『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』30
「何か聞きたいことはあるか? 何でも答える!」
じゃあ、お言葉に甘えて手をあげる……。
「はい、そこの青い髪の少女。何が聞きたい?」
「それって、フレンド前提ですよね?」
「そうだな。クランのシステムが使えない以上、連絡を取る手段はそれしかない」
「では賛同しかねます。変な個人チャットが来られても不快です」
賛同したくない理由はこれだ。不特定多数の相手とフレンドが嫌だ。興味のない人から個人チャットで色々つぶやかれることもある。というか、昔あった。
一度フレンドになった後でフレンドを切ることもできるが、トラブルになることも多々ある。最初からフレンドにならない方が一番の自衛だ。
「同意のない個人的なチャットは送らないように連絡しよう」
「これからも参加人数は増え続けますよね? ここにいる人が信用できても、後から来る人は信用できますか? 僕は信用できません」
ここにいる人も信用はしてない。
「僕っ娘だ」というつぶやきが聞こえてくるけど、いつものこと。
「なるほど。では、どうしたいんだ? 否定だけなら誰でもできるぞ?」
腹立つな、この人。ま、向こうからしたらこっちも同じか。
「手段はありますよ。RPGによくあるアレです」
「アレ、とは?」
「どのRPGでもよく見るあるアレです。アレさえあれば連絡手段が無くても相手を信用して探索も、ダンジョン踏破も、他国との連携も可能です」
フツメンが首をひねってる。
モエギ:アオナちゃん、アレってなぁに?
アオナ:「冒険者ギルド」です。依頼で目的を遂行させて報酬で信用する。少人数から開始すれば、人数が増えても対応できるでしょう。
キリ:難しくないかな?
アオナ:最初の頃は、報酬が食事とかそういったものでいいんです。報酬があるからこそ頑張れる。単に奉仕活動で頑張れと言われても続かないでしょう。
モエギ:なるほどね。
キリ:クランのような仲間意識ではなくて、契約による活動にするってことか。
アオナ:はい。依頼中に何度も連絡することなんて無いため、連絡手段は最初から不要です。依頼の結果さえ判明すれば事足ります。
「能力とバランス感覚が必要な事なので、RPGのアレで理解してくれる人がリーダーになってくれると助かります」
煽りに聞こえるだろうけれど、本心である。0から経営するには周囲の協力とリーダーのバランス感覚が必要だ。
「そうか、アレか。よし、アレについては検討しておこう」
ひよったか。よっぽどリーダーになりたいんだろう。フレンドについて解決していないのはわかってないのかな? とりあえず、それはそれでいい。賛同しないだけだ。
「他に質問はあるか?」
また手をあげる僕。フツメンの顔が引きつってるな。次は何を言われるか考えてるかな?
「青い髪の人」
「はい。先ほどの提案に関することですが、NPCが居ない前提で進めるのは早計かと思います」
「居ないんだから、その前提で進めるのは当たり前だろう。NPCがどの街にも居ないのはリアル側から得られた情報でもあるから否定するのが間違っている」
調子を取り戻したのか、顔が偉そうに感じる。
「建築系のゲームにあるように、環境を整えたら人が流入するタイプかもしれません。街や村の建築を復興させたら人が来る可能性はありますよね?」
「それは……たしかに、ありえるな」
「その場合、国家は存在していることになるのではないでしょうか。復興速度で他国と勝負するゲームだとしたら、他国との連携は足かせになる可能性があります。もし連携をするのであれば、協力ではなく交渉です。貿易による利益を確保できる状況を作り出しましょう」
「なるほど。検討に値する意見だな……」
瓦礫の上に立つフツメンはうんうんと頷いている。
「他に質問はあるか?」
さらに手をあげる僕。フツメンの顔が崩れてるよ? 周りを見渡しても僕以外手をあげていない。
「青髪」
「周辺探索をこれらから行うのは効率が悪いです。広大なマップを探索し続けるなんて不可能です」
「探索しきれないことは分かってる。だが情報を得なければ何もできないだろう? だからこそ皆で協力して行動しようって提案してるんだが?」
フツメンの僕を見る視線が、アホな子を見る目に見えるな。僕の被害妄想かな?
「そもそも、NPCも居なければ交通手段もない世界です。プレイヤーは徒歩で街を目指してることでしょう。それも、巨大な都市であるこの王都を目指す人が多いはずです。であるなら、その人たちから情報を聞き取れば探索をしなくてもかなり確度の高い情報を得られるでしょう。何しろ、彼らも死ぬ思いでここに向かって来ているのですから、情報収集を怠るとは思えません。僕たちは探索よりも、ここに来る彼らを見過ごさないようにするべきだと思います」
「まぁ、そういった手段も取れるな……」
瓦礫の上に立つフツメンは目を閉じて頷いている。
「他に質問はあるか?」
続けて手をあげる僕。
「っ! 他の人で質問はあるか!?」
見回した上に時間を取ったけど、手をあげる人はいないな。
「そこの青!」
「ダンジョン探索をする方針は問題ないかと思います」
「そうだろうとも」
すごく満足そうな顔をしている。鼻が高いを表情で表すならあんな感じだろうか?
「ですが、戦闘職と生産職を分散してのダンジョン探索は効果が薄いと思います。ベータ時代と同様であればダンジョン内は極めて広大で、少数パーティーで探索しきれるものではありません。戦闘職も生産スキルを、生産職も戦闘スキルを身に着けて全員で攻略したほうが効率的でしょう」
「……なるほど」
「また、我々が強くなると言ってましたが、それがレベルのことを指すのであれば、生産ばかりしている生産職ではレベルの上昇は戦闘職に及ばないでしょう。もしシナリオの進行がひとりの高レベル者が居れば進行するのであれば分散でも良いと思いますが、MMOにおいてひとりだけ優遇した設計を最初から運営がするとは思えません。ボス攻略も高レベルのプレイヤーが何人も必要になると思います。生産職に生産だけさせる方針には問題があるでしょう」
「ぐ……そう、とも言えるか……」
瓦礫の上に立つフツメンが渋い顔をしながらつぶやく。
今度は方針に沿った修正案だと思いますけど。
「ええい! 他に質問はあるか!」
またもや手をあげる僕。
「またかよ! 早く言え!」
短気過ぎる。注目集めてその態度はどうかと思う。
「方針に対する意見とは違いますが、自己紹介もしない上に、僕に名前を尋ねることなく青髪とか言って個人を軽視する人をリーダーとは認めたくありません」
シン、と鎮まる。
そんな中、萌黄先輩が拍手をすると周囲の人に拍手が広がった。全員が拍手をして、そのまま彼への注目は解散の流れとなった。
彼が男性代表ってわけではないので、周りの人はふたりのやり取りを楽しんでみています。




