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あちーぶ!  作者: キル
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『プラモワールド統合版』07

『見事な勝利でした! なぜ砂の中を特定できたのでしょう?』


『砂の素材がプラスチックだったから、表面をビームで溶かして砂同士をくっつけたのよ。後は、表面に亀裂が入った場所を狙うだけよ』


 下ではレベッカさんがインタビューを受けている。砂の下の相手を探す方法が、プラスチックを溶かすって、さすがだよね。


「往復でビームを撃ってたのは、全体を溶かすためか」


「宇宙要塞と同じだな。地形を最大限に有効活用している」


 すごい戦いだった。相手の選手も強かった。プラモデルに鎧を着せることで、得意な環境を変えられるってのが面白い。猫ロボットに使えるといいな。


「本物の砂だったり、金属だとバトルはどうなるんですか?」


「プラスチックほど手軽ではないが、似た現象はつくれるかもしれん」


 素材を数値で表すなら、


 プラスチック……防御4、速度7、耐久3、

 木材……防御2、速度2、耐久7

 石……防御6、速度2、耐久3、

 金属……防御8、速度1、耐久2


 のようで、プラスチックは全体的に有利な設定に作られている。それでも、素材を溶かして固めるような今回の場合、防御が低い方が溶かしやすいため、石や金属では時間がかかるそうだ。もちろん、木材は炭になって意図した結果にはならない。


「塗装で防御は上がるし、パテ盛りで耐久もあがる。メッキ塗装されたプラスチックはビームを弾くほどの強さを獲得する」


「それじゃあ、全部メッキ塗装すれば強いんですか?」


「メッキ塗装は、一部なら良いが多くの部位に施すとセンサーへの隠蔽能力が下がるのだ。隠れないのならいいが、そうでないなら周囲を全面壁に囲まれた場所でも数秒に一度は居場所が相手にばれてしまう。下手にメッキのプラモデルで戦うと、遠距離狙撃だけで倒されてしまうぞ」


 素材について色々教えてもらってる間に、3位決定戦が始まった。

 実体兵器を大量に打った人と、砂にもぐった人の対戦。場所は高原ステージで、起伏が大きく湖もある。

 どちらも慎重に地上を進んでいる。実体兵器の人が遠い場所からからミサイルを何発か発射し、相手に当てていた。威力のあるそのミサイルが、相手の鎧を少し破壊した。

 接近後も、実体兵器の人は一定の距離を保って攻撃。上空から雨のように攻撃もして、装甲をすべて撃破。中から出てきたロボットが接近戦をしかけたけど、切り飛ばされた腕がそのまま爆発して大ダメージを与えたうえで、追い打ちのミサイル。実体兵器の人が勝利して3位になった。


