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あちーぶ!  作者: キル
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『プラモワールド統合版』03

「ガ〇ダム…兄ちゃんから聞いたことがある。すごく昔のアニメで今でも人気があるとか」


「そうだろう、そうだろう。今の若い子も履修すべき作品だ」


 腕を組んで頷くおじさん。とりあえず蒼奈と手を組んでおく。変な人だけど、今のところ危ない人ではなさそう。


「ところで、嬢ちゃん達はその様子だと初心者かい?」


「はい。わかるんですか?」


「うむ。このゲームを続けていくと、大抵の人がプラモの世界の姿や個性的な恰好になっていくからな。ワシの姿もリルダインの作中のメカニックの姿だ。そこへ行くと普通の姿のお嬢さんたちはまさに初心者、赤子も同然だ」


 RPGの初心者が装備でわかるように、この世界も見た目は現代風だけど衣装で初心者がわかるのか。


「それで、何か困ってることはあるか? 知りたいことがあれば答えるし、男が苦手なら知り合いの女性モデラーを紹介するぞ?」


 モデラーは何か作る人のことだったはず。プラモデルを作る人もそうなんだね。


「情報もなくログインしたので、どうすればいいかまったくわかりません」


 考えてる間に蒼奈が返事をした。確かに、何をすればいいかわからない。


「なるほど。では、ここから見える範囲だが、まずアレだ。噴水の向こう側にある巨大なスタジアム。あれがこの世界の中心だ。お互いが作ったプラモデル同士をバトルさせる会場になっておる。プラモに関する店舗もそろっておるから、あの施設で大抵は事足りる」


 おじさんが指さす方を見ると、スポーツのスタジアムのような巨大な施設がある。見た目の大きさとは逆に、小さなプラモデルで戦うのか。どんな会場だろう。


「それと、右側の尖塔型の施設はプラモデルの歴史が学べる場所だ。昔のアニメも無料で視聴できるぞ。先ほどのガ〇ダムシリーズも視聴可能で、あらかじめ予約すれば学生でも10倍速の時間で視聴が許可される」


「「10倍!?」」


 私と蒼奈が同時に驚いた。驚くに決まっている。10倍を越える加速って普通は研究者だけに許されている時間速度で、未成年の学生に許可されているなんて初めて知った。


「許されておるのは視聴だけだから、水分補給や軽食を取る以外のことはできんぞ。それでも、1作品見るのに現実の時間で2時間で終わる。この世界のみでの特例だ。どうだ、見たくなっただろう?」


 私たちの反応を予想していたのか、おじさんはにやりと笑ったあと、嬉々として説明してくれた。


「10倍なら見てみたい」


 素直にそう答えた。蒼奈も頷いている。


「そうだろう、誰もがガ〇ダムを見たいに決まっておる! まぁ、条件もあってな、プラモバトルを1回でも参加した者だけが予約可能だから、今の嬢ちゃんたちでは難しいな。嬢ちゃんたちはプラモはあるか?」


「ここにはないけれど……」


 現状を少し説明した。組み立ててスプレーが渇くまでの間にログインしていると。


「ほほう! 結構結構! まさか若い女子がプラモを作った上にスミ入れやトップコートまでするとはな! これは将来が楽しみだ! グハハハハ!」


 蒼奈と顔を見合わせる。お互い困ったような愛想笑いだ。お兄さんに貰ったプラモデルを作っただけなのに、ガチのプラモ女子に認定されそうで気まずい。


「プラモバトルは情熱、技術、創造力がなければ戦い抜けない! スミ入れを怠れば可動範囲が狭まり、トップコートをしなければ装甲が薄くなる! プラバンで追加した装甲に命を救われることもある! 塗装や改造に意味を込めればプラモはそれに答えてくれる! 作れば作るほど、考えれば考えるほどプラモバトルの勝利を導く鍵となるのだ!」


 1歩、距離を取る。ちょっとテンションについていけない。


「ダリオ、叫びすぎ。女の子が引いてるじゃない」


 右から現れた女性が、おじさんに声をかける。

 すらりとした体型で背が高めの20代前半に見える女性だ。色の濃い青色の髪をした姫カットで、長い髪が腰まで伸びている。

 長袖のパフスリーブに胸を強調したようにきゅっとしまったウエスト。スカートはタイトスカートで、高さのあるハイヒールを履いてる。上半身が灰色、下半身が黒色で、布地がキラキラ光っている。それだけならまだ現実に居そうだけれど、頭には中央にエメラルドのような宝石がはまったティアラのようなカチューシャをつけていて、そのカチューシャから左右にアンテナが伸びている。


