね。
シホ:それなら、サーバーというリアル側の話ではなくて、ゲームの都合で魔石が無いんでしょうね。
「ニャットちゃんは、魔石が見えてるの?」
「うん。近くにあるなら、魔石の場所はわかるよ」
「魔石の詳細はわかるんですか? 魔石の元がどんな生物だったとか」
「わかるよ。ちゃんと見る必要があるけどね!」
「それなら……これは何の魔石かわかりますか?」
ストレージから袋を取り出す。廃墟時代に家の地下に転がっていた魔石だ。蘇生ができる治療院に持って行ったけれど、素性が知れない魔石は蘇生が高額だったうえに、蘇生できなくても支払いが発生するようなので、結局なにもせずにストレージに保管したままだった。
「ちょっとまってて――うーん? 時代が違う感じだけど、ヒトだね。このへんは寿命を使いきった魔石だけど、こっちの魔石は蘇生できるよ」
目の前でより分けられる魔石。結構な数があったけど、蘇生できる魔石が7しかない。どんな人が現れるかわからないけど、あの時代に生きた人と会話できるのは貴重だ。
「せっかくなら蘇生する?」
お礼を言って蘇生できる魔石を袋に戻そうと魔石を手に取ったところで、そんな提案をされた。
「蘇生できるんですか?」
「妖精の国なら普通にできるよ。完全に復活するまで数日かかるけどね!」
「できるのならぜひ。あ、でもこの人たちに直接会ってないので、性格や素性はよくわからないです」
「ヒトが妖精の国に入ったら、鬼と同じように能力下がるから危なくないよ。それに、蘇生直後は体力もかなり低下してるから、こっちで蘇生しても大丈夫!」
妖精の国での能力低下は、妖精に分類されてるかどうかで判定されるのかな。ヒトも下がるのは意外だ。
蘇生する魔石をニャットさんに渡して、残りはストレージに戻す。
「魔石って、あたしにも見れるようになるの~?」
「チャコちゃんならできるかもね! 他の人は知らない!」
出来ないじゃなくて知らないなら、可能性は残ってるのかな? 魔石は生物の急所と言えるので、見れた方が戦闘にはありがたい。それに、魔石がが存在していない人を見分けることができるようになれば、どこかで役に立つ可能性もある。
「それじゃあ、チャチャにゲート開けてもらいたいんだけど、アオナはどうするんよ?」
「ダメージ受けて消滅はリバ石に飛ぶだけだと思いますし、入れないか試すだけ試してみます」
変な痛みがあったら嫌だけど、多分大丈夫だろう。
茶子が開いた祭壇の鏡面部分を見ると、表面に見知らぬ景色がうっすらと見える。あれが妖精の国か。
茶子がくぐるとこちらのゲートが消えるようなので、入るのは茶子が最後になる。その前に、入れるかどうか試させてもらおう。
紫帆先輩、萌黄先輩と入り、未黒先輩が入る。
モエギ:ミク、姿が変わってるよ?
ミク:お? 確かに視点が低い。どうなってるんよ?
モエギ:身長がかなり低くなって、肌が赤っぽくなって――子どもの赤鬼って感じ。
シホ:童話に出てくる鬼の子って感じね。妖精の国のイメージに変わったのかしら?
妖精国に入ったら、それにふさわしい姿になるパターンがあるのか。
逆に考えれば、妖精国にふさわしい姿になることができれば、ヴァンパイアでも中に入れるってことかな?
とはいえ、子どもの絵本に出てくるようなヴァンパイアか……血を吸うアンデットなんて子ども向け絵本とは対極だよね。
「アオナ~、どうする~?」
「試すよ。ちょっとまってて」
姿を変える魔法なんて覚えていないから、本来なら自主的に姿を変えることは不可能。それでも、あれがあるから可能性はあると思う。
鏡面に手を当てる。痛みはない。
頭の中で、変身する動物の姿を思い浮かべる。その動物に詳しくないので、似たようなのを組み合わせてイメージする。
手を押し込む。鏡面に手が吸い込まれるように消えると同時に、HPがどんどん減っていく。間違いなく消滅へ進んでいる。
手を引き抜くと肘から先が消えている。痛みはない。
「やばくない~?」
「予想通りだし、痛くないから大丈夫」
ここまでは実験。足から入れるように姿勢を変えて、本格的に中に入る。
足を中に入れても、どこかに立った感触はないので消えているんだろう。それでもどんどん中に入っていく。足、腰、胴体、腕と来て、最後に頭。とにかく、変身できる可能性を……。
「アオナさん?」
頭を中に入れるときは目を閉じて中に入った。本来ならこの時点でリバ石に飛んでいるはずだろう。それなのに、紫帆先輩の声が聞こえる。
「この子、アオナちゃん? かわいいね!」
体ががくんと動いた感じがして目を開けると、目の前に巨大な萌黄先輩の顔があった。
「ゲート、通れました?」
「通れたんよ。しかし、不思議な姿になったんよな」
「未黒先輩も、かわいく変身しましたね」
聞いていた通り、未黒先輩は赤い子鬼の姿になっていた。童話に出てくるような鬼の姿で、かわいい感じがする。
「あおりんの姿ほどじゃないんよ。全身真っ黒な、翼の生えたハムスターなんよ」
「いえ、コウモリです」
蒼奈は通過したので書かれていませんが、消滅の可能性があるプレイヤーが通ったら、予想通りリバ石に復活します。特にアイテムをドロップすることもなく、通常と変化がありません。