「3位の人は、洞窟ステージだと厳しかったんだね」


「広い場所だと生き生きと戦ってた」


 実体兵器の威力のすごさが分かった。搭載できる量は限りがあるかもしれないけれど、ダメージがすごい。


「あれだけ全周囲に実体兵器が出せるなら、閃光内に入っても使えば勝てたのに」


「それは無理な話だ」


「無理ですか?」


「うむ。それは……おっと、そろそろ決勝戦が始まる。試合を見ながら解説しよう」


 ちらっと蒼奈を見ると、蒼奈もこっちを見てまた正面を見る。


「謎の仮面よりレベッカさん」


 うん、そうだね。仮面がお兄さんと確定じゃないし、今日はレベッカさんの応援だからね。


「レベッカさん、ファイトーー!!」


 声が届くわけないけど、気持ちを込めて叫んだ。軽く手を挙げたのは気のせいかな。


 青いバトルポッドの、上部にある透明な天井が後ろにスライドする。そこへ乗り込むレベッカさんとお兄さん(仮)。


『Plastic Model Battle!』

『Countdown!』


「きた!」


「レベッカさん頑張って!」


~~~~~~


『5・4・3・2・1』

『Battle Begins!』


 格納庫から射出される2体のプラモデル。ステージは宇宙だ。


「ステージ運はあるわね」


 ロボットから飛行形態への可変操作をしながら、そうつぶやくレベッカ。そのまま金色のモードへと移るためにチャージする。

 まだ相手の位置はセンサーに現れないけれど、移動中に位置を補足すればいい。しばらく暗い宇宙を眺めながら、チャージを続ける。


 そう考えて加速準備をするレベッカのセンサーが、相手の情報をキャッチした。


「な、どういうこと? 閃光にこんな速度出せるの!?」


 相手の速度は、レベッカの4倍速には届かない、おそらく3倍速だ。それでも異常事態である。

 マップ確認……チャージ前に接触する! このままだと良い的だ。完全なチャージをあきらめる。それでも、普通より速度は出るはずだ。


 モニターにグンジが視認できる。後ろに重なった花火のような光を放ちレベッカへ突撃してきた。レベッカは回避ではなく、ビーム盾を上部に展開し、相手の下を潜り抜け後ろに回り込もうとする。


「あの花火――まずい!」


 レベッカは直前で後ろに回り込むのを止めて、距離を取った。

 その動きを目で追いつつ、旋回するグンジ。


「さすがだ、魔女といわれるだけある。これが一瞬で何かを理解したとは」


 グンジは花火の元であるサテラニードルの散布を止めた。

 サテラニードルをサテラニードルで攻撃することで爆発が発生し、その爆発力をそのまま加速力に使うことで、圧倒的な速度を得た。花火の正体は、それぞれのランナー屑の色が混ざりあった結果だ。

 この移動方法の欠点は、搭載するサテラニードルの量に限りがあることだ。消耗が激しいこの高速移動を続けると、攻撃に使うサテラニードルが無くなってしまう。


 もしレベッカが不用意に近づいたら、散布したサテラニードルで閃光を使うつもりだったが、距離を取ったので、閃光の射程に入れられなかった。

 逆に、今のように距離を取り続けたら、サテラニードルを消耗し続けるので、良い作戦といえる。


「だが、その程度の速度なら、消耗を最小限に押さえて追いつけるさ」


 グンジはレベッカの機体を追いかける。実際、レベッカの機体の速度は速く、進むほどにお互いの機体の距離は離れていく。しかし、それでも閃光は追いつくと確信している。


「このまま進んでも、ステージの壁で追い詰められるわね」


 ステージの大きさが決まっているこのプラモバトルでは、どれだけ速度が速くても遥か遠くへ逃げ切ることは不可能だ。余程速度差がない限り、完全に逃げるのは不可能だ。

 グンジが通ってきたルートをモニターに表示させる。全ては把握できないが、それでもセンサーでとらえた範囲は表示可能だ。移動したルートは、すなわちサテラニードルを散布したルートといえる。散布した全てのサテラニードルを爆発させて推進力に変えたとは思えない。念のためそのルートを避ける方が無難だ。


「とはいえ、攻撃しなくちゃ始まらないのよ、ね!」


 ステージの端まで来たレベッカは、機首を上げステージの端ぎりぎりを飛行する。見た目はその先も宇宙が広がるが、その場所は明確に壁となっている。そして、その壁の先はただの映像なので、ステージ内の影響を一切受けない。


「閃光で厄介なのは光による方向感覚の喪失! けど、絶対に影響を受けない、完全な平面であるステージの壁を足場にすれば!」


 ロボット形態に変形し、ステージ端の、宇宙の壁を足場にして立つ。そのまま銃を撃つが、距離があるため当然避けられるけれど、構わずに打ち続けグンジを迎え撃つ。こちらが止まってる以上、撃たなければ狙い打たれるからだ。


 やがて閃光の射程範囲にお互いが収まると、そのまま閃光が発動した。

 レベッカは数発被弾するが、脚部ホバーを全開にしてその場を離れる。緩やかに波を描く逃走ルートで、グンジがギリギリ追いつく速度を保つ。


「平均的な速度のプラモデルなら位置は特定できないけど、確実に私が速い場合、追いかけてくる閃光は必ず後方の30度角範囲内に収束する!」


