『プラモワールド統合版』04
「萌黄先輩から連絡が来てた。『プラモワールドにログインした?』って。フレンドで伝わったのかな?」
どうやら萌黄先輩もプラモワールドに時々参加しているみたいで、2番地区のお店『スノーハート』も知っているから、そこで落ち合おうって話になった。
急いでスキャンしないとね!
停止している食器乾燥機を開ける。熱いのかなと思ったけどそんなことはなく普通に取り出せた。
猫さんの手からプラモデルを外して組み立てた。てかてか光ってた猫の毛並みが、さらりとした綺麗な毛並みになっている。これがスプレーの効果か。
「かなり猫っぽくなったよ。ふわふわじゃないけどふわふわな感じ」
「僕のは……なんだろ、光らずにもっさりした感じ。これがいいのかな?」
蒼奈のを見てみると、箱の絵と比べてキラキラ感がなくなった感じ。ロボットは機械だから、光った方がいいのかも。そう思って写真を撮ってお兄さんに連絡する。
「長文で返ってきた。えっと……」
最初は私の猫ロボットを褒めてくれて、次に実際に使われている兵器は光を抑えていることが多いのだと写真を添えての説明。その次は変なたとえ話だった。同じサイズのオフィスビルがあったとして、ガラス張りとそうでないのとは後者のが鈍重そうで、プラモデルは軽い素材だからこそ……とかなんとか。
とりあず、見た目が重そうなのがいいのは理解できた。お兄さんに教えてくれたお礼を送る。
「『長文キモがってるよ』……よし。なら、ロボットはこの光り方で正解なんだね」
「だね。みんな待たせてるし、急いでスキャンして戻ろうか……お兄さんからなぜか謝罪が……『いいですよ』」
床にスキャナーシートを広げる。先に蒼奈がスキャンをして、その次に私の番。プラモデルをシートに設置し、プラモワールドのスキャナーアプリを起動。蒼奈がアプリとスキャナーシートをリンクさせてスキャン開始。
同じ手順で私もスキャンした。正しくスキャンされたことを確認して、プラモワールドへログイン!
~~~~~~
スノーハートに到着すると、店の入口近くのテーブルに萌黄先輩が。奥のカウンターにレベッカさんが居た。
萌黄先輩は、ミニ丈のタイトな白いワンピースに、靴底が厚めな茶色のロングブーツ。胸と腰には黒い金属のパーツがくっ付いている。左腕にも金属のパーツを嵌めていて、そこに何か棒状のものがくっ付いている。これも何かのキャラクターなんだろう。
萌黄先輩に事情を話して、一緒にカウンターへと向かう。
「お久しぶりです、レベッカさん」
「モエギちゃん、お久しぶりね。ふたりと知り合いだったのね?」
「はい。部活の後輩です」
「それで。慕われてるのね」
レベッカさんの目線が、萌黄先輩の手元に向く。私と蒼奈、ふたりで手を引っ張ってここに連れてきたからね。
「はい。将来有望な、いい子達です」
レベッカさんは直前まで話をしていた店主さんに手を振って、カウンターからテーブルに移ったので、私たちもそれに続く。
「モエギ先輩もプラモデル作ってたんですね」
「私の場合は、プラモデルっていうか、ミニチュアとかドールかな? ジオラマ作りが中心だからね」
「そこのショーウィンドウに飾ってある女の子の部屋のジオラマが、モエギちゃんの作品なのよね」
「おお、すごい!」
ちらっとしか見てなくて覚えてないから、あとで見に行こう。
「それで、ふたりともスキャンできたかな?」
「あ、はい。今出します」
ストレージから、スキャンした猫ロボットを実体化して取り出す。蒼奈と一緒に並べてテーブルに立たせる。
「綺麗にできてるじゃない。切り口も丁寧だし、スミ入れもちゃんと出来てる」
「すごい、ちゃんとつや消しもしてある。今日が初めてなんだよね?」
ことの経緯を話すと、萌黄先輩はうんうんと頷いていた。月曜日に余ったプラモデルを持っていくと話すと、みんなで作って遊ぶのを楽しみにしてくれた。
「それじゃあ、ふたりでプラモバトルする?」
「はい、やりたいです!」
「僕もやりたいです。場所移動をするんですか?」
「いいえ、この場所でできるわよ。バトル中はこの場所から消えて、バトルが終わったら一番近い公共、あるいは店内のワープゲートに出てくるわね。お店ではテーブルのこのボタン押せば、席はそのまま確保したままにしてくれるわ」
このあたり、シープのパブリックタウンとは仕組みが違う。公共の席でゲームを始めたら、席は確保してくれない。長時間ゲームするために席を離れるのとプラモバトルは違うのだろう。
