『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』138
~~~ギンガ~~~
「うちのパーティーメンバーも綺麗な女性がいるんですけど、コガネさんには敵わないですよ」
「いえいえ。それより、仲間の悪口を言ってもいいんですか?」
「あ~、できれば秘密でお願いしたいんですけど」
「その子と私が仲良くなったら、黙ってられる自信はないですね」
「紹介しない方が得策かもなぁ」
「イアドで待ち合わせなんでしょう? 私たちも数日滞在するから、偶然会うかもしれませんよ」
ジュピィタ王国にあるパラデ大河の河口にある街トリスカから、ネプチュン王国のトリストへと徒歩で国境を越えた。トリストから船に乗り込み、川を遡上してターサラを経由し、王笏の封印地に近いイアドの街へと移動。
その、トリストで乗り込んだ船で声をかけてきた黒い髪をした獣人の若い男性が、黄金音ちゃんに色々話しかけている。
男性は「4人ともプレイヤーですよね?」というありきたりな声掛けから始まり、船という逃げ場のない空間でいろいろ話しかけてきた。さすがに猫の茜がプレイヤーとは思わなかったらしい。
「それはまいったなぁ。口止め料を払うにも、その女性がパーティーのお金を殆ど管理してるから小銭しかもってないんだよなぁ」
ちっともまいったような表情をしない男性は、わざとらしく頭をカリカリと搔いている。
「珍しいですね。報酬を分配しないんですか?」
「俺らのパーティーは一括管理してもらってるな」
アカネ:珍しい管理方法だね。お金をわざわざ渡してるんだ?
ギンガ:パーティー内で買いたいものでもあるのかな?
ミカン:クランの寄付システム使えばいいだろうに。
キリ:クラン設立の要件を満たしてないのかもしれないですね。
クランの寄付システムについて聞いてみたら、購入したい物と目標金額をクランで設定して、それに対して匿名で寄付ができるようになるシステムなんだって。目標金額に到達したら物品が自動購入になり、そのアイテムはクラン所有となって誰でも自由に使えるみたい。その品を持ったままクランを抜け出した場合は、自動的にそのクランの拠点に設置されるとか。
家や家具など、設置するようなアイテムを目標にするクランが多いそうだ。全員で使うアイテムってなるとそうなるよね!
「それで、君らもイアドに行くんだよね。海龍に関してだったりする?」
「それも興味のひとつですね、今は旅を楽しんでますから。噂の海龍を調べてから、王都のネプラスに向かうか、ヴィナス王国へ入ろうか迷ってます。そうおっしゃるハウメアさんは海龍が目当てですか?」
「そうだな。パーティーメンバーのひとりが興味あるってうるさくてね。まぁ、先に調べてるそうだから俺が関わるかはわからんけどな」
プレイヤーの間でも龍というのは興味の対象になっている。特に海龍は討伐されたって噂があるくらいには、関心度が高い!
「イアド付近の巨大な蛇の魔物については聞いてますか? プレイヤーがレイドを組んで戦ってるって噂があるのですが、かなり強いそうですね」
事前に調べた情報によると、海龍の封印地を守っている魔物は蛇の魔物らしい。大きくはないけれど翼があるようで、上空に飛び跳ねる程度の飛行能力はあるそうだ。空に飛ばれたら戦うのは大変だよね!
「プレイヤーの今の強さじゃ厳しいんじゃないか? それこそ、強力な武器や魔法を手に入れてからじゃないと、倒されるだけだな」
そう言って男性は自分の腰に装備している剣を軽くたたく。鞘の部分こそボロボロで古そうだけど、剣は大量に量産されたような見た目ではなく、グリップやガードに細工の彫り物がしてある立派な剣だ。
「マアズの鍛冶屋に頼んで作ってもらった剣だが、これでも強力な魔物に対抗するのはギリギリだろうな」
そう言いながら剣を引き抜く途中で、船頭さんから「お客さん、船の上で剣を抜くのは勘弁してください」と注意されて鞘に戻した。
話は現地の蛇の話に戻ったけれど、お互い実際に戦っていないので詳しい情報もなくあとは雑談で時間が過ぎた。
「それじゃ、またね」
イアドの街に船が到着して、その場で別れた。ギンガたちは商業ギルドを経由してから冒険者ギルドに向かうけど、あちらは別の場所で知り合いと会うんだって!
商業ギルドで納品をした後、ギンガたちは予定通り情報を仕入れに冒険者ギルドへ向かう。
ギルドは何軒かの家をつなげて作ったような造りをしていて、通りを挟んで右が依頼を掲示した建物、左が受付と案内所の窓口専用の建物、左奥の建物に他の施設があるみたい。ギルドの施設ではないけれど、依頼を掲示した建物周辺では飲食店が並んでいる。
「初期時代とはずいぶん雰囲気が違うね」
「300年経ってるっすからね」
あまり活気がないような街だったはずだけど、今の街は人がたくさんいる。冒険者ギルドも、その周辺の飲食店や雑貨店も、沢山の人集まって楽しそうにしている!
