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あちーぶ!  作者: キル
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『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』134

 妖精族のギルド職員や店員さん。話に聞くラッグラさんも妖精族だ。おそらくこの国では妖精は身近な存在といえる。

 王笏の封印地で妖精の国と隠れ家でつなげられるのなら、別の場所から妖精の国に入り、あちら側の王笏が封印されている出入口で隠れ家を使えば、王笏の封印地にたどり着けるのではないか。


「土龍のテーラさんは連絡が取れる道具を設置したようなので、それが目印になると思います」


 こっちの世界と妖精の世界の対応関係がわからないけど、近い場所で使えば目印を知ってる妖精に会えるかもしれない。


「妖精の国かー。調べるだけ調べてもいいかもね」


「妖精の国に入れそうなのって、しほちーとチャチャくらいなんよな」


 ハイエルフの紫帆先輩と、純粋な妖精の茶子なら、問題なく入れそう。茶子の[妖精の隠れ家]に入れるのが妖精に限定されてるから、妖精種ではない他のメンバーは待機になる可能性が高い。


「妖精眼があれば、入り口は探せそうね。範囲を絞り込む必要はあるでしょうけど」


 茶子の妖精眼があれば、妖精の国とこちらの国の境目が見えるはず。言い伝えや噂話を探せば、妖精の国の出入口を上手く探せるかもしれない。


「じゃ~、一度ためしてみようか~。だめだったら他の手段考えよ~」


 方針が決定したので、最初にこの店の店員さんに妖精が出てくる場所の噂について聞いてみた。けれど、いつの間にか妖精が居ることはあっても、妖精の国がどこから入れるのかはわからないみたいだ。

 お店を出て冒険者ギルドに向かった。街の中の噂話に限って言えば、商業ギルドを出入りする商人に聞くのが情報を集めやすい。一方で、街の中や外で活動をする冒険者の方が精度は低くても広範囲の噂話を集めやすいため、手掛かりがどこにあるか分からない場合は冒険者ギルドが定番だ。


 街の中は妖精種の人を多く見かけるけれど、冒険者ギルドに居る冒険者は、それほど妖精種が多くない。

 妖精族の傾向として、自分が生まれた地域からはあまり出ない。ドワーフはマアズ王国、エルフはジュピィタ王国のように。生まれた場所から出ることなく生活が送れるのだから、わざわざ危険な旅を仕事とする人は少ない。

 ヒト族だけは、各地域に居住地が点在しているから、より良い仕事を求めて他国へ移動することも多く、結果として護衛や周辺の安全のために冒険者が増えている。


 暇なときに調べた内容を思い浮かべながら冒険者ギルドの様子を眺め、ギルド案内所の受付に向かう。


「こんにちわ~」


 茶子が真っ先に挨拶に向かう。受付の女性も妖精種なのか背が低い。見た目が若く見えるのは妖精の特性かな?


「こんにちは。何かお困りですか?」


「妖精の国に行きたいんですけど、入り口はわかりますか~?」


 聞き方を色々考えたのだけれど、ストレートに聞いてみることにした。知っていたらラッキーだし、茶子がいるから変な疑いも持たれないと思う。


「詳細はわかりません。妖精の国からいらしたのではないのでしょうか?」


「あたしはマーキュリ王国から来たから、この国だとわからないんだ~」


「そうでしたか。こちらの札を立てて、あちらのテーブルでお待ちください」


 女性は『受付中』と書かれた木の札を渡して奥の部屋へ行ってしまった。受付には別の女性が来て、受付業務を引き継ぐようだ。


 言われた通り指示されたテーブルで待っていると、地図を片手に受付の女性が戻ってきた。テーブルに地図を広げて、その上に何か所か木の駒のようなものを置く。ついでに、人数分のクッキーが用意されたお皿を出してくれた。受付だけでクッキーをもらえるはずがないから、茶子に渡すお菓子のついでに人数分持ってきたんだろう。


「今目印をしたところが、ギルドに登録しているピクシーのうち複数名が申告した出身地です。ピクシーの多くは地理に詳しくないため、出身地不明か妖精の国として登録してる人がほとんどですが、ここに示した地域は少数のピクシーが地名を書いたうえで登録している場所なので、何らかのゆかりがある地だと思います」


 街の名前で登録してあるのはヤティスの街。村だとピメテの村。森の名前で登録してあるのはエーベ森林。


「森は広範囲なので、調べるには向いていません。ただし、調べられてない可能性も高いので、妖精の国への入り口が見つかる可能性はあります。ヤティスはここから川を下るだけなので移動は楽ですが、ここタルタンより規模の大きな街です。規模の大きな街なのに妖精の国の噂は伝わらないので、見つからない可能性があります」


