『プラモワールド統合版』02
スミ入れ……検索して調べてみると、プラモデルの細かい線の部分や突起と平面の角に色を塗るらしい。ペンで線を引いて綿棒で擦れば、隙間に色が残り見栄えのするロボットになるようだ。
お兄さんから、塗ると良い場所と色を聞いたので、おすすめ通り試してみる。送られてきたペンの中で一番楽なのは流し込みペンのようだ。
猫の指と指の間に、灰色のペンを押し付ける。押したところは大きくペンの跡がついてるけど、それ以外は手の隙間の角の部分を伝って灰色の筋がスッと広がった。
「面白いね」
「うん。線が綺麗に入る」
「するっと流れるとなんか気持ちいいねー」
「わかる。気持ちいいね」
ピタッと綺麗に流れる感覚が、部屋を綺麗に片づけた気持ちよさを感じる。
押し付けてペンの跡が付いたところは、綿棒にカラーイレイサーペンの液をしみ込ませて、拭き取る。それだけでペンの跡が消えた。
真っ白だった猫の手は、指がそれぞれ見分けられるようになった。
肉球側も、茶色のペンで同じように押し付ける。丸い部分だから、反対側にも押し付けて、全体にいきわたるように流し込む。肉球全体が終わったら、綿棒を新しいものに交換してペン跡を消す。肉球がくっきり浮かび上がって、可愛くなった。
マズルの部分は、鼻の穴と口元は茶色で流し込み、ウィスカーパッドは灰色で極細ペンで塗って、はみ出たところは拭き取る。うん。いい感じ。
耳は、外側が黒で内側がピンクと白のパーツで組みあがっている。ピンクは茶色、白は灰色で塗ったら、耳の中のふわふわ感が出た感じがする。
胴体部分はややこしくて、白と黒の境界付近は灰色で、その他の黒い部分は黒で塗るとか。黒に黒ってどうなんだろうと思ったけど、少し色が違う気がする。
塗る場所が多いわけじゃないので、時間はかかったけど蒼奈と比べたらすぐに終わった。
塗る前に撮影した写真と見比べると、猫っぽさが増した感じで良い!
蒼奈の方は大変そうで、細かい部分まで細い線が入っている。パーツの裏側まで線が入っているから私の2倍以上大変そうだ。
「手伝うよ?」
「大丈夫。それより、つや消し調べておいて。兄ちゃんの部屋に道具はあると思う」
「はーい」
最初はシーポンで検索して道具の確認。送ってきたスプレーは……失敗しないで有名なスプレーなんだね。
うーん。手で持つんじゃなくて、割り箸のような何かで支えてスプレーするのか。お兄さんの部屋にもあるかな?
隣の部屋へ入る。昔から部屋に入っては漫画やゲームを取り出しているから、入り慣れた場所だ。この1年で送られてきたものが沢山あるので、部屋の一画に詰みあがっている。
おもちゃの類は置いてても違和感がないので、蒼奈と一緒に開封して飾った。おかげでロボットと女の子が不規則に並べてある。
ゲーム機器も、まとめてゲーム棚の中に入れた。今はもう見ないカセットを差し込むタイプで、動くのか疑わしい。
理科の実験のような変なものは密封して勉強机の上に置いておいた。昆虫採集の道具や身近な食材の化学反応セットを送られてきても困る。
健康器具としてヨガマットやマッサージ機はいいけど、体重計のプレゼントはどうかと思う。重いと思ってるのだろうか。
それはともかく、つや消しの詳しいやり方が書いてあった情報サイトに紹介された道具を探す。
部屋の角に、情報サイトの写真の背景にあったものと同じような、ホースの排気口がくっついてる箱を見つけた。うん、スプレーを使う時に換気する道具とよく似ている。ここがスプレーするところだね。電源を入れてみたら、問題なく動いた。
じゃああとは、割り箸……これか。汚れてるけど乾燥してるし、クリップの部分は問題なさそう。あとは……あった、割り箸立て――ん!?
