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あちーぶ!  作者: キル
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『エターナルメジャーリーグ95』01

 長い廊下を進んで、奥の扉を開くと一気に光にあふれた世界が視野いっぱいに広がった。

 広大な青々とした芝生が、目の前に大きく広がっている。


「アオナ! すっごい!」


「うん、想像以上にこれは緊張するね。日本とは全然違う」


 アオナと手を繋いで、一緒に芝生の上へ進む。上を見ると緊張しそうだから、目線は地面に合わせてるけど、この広さだけでも緊張しそうだ。


「ほんとやばいよ~、足が震えてくる~」


「いいじゃん! めっちゃ楽しみだよ!」


 茶子と銀華も同じくこっちに来て、周りを見渡す。銀華が周りに手を振ると、ものすごい大きな歓声が沸き起こった。


「すっげー! しっかり反応あるんだ!」


「やややや、やばいって~、これ~」


 楽しそうにはしゃいでる銀華とは対照的に、茶子は銀華の袖をもってちょっと震えている

 私たちが居る場所は、野球スタジアムだ。それも、観客側ではなく、選手として立っている。今日の部活動は、『エターナルメジャーリーグ』の、最新作より少し古い95年度版。外国の野球をそのまま体感できるゲームで、選手だけでなく、監督や審判、実況にもなれるのが売りだ。


「おーい、1年生ー! 集~合~!」


 未黒先輩がベンチから呼んでいる。今回の未黒先輩は、監督兼選手で出場する。4人そろってベンチへ移動したら、他の先輩もすでにベンチに集まっていた。これから、未黒先輩がルールを説明してくれる。


「試合についての説明するよ。1年3人が未経験だから、その3人に対しては難易度の個人調整が入ったうえで、難易度は中レベル。ただし、終盤は同点かこっちがリードしている場合難易度が微増するよ。試合は5回まで。延長なし。ピッチクロックとかの時間制限もなし。試合中の怪我や痛みの再現もなし。DHあり設定だけど、こっちが人数足りないから使わない。バットは金属。みんなの身体能力はある程度向上させたよ」


 うーん、半分もわからない。でも、楽しめる設定にしてくれたのはわかる。


「今回の目標アチーブメントは、『初めてのヒット』『初めてのアウト』『チームの勝利』だよ。あ、これは1年だけね。2、3年生の目標は特にないけど、1年を助けてあげるんだよ?」


 1年生だけは目標の設定があるみたい。野球経験のある蒼奈も、このゲームは初だからアチーブは取って無いんだね。


「じゃあ打順と守備位置の発表するよ? 一応、事前に聞いた野球ゲームの経験を参考に決めたからね」


 1番・ファースト、シホ(紫帆)

 2番・ライト、アカネ(茜)

 3番・サード、キリ(黄里)

 4番・セカンド、モエギ(萌黄)

 5番・ショート、アオナ(蒼奈)

 6番・センター、ギンカ(銀華)

 7番・レフト、チャコ(茶子)

 8番・キャッチャー、ミク(未黒)

 9番・ピッチャー、コガネ(黄金音)


「2番! 早いよ! あとライトってどこ!?」


「よかった~、7番で。最初の方だと緊張するから。あと私もレフトってわかりません」


「はいこっち来てふたりとも。説明するからね。ギンカちゃんははわかる?」


「真ん中ってことはわかる!」


「うんうん、こっち来て説明聞こうね」


 野球知らない1年生グループは、萌黄先輩に連れられて説明を受けた。なるほど、打つ場所から見て右の奥がライトか。


「すごく広いですけど、あんまり足早くないですよ?」


 私は運動部に入っていたわけじゃないから、普通に走ってもあまり早くない。身体能力がそのまま投影されていたら、こんなに広いグラウンドを走り回れるほど体力がない。


「大丈夫、設定で全員100メートル走が11~12秒くらいにはなってるから」


「はっや! 世界記録じゃん!」


「ギンカちゃん、11秒じゃ世界記録にならないからね?」


 その後も設定やルールを色々と聞く。とりあえず、ボールが飛んで来たら追いかけてボールを捕って、表示される真ん中に投げ返せばいいらしい。投げる場所は、アシストが付いてくるとか。


 アチーブについても説明をもらった。

 『初めてのヒット』は、打つときに、ボールを打って自力で1塁などに移動できること。相手のミスで1塁に行くのは違うらしい。

 『初めてのアウト』は、守るときに、自分の手でアウトを取る、あるいはアシストをすること。外野でのアウトの取り方も教えてもらった。 ヒットやアウトって、日常でも使う言葉だよね。

 最後の『チームの勝利』は、試合に勝つこと。がんばろう!