バトル用のボードを呼び出して、蒼奈と一緒に設定をする。レベッカさんも萌黄先輩も観戦したいようなので、観戦者をフレンドリストから登録。なお、観戦者は移動しないらしい。
「ゲーム内で壊れてもプラモデルは壊れないから、安心して全力出してね」
レベッカさんに頷き、プラモデルをセットすると、バトルボタンが灰色から水色に光った。蒼奈を見ると、こっちをみて頷いたので、私も頷いてボタンを押す。
周囲が切り替わる。最初薄暗い空間だったけれど、フォンと音がすると同時に、目の前にパネルが浮かび上がり、周辺に青い光が走る。
パネルには私の猫ロボットが浮かんでいて、その上には『バトルポッドの位置を設定してください:57sec』と書かれた文字がある。数字はどんどん減っている。1分で決めないとだめらしい。
バトルポッドは弱点だ。攻撃を受けやすい場所ではだめだったはず……初戦だし、胴体にしておこう。
設置して『〇』ボタンを押すと、猫ロボットが前に移動し、手元にいくつかコントローラーが現れる。蒼奈の家で遊んだことがある、両手にひとつずつ持つタイプのコントローラーを手にすると、他のコントローラーは消えた。
周囲の景色が一変し、薄暗い空間だったのに、どこかの倉庫内のような景色に切り替わっていた。
いつの間にか椅子に座っていて、足元にペダルが3つある。右のペダルを踏んでみると、前に移動した猫ロボットがその場で歩いてる。強く押すと走り出した。真ん中のペダル押すと急ブレーキをかけるようにして止まった。左のペダルを押すと、その場でジャンプした。
両手に持ったコントローラーを触ってみると、方向転換や手を前に出す鉤爪攻撃に使うみたい。
操作をいじりつつ、目の前の計器らしきものを眺めてると、目の前に文字が浮かび、女性の声が聞こえてきた。
『Plastic Model Battle!』
『Countdown!』
「はじまる!」
『5・4・3・2・1』
『Battle Begins!』
体が後ろに引っ張られる感覚と共に、倉庫らしきところから猫ロボットが一気に外へと飛び出した!
周辺は……ちょっと小高い崖の中腹あたりから飛び出したのか。下は荒れ地。左に森があるな。
まだ蒼奈は見えない。
そのまま真っすぐ走りながら、計器を見る。円形のコンパスに、その中央の文字は座標かな。武器のマークにゲージが付いてるのはエネルギー?
前にある小型猫ロボットには、HPだと思われるゲージが表示されている。全体のゲージと、指定したバトルポッドのゲージ。残りはPBCのある場所だ。
ピピピ
画面右上に赤いマーク!
走りながらそっちを確認すると、飛行機モードのリルダインが高速飛行で後ろへ通過していった!
「アオナ!!」
……蒼奈、大丈夫かな。ちょっとふらふらしてた。
猫ロボットの向きを変えて、蒼奈が進んだ方向を確認。遠すぎてセンサーの範囲外かな。見晴らしが良いところ……あの山に行ってみよう。
山を登っていると、センサーの反応が! 小型猫ロボットの、ちょうど背中あたりが光ってる! 真上!? 席から真上を見ると、飛行機が真っすぐ突っ込んでくる!
コントローラーをなんとか動かして横に避けてみるけど、それに合わせて蒼奈も飛んでくる!
空中で、飛行機が変身してロボットに! その直後、ふたりがぶつかってそのままもつれあうように山を転がる。
「うう、目が回りそう。立ち上がり方は……よし! アオナは?」
視界にはいない。センサーは――後ろ! とにかく距離を取って正面を向く。
距離を取る間にビームが飛んできた。右後ろ脚にかすったけど、ダメージはさほどない。それよりさっきの体当たりで全体的に2割ほどダメージを受けている。おそらく蒼奈も同じだと思うけど。
「出力が下がってる様子はなさそう。まだ全開で行けるね」
距離を取って正面を向く。ただ、猫ロボットはどちらかといえば格闘向き。噛みつきと手足の爪攻撃がおそらく最大ダメージを出せる。
遠距離攻撃手段としては胸のミサイルがあるけど、弾数が3。ミサイルでどれほどダメージが出せるのか。
後ろ足の胴体との付け根部分は左右に銃があるが、おそらくこれは上と側面の攻撃用。
真後ろは、さっき使えばよかったけど、尻尾フラッシュの目くらましだけで、攻撃手段はない。
蒼奈がビームを再度撃ってきたので、横に避ける。ううん、中央で動かずに撃っているのは強いなぁ。避けても避けても追いかけてくる。
「このままでは……突撃!」
胸のミサイルを1つ発射! 少し横にずれて追いかけるように走る! 私を撃つかミサイルを撃つか……やっぱり私に攻撃か! 被弾覚悟で少しずれて回避……右腕に結構なダメージ!
