『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』140
~~~アカネ~~~
風呂から出てささっと髪と肌のケアした後に、洗濯機から洗濯・乾燥済みの服を持って部屋に戻る。風呂に入ってる間にさっきまで着ていた服の洗濯が終了するので、早めに取り出して畳まないと皺ができて困る。ぱぱっと畳んで収納。多少は体の火照りが落ち着いたので、パジャマを着てから水分を取りに向かう。水でいいや。
部屋に戻って時計を見る。再ログインまであと10分あるな――『もふれ! もふもふの里♪』で猫ちゃんたちと遊んでから向こうに入ろう!
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『遺跡【王の休養地】は消滅。巨大蛇の魔物は、今の時点では未確認。巨大なクレーターは直径30メートルが4か所、50メートルが2か所。深さは最深部で22メートル。隕石による衝撃で飛ばされた石などは、街の城壁に到達しているものもある。【王の休養地】が攻撃目標と推測される。現在は王国軍により周辺を封鎖され立ち入り禁止』
『魔法を使用したと思われる者の情報は、締め切り後も常時募集』
ログインしてすぐに冒険者ギルドの掲示板に見に行くと、新たな情報が増えていた。【王の休養地】は、昔の王様が別荘に使っていた建物とあった。多分、煙突から忍び込んだあの建物だよね。あの建物の中に龍の封印地があったのに消滅……。
「封鎖されてるみたいだけど、確認に行く?」
「行って帰ってくる頃には、ちょうど情報の締め切りになってるはずですから見に行きましょう。自分たちで見た方が納得できますし」
「アカネならこっそり入れるんじゃねぇのか?」
「猫だからね!」
4人の視線が集まるので、ニャーと返事をする。猫なら疑われることなく進めそう。
街の門を潜り抜けて、街道を進む。街道は封鎖されてないけれど、街道から外れて穴だらけの場所へ向かうのは制限されている。この分だと、冒険者が新たな情報を手に入れることは難しいかもね。
「ずっと兵士さんが並んでるね!」
「思ってた以上に、厳重に制限されているな」
「国の兵士って、結構な数が居たんですね」
「戦争があるくらいだから、前の時代より兵士の数は増えてそうだね」
街道沿いで封鎖の仕事をしている兵士たちの姿を4人が並んで眺めている。その場から私だけ離れて単独行動をする。離れるときはできるだけ兵士に見つからないように気を付ける。兵士たちから見て、4人と私が一緒に行動をしているのが見つかった場合、何らかの方法で猫を潜入させている嫌疑がかかってしまうからだ。
ある程度離れたところで、侵入できそうな警備の抜け穴のようなのを探すけど、一定間隔に並んでいるから完全に死角になっているような場所はない。
となると、その兵士と兵士の間を走り抜けるしかない。一定間隔といっても距離には差があるから、お互いに大きく離れている箇所が良い。それと、隠れながら近寄れるような地形の条件も重要になってくる。
うろうろと探していると、よさそうな場所を発見。隕石で飛ばされた岩なのか、大きな岩が街道付近に転がってた。
【猫五感】を使いながら岩に隠れる。幸いにも、兵士が近寄ってくる気配はない。それでも、この岩に近寄る姿を見られて警戒されているかもしれないので、すぐには実行に移さない。地面に丸まって眠り、兵士の動向を探る。
しばらくすると、別の気配が近寄ってきた。目を少し開けてみてみると、知らない冒険者たちがやってきて、兵士と何か話をしているように感じる――今だ!
岩からさっと飛び出して、封鎖されてる境界線を超える。魔法で封鎖しているわけじゃないので、問題なく入り込むことができた。
後ろから兵士がなにやら言っているけれど、猫は止まれない!
近くにあるクレーターに潜もうと思ったけれど、まだ熱そうな蒸気を立てている場所もあるから、入るのはやめた。かなり時間が経っているんだけどね。魔法の特性かな?
この調子だと、たとえ封印地に入れたとしても熱くて中に踏み込めそうにないな。
記憶を頼りに、【王の休養地】へ向かう。周辺情報が役に立たないので、イアドの街と街道からの距離でおおよその位置を計る。ま、勘で進めばなんとかなるでしょ。
なんとなくの方向へ歩いていると、兵士たちが何十人も集まっている場所がある。近くの岩に隠れて、様子をうかがう。
隠れてから気が付いたけど、この岩は人工的に磨かれた感じがする。ひょっとして壁や柱の残骸かな?
残骸の色艶に見覚えがないから断言できないけど、ここの建造物といえば、過去には王笏の封印地の建物しかなかった。イアドの街で周辺の建物について情報を集めればよかったなー。
アカネ:この周辺って、【王の休養地】以外の建物があったかどうかわかりますか?
ミカン:まってろ。目の前の兵士に聞いてくる。
そういえば、地元民が警備しているから聞けばわかることか。隠れつつ兵士たちの様子を眺める。棒や何かの道具で岩を動かしている。何かを掘り起こしているのかな?
