『テラパレット』07
「ポーション綺麗だね~」
調薬机の上で、収穫したハーブと砂で作ったガラスを使用したら、赤ハーブはHPポーション(低)、緑ハーブはSPポーション(低)が作れた。ガラス瓶を作らなきゃダメかとおもったけど、素材としてのガラスで作れるみたい。それぞれ、赤色と緑色をした色素の薄いポーションが、光に当たってキラキラして綺麗。今回の戦闘用に、必要な物として新たに作った。
「第2拠点に、必要な物全部運んじゃおう」
それぞれが分担して必要なものを移動させた。運搬先は、ゴブリンの拠点付近に建てた新しい拠点。
レベルやステータスが上がったので、第2拠点を作る作業は前よりも楽だった。筋力も上がっているので、木を切る速度も上がり、技術も上昇しているので、建築速度があがっている。
拠点の構造は前と変わらず、内装も一緒。寝る場所も一緒。そのため、みんなで拠点作ってる最中、何も相談しなくても次々に作ることができたのが、なんだか面白かった。
ゴブリンは建物に侵入できないと思っていたけれど、正確には違うみたいだ。
ゴブリンがうろついていた村でわかったことだけれど、扉がきっちり閉まっていて、壁や屋根も崩れていない綺麗な状態の家に限っては、ゴブリンは入ってこれないらしい。一か所でも壁が壊れていると、扉を開けて侵入される。
そのため、ゴブリンの拠点付近であっても、条件さえ満たせば安全な拠点が作れるから、ベッドも用意すればリスポーン地点の完成だ。一度ここで夜を過ごすことによって、死亡時の復活拠点がここになる。
「じゃあ、後は余った木材も詰め込んで、作業台作って終わり」
「畑作業はできないから、完全な拠点の引っ越しにはならないよね」
そんな第2拠点に荷物を詰め込み終わり、時間も遅くなったのでこのままこの場所で寝ることにした。
準備に2日間しかかかってないので、かなり良いペースだと思う。
なお、2日間の準備の途中で、一度ログアウトして休憩をとった。軽く背伸びをして、水分を取り、お手洗いに行くだけだったけど、現実で休憩を取らないとゲーム内で動きが鈍るといわれている。
それに、休憩を入れずに現実時間で6時間経過すると、1時間ごとにシーポンにアラートが鳴るようになる。12時間を超えると強制ログアウトらしいけど、そこまで遊んだことはない。12時間を超える強制ログアウトを何度も受けると、厳しいペナルティが発生するみたい。
「見張りは1体だね~」
夜明けと共に、裏側の小さい穴の方へ茶子と一緒にやってきた。今までの観察から、見張りは昼に交代していたから、目の前のゴブリンシーフをなんとかすれば、しばらくはこちら側は無視できる。もちろん、穴の中の仲間を呼ばれなければの話だから、今の見張りの場所から遠ざけて倒さなければならない。
アカネ:じゃあ、投げるね。
チャコ:は~い。
見張りのゴブリンシーフが気が付くように、離れた場所へと石を投げる。投げ込んだ方向の先には、パンが見えるように置いておいた。
ゴブリンシーフは音に気が付いたようで、石を投げ込んだ方向へと歩き出した。特に仲間を呼ぶ気配はない。
アカネ:音で誘導できた。仲間を呼ぶ様子はなさそう。
アオナ:了解。それならこっちも進めるよ。
音につられて移動する場合、仲間に連絡をするかどうかを確かめたかったから、こちらが最初に行動した。これで失敗した場合、計画を考え直さないといけない。
移動したゴブリンシーフは、無事にパンを見つけたのか、そちらに進んでいった。そして、見つけたパンを拾い上げ、その場で食べだした。
ゴブリンシーフの背中へ、音を立てないように近寄る。まだ距離はあるけれど、剣を水平に構えて突撃する態勢を取る。
アカネ:3、2、1、GO!
チャコへ合図を送ると、矢が飛んできた! ゴブリンシーフの胴体に矢が刺さる。私も一気に飛び出したので、ゴブリンシーフの胸をめがけて剣を突き立てた!
ゴブリンシーフはそのまま、全身真っ赤になり、粒子となって消えた。よし! あれだけ手こずったゴブリンシーフだったのに、ステータスを上げたら奇襲ですぐに倒せるんだ。かなり嬉しい。
ゴブリンの穴を見ると、チャコはすでにそちらへ向かっていたから私も向かう。ここでやることは単純。穴の上に木造建築を建てることだ。1区画で穴は埋まるので、土台1、壁3、ドア1、屋根1の、立方体ハウスだ。私も茶子も技術が高いから、初期建築物であればすばやく建築できる。この建築物さえ作れれば、ゴブリンは干渉することができないから、ここから出てくることはない。
チャコ:穴塞いだから、そっちいくね~。
建築が終わったから、縦に裂けた入口へと急いで向かう。
ギンカ:見張り2体釣り出した!
