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ネムくんと選択肢  作者: アメイロ ニシキ
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主人公なら強くならないと

 ⇨【遊ぶなど愚の骨頂。最強と名高い剣聖に限界ギリギリまで鍛えてもらおう】


 「何言ってんだよライ」


 「え?」


 「俺が今日、贈り物(ギフト)を貰うためだけに街に来たとでも思ってるのか?」


 「違うのか?」


 違わないよ。


 「もちろんだ。これから俺は最強の剣聖から指導を受けるつもりなんだ」


 「さ、最強の剣聖って、もしかしてあの!?」


 「ああ、その剣聖だ」


 どの剣聖だよ! 知らねーよ誰だそれ! テキトーな事ほざいてんじゃねぇぞコラァ!


 ああそうだよ、一番下の選択肢を選んださ! 当然だろ! 仲良く全裸で逃走劇すんのも男引っ掛けて掘られるのも絶対嫌じゃ!

 そんなに俺を変態にしてぇのか! ハッ、残念だったな、そう簡単に人の道を外れたりするものかよ!


 「故に俺は遊んでる暇なんか無い。全ては未来を見据えての布石。万全を期する者こそが本物の強者なのだ」


 いや俺が見据えてる未来は鍛える必要の無い平凡な未来だから。強者なんざ知るかボケ、人の生き方捻じ曲げんのやめてもらっていい?


 「そこまで考えてたのか。やっぱり凄いなネムは!

 よーし、じゃあ俺も付き合うぜ! よく分かんないけど、せっかく勇者の贈り物(ギフト)も貰ったんだし、試してみるにはちょうどいいからな!」


 お、それは名案だ。運命選択に翻弄されたまま1人で突っ込むのは、如何に鋼のメンタルを持つ俺でも耐えられるものじゃないからな。

 一緒に恥を晒す要因は1人でも多く居てほしいぜ。道連れだ道連れ。



 【無難に帰らせる】

 【イケメンに傷が付いては事だ。キスをして帰っていただく】

 【剣聖にライを旦那と紹介するまたと無いチャンスだ。ついて来てもらう】



 だから選択肢の意味ぃぃ!!! コイツ絶対俺で遊んでるだろ! 事あるごとにイケメンに欲情させようとすんなバカ! こんなん1択だろうがチクショーめっ!!!



 ⇨【無難に帰らせる】



 「いや、ライは先に帰っててくれ。2人揃って帰りが遅くなると身内が心配するからな。母さん達にもライから説明しておいてもらえると助かる」


 「なるほど、確かに」


 食い下がれよテメー! 引き止めるか無理にでもついて来いって! お前それでも親友か!


 「フッ、まぁ家で待っておくといい。帰る頃には俺は剣聖を超えているさ」


 超えれるか! 剣聖がどんなもんかは知らんけど、最強とか言われてる奴を半日で追い越そうとかナメてんのか俺!? つーか本当にそんな人居るの!?


 「凄い……本当に凄いぜネムは。なんというか、凄いの化身だな!」


 語彙力ガキンチョかお前。何だよ凄いの化身って意味わからんわ。


 「分かった、ネムの両親には俺から説明しとくよ。息子さんは最強になって帰ってきますってな」


 「流石はライ、分かってるじゃないか」


 分かってなぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!!! やめろぉお前バカ! 無駄にハードル上げんな! ボコボコにされる未来しかねーんだよ! 何でそんな疑う事を知らない純粋な心で居られるの!? おかしいと思わねーの!?


 俺が関わると判断力バカになんのいい加減治せ! というかいつになったら俺の意思で喋れるようになるのこれ!?


 「よし、そうと決まれば応援しないとな。頑張れネム!」


 「言われるまでもない」


 ああ、足が勝手に動く。謎にクールぶって格好つけてるバカが死にに行こうとしてるよ。頼むから止めて。


 そんな願い虚しく、背後からはライの的外れなエールばかりが聞こえてくる。薄々分かっていた事ではあるが、お前やっぱりバカだわ。イケメンの面が泣いてるぞ。俺によこせ、有効活用してやるから。


 「お土産よろしくなー!」


 「任せろ」


 剣聖とやらを超えに行くアホに同じくアホなこと言ってるアホ。ほら、やっぱりバカだ。でもそのバカさ加減、嫌いじゃないぜ。今はクソだけどな。



 結局、俺の体は自由にならないまま大通りに進み、何処に居るとも知らない剣聖の元へと歩みを進めるのだった。






――……。







 床に胡座をかいて座り、どこかぼんやりとしながら前を見つめる。視線の先で行われているのは、門下生達が木剣を振るう変わらない光景。


 毎日毎日毎日、もう見飽きてしまった日常。


 魔王(・・)が地の底へ封印され世界は平和となり、もはや私の剣も必要なくなった今、やる事を探してとりあえず剣術道場を開いたまではよかったが……私はその決断を大いに後悔している。


 始めたばかりの頃は良かったものだ。多くの入門生に剣術を教える日々が新鮮で毎日が充実していた。

 命を奪うばかりだった私の日常がガラリと変わったのがたまらなく嬉しくて、楽しかった。


 ここに来る皆が私を慕い、教えを請う姿に胸を踊らさなかった日は無かったものだ。



 ……しかしその熱も、ここ数年で急速に鎮火してしまった。



 今でも門下生の私に対する感情は変わらない。慕い、尊敬し、憧れている。それを嬉しく思うのも事実だが……それだけだ。


 この場に居る門下生の誰も彼もが、たったそれだけの理由で剣術を習いに来ている。命を奪う技を真に理解しないままに、私に聞いてくるのだ。


 どうすれば先生のような凄い存在になれますか、と。



 その問いに対する答えを私は持ち合わせていない。剣を振り続け、気づいた時には今の地位に立っていた。どうすれば? そんなものは私が聞きたいくらいだ。


 それに気に食わないのだ。私のようになりたいだけで剣術を習おうとするその性根が何よりも。


 私の背ばかりを追い続けるだけ。追い越し、真に強くなりたいと思っている者が居ない。それに気付いてしまってからは、この毎日が酷くつまらなくなってしまった。


 憧れの気持ちを否定するつもりはない。しかし、誰もその先のビジョンを明確に示せていない。

 目指す場所が無い者に剣術を教えるのは、もはや苦痛でしかないのだ。


 「先生! どうですかこの剣捌き! 少しは上達したと思いませんか!?」


 「んー? あぁ、そうだな。上手い上手い」


 「よっしゃあ!」


 門下生の1人に声をかけられ、視線を向けた先には何もかもがお粗末な所作で木剣を振るう若い男。


 上達? 馬鹿を言うな。夢中になって棒切れを振り回している子供と何ら変わりないではないか。

 教えても教えても向上する余地無し。本気で強くなろうとしていない者がどれだけ剣を振るおうが児戯でしかない。だから、もう真面目に教える気にもなれなかった。


 テキトーに返事を返しておけば勝手に満足してくれる。本当に、こんな奴ばかりだ。


 この道場を開いて早数年。今までただの1人でさえ私の魂を揺さぶる者は現れなかった。惜しい者も居るには居る……が、所詮は凡人。


 はぁ……何処かに居ないものかな。たとえ才能が無くとも、どこまでも強くなる事に貪欲で、目指すべき高みや目標が明確に見えている素晴らしい人材は――。


 「んたのもぉぉぉぉぉぉぉぉうっ!!!」


 「ん?」


 ため息ばかりが口をついて出てきてウンザリしていたその時、道場の門が蹴破らん勢いで開け放たれた。

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