ミカン:確認できた。【王の休養地】の遺跡を案内する家がすぐ近くに建っていただけで、それ以外この近辺に建物はない。
アカネ:助かります。ということは、磨かれた石があるから、今いる場所が【王の休養地】で間違いがなさそうですね。
兵士たちが集まっている場所を見ると、クレーターの穴の端に集まっている。封鎖されている様子はないので、どこからでも入れそうだ。
【猫五感】を使いながら周辺を見回ると、兵士が居る側とは別の場所から人の気配を感じた。寝たふりをしながら伺うと、冒険者に見える。いくら封鎖したからといっても、突破する冒険者は当然いるよね。
「近くに猫が居るな。これはギルドの報告で報酬がもらえる対象か?」
「街道突破してすぐの場所にも猫は居たからね。ここまで来ててもおかしくないんじゃない?」
「子猫だ! ここ危ないから街に連れてこうよ」
「飼い猫か? 捜索願いが出てればボーナスチャンスだな」
近寄ってくる気配があったので、早めに距離をとって隠れる。「待って」と声をかけられるけれど逃げて隠れた。岩陰で【猫五感】を発動しながら屈んで待機していると冒険者は移動してどこかへ向かった気配がした。
念のため60秒を数えてから立ち上がりクレーターの方を振り返る。
「ニャ!!」
驚いて飛び上がり、ダッシュして離れた場所の岩陰に隠れる。
振り返ったすぐ目の前に、黒髪を腰まで伸ばしている若い女性が私をのぞき込んでいた。この人、気配が全くなかったんだけど。
「ふーむ。猫……か。どう調べても猫としか出ないな。こんな場所に居るなんて、並みの猫じゃなさそうなんだが。いや、この時期に子猫か……あの種族ならありえるのか?」
結構鋭いな。あの言い方だと鑑定したみたいだけど、猫適応のレベルが9もあるから、猫としか表示されなかったんだろう。あの種族って言葉にはちょっと興味が引かれる。どの猫の種類を思い浮かべたんだろう。
それと、さっきの冒険者グループの中に居た人たちとは声が違う気がした。あとから来た人たちかな?
「それより魔力噴出口が壊れたかどうかの確認だな」
魔力噴出口? 言葉の雰囲気からすると、封印地のことかな? 見に行きたいけれど、この女性が怪しすぎて隠れている場所から出るのはためらう。
猫だとしたらどう行動するんだろ? 多分、しばらく隠れたら外に出るかな。それで相手を見て距離があるなら安心して進み、目が合ったら止まって警戒し、その後に逃げる。
よし、大体の方針は決まった。岩陰から外に出て女性を見ると、遺跡があったと思われる方を見ている。この隙に離れよう!
女性から離れつつクレーターに近寄ると、目の前に食べ物が落ちてきた。何かの焼いたお肉だ。
……反応しない方が猫としてはおかしいはず。匂いを嗅いで、異変がなさそうなので食べる……おいしい。砂がついてるんだけど、猫だから歯の形状が人と違うため噛むときは違和感が少ない。それでも舌触りは良くないから、地面にべったり着いたところは残す。ここが砂漠じゃなければ全部食べれたと思うんだけどね。
食べ終わったころに、何かが落下した音が聞こえた。そちらを見るとまた肉が落ちていた。これ、誘導されてるな。
仕方がないので次々と落ちてくる肉を追いかけながら食べると、さっきの気配のない女性に捕まえられた。
「よしよし、巻き込まれたら危ないからね」
私を左手で抱え込んだ女性は私の頭を右手で撫でる。撫で終わった後で、綺麗な青い石が先端にはまった杖を手に取り上へと振り上げた。目で追いかけて前足を伸ばすけど、当然触れない。……巻き込まれる?
「少しおとなしくしてなさい。さて……[リザーブスペル→エレクトリックプラズマ][リザーブスペル→トゥルーダークネス][リザーブスペル→ストレングセン]」
上へ掲げた杖をくるくる回しながら、何やらすごそうな魔法を詠唱する。何かが発動しているようには見えないので、動く杖の先端を目で追いかけることしかやることがない。
「[ハーモナイズマジック]」
この魔法を唱えた瞬間、杖の先端に何かが発生したような気がした。けど、よく見ても何かが起きているようには見えない。何かの魔力を感じ取ったのかな?
「[エンプティネス]」
杖を振り下ろし、正面の遺跡側に杖を向けた。その動きにつられて杖を追いかけて見ると、杖の先端から小さな光が遺跡の跡地に飛んでいった。
光が遺跡のクレーター上空に到達すると、光が膨らみ色が反転して真っ黒な球体となる。音もなく、ただ丸くて黒い何かが現れた。
女性が前に向けていた杖を下に振り下ろすと、その黒い球体が下へ向けて消えていった。
黒い物体が消えた後に、女性がクレーターを下りて黒い物体がぶつかった地面を確かめる。ついでに私ものぞき込んだら、直径50メートルの大きなクレーターの中心に、直径5メートルほどの穴が、地下へ向かって掘りぬかれていた。
「これでもだめか。持続時間が課題だな」
クレーターの真反対から駆け寄ってくる兵士を避けるように、女性は私をかかえてその場から離れた。
暖かい地域なので年中いつでも猫が生まれてもおかしくなさそうですが、基本的な出産時期として春と秋をイメージしています。