「おお、レベッカか。今日は有望な初心者に出会えたぞ!」


「そういうノリは男の子だけにしておきなさい。ごめんね、ふたりとも。悪い人じゃないけど、プラモバカなのよ」


「おいおい、褒めても何も出ないぞ」


「でしょ? 変なプラモ押し付けられなかった?」


「押しつけはなかったです。でも、色々教えてもらいました」


 親切に説明してくれたのは事実だし、色々話を聞けて助かった。


「そっか、テンションが上がり切る前でよかった。あ、私はレベッカ。一応プロモデラーやってます。よろしくね?」


「はい。アカネと言います。初心者です」


「同じく初心者でアオナです」


 目の前にネームカードが表示されたので、受け取る。動画も配信しているようで、ページのコードが書かれている。

 社会人が、相手との自己紹介にネームカードを交換するけれど、学生で持ってる人は少ない。フレンドと交換するゲームカードは存在するけれど、フレンドでもない人に渡すものはないので、私は受け取るだけだ。


「お! ワシはダリオだ。よろしくな?」


「自己紹介もしてなかったの?」


 レベッカさんが目を細めてダリオさんを睨む。


「そんなもん出会ったばかりの娘にできるわけなかろう。強制的に相手に名乗らせるようなものだろうが」


 ガハハと笑うダリオさん。

 うん、気遣いができるいい人なんだよね。ちょっとテンションについていけないだけで。

 ダリオさんからもネームカードが表示された。

 プラモデル会社の……。


「会長!? え? ほんと?」


 ネームカードとダリオさんを見比べる。


「本当だとも。本当なら会長もさっさと引退してプラモ作りに集中したいのだがな。もちろん、プラモ作りの後進を育てるのも趣味である。やりたいことが多すぎて会長なんてやってられん」


「プラモ作りじゃなくて、先に会社の後進を育てなさいな」


「そんなもの勝手に育つだろ。プラモは教える人がおる方がきっちり育つんで、こっちが最重要だ」


 ダリオさんとレベッカさんが言い合いをしているけど、仲がよさそうだ。ダリオさんの言っていた女性モデラーはレベッカさんのことだろう。


<アカネ>どうしよう?

<アオナ>親切なのは確かだよね。

<アカネ>もう少し待ってみようか。

<アオナ>そうだね。それにしても、会長だとは思わなかった。

<アカネ>ねー。見た目40代のおじさんだけど、おじいちゃん?

<アオナ>多分ね。レベッカさんの年齢は考えない。大切。

<アカネ>もちろん!


 パーティーチャットで蒼奈と会話をし続ける。しばらくしたらダリオさんとレベッカさんの会話も途切れた。


「それで、まだプラモデルは作ってる最中だからバトルはできないのよね? 時間あったらお店紹介しましょうか? 女の子がプラモデルを買いやすいお店」


「レベッカさんの時間はいいんですか?」


「ダリオにちょっとした用事があっただけだからね。時間あるし紹介するわよ」


 蒼奈がダリオさんを見てからレベッカさんを見て頷く。うん。紹介してくれたら助かるよね。


「お願いします!」


「お願いします」


「ふたりともスタジアムのワープステーションは開放した方がよいぞ!」


 レベッカさんおすすめの店に移動することになりそうだったけど、ダリオさんからの忠告でスタジアムに移動することになった。


『プラモデル・スタジアム』


 そのまま直球の名前だった。ワープステーションに入ったので自動登録された。次からはスタジアム入口へ直接ワープ可能だ。


「せっかく来たなら、少し見ていきましょうか」


 4人でスタジアムへ……というところでダリオさんが会社へ戻ることに。


「今度ふたりの作ったプラモデルみせるんだぞ!」


 という言葉を残しワープしていった。フレンドとか登録してないけど会えるんだろうか? ネームカードの連絡先へ直接? ちょっと学生には敷居が高いです。


 スタジアムに入ると、お店が何軒もあった。スタジアムグルメだけでなく、プラモデルそのものを売っているお店や、キャラクターのグッズを取り扱っている店も多くあった。


「この店はスタジアム内ということもあって、取扱商品が多いのよ。だから各地から人が沢山やってくるの」


 プラモデルショップの入口付近ではワープゲートが複数設置されていて、かなりの頻度で人の出入りがある。店舗の広さはかなりあるけれど、商品間の通路が狭いのでかなり混雑している印象だ。