 閃光の必勝ともいえる、相手にグンジを察知させないまま攻撃をする戦法は、相手より速く動かなければ完全な実現は不可能だ。グンジは、テラニードルの爆発移動によって相手より速度が勝る機動を得ることで、位置を特定させない攻撃を可能にした。しかし、相手が圧倒的に早い場合、相手を後方から追いかけざるを得ない。


「やはり速度の勝る機体には閃光は効果が薄いか。だがしかし、それでもあちらから見えないのは確かだ!」


 相手から見えないがグンジから見える閃光。その仕組みは、攻撃命中時に表示される相手へのダメージ表示だ。たとえほぼ0ダメージであったとしても、画面内には命中表示がされる。

 しかし、それが普通の人に運用できない理由は、そのダメージ表示数の多さだ。無数とも言える数の、威力の無いビームを拡散し展開し続けているため、正面のモニターがすべて表示で埋め尽くされている。そのダメージ表示を脳内で立体的に組みなおし、相手の位置を特定するのは、グンジの高い空間把握能力があってこそだ。


 上半身はビーム盾で守られているため、移動の要とも言える脚部のホバーに狙いをつけて攻撃する。脚部には当然PBCが搭載されているため、そのエネルギーで防御が硬い。配置場所はわからないが、あの速度を出すならば、PBCは複数個が脚部に組んであるだろう。実体兵器ならまだしも、ビーム主体の武器ではかなりの回数当てなければならない。それでも足を止めるために攻撃をせざるを得ない。


 では、実体兵器を使えばいいかといえば、そうではない。閃光と実体兵器は相性が悪い。閃光は威力の低いビームを拡散させているため、実弾を発射させてもすぐに誘爆、あるいはビームが当たり、衝撃で狙いが外れたり失速してしまう。多方向からの拡散ビームなので、どの方向に外れるかも予想がつかない。有効なのは実体剣だが、パニックになって動き回る相手に近寄るのは得策ではない。接触し捕まえられたら、相手から見えないアドバンテージがなくなる。


 グンジは、ビーム兵器にこだわっているのではない。ビーム兵器しか閃光内では運用ができないのだ。


 レベッカからも攻撃が飛んでくるが、それを回避する。銃口さえわかればおおよその位置は把握できる。


「ちいっ! 当たるとはな!」


 それでも、1撃を受けてしまった。普段と違い、レベッカの射撃が避けにくい位置取りを想定して攻撃したものだからである。これも移動範囲を狭められた影響だ。


「そこ!」


 その1撃のダメージ表示を目標に、レベッカが急ブレーキをかけてグンジに体当たりを仕掛ける。

 高速移動からの急ブレーキに、グンジは対応できずそのままもつれあうようにぶつかり合う。


 レベッカは、剣に変えた銃を手首の回転で攻撃。左側の腕と、同じく左側に飛び出した背面のタンクをひとつ切り裂いた。

 次を狙ったところでビーム盾が爆発。サテラニードルがビーム盾の接続部分に入り込んで攻撃したようだ。


「これ以上欲をかいたらだめね」


 レベッカは接触状態を解き、飛行形態に変形してこの場所から離脱した。あのままではサテラニードルが他の部位を破壊しかねない。


「やられたな。すぐ追いかけてもいいが……」


 グンジは、まだ中身のある切断されたタンクを残った右腕で拾い上げた。


 離脱したレベッカは、戦場の逆側まで到達。そこでゴールドモードのチャージを始める。その間に、機体内に入ったサテラニードルを調べる。3つほど入っていたので振り払う。


「今度は、間に合う!」


 金色の輝きがが胴体から足へ。もう相手が3倍以上の速度で迫ってきてもゴールドモードを防ぐことはできない。

 やがて、全身が金色のモードになった瞬間、最大出力で飛行する。ビーム盾がなくなったから、抵抗が増えて速度はやや落ちるが、それでも3倍以上は安定して飛行できる。

 センサーが即座にグンジを捉えた。宇宙ステージのほぼ中央に漂っている。罠の可能性もあるが、このモードなら一瞬で離脱可能だ。

 銃を剣のモードに切り替える。この後は、すり抜けざまに切りつけ、そのまま離脱し、サテラニードルの混入を確認してさらに同じ攻撃を繰り返せばいい。相手にはもうこちらの速度に追いつける術はないはず。

 このモードが切れるまで粘られたらその瞬間は追いつかれるが、時間を置けばまたこのモードになれるため、切れる直前は接近をしなければよい。


「もうすぐ接触! 切り裂け!」


 通り過ぎる直前、グンジの機体が二つに分かれた。


「なっ!」


「残像だ」


 分かれた片方は、通過しようとしたレベッカの機体に取りつく。レベッカはもう片方を切り裂いたが、通過後に気が付いた。あれはサテラニードルで作り上げたグンジの機体の偽物だと。その後ろに隠れていたグンジは、とびかかる体勢で待ち構えていたのだ。


「くっ、離れなさい!」


 レベッカは機体を振り回し、回転させるが離れる様子はない。剣で切り裂こうにも、腕をグンジに取り押さえられて自由が利かない。


「ビーム盾を破壊して正解だった、おかげで切り落とされずに済んでいる」


 ビーム盾があれば、盾を回転させて相手を落とすことも可能だったろう。しかしそれも無い状態では振り落とすこともできない。


 一瞬、両足に収納してあるミサイルを撃とうかと思うが思いとどまる。閃光を使われたら足が吹っ飛ぶからだ。

 レベッカに取れる手段はひとつだけ。宇宙の端まで飛んで行って壁にぶつけて落とすことだけだ。

 しかし、相手もそこまで悠長に待っていない。レベッカの機体内部にサテラニードルを入れる。


「終わりだ!」