「アオナちゃんは、このシリーズやったことあるの?」


「いえ、これはやったことありません。あの高校野球シリーズのVRをやってました」


「あの有名なシリーズか。得意なポジションはどこだった?」


「得意って程じゃないですけど、ピッチャーをやらないと勝率上がらないので、ずっと投げてました。さすがにコガネ先輩ほどやりこんではいないですけど。キリ先輩はどんなゲームしてたんですか?」


「その高校野球シリーズもやったし、他のプロ野球シリーズもやったなぁ。今日のゲームは、コガネ先輩に付き合って何度かやったくらいかな?」


 後ろでは、蒼奈と黄里先輩が野球ゲーム談議をしながら、試合の準備を進めていた。

 基本的に道具は統一された規格の物を使う。ただし、グローブには癖があるらしく、それを設定で調節できるので、野球ゲームに慣れている人は試合開始前に微調節をするらしい。私にはさっぱりだ。


「みんな、準備はいいかな? 外で円陣組むよ~」


 3年の黄金音先輩が呼びかけた。勉強も運動もできる、部活の副部長だ。こっちに向けて小さく手招きをしてるのが、ちょっと可愛い。

 グローブをもって、黄金音先輩のところへ向かう。最初は守備から開始だ。


「じゃあ、部長が声かけたら、オーって言って右足ね?」


 皆で肩を組んで、円陣を作る。未黒先輩がぐるっとみんなの目を見ると、思い切り息を吸い込んだ。


「絶対勝つぞぉぉぉぉ!!!!!」


「「「「「「「「オオォォォォォォ!!!!!」」」」」」」」


 思いっきり叫んで、同時に右足を地面に叩きつけた! うわぁ、気持ちいい! 勝ちたい気持ちが湧き上がってきた! 蒼奈と目が合うと、お互い何となく笑顔になった。


 1年生4人が集合して、そろって守備位置へ向かう。私のライトは、守備位置からは一番遠い。


「あ! 奥の看板に猫が! 猫が居る!」


 遠くに広告がいくつも張り付けてある壁がある。その上に向かい合うように虎猫の大きな人形が飾ってある。この野球場は良いところだ!


「虎じゃないかなぁ? 真ん中にタイガーって書いてあるよ~?」


「今着てるユニフォームは、タイガースってチームの服がベースだからね」


「だから帽子に猫耳が付いているのか!」


「それは部長の趣味。じゃあ僕とチャコはこっち側だから、またね」


「はーい、がんばってね~」


「うん、アカネとギンガもね?」


 移動途中で分かれて、それぞれの守備位置につく。ライトって私たちのベンチから一番遠くて大変だと思ったけど、少し目を横に向けるだけで大きな猫が視界に入りやすい場所だから、むしろ最高の場所なのではないだろうか? レフトとセンターは猫の位置が後ろになるから、距離は近くなるけどちらっと見るには向いて無さそう。

 虎だって? 大きいってだけで、猫ですあれは。


 試合が始まった。

 1人目は……バットを振ってたけど、ベンチに戻っていった。

 2人目は……打ったけど、萌黄先輩がボールを捕って、紫帆先輩に投げて交代した。私は、矢印が出たからそっちに走っていったけど、それだけだった。

 3人目……打ちあがったのを蒼奈が捕って終わった。交代のお知らせ画面が出てきたから、これで最初の守備は終わりだ。


 ベンチに戻る途中、銀華と合流した。ベンチから一番遠いから、一緒に戻れそうなのが銀華しかいない。お互いにボール来なくてよかったね~って話した。守備で出番がないのは良いことだ。


「アカネ、バットをもって、あの丸い芝生で順番待ちね」


 ベンチに戻ると、蒼奈に猫耳ヘルメットを被されバットを持たされて、移動場所を教えてもらった。次に打つ人が順番待ちする場所のようだ。

 待機場所に立ち、打つ練習として少し振ってみる。うーん、ふらふらしてる気がする。打つ場所だとアシストが付くみたいだから、ふらふらは消えるのかな。


 キィン!