「システムで許可していない相手は接触しないようになってるけれど……ここに入りたい?」


「ちょっと、入りにくいかな」


「うん。僕も遠慮したい」


 人と人との距離が近い上に、見える範囲で女の人がほぼ居ない。居ても近くの男の人と話してるから、やはり一人でふらりと入るには厳しそうだ。もちろん、入れないわけじゃないけど場違い感がある。こっちを見てくる男の人も何人かいるけど、珍しいのかもしれない。


「でしょ? 後でさっき話した女性が買いやすいお店を教えてあげるね」


「「お願いします!」」


 ありがたい約束をしてくれたレベッカさんと一緒に、今度はスタジアムの奥へ進む。

 お店があった階の奥へ進むと、扉の無い開放感のある大きな部屋があった。部屋の先の方はカーブしてるから、スタジアム全体を囲んでいる部屋なのかもしれない。すごく沢山の人がそこら中に居て活気がある。ここでは、空中に浮かんでいる操作パネルを操作している人が多い。


「ここは一般対戦エリアね。同意しない限り戦闘や観戦はできないわ。もちろん、この操作パネルを使わなくても個人の部屋の中や、町中だって自由に対戦できるけれど、対戦したい人を探すならここに来るのが確実ね。各エリアで対戦のための施設は沢山あるけど、人の集まりはここが一番よ」


 レベッカさんが操作パネルのひとつを手に取り、私たちに見えるようにしていくつかボタンを押した後、対戦ボタンを押し私に差し出した。私も押すと、プラモデルを登録する画面に進む。プラモデルがまだ無いので、ここでキャンセル。


「フレンド登録しなくても自由に対戦ができるわよ。対戦者同士がお互いに同意して、登録プラモデルをここの表示にドラッグするとそれぞれのバトルポッドへ移動するの」


「バトルポッド?」


「プラモデルを操縦する空間で、外から見たら長方形のコンテナかな。コックピットや操縦席って言われるのはバトルポッド内に表示される操作パネルや座席のことね。バトルポッドの内部は、指定が無ければどのプラモデルでも同じ操作パネルが表示される。逆にちゃんと指定すれば指定した操作パネルになるから、こだわる人はそれも作るわね」


「レベッカさんもこだわって作ってるんですか?」


「そうね。やっぱり航空機や戦車、人型のロボットが同じ操縦方法だと気分も乗らないし、操作も逆に面倒になることもあるから、プラモデルの外観である程度変更してるわね」


 レベッカさんが自分のシーポンを操作して、飛行機のプラモデルを表示させる。レベッカさんが作った飛行機! 本物みたいに作られてて、プラモデルって感じがしない。

 コックピットを拡大してみせてくれたら、かなり細かく作りこまれているのが素人目にもわかった。


「バトルポッドに転送されたら、自分のプラモデルにバトルポッドの位置を指定するの。そこを攻撃されたら、どれだけ他の場所が万全でも負けちゃうのよ。さっきの戦闘機だと機首の部分にコックピットが作りこんであったけれど、バトルポッドの位置は翼でもエンジンでも構わない。出来るだけ相手にばれない位置を指定するのも戦術ね」


 ただし、本体に取り付けたPBCから離れた場所には取り付けられない。手持ちの装備にバトルポッドを取り付けて、どこかに隠してから戦闘を続けることはできないそうだ。


「PBCはプラモデルのエンジン部分に相当するから、プラモデル全体に散らばらせた方がバランスはよくなるわね。例えば、PBCを右足だけに6つ設置したら、右足だけ動くプラモデルが完成しちゃうの。逆に大きなサイズのプラモデルの場合、PBCの有効範囲から遠くなって動きが鈍重になるか弱くなるわね」