「これ猫って書いてあるやつだ!」
昔お兄さんの部屋で見つけた猫の爪とぎ。当時、猫って文字が書かれているこの爪とぎにテンションが上がりお兄さんを問い詰めて、どんな道具か説明されたけど理解できずに爪とぎの真似をしてカリカリ引っ搔いた覚えがある。プラモデルに使うやつだったのか。
それと、この割りばしや爪とぎが入っていたケース。食器乾燥機だけど……なんでこんなところに?
検索してみたら、どうやら色を塗った後に食器乾燥機で色を乾かすらしい。時間は……30分とか1時間とか1週間とか、色々あるなぁ。……1時間って書いてあるのが結構あるから、それにしよう。ホコリ避けにもなるからここに入れたほうがいいって。
他にもつや消しの手順を確認し、問題ないのを確認した。
「『つや消し前に、シールの貼り忘れや、色の塗り忘れがないか必ず確認してください』なるほど。」
蒼奈の部屋に戻ると、あと少しで終わるとのこと。猫ロボットを手に取って、塗り忘れた場所がないかを確認する。シールは全部使い切ったので問題ない。
いろんな角度から見て確認したけれど、塗り忘れた場所はなさそうだ。
「むむむ。ここをもう少し綺麗に塗った方がいいかなぁ」
ただ、後から見ると変更したいような、どちらでもいいような些細な場所が気になって仕方がない。
「気になるなら塗り直せば? すぐ消せるし」
「そうだね。ちょっと直そうかな」
そうして塗り直し、満足して見直し、また気になるところが出てきて……。
しばらくしてから蒼奈も塗り終わり、点検も終わった。うん、ちょうどキリもいいしここまでにしておこう。
蒼奈のロボットはスミ入れが完了したことで、よりロボットらしさが増している。ところどころ線があるので、その場所が開いたり動いたりできそうなイメージがもてる。
「ずいぶんかっこよくなったね」
「うん。線が入るだけで違うんだね」
「ねー。じゃあ、次はつや消し作業にいこー」
お兄さんの部屋に入り、蒼奈につや消しの説明をする。お互い、プラモデルを少し分解して、外から見えない場所をクリップで挟む。それを爪とぎに突き刺してスプレーを使う準備を進める。
頭、耳、胴体3分割、手足、尻尾、段ボール、武器などの残り細かいパーツと、それぞれのパーツごとに割りばしにくっつけて、スプレーを吹く準備ができた。瞳のクリアパーツは、つや消しを吹くと曇りガラスっぽくなるからまぶたを閉じておいた。手足も、関節の隙間に入るように角度を工夫したから大丈夫だろう。
天気のいい日にスプレーしましょうってあったけど、今日はばっちり晴れの日! スプレー日和だ!
動画でばっちり吹き付け方を覚えたから、私が先につや消しをする。
最初はとにかく、スプレー缶をしっかり振る!! 頑張って振る!!
とりあえず、良いかなってところで動画の通りに割りばしを持ってスプレーを吹きかける。
「くさ!」
しまった、機械のボタン押すの忘れた! 慌てて機械のボタンを付けると、そちらにスプレーのガスが吸引される感じになった。とはいえ、匂いがきついのは確かだ。
「ときどき兄ちゃんの部屋からこんな匂いがしてた」
「うん。もっと匂いは薄かったけどね。直接匂いを嗅ぐと結構きつい」
つや消しの続きを進める。動画を蒼奈と共有しながら、その通りに吹き付けた。
「動画だと3~4回吹き付けて終わってたけど、これでいいのかな?」
吹き付けた結果を見ても、正解かどうかはよくわからない。
「初めてだし、動画の通りでいいと思う。この動画、スプレーを売ってる会社のだから大丈夫」
吹き付けが終わったら、それぞれのパーツを、食器乾燥機の中にある爪とぎに差し込む。
蒼奈も同じようにスプレーを吹き付けた後、食器乾燥器の蓋をした。あとは乾燥を待つだけ。タイマーを1時間にセット。
「乾くまでの間、箱に入ってた『プラモワールド統合版』見てみる?」
「ん? そんなの入ってたんだ。どれー?」
蒼奈がプラモデルの箱に同封されていたカードを取り出す。最初にシープコードを入力したカードに、『プラモワールド統合版』って書いてあった。