アオナ:準備おねがい。
アカネ:了解!
チャコ:まかせて~。
ゴブリン拠点の入口に到着。入口は、横幅が狭いといってもやはり自然の洞窟なので隙間が多い。
最初は、入口の出口を限定させるため、柵を作る。柵の内側にプレイヤーが居なければ、ゴブリンは柵は越えないので、小さい空間の柵を作り、出口を限定させる。入口の左右に四角い柵を『□ □』と二つ並べることで、中央に細い通り道を作り出した。
その上で、柵と拠点入口の壁面の隙間は、大量に掘り出した粘土を使って空間を埋めていった。加工がしやすく、壁として乾燥させればかなり頑丈になる。ただし、乾燥には技術と知力が必要なので、完成には蒼奈が必要だから、準備だけ。
次に、柵と柵の間の通路の出口側に、土台を作って小屋を建てる。ゴブリンが閉鎖された小屋に入らない特性を利用して、有利に戦える状況を作り出す。
通過できるゴブリンを、小屋の扉の開け閉めで制御すれば、きっと可能だ。
小屋には、洞窟側からこちらを見られないようにする壁の役割もあるから、柵の『□ □』と並ぶように、小屋を『■■■』のように3区画の直線で作る。
土台中央の区画には通路側と出口側にそれぞれ扉を作る。ここで通過するゴブリンの数をコントロールする。
チャコ:あ~、ゴブリン出てくる~。多分ソルジャ~。
洞窟の側面で壁を作ってる茶子が、洞窟からでてきたゴブリンに気がついた。土台造りに集中していたから気が付かなかったから助かった。
急いでこの場を離れるが、間に合うか……。セーフ? 普通は入口があれだけ改造されていれば異変に気が付くだろうけれど、このゲームのゴブリンはそこに気が付かない。
予定通り、ゴブリンは柵は越えずに通路を歩き、土台を越えて外に出て、そのまま立ち止まった。
アカネ:見張りが居ないと出てくる仕組みかな?
チャコ:2体じゃないんだね~。
アオナ:こっちに1体残ってるから、見張りゴブリンが新たに設定されたかな。
チャコ:あ~、あるかも~。
ギンガ:残りを倒すの、引き延ばそっか? 普通のゴブだから防御は楽!
アカネ:お願い。こっちのファイターも釣りだして引き延ばしかな。
アオナ:ファイターはひとりじゃ難しいから、少しの間、建築はチャコだけでお願い。
チャコ:は~い。壁の仕上げはアオナが居ないと出来ないからね~。
アオナ:できるだけ急ぐ。
移動させたい方向にパンを何ヶ所か置いた。遠くに釣りだすには、ちょっと足らない?
アオナ:お待たせ、パン持ってきた。
準備中に蒼奈がやってきて、パンを追加して置いていった。おかげで誘導できる。
戻って、石を投げて誘導する。ゴブリンはパンに気が付いたのでそちらに移動し、そこから見える新たなパンにまた気が付くと、またそちらへ移動するので入口から遠ざけることに成功した。
集め終わったパンを、その場で食べているゴブリンソルジャー。盾は持っているままだけど、棍棒は地面に置いてパンを食べている。ゴブリンにも利き腕とかあるのかな?
とはいえ、戦うのに有利になるタイミングはここしかない!
蒼奈と目線を合わせて、お互い頷く。ゴブリンに目を向ける。腕や足を攻撃できたらいいんだけど、それ以上に確実にダメージを与えることが優先。
音を出さないように、剣を構える。距離は10メートルかな? 不意打ちだとしても、近接戦闘としては遠いよね。
蒼奈が手を出してきた。5本の広がった指を、1本閉じて4本に。カウントダウンだね。残りの指2本からは目線をゴブリンへ移す。残りを心の中で数える……ゼロ!
一気にダッシュして、ゴブリンへと詰め寄る! 走る音に反応してゴブリンは振り向いたけど、幸いにも片手にパンを持っていたから棍棒を持つのが遅れたようだ!
体当たり気味に、ゴブリンへ剣を突き刺す! 狙っていた腕は外れたけれど、脇腹に当たったようで、胴体が赤く表示されている。大ダメージだ!
ゴブリンの棍棒はというと、同時に突撃した蒼奈が拾い上げて離れたところへ捨てた。攻撃手段も減ったし、何とか防御に専念できるかも?
武器の無いゴブリンがどうするのかと思ったけれど、残った盾を両手で持って、振り下ろしてきた。そうやって使うのか!