それでもかなり近寄れた――爪攻撃!! ああ! 当たる前に変身して飛んで行った!!!
……あれ、あのミサイル誘導型? 追いかけてる……当たった。 落下してる。っと、見てないで追いかけなきゃ!
堕ちる蒼奈を見ながら駆け寄る。空中で変身して人型になり、姿勢をこっちに向けてビームを撃ってくる。後ろ足の銃を上に向けてけん制の攻撃。
「あ、後ろのはビーム攻撃なんだ、当たらないけど」
向こうもこちらのビームを避けて動いてるからか、狙いが外れて当たらない。
駆け寄って爪攻撃! う、盾で防がれた。でも盾ごと抱え込んで上から噛みつき……盾を手放して――まぶしい!! 何かのフラッシュ!?
「やばい、画面が! 痛っ! 何が!?」
周囲が真っ白になって左腕のゲージが消えた! 回避――いや、真っすぐ進む!
見えなかったのは2~3秒だったけど、それでもかなりの被害が出た。正面には蒼奈がいない……左! そのまま左足のビーム!
不意打ちになったのか、そのまま直撃! よく見ると背中の羽根が壊れてるからもう飛べ無さそうだ。
正面に向きを変えるけど、さすがに左腕が無いので方向転換が難しい。コントローラーで上手く操るのは大変。
蒼奈がビーム剣を手に取り、振りかぶって攻撃をしてくる。
「振りかぶる剣は止めれる!」
振り下ろすタイミングで、ビーム剣を持つ腕を口で噛みつく。そのまま嚙み砕こうと力を籠めたら、ビーム剣を持つ手の手首が回転した! そんな動きが!
「顔が――ミサイル!」
顔を剣で砕かれたけど、ミサイル残り発射! この距離なら当たる!
『Battle Draw!』
「あ~」
手元に表示されたリザルト画面を確認。胴体のバトルポッドだけじゃなく、PBCもゲージが消えてた。何が起きたかは、出てから確認かな。
「「ただいまー」」
「おかえり、いい試合だったわよ」
「ふたりとも上手に操縦できてたよ!」
萌黄先輩が私と蒼奈の頭を撫でてくる。
「頭撫でられるのは良いわね。部活の特権、うらやましいわ」
人との接触が制限されているシープ上では、フレンドでも接触の制限はある。
接触の解除も段階的な制限解除がある。基本的に制限解除申請を役所に本人申請で申し込むが、家族や長期フレンドは制限解除がしやすい。恋人であると申請しても、フレンド1年経過しないとシープ上では接触が認められない。
学生の部活は例外的に長期フレンドではなくても一定の制限解除が可能。指導や共同作業などで必要となるため、部活動単位での申請により接触がある程度解除される。接触のあるスポーツでは、対戦相手と一定時間の制限解除もある。
「そういえば、最後どうなって終わったんですか?」
「うん、僕も必死で手を伸ばしたら終わった」
「アオナちゃんがミサイルを手で止めたのだけれど、1発しか押さえられなかったの。それで、1発はギリーキャットの内部で爆発、もう1発がそのまま発射してリルダインに直撃してドローになったのよ」
「弾数が少ない実弾系の武装は、高威力判定がされやすいからね。かなりのダメージだったと思うよ」
そんな終わり方だったのか。確かに胴体で内部爆発したら、そこにあるバトルポッドはすぐ消し飛びそうだ。
「そういえば、アオナは空飛んだ感想はどう?」
「飛行機の操作に集中しすぎて、それどころじゃなかった」
「あ、わかる。飛行機難しいよねー」
「コックピット内部のカスタマイズで、スティック型の操縦桿を常に出すようにするといいわね。操作が各段に楽になるわよ」
「はい。ここで設定できますか?」
「ええ。ここをね……」
蒼奈とレベッカさんがコックピットのカスタマイズを始めた。
「アカネちゃんはどうだった? 操縦」
「左右に向きを変えるのが難しかったです。猫みたいにくるって回りたいのに、自転車みたいに回っちゃって」
「あぁ、プラモデルの関節構造覚えないと――いや、あれでいけるかな」
そう言って、シーポンで検索をする。画像と共に出てきたのは、腕に巻き付けられそうなカバーだ。
「これはスタンダードなタイプだけど、腕の動きで入力できるコントローラーだね。例えば腕を開くと画面拡大だったり、ジャンプ操作だったり、好きなように指定できる。他のコントローラーと併用すれば、旋回も自在にできるかもね」