~~~~~~


『Battle End!』

『Winner グンジ!』


「「ああ~!!」」


「負けちゃったねぇ」


 私と蒼奈が同時に叫ぶ。萌黄先輩も残念そうだ。


 下のステージでは、レベッカさんとお兄さんが握手をしている。何だっけ、ノー……ノーなんとかって聞いたことがある。とにかく、スポーツって感じがしていいね。


「兄ちゃんに連絡するかな。『アカネと一緒に応援してたレベッカさんが負けて悲しい』」


「正体明かすの遠くなるね」


「確定じゃない限り他人」


 しばらくしてレベッカさんが戻ってきた。


「残念、負けたわ」


「すごかったです! 相手の戦い方にどんどん対応してて、すごかった!」


「地形を味方にする戦い方、色々な方法があってすごく勉強になりました」


 そうだよね。要塞に砂漠に宇宙の壁。プラモデルの強さだけじゃない戦い方だった。


「ありがとう、でもやっぱり勝ちたかったわ。足にミサイルじゃなくて実体剣でも飛び出るようにすれば勝てたのかしら。でも、いざというときの実体系射撃武器は保険に欲しいのよね」


「実体弾を銃に取り付けるのはだめなのですか?」


「保険を手持ち武装にするのは心もとないのよ」


 確かに、武器がなくなったときの保険だから機体側に無いと意味がないのか。そうなると、どれだけ収納場所を確保できるかだよね。


「それじゃあ、残念会でどこかへ食べにいきましょうか? 私も知り合いからいくつか通知来てるし、他のプラモ女子も紹介するわよ? あ、ダリオのおごりでね」


「む、まぁいいだろう。そのかわり初心者にプラモの講義をするからな」


「「はい!」」


 そのまま会場の外にあるワープステーションに向かう。


「おお、『白い閃光』じゃないか。おぬしも来るか? レベッカの残念会をするぞ」


 スタジアムを出る前に、お兄さんを見つけたダリオさんが声をかける。


「ふむ。私が入ったら祝勝会になってしまいますが?」


 レベッカさんをちらりと見て答える。確かに、優勝した人を差し置いて残念会とはならなさそう。

 手をダリオさんに指し示すレベッカさん。


「別にいいわよ。スポンサーのお誘いなんだから。けど、出来れば親睦会か慰労会でお願いしたいわね」


「私とて場を荒らしたいわけでもないから、それでかまわない」


「よし、じゃあ決まったところで、みんなで行くぞ! 若い者に〇ンプラの良さを教えてやる! ガハハハハ!」


 途中、レベッカさんの知り合いとも合流してスタジアムの外に出る。


 ワープステーションに入る前、後ろを振り向く。


 ……改めて、プラモバトルはすごいと思った。来週、あんな戦いができるんだろうか。


 そう思ったとき、手をぎゅっと握られた感触がした。蒼奈だ。


「がんばろう、アカネ」

 素材の数値はおおよそなので、細かい変動はします。プラモデルのプラスチックに関してはかなり優位に設定されているので、FRPを使ってもさほど変わりません。

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