後ろに下がってやり過ごすと、ゴブリンはそのまま盾を地面を叩きつけた。すごい音。それに、盾が壊れる様子もない。
その瞬間、蒼奈がゴブリンの盾を踏みつけた。
さすが蒼奈! 私は盾を構えてゴブリンに体当たり。ついでに、ゴブリンの盾を私も踏んでおく。その結果、ゴブリンは盾を手放して転がった。すかさず盾を奪う蒼奈。
起き上がったゴブリンは、逃げる様子もなく素手で攻撃してくる。普通のゴブリンよりは素早いけれど、手で殴りかかってくるだけだから防御がしやすい。これはひとりでも大丈夫そうかな?
「これならひとりでも大丈夫だよ」
「わかった。建設の手伝いに行く」
蒼奈は、ゴブリンから奪った棍棒と盾を回収し、ゴブリンの拠点へと向かっていった。確実に遠くへ持っていって捨てるようだ。
それからしばらく、ゴブリンの攻撃をかわすことに専念したけど、攻撃は単純なパターンがあるみたい。縦の攻撃をした後は、横の攻撃で、それからまた縦の攻撃。これだけ。ゴブリンソルジャーだけなのかな?
アカネ:縦と横?
ギンガ:多分!
アオナ:何が?
アカネ:攻撃パターン。
チャコ:なるほど~。
ギンガが相手してる普通のゴブリンも同じようだ。今後戦いやすくなるかも。
しばらく相手し続けていると、待望の連絡がきた。
アオナ:完成した。倒していいよ。
アカネ:はーい!
ギンガ:わかった!
ゴブリンが両手の掌を組み、ジャンプして上から叩きつけるように攻撃してくるが、攻撃方向が分かっているから簡単に横へと避けられる。このジャンプ攻撃は何度もうけたから、次の攻撃が少し遅いのも知ってる。今までは時間稼ぎだったから相手が態勢を整えるまで待ってたけど、今回は違う。
攻撃をよけ、すかさず剣を振り下ろす。何度もゴブリンの攻撃を見てきたから、どのタイミングで攻撃すればいいのかわかっているため、簡単に剣が相手に当たった。そのまま、ゴブリンソルジャーは粒子となって消えた。
ギンガ:おわったー、つかれたー。
アカネ:こっちも終わったー。
チャコ:お疲れさま~。特にギンガは長かったからね~。
アオナ:お疲れさま。戻るのもゆっくりでいいからね。
HPは減ってないけれど、SPが結構減ってる。歩いて拠点入口まで移動して、回復しなかったらポーションを使おう。
合流するころには、SPが回復した。戦闘をしなければこのまま上げなくてもいいかもしれない。
「入口がいい感じだね~」
ゴブリン拠点の入口は、柵と小屋で通り道が区切られていて、小屋をうまく使えば見張りを拠点の入口から分断できるように作られていた。
見張りを2体共倒したからか、小屋の向こう側で、両柵に囲まれた場所に、新たな見張りのゴブリンが2体居る。柵や小屋を越えて外には出られないようだ。
「ギンガが帰ってきたら、少し休憩してから実験してみよう」
実験としては、この建築が機能するのかと、ゴブリンの見張りの役割は何なのかということだ。見張りが、他のゴブリンを呼び出す役割を持っているのなら、どれだけの数を呼ぶのかも重要だからね。
「ただいま。SPポーション2本もつかったよ」
隠れながら入口を見ていると、疲れた様子の銀華が帰ってきた。
「おかえり~。けっこう使ったんだね~」
「長時間の戦闘はSP振った方がいいかもしれないぞ」
ポーションも沢山あるわけじゃないから、節約できるところは節約していきたいよね。
銀華は、蒼奈から渡されたパンを食べて、空腹ゲージも回復させた。
「パンの数も減ってきたし、釣り作戦は終了」
蒼奈が、パンの入った袋を持ち上げて、釣り作戦終了の宣言をした。建築も完成したから、良い成果だと思う。
「むぐむぐ……よし、いけるぞ!」
「もういいの~?」
「うん、大丈夫!」
銀華がグッと腕を上げて大丈夫とアピールする。蒼奈がこっちを見たから、そのまま頷いた。SPも全回復したし、戦闘時間もさほど長くなかったからね。
ということで、小屋まで移動して見張りとの戦闘。小屋は、真っすぐ3マスの小屋で、中央に扉がある。この扉は、どちらも内開きになっている。扉を開けたときに、左右の空間に隠れることができるので、この空間に隠れながら、ゴブリンが通過するのを確認した後でこの扉を閉めれば、ゴブリンの拠点と外側を分断できる仕組みだ。なお、扉と扉がぶつかってもなぜか通過して閉められる謎仕様。
今回は、分断した後で、遠くに誘導することなく戦闘したらどうなるかの確認をする。蒼奈と茶子が一緒に内側の空間に入り、私と銀華が外側でゴブリンを待ち構える。一応、扉を開けただけでこちら側に移動するかも確認したいから、最初はゴブリンに見えない位置で待機。
どちらの扉も開けた状態で待ってみると、ゴブリンは2体とも外に移動して見張りを始めた。
アカネ:外へ誘導しなくても、勝手に出てきた。
アオナ:じゃあ、見張りを無視したい場合は全員小屋待機で行けるね。
ギンガ:10秒後に突撃する。
チャコ:は~い。
ゴブリンソルジャーとゴブリン。優先はソルジャーだね。少し待った後、銀華と一緒に盾を構えて突撃!