「シホ先輩ナイスーー!」


 紫帆先輩が打って塁に出た! さすがだ、私も頑張らなきゃ!

 打つ場所に行く前に、ベンチをちらっと見ると、大きく【盗塁】【バントの構え】【様子見】と表示されている。相手チームには見えない、特定の言葉を表示させることができるらしい。


 うん、さっぱりわからない。


 手元のヘルプボタンを押すと、解説が出てくる。

 【盗塁】は、出塁した人が、守備にボールを触られないように注意しながら次の塁に移動することなので、私には関係ない。

【バントの構え】は、打者が打つときの構え方なので、私に関係ある。

【様子見】は、同じく打者がピッチャーの投げるボールを打たずに、1球見送ることなので、私に関係ある。


 つまり、特定の打ち方の構えをしたまま、振ることなくボールを見送るのか。見送るときはボールが来る前に構えを解かないといけないようだ。

 そしてバントだけれど、ヘルプに構え方が画像付きで載っている。バットの端と真ん中を握って、内股でやや斜め前に向けて体を倒す感じか。打った時の効果は、ボールを地面に転がす打球で、走者の塁から離れた位置にボールを落とすから、出塁した人の手助けになるそうだ。補足に、1塁に走者が居るなら左打席が効果的ともある。

 様子見は、バントの場合だと低く構えて、ボールが飛んで来たらバットの真ん中を持っている方の手を後ろに引くのが効果的と書いてある。


 よし、今回はサポートキャラだ! 頑張るぞ!

 打つ場所に移動して、バントの構えをした。念のため、左側の打席に立ったけれど、多分これでいいはず。

 ピッチャーがちらちら1塁を見て、そのまま1塁に投げた。そういうこともあるのか。部長の指示は変わらないので、同じポーズをする。

 ピッチャーが手を上にあげた。とにかく、バントの構えと、ボールが着たら戻すことに集中。


 「――にゃぁあああぁぁ!!!!」


 速いって! ボールめっちゃ速い!!! バントの恰好してるとボールが顔に向かって飛んでくるんだけど!!

 思わず後ろに倒れこんだけど、このバントって危険な打ち方じゃないの? ベンチを見ると、指示は変わらず。うう、またやるのか。

 2回目だから、速いボールが向かってくるのは理解した。【様子見】だから、飛んで来たら逃げればいいので、気は楽だ。もし本当にバントだったら、あのボールに向かっていかなければならないので、それはちょっと勘弁してほしい。


 2度目のバントは、何とか倒れこまずに済んだ。元に戻るときも、ちょっと腰が引けてる感じで戻ったけれど、成功でいいかな。はっきりとアシストが表示されているのも確認できた。空中に青色に光る透明なバットが現れて、そこに重ねるようにバットを置けば打てるらしい。

 その間に、紫帆先輩が2塁へ盗塁していた。作戦は成功したようだ。ベンチの指示は表示されていない。この後は普通にバットを振ればいいのか。これも確か、ボールが飛んでくる位置がアシスト表示されるんだったかな。


 その後は、バットを振ったけど、すっかすかでアウトになった。ヘルメットを外し、そのままベンチへ戻る。戻る途中で黄里先輩から、「バントお疲れ」って肩をたたかれ、丸い待機場所へ向かう萌黄先輩には「よくできました」って頭を撫でられたので、バントしたかいがあった。