「このカードに書いてあったんだ。見てなかった」
カードに説明が書いてある。シープに『プラモワールド統合版』アプリをダウンロードして、プラモデルに入っているシープコードをリンクさせたら、ゲーム内でそのプラモデルが入手できるらしい。
「よくわからないから入ってみようか」
「そうだね」
そのまま蒼奈の部屋に行き、蒼奈のベッドで並んで寝転がりシープのヘッドセットを用意する。冷えないように薄い布団を一緒に被ってログイン。
普段からお互いの家を行き来しているので、すぐに使えるようにヘッドセットはそれぞれの部屋にふたつ用意してあるのだ。
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シープの自分の部屋にログインし、外に出ていつも待ち合わせている公園に移動する。公園の入口はワープポイントのひとつなので、直接ワープして公園に到着。いつもの花壇前のベンチに行くまでもなく、蒼奈も同じくワープしてきたので、入口で会うことができた。
「まだダウンロード中」
「私も。向こうでの合流方法は……フレンドの部屋前に飛べるみたいだね。私が移動するよ」
少し待つとダウンロードが完了したので、アプリを起動する。そこでシープのパブリックの私は消えて、アプリ内に移動した。
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移動先はまた部屋だった。真っ白な部屋は大抵のゲームのスタート時点でよくあるレイアウトで、後から壁紙や床を変更することができるのが定番。
キャラクターの容姿変更は……いつもの赤髪をプリセットで呼び出して決定。服装は黒がベースで、白猫が中央にでっかく描かれた丸首Tシャツに、赤のラップキュロット。ほんの少しヒールのある茶色いサンダルにした。サンダルの足首部分に猫の足跡がついてるのが気に入ってる。
部屋の出口付近を見ると、ポストのマークがあるので、触ったら郵便物一覧が表示される。
・『宇宙帝国 偵察部隊 宇宙仕様 ギリーキャットU型』
・工作綿棒 三角(100本入り)
・ヤスリ スポンジタイプ(ハード) 400・600・800・1000
・プラモデル用・精密ニッパー Sタイプ ピンク
・つや消しスプレー C203
・スミ入れペン 極細タイプ 黒・灰・茶
・スミ入れペン 流し込みタイプ 黒・灰・茶
・修正ペン カラーイレイサーペン 透明
・作業テーブル 茶色(小)(プラモデル初回登録特典)
・椅子 茶色 (小)(プラモデル初回登録特典)
・収納棚(小)(プラモデル初回登録特典)
『宇宙帝国 偵察部隊 宇宙仕様 ギリーキャットU型』を受け取ると、プラモデルの箱が出てきた。
プラモデルが入手できるってこういうことか~
箱を開けると、内容物はほぼ同じだった。違いといえば、カードのシープコード部分が、何かのチップが切り離せるような形状に変わっているだけだ。これはスキャンの時に使うアイテムっぽい。
「もう一度つくるって、こと?」
少しの間、箱を眺めたけれど、蒼奈の所に合流することを思い出した。とりあえず蒼奈の所へ行こう。箱を閉じて小脇に抱えた。
UIを表示させフレンドをチェック。移動ボタンを押すと、周囲の景色が切り替わってどこかの廊下に移動した。私だけに見える表示で、目の前の扉が蒼奈の部屋だとわかったので、扉の呼び出しボタンを押す。
「アカネ、どうぞ」
扉が開いて、蒼奈から部屋の中へ招待された。
呼び出しボタンは、普通のシープの設定と同じならデフォルトだとフレンドにしか音や表示が反応しない。部屋の扉も、私には開いているように見えるけれど、他の人には開いていない。傍から見ると、私は扉にめり込むように中へ入り込んでいるように見える。
部屋に入ると、蒼奈もプラモデルの箱を手に持っている。そのまま郵便受けを操作して、テーブルや椅子を出していた。