 細かいことはわからないけど、バトルポッドが弱点で、PBCはエンジン。実際に体験してみないと実感しなさそうだけど、大切なことを教えてもらってるからしっかり覚えておこう。


「それにしても、人が多いですね。ネット対戦の方が便利ではないですか?」


 蒼奈がレベッカさんに質問をする。確かに、わざわざ集まらなくてもいいとは思う。さっきの操作パネルも、ネットワーク上で対戦者を選ぶボタンはあった。


「対戦だけが目的じゃなくて、自分のプラモデルを誰かに見てもらいたいって人も来てるのよ。戦うのは苦手だけど、プラモデルを作る技術がある人は見せに来てたりするの。このアプリ、『統合版』ってあるでしょ? もともとプラモデルのバトル専用アプリや、ジオラマや品評会のアプリ、プラモデル関係の商品販売アプリが別々にあったのを、ひとまとめにして1つのワールドにしたの。複数あったプラモデル会社のアプリもまとめてね。だから、プラモバトルがメインじゃない人もかなりいるわよ。近くにジオラマ会館があるから、今度紹介するわね」


 ジオラマとは、プラモデルだけじゃなく背景も一緒に作って1つの世界を表現する作品らしい。というか、プラモデルとは関係なく、風景だけの模型作品でもジオラマと呼ぶみたい。バトルは出来ないけど、ジオラマ世界に入って体験も可能だって。

 猫もいるかと聞いてみたら、動物園が再現されてるとか。かなり楽しみ!


 そのまま、別の場所に案内された。階段を登り観客席が広がる空間に出て、そこから段差が低いところを見下ろすと、長方形の箱型コンテナがいくつも並んでいた。これは大会専用のバトルポッドらしい。戦う相手同士が左右からバトルポッドに入り、その戦闘シーンがコンテナの上部分に表示されて観客も戦闘を見ることができるとのこと。

 コンテナの外観は、つるっとした白い表面に、『BP』とかっこよさそうなロゴが入ってる。他にも文字がいろいろ書いてあるけど、遠くからはよくわからない。


 バトルポッドはそれ単体だと個人戦用のバトルポッドだけど、他のバトルポッドとリンクして団体用に切り替わるらしい。転送タイプのバトルポッドと組み合わせれば、同時にプラモバトルができる人数に制限はないとのこと。過去に1000人規模の対戦を行ったこともあるようだ。


 観客席の中央は、すごく豪華なバトルポッドがある。四角いコンテナではなく、さっきレベッカさんに見せてもらった飛行機の、コックピットのような見た目で、青と白の綺麗な姿をしている。

 あのバトルポッドは決勝トーナメントで使われるバトルポッドで、通常のバトルポッドでは見られない相手の戦う姿が見えるため、臨場感を感じたり、真剣勝負を味わったりできるとのこと。


「レベッカさんもあのバトルポッド使ったんですか?」


「ええ、あるわね。女性専用の大会だと上位に入りやすいわよ?」


「すごい! 上位に残ったんですよね?」


「ランクの低い大会でも中央のバトルポッドは使えるから、ふたりとも機会があれば狙ってもいいかもね?」


 初心者が集まる大会なら頻繁に開催されてるから、大会に出るなら目標はそれが良いらしい。


 その後、約束のお店に向かうため、2番地区へワープした。お店の名前は『スノーハート』で、白を基調とした建物に、水色とピンクのリボンがデコレートされている。ショーウィンドウには完成済みのプラモデルや人形、ドールハウスが並んでいるが、いずれもかわいい感じに作られていた。

 隣には喫茶店が併設されていて、何組かの女の子がプラモデルを手にして会話している。

 確かに男の子では入りにくいね。


 店内に入ると、プラモデルだけではなくプラモデルを作るのに必要な道具がたくさん並んでいた。

 買ってもらったペンと同じ会社のペンも並んでいて、色違いの8本セットとかもある。

 使うのを止めたヤスリも、ペン以上に種類がある。ヤスリって需要すごいんだね。むむ、猫耳ヤスリがある! プラスチックの板状の猫の顔をした道具で、白、黒、虎の3種類がある。やや折れ曲がった耳部分に三角のヤスリを張り付けて、細かいところをヤスリ掛けする道具だ。猫の顔部分は持ち手で、猫耳の左右にヤスリの貼り付けを変えることにより右利きでも左利きでも便利に使える。気になるが、数が多いので焦る必要はない。