「あかちゃん! 左打席良い判断だったよ!」


 ベンチに戻ると未黒部長がわしわしと強めに頭を撫でてきた。無事に出来たみたいでうれしい。


「アカネお疲れ。良い打席だった」


「ありがとアオナ。1球目は怖かったよ~」


 アオナと、胸の位置ほどの高さでハイタッチする。その後、隣に座って蒼奈にもたれかかる。


「いきなりバントだもんね。そういえば、バント後のバットの握り方が逆だった」


「えぇ。でも、こっちのが握りやすくない?」


「それは右打席の持ち方。左打席でその持ち方だと、多分アシスト上手く働かない」


「あー、そういうこともあるか」


 ゲームのアシストも万能じゃないから、想定外のことには対応していない。見逃していたけれど、多分持ち手が逆って警告も出ていたかもしれないなぁ。


「じゃあ、行ってくる」


 蒼奈が猫耳ヘルメットをかぶり、バットを持って移動する。猫耳蒼奈かわいい。試合は黄里先輩が打ったけれど、捕られてアウトになって戻ってきた。ただ、紫帆先輩が3塁に移動している。

 ベンチの柵に手をのせて応援をする体勢を取った。隣は茶子で、その奥に銀華が居る。


「モエギ先輩、ファイトー!」


 銀華が声を出して応援しているので、同じく「ファイトー!」と応援をした。

 3球目で萌黄先輩が打ったけれど3塁側に転がった。すぐ捕られたので、紫帆先輩は3塁のまま。でも1塁は萌黄先輩が間に合った。足が速い!


 銀華が待機場所に向かう。次の打者は蒼奈だ。


「アオナ、ファイトーーー!!」


 蒼奈も、私と同じく左打席で構えている。最初に投げられたときに、萌黄先輩が盗塁して2塁に移動した。

 その後2球ボールが投げられて、3球目でその次に蒼奈がボールを当てた!


「すごい! アオナ、ナイスーー!!」


 相手のピッチャーの上を抜けて、ボールは外側へ。すぐボールが戻ってきたけれど、紫帆先輩が戻るのには間に合わなかったから、1点入った!

 戻ってきた紫帆先輩と皆がハイタッチ! 楽しい!


 そのあとは、蒼奈が盗塁するも、銀華が打ったボールは上にあがってキャッチャーが捕って交代した。


「悔しい!! 当たったのにー!」


「でも、当てるなんてすごいよ! あんなに早いボールなのに!」


 守備位置へ銀華と話をしながら移動する。当てるだけでもすごいと思う。


「次は絶対打つ!」


 さすが銀華、初めてのゲームでも全力だ。私も負けていられないな。


 2回の守備。

 1人目は、何度か振っていたけど、最終的に打たずに1塁へ歩いて行った。ヘルプで調べたら、4回真ん中からから外れると無条件で1塁に歩けるらしい。

 2人目は、黄里先輩がボールを捕って、2塁に投げてアウト1つ取った。今回打った人は1塁に残った。

 3人目は、何度か振って帰っていった。これで2アウト。

 4人目で、それは来た。


 ボールが高く打ちあがって、こっちに飛んできた。青色の矢印でアシストが移動先を誘導し、ボールが落ちる個所は黄色い丸い円で表示してくれているので、そこへ急ぐ。

 黄色い丸い円の中でグローブを上にあげると、ボールの予想落下地点が空中に丸く見えて、十字のマークがグローブの動きに合わせて移動する。この、十字マークを予想落下地点に重ねるとボールが捕れるのだ。


 バシィ!


 ボールがグローブに当たった! けど、上手く捕れなくてこぼしちゃった! 落ちてしまったボールを探そうとすると、銀華がもう傍にいて、こぼれたボールを拾って投げていた。


「ごめん、ありがとねギンガ!」


「いいよ、お互い初心者なんだし。ギンガだって矢印通りに移動しただけだから!」


 とはいえ、今の失敗で相手の1塁の選手は全部回りきって、相手に1点入ってしまった。うう、しっかり捕れていればなぁ。次は失敗しないように、グローブをパカパカ開いたり閉じたりして、次に備える。


5人目は、打ったけど紫帆先輩が捕ってそのまま1塁を踏んで3アウト。攻守交代だ。


「ごめんなさーい!」


 って、ベンチに戻って叫んだけど、みんなは優しいから大丈夫って言ってくれた。


「あたしがホームラン打ってくるから~~~!」


 と意気込んで打席に向かった茶子は、そのままバットを思い切り振っただけで戻ってきた。

 いきなり初心者にバントさせるのもどうかと思ったのですが、バントの手順も入れたかったので頑張ってもらいました。

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