冒険者ギルドの案内所まで進み、このあたりのことを調べるにはどうすればいいか聞いてみた。
「それでしたら、過去の話は書庫へ、最新の話でしたら依頼掲示板の横にある掲示板を御覧ください」
案内所の女性が書庫と掲示板の場所を教えてくれたので、先に掲示板へ向かう。
掲示板には、過去に海龍がいたとされる場所に現れる、蛇の魔物について書かれていた。
体長は大きいもので30メートル。飛行はしないが10メートルほど飛び上がることができる。主な攻撃は口による噛みつき攻撃で毒がある。
普段はその巨体を砂の中に潜って隠れ、近くに獲物が現れたらできるだけ引き寄せてからとびかかるそうだ。
蛇の魔物については色々詳しく書かれているけれど、肝心の龍については殆ど書かれていない。どちらかというと観光客に向けた案内のようなもので、過去には建物の中に封印されていた、王族が管理していたといった情報があるだけだった。
「この書かれ方だと、もう建物ってないのかな?」
「管理されているようには書かれてないよね」
ギンガのつぶやきを黄里先輩が拾って答えてくれた。前にあったあの建物ってどうなったんだろう。ずいぶん立派な建物だったけど、長い年月で壊れちゃったのかな。
あんまり詳しい情報もなかったので、書庫へ行ってみる。
書庫に居る案内の女性に、龍の歴史について書かれた本がある場所を教えてもらい、そちらに向かうといくつか見つかったので、絵が多くて読みやすい本を手に取る。
王族と龍は仲が良かったようで、歴代の王が龍と交流があったと書かれている。龍を祭る建物もあったようだけど、ある時その建物が半分崩れてしまい、再建しようにも何らかの妨害があり結局は再建されないことになったとか。
それでも、その跡地には記念碑を立てて龍との交流が大切であったことを王族が示したんだって!
「こっちにはアカネについて書かれてるぞ」
蜜柑先輩が差し出した本を茜と一緒に読むと、龍と猫は非常に相性が良く、猫は常に龍の傍に従者として仕えていたとある。そのため、この国では猫は人と龍との架け橋となる神聖な存在として大切に飼われているそうだ。
その中でも、白黒の猫は最も神聖であるとして、王都ネプラスにある王級では何十匹も飼われているのだとか。
これって、龍と猫の組み合わせは必ず王城などに入れるように手配してほしいってお願いした結果だよね?
「言われてみれば、この国に入ってから猫を頻繁に見てるよね」
そういえば、空いた時間に茜が他の猫と交流している姿を何度か見てる! おまけに、猫適応のレベルがまた上がったとか言ってた!
茜は蜜柑先輩に本を返し、別の本を手にして器用に猫の手で本のページをめくって調べてる。ギンガも負けないように調べないと!
しばらく調べものをしていると、外で誰かが騒がしくしている声が聞こえてきた。なんか、叫んでいるような声だ!
「何だろ、行ってみよっか」
黄金音ちゃんがさっと本を閉じて立ち上がると、全員が本をまとめて棚に戻し、書庫から外に出る。
外に出ると、たくさんの人が叫んでどこかに向かっている。街の人の流れは一方向に向かっているので流されるようについていくと、街の外に出る門の付近でみんなが空を見上げてた。
つられて空を見ると、上空に魔法陣のようなものがいくつも現れてる!
「あれはやばいぞ!」
魔法陣から何かが生み出され、街から離れた場所へものすごい速度で落ちていった。その直後、爆音があたりに響き渡ると、街の人たちの叫び声が上がった。
「また落ちる!」
誰が言ったのかわかんないけど、次々と空から何かが落ちて、爆音が鳴り響く!
降り注いだ時間が長かったのか短かったのかわからないけど、街には何も被害がなかったのは良かった。門の方からは砂煙が押し寄せていて、外の様子はわからない。
「行けるところまで進むよ」
黄金音ちゃんの合図で、門へと進む。幸いにも、砂煙が舞っている時間が短かったので視界が晴れてきた。
門を出て、街道を進む。なんか、見知った道な気がする!
「ここって、封印地の方面だよね」
思わずつぶやいてしまったけど、この街道の方向ってなんとなく覚えてる。あの時は、龍が居る方向へ曲がる案内の看板があった。
今もあるかわからないけど、進行方向は同じだ。
「見えた」
街から少しだけ離れた小高い丘に登って、何かが落ちた所の周辺を見る。そこには、広範囲にわたって地面が抉り取られたような穴が、いたるところにできていた。
「……メテオストライク?」
クランについては特別詳しく考えてないので、プレイヤーが独自に集まる集団のような感じです。クランハウスを建てるかどうかってことでしか考えてなかった気がします。そのうち設定を考える機会が来るかもしれません。