 タルタンと王都の間にある森は、地図の上で見てもかなり広大なので調べるのに苦労しそう。

 ヤティスは、受付の女性が言う通り下流にある海に近い街で、恐らく交易の要所だと思われる。そうなると人の数が多い街だろうから、妖精の国がひっそりと隠れているには向かないのも納得がいく。


「この中で探しに向かうとしたら、ピメテの村です。馬車か馬で移動することになりますが、移動ルートは魔物も少ないので安全に向かうことができます」


 タルタンから西へマアズ方面へ続く街道を進み、途中で南へ進むと到着するそうだ。遠すぎる位置でもないので、話を聞く限り最初に向かうのに適している場所だ。


「そちらへ向かう依頼はありますか?」


「比較的穏やかな場所なので、冒険者ギルドとしての依頼はめったにありません」


 冒険者ギルドとしてってことは、商業ギルドなど他のギルドだと依頼があるということかな?


「わかりました。ありがとうございます」


「いえ、またのご利用をお待ちしています」


 お礼を言って別れる――わけではなく、茶子が受付の女性に話しかけ、女性が取り出した箱に魔法をかけていた。クッキーと案内のお礼だ。きっといい効果が現れてるだろう。


 茶子が戻ってきてから、商業ギルドへ向かう。

 商業ギルドの依頼票には、ピメテの村に向けての食料品の運搬依頼があった。受ける前に、ギルド職員に移動経路と馬車について聞いてみたら、問題なく定期便が出ているとのことなので依頼を受注する。

 今から馬車に乗れば日が暮れる前に到着するそうなので、馬車乗り場まで真っすぐに移動して乗り込む。


 馬車は街道を順調に進む。話に聞いていた通り魔物の気配もなさそうで、もし魔物が現れても見晴らしが良い上に、背が低い草の草原が続くので、大型の魔物であれば遠くからでも一目でわかりそうだ。小型の魔物なら隠れて襲ってきそうだけれど、そのサイズであれば大抵は御者や乗合馬車の護衛で対処できる。

 ピメテへ向かう人は僕たち以外には2組しかおらず、妖精について話を聞いてみても、知っている様子はなかった。

 御者や護衛の人も同じで、噂に聞いたことも特にないそうだ。


「とうちゃく~」


 馬車内でできるスキル上げをしていると、あっという間に目的地のピメテへ到着した。商業ギルドはないけれど、依頼した村の小さなお店に食料を卸して依頼完了。宿屋を探して部屋を取った後に、村を散策する。


 村の建物は、大きく分けてふたつのパターンに別れている。ひとつめは、住宅や商店など、街中にもあるような生活のための建物。もうひとつは、沢山の動物を飼ったり何か工場のような機材が置いてある建物。後者の建物は1軒あたりの規模が大きく場所も村の中心地より離れているので、住人の少ない村とはいえ敷地は広いから、妖精の国の入り口を探す探索範囲は広い。


「チャチャは村の中心部を探索をして、わたしたちはペアに別れて聞き取り調査をするんよ」


 妖精眼であちらの世界との境界を見ることができる茶子が探索を行い、それ以外のメンバーは村の人に妖精の噂を聞き取る。

 僕は萌黄先輩と一緒に行動をすることになった。夕方に近いとはいえ、まだ日が明るい時間帯なので仕事をしている人が多い。話しかけられそうな人は……お年寄りが集まって話をしているな。あの人たちに聞いてみよう。


 お年寄りの集団、全員が女性で何やら手で作業をしながら話をしている。駒のような円盤をぐるぐる回してるな。


「こんにちは、糸紡ぎですか?」


 萌黄先輩が近寄って話をする。あれは糸紡ぎなのか。全員が同じことをしていることから、手軽にできる仕事なのかも。


「こんにちは。お嬢さんたちはどこから来たの?」


「冒険者じゃない? 恰好が旅してる服だからね」


「後ろの子も、こっちに来なさいよ、ここに座りな」


「甘くしたアーロールをあげるね」


 少し話しかけただけで歓迎ムードになっている。萌黄先輩も笑顔で話しかけながら勧められた長椅子に座ったので、僕も別の椅子に座った。色々話が聞けそうだ。

 妖精の魔法を仕事中にねだったとしても、それをとがめられることはありません。妖精に良いことをした証ですから。これは他国の各ギルドで共通の認識ですが、個人経営ではその限りではありません。

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