「なるほどー」
腕用のコントローラーなんて使ったことがない。珍しいアイテムだね。
「うーん……うん、決めた。アカネちゃん? アオナちゃん?」
「「はい」」」
「部活じゃないけど、3つアチーブメント設定しようか。いい?」
萌黄先輩はピッと指を3本立てる。
「あ、はい。問題ないです」
「目標あった方がいいです」
「うん。では1つ目。明日レベッカさんの応援をするために試合を見に行くこと。あ、何か用があるなら仕方がないけど」
「大丈夫です」
「明日もアカネと家で遊ぶだけなので」
「よかった。それでは2つ目。お兄さんから沢山プラモデルもらったって聞いたので、今回作ったタイプとはまったく別のプラモデルを最低1つ作ること」
「タイプですか」
「そう。アオナちゃんなら人型ロボットと飛行機以外のプラモデルだね。アカネちゃんなら4つ足のロボット以外。アカネちゃんは変形するタイプを作るとさらに良いかな」
「変形って?」
「それみたいに、人型と飛行機に変わるロボット。可変って言うこともあるね」
蒼奈が表示しているリルダインを指さす。変身じゃなくて変形や可変か。
「最後は、初心者の大会、アイアンランクトーナメントでベスト8に入る」
「えええ、それは……入れるの?」
「いつもの参加人数考えると、だいたい2~3勝でベスト8かな。学生が休みの金曜日開催だから、新人モデラーでも社会人は参加しないことが多くて人数少ないから、ねらい目だよ」
「IRTのベスト8なら、セントラルバトルポッド使えるわね」
あの青色のバトルポッド、1回は使ってみたい。蒼奈に顔を向ける。
「大会に参加しよっか?」
「うん。参加者が初心者なら、ちょうどいいかもね」
これで、大会に参加が決定した。参加申し込みをその場で教えてもらいながら登録。来週の金曜日に開催するので、そこへ参加した。
「それじゃあ、あとは大会前に必要な準備ね。この並びの店に行けば揃うわ」
「何か買うんですか?」
「必須ともいえるアイテムよ。今回は私がプレゼントしてあげるわ」
「ええ! いえ悪いです。必要なら自分で出します」
「ううん。プラモバトルとは直接は関係ない、けれど私としてはそれをしないのはプラモバトルではないと思ってるものなの。だから私の信念にお金を払うのよ。気にしないで」
立ち上がり移動するレベッカさんを追いかけて、4人が店を出る。
プラモ屋を通り過ぎる前に、ショーウィンドウに飾ってある萌黄先輩の作品を見た。小さな女の子の部屋が再現されていて、床に座った女の子が小さなテーブルの上でプラモデルを組み立てているジオラマだ。可愛い作品だけど、よく見るとすごく細かいのがわかる。ニッパーやスプレーの、小さな小物も現されているし、小さなプラモデルは作っているものだけじゃなくて、棚に飾ってあることから、作り慣れてる子だというのもわかる。
「ジオラマってすごいですね。すごく細かいし、この子がどんな子かわかります」
「景色の再現だけじゃなくて、その場の歴史も入れ込むとより良い作品ができるのよ。汚したり割れたりしてたら、ちょっと歴史を感じない? さっきの部屋も、花の図鑑を勉強机に置いたから、あの子の趣味がプラモデルだけじゃないって思うでしょ?」
「思いました。座り方がぺったり地面に座ってちょっと幼い感じでしたし、ベッドのシープヘッドセットも花柄でこだわってる感じでした。何よりカレンダーの写真が猫だったのですごく共感しました。友達になれそうです」
萌黄先輩が頭を撫でてくれる。うん、萌黄先輩の優しいところが見えるいいジオラマだ。
蒼奈はレベッカさんと話ながら先へ進んでる。PBCについて話してるようだけど詳細までは聞こえてこない。
お店に到着したのか、店舗に入っていった。……服屋さん?
「プラモバトルには、プラモバトルにふさわしい戦闘服があるのよ。いわゆる、コスプレよ!」
萌黄が設定した目標はアチーブメントとして実装されています。1:プラモバトルの観戦をする。2:2個めのプラモデルを登録する。3:トーナメントに出場する。