 元の場所に猫耳ヤスリを戻して、他の道具も見る。


「あ、このニッパー貰ったやつだ」


 さっきまで使っていたピンクのニッパーが見つかってちょっと嬉しい。思ってたより結構なお値段。


「これ、この店が独自に注文して取り扱ってるのよ。男性モデラーが多いから、可愛いカラーの商品が少なくてね。現実の店舗も似たような外観だから、もし店舗で買ったのならお兄さんがんばったね」


 通販で買っていそうだけど、気を使って選んでくれているのはうれしい。もう少しプラモデルを組み立ててもいい気持ちになっているのは、思惑通りだろうか?


「兄ちゃん、必要なら女性下着店にひとりで突撃する人だから、この程度気にしてないよ」


「取材のためって言ってたね」


「どうだか」


 ちらっと蒼奈がこっちを見て、商品をまた見る。筆を手に取っているけど、これも種類が多すぎて選べと言われても無理。プラモデルは奥が深いんだね。


「これ、部屋にあったやつだ。7万円もする」


「塗装ブースね。光砂粒子を使って周辺に飛散した塗料やにおいを取ってくれるのよ。掃除もほぼ不要で、1000時間の使用につき1回粒子タンクを取り換えれば良い便利な道具よ」


 光砂粒子は、一般的には事故防止の道具で、飛行機から落下しても接触前には光砂粒子が無傷で降ろしてくれるし、地震で家が倒壊しても押しつぶされずにに助かる道具として使われている。

 家電製品にも使われたりと色々活躍してるのは知ってるけれど、プラモデルの世界でも使われているんだね。


「シープの空間で作っても匂いとか塗料が飛んだりするんですか?」


「オフにできるけれど、再現はしてあるわね。ただ、匂いはオフにしてもいいけど、塗料の飛散をオフにすると細かい塗料が消されて、グラデーションの塗装がうまくいかないことはあるわね。これは光砂粒子を使った現実の塗装ブースにも言えるけど、そのあたりは機器の微調整と使用者の腕が試されるわ」


 店内をぐるっと案内してもらう。あ、猫の爪とぎも売ってる。ちゃんとプラモデルの道具だったんだ――まって!


「アオナ! 重大なことを発見してしまった!」


「猫?」


「そう! あの割りばし、『猫さんの手』って商品名だ!」


 あれだけさんざん使ってたのに猫の商品だとは少しも気が付かなかった、不覚。ちゃんと整理整頓して並べておかねば。


 その後は、併設されている喫茶店へ。一応遠慮したのだけれど、支払ってくれるということでミルクティーをいただいた。なぜかケーキも追加注文してくれて美味しかったです。


 頂いてる途中、他の女の子の一団がやってきてレベッカさんに声をかけていた。大学生くらいの人達かな?


「レベッカさん、明日のバトルがんばってください!」


「ありがとう、頑張るわね」


 え?


「明日バトルだったんですか? お邪魔じゃなかったです?」


「ええ、気にしないで。準備はもう万全だから今は充電時間。むしろこんなかわいい子達にお姉さんしてあげられてこっちが元気もらえたわよ」


 にっこり微笑んで優雅に紅茶を飲むレベッカさん。憧れるなぁ。物語に出てくるお姉さまって感じだ。


「そろそろ登録できるくらいには乾いているんじゃないかしら?」


「そういえば! 色々まわってかなり時間たったよね?」


「うん。1時間タイマーは切れてると思う」


「ここで待ってるからスキャンしてくる? この店のオーナーと知り合いだし、ゆっくりお話しして待ってるから」


「いいんでしょうか?」


「いいわよ。初めての対戦も見てみたいからね。それと念のため……」


 フレンドコードが送られてきた!?


「ありがとうございます! じゃあ行ってきますね」


「行ってきます」


 ひらひらと手を振るレベッカさんにふたりとも礼をしてログアウトをした。

 レベッカさんはダリオさんに初心者女子が居ると連絡をもらったからやってきただけで、何か用事があったから会いに来たわけじゃありません。そのあたり蒼奈は気が付いています。

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