こっちに気づいたゴブリンソルジャーが、盾を構えつつ、棍棒を振り上げてジャンプした。これ、見たことある! 大きく振り下ろした棍棒を避けてゴブリンを見ると、素手のときと着地の姿勢が同じ! ここだ!
ザクっと、ゴブリンソルジャーの胴体に剣が当たり、一気に真っ赤に。それでも、ゴブリンソルジャーは態勢を整えて攻撃態勢に入る。
次は剣を外から横薙ぎに振るってくるから、そちらへ盾を向けると、容易に盾で防げた。
早めに盾を構えたから、相手が剣を振り切る前に防御できたため、剣を持った側の胴体が丸見えだ。そこにめがけて剣を突き刺すと、胴体全体が真っ赤になり、そのまま粒子になって消えた。
「ソルジャー倒すのはっや!」
すでにゴブリンを倒している銀華が、そんな感想を言ってきた。
「いや、銀華こそ速いけどね?」
「こっちはただのゴブリンだからな。パターンもわかってるしもう簡単だよ」
「ソルジャーも似たようなものだよ」
「ギンガが最初にソルジャーと戦ったときは、アオナと一緒に戦ったのに素早くて苦戦したぞ」
そんなことを話し合ってると、蒼奈と茶子がやってきた。
「ふたりともはやいね~」
「ほんと、一瞬だった」
「でしょー?」
銀華と一緒に笑顔でピースをする。戦闘技術が上がってきた!
「それで、仲間を呼ぶ様子はあった?」
「「あ」」
そんな暇を与えずに、一気に倒してしまった。そういえば、倒すのが目的じゃなくて実験だったっけ。
あらためて、もう一度見張りを倒す。今度は時間をかけて倒したところ、戦闘中に仲間が奥から2体やってきた。それでも、小屋や柵に阻まれてこちらには来れない。
蒼奈と茶子が戦闘に加わっても援軍が増える様子もないから、援軍は2体で固定かも。
見張りを倒してから、援軍のゴブリンを倒さずに小屋の外へ誘導したら、私たちを探すことなく見張りを継続した。援軍として呼ばれたけれど、直接私たちを見ない限り戦闘状態にはならないのかもしれない。
「見張りを倒し続けたら、ゴブリン拠点は空になるかな?」
再度見張りを倒して、ゴブリン拠点から少し離れたところで4人集合した。
「洞窟内でリポップしているなら、ずっとこのままだね」
「経験点には良いんだけどね~」
「リーダーが出てくる気配なさそう!」
レベルは全員9まで上昇したから、このまま戦い続ければ良いレベル上げの場所にはなると思うけれど、クエストもクリアしたい。
「レベルの上昇が鈍くなった気がする。最初は家を建てるだけで上がったのにいまは全然上がらない」
蒼奈の言う通り、かなり色々建築や生産したはずなのに、レベルの伸びは悪い。レベルに応じた建築やモンスターがあるのだろう。
「じゃあ、そろそろ洞窟内に入る?」
「10まで上げよう~」
「探索する時間もないからな!」
確かに、今から中を探索しても時間が厳しいよね。仕切りなおして翌日の探索のがよさそう。
「現実側の時間も夕方。明日にする?」
「頑張ればあと2日もあればクエストはこなせそうだね」
「昨日は頑張りすぎたから、帰るの遅くなったんだよね~」
「じゃあ、レベル10まで戦って、続きは明日だな!」
自宅からアクセスすれば普通に遊べるんだけど、このゲームに関しては、学校だけで遊ぶって決めてある。パーティーを組んでいれば、レベルの上がり具合も同じになるからね。一緒に成長できるのが楽しい。
ということで、入口の見張りを狩り続けるよ!
ゲーム内時間で12日目です。初日が6日間、二日目も6日間。
ゲーム内の1日は、現実で1時間。体感は2時間で、昼は100分、夜は20分。
夜は、ゴブリン戦を除き寝てスキップしているので、現実で5時間ほど部活動しています。
狩りを早く切り上げた程度では、茶子の帰宅時間はほぼ変わりません。