「あ、椅子がひとり分しかない」
「持ってくるよ」
移動もボタンを押すだけなので、さっと戻って椅子を受け取り、蒼奈の部屋へもどってきた。
部屋では蒼奈が机の上にプラモデルの中身を広げて、ゲームのヘルプを読んでいた。
「何かわかった?」
「少しだけ。このデータのプラモデルは、作っても作らなくてもいいみたい。実物かデータのどちらかを作れば登録できるって」
どちらのプラモデルを作っても、スキャンして登録すれば自分のロボットとして扱えるらしい。
「現実側のプラモデルって、スキャンだけで大丈夫なの?」
「金色のPBCってパーツに個別IDが書き込まれてるんだね。プラモデルに6個埋め込めたらスキャン情報とPBCIDの統合したデータとしてシープに移動するみたい」
PBCは入れた覚えがある。8個同封されてて、6個をプラモデルに埋め込んで、2個が予備って説明書には書いてあった。無くしやすそうなサイズだからね。パーツの中に埋め込まれてて何の意味があるのかと思ったけど、データを読み込むのに必要だったのか。
登録は1度のみで、同じプラモデルを他の人がスキャンしても登録はされないみたい。ただし、作り変えたり色を塗り替えたりした場合は、登録した本人であれば何度もスキャンして更新できる。
「プラモデルを登録直前まで作って販売してる人もいる。オークション見ると結構な数の出品がある」
「PBC単体で販売もしてるね。昔のプラモデルにも張り付けたら認識してくれるって」
販売されているプラモデルは、すごくきれいに色が塗られている。同じ猫ロボットがあったけど、リボンの首輪が付いていたり、毛並みが追加されていたり、靴下の長さが長くなったりと、色々工夫がされている。これは買いたくなるのもわかる。
とはいえ、ずっと写真とにらめっこしていても仕方がない。
「とりあえず、どこか行ってみる?」
「そうだね。どこ行こう」
行先一覧を見ると、お互いの部屋の他に、プラモデルに関係する施設ばっかりの町があるらしい。今行けるのは1番~9番地区にあるワープステーションの前だけで、以降は実際に訪れることで移動先が増えるらしい。
「真ん中の1番地区にしよう。情報が多そう」
「うん」
「じゃあ……って、アオナ! 髪!」
「え、あ。忘れてた」
髪の色を替えた程度で、身バレとか無くなるわけじゃないけど、少しでも印象が変わるとわからなくなるからね。髪の色だけじゃなく瞳の色や肌の質感も少し変わるから、変更しない選択肢はない。
服装はクリーム色のシャツに、カーキ色のハーフパンツ、シューズは黒のスリッポンだ。
蒼奈の設定が終わったので、ストレージにプラモデルと椅子を入れて1番地区に飛ぶ。
1番地区のワープステーションに到着。
ワープステーションは、大きな円形状のワープ装置が地面に設置してある、まさに駅と言える規模の施設になっていて、シープではよく見かける。一度に多くの人数をバラバラの地点へとワープできるのが特徴だけど、施設の規模はかなり大きくなる。
お店や個人宅で設置するのはワープゲートとなる。小さな円の設置物で、円柱の光の柱によってワープが可能となる。フレンドやパーティー単位で移動することもかのうだけれど、基本的にはひとりだけで飛ぶ施設だ。大規模な施設はワープステーションを設置するが、中小規模の施設ではワープゲートを複数並べることが多い。
「噴水があるけど、なんかロボットが噴水の真ん中に立ってるね」
「うん。リルダインじゃないけど白い」
「なんだ、そんなことも知らんのか」
後ろから声が聞こえたから振り返ると、髪を後ろへ撫でつけて固めた髪形に赤い帽子を被り、細い変なひげ、スーツに黒いエプロンが特徴の、40代くらいのおじさんがいた。
「あれはプラモデルの歴史の象徴、機〇戦士ガ〇ダムだ!」
スプレー使用時のクリップは袋から開封されて保管してあったので、茜は名前を知りません。
他人が登録したプラモデルを登録したい場合、PBCを総入れ替えすれば可能です。




