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妖精と神官  作者: 爽健茶美
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6 異世界人

 

 翌朝、横長のテーブルにギッシリと並んだ豪華なブュッフェスタイルな朝食を部屋着のままいただいていたレイは、フリードリヒ宰相から突然の訪問を受けた。


「先ずはレイ様、改めまして光の属性おめでとうございます」


「ありがとうございます。すみません、昨日はご挨拶もなく寝てしまって。よろしければ、こちらにお座りください。あとあの、食べても?」


 宰相は、ソファーに座っているレイの前にある山盛りフルーツを見た。


「はい。私こそ公務の関係上とはいえ、このような時間に申し訳ございません。お気になさらず、どうぞ」


 レイは新鮮なフルーツをフォークで突き刺し、口に入れるとモグモグした。


「今日はこの後、お二人の異世界人と面会していただきます」


 レイは昨日のアルフレッド王子の話を思い出して頷いた。


「日本から来られたという、例のお二人ですね」


「はい。そこで少々前置きをさせていただきたいのですが」


 宰相は少し声のトーンを下げた。


「今日のところはまだ、お二人とも属性の話は避けていただきたいのです」


 レイはそれこそ真っ先に話そうと思っていた件だったのでガッカリした。


「わかりました。でも何故ですか?」


「ええ。実は、属性に関しましては、家族や恋人や上司など、基本的に極親しい人にしか話さないのが普通なのです。人によっては自ら進んで話す人もおりますが、特に闇属性の方は、友人が少なくなる傾向がございますので」


「うーん、はい。わかりました」


 返事をしながらレイは真剣な顔で、今度はモチモチのミニパンケーキにベリージャムバターを絡ませた。


 宰相は、そんなレイをジッと見つめた。

 レイは視線を感じ、顔を上げた。


「レイ様は、闇属性の者のことをカッコいいと思われているのですか?」


 レイは持っていたフォークを落としそうになった。


「何……もしかして」


「はい。ありがとうございます。とても光栄です」


 宰相はクスリと笑った。

 それからフリードリヒ宰相が後で迎えにきます、と出て行った後も、食べることを忘れ、暫く呆然としていた。


 凄いわ

 本当に心が読めちゃうのね

 てことは、昨日から私の心ダダ漏れだったの?

 早く言ってよ


 そして色々思い出しては悶えた。


 でもまぁ、本音トークだと思えば別にいいわね

 アルフレッド王子は風だったわ


 ファンタジーを実感したレイだった。



 フリードリヒ宰相が迎えにきた時レイは、髪を下ろしたままふんわりメイクをし、服はガーリーなワンピースでまとめていた。

 そして、宰相の横に並んで歩くと、子供のようにチラチラと宰相の様子を伺った。


「フリードリヒ様、今も私が考えていることが聞こえたりするんですか?」


 宰相はチラリとレイを見て、また前を向いた。


「普段は色々と疲れますので聞かないようにしてますが、意識して聞こうとすれば可能ですよ」


「そうなんですね」


 レイは嬉しそうに笑った。

 宰相はそんなレイを不思議そうに見つめた。



 宰相に連れられて談話室に来たレイは、大きなソファーに座っていたタイプの違う二人の異世界人を紹介された。


「レイ様、こちらの方々がマリー様とアユミ様です」


 二人はサッと立ち上がった。


「初めまして、レイさん。私がこの中で一番先にトリップしてきた真理(まり)。歳は一応十代。皆はマリーって呼んでるから、よろしくね」


 最初に挨拶をしてきたのは、派手な化粧の勝気そうな女性だった。

 ウィッグだと思うが、金髪で盛りに盛ったヘアスタイルに、これから夜会でしたよね?な格好をしていた。


 この上なくケバいわね

 出勤前ですか?

 絶対小悪魔何ちゃらって雑誌買ってたわね

 あ、聞こえちゃうかも


 レイは、思考ダダ漏れを覚悟した。


「初めまして、(レイ)です。私も十代。マリーでいいのかしら。私もレイって呼んでね」


 レイはまだ挨拶していない、立ち上がったまま俯くもう一人を見た。

 こちらはマリーと対照的に肌は白いが黒髪ショートで今時珍しい素顔のままの大人しめな女子だった。


「初めまして、あなたはアユミさん?」


 アユミは日本人らしく深く頭を下げた。


「……初めまして、レイさん。(あゆみ)です。あの、私も十代だし、呼び捨てで構わないから」


 声小っさ!

 こっちは真面目そうね

 ていうかその服どこで買ったの

 侍女さん達より地味じゃない

 まぁ、どっちか闇属性かも知れないけど、仲良くなれたらいいわね


「こちらこそよろしく、アユミ」


 レイも軽く頭を下げた。


 宰相は、また夕食にお声がけいたします、と扉の外に護衛を立たせたまま出て行った。

 三人は向かい合ってソファーに腰を下ろした。

 宰相が出て暫く経つと、どこからともなく数人の侍女が現れ、ササッと素早くお菓子やお茶の準備をして出て行った。


 三人は年も近く、最初から既に名前呼びをしていたので、すぐに仲良くなることができた。

 クッキーを食べ、紅茶を飲みつつ、三人はお互いのトリップ前後の話で盛り上がった。

 マリーはお客さんと店前同伴する日にトリップしたらしい。


「あの時は死んだかと思ったわ。お店まで近道だったからホテルの通路を通っただけだったのに、変なモヤモヤが襲ってきて。こっちに来たらまぁ悪くない待遇だったけど、でもタイミングが悪かったのよね。お客さん、スっごくイケオジだったの!」


 マリーは彼氏を作らず、若いうちに遊ぶ派らしい。


 一方のアユミは、模試会場に急いでいて抜け道としてホテル脇を通ろうとした時だった。


 「私も死ぬんだと思った。今までの人生が走馬灯のように頭をよぎっていったもん。テスト対策もしてたのに受けれなかったのが無念だったな」


 そして二人ともレイと同じく王子達に保護された。


「レイは偶然じゃなくて意図的な感じよね」


「私もそう思う。義理のお姉さんが怪しいよね」


「うーんそうね。でもいい人なのよ」


「「「うーん」」」


 三人は首を捻った。



「そう言えばレイの二つ名だけど、妖精とか言われちゃってるらしいわよ」


 真ん中に赤いジャムが入ったクッキーをつまみながらマリーが言った。


「ふーん?まぁ、そういうのは言われ慣れてるから」


 レイが肩をすくめて答えると二人がギョッとした。


「レイって……日本人よね?よく自分で言えるわね。何か凄いわ」


「そう?ありがと」


 別に褒めてない


 マリーとアユミの心は一つになった。


「そういう二人は何て呼び名なの?」


 すると二人は、ぎこちなく笑って互いに顔を見合わせた。


「私は、ブラッディマリー、らしいわ」


 レイは紅茶のカップを持ったまま固まった。


「何、その痛いネーミング」


「私だって嫌だけど?仕方ないじゃない、陰で勝手に呼ばれちゃうんだから。理由は聞かないで。言いたくないから」


 マリーが腕を組んだのでレイは微笑んだ。


 残念

 面白そうなのに

 聞く気満々だったのに


「アユミのは聞いていい?」


 アユミがビクッとした。

 顔も赤い。

 ふとマリーを見ると、口を抑えてアユミと反対側の横を向いていた。


「言いたくないなら別に……」


「……の人」


「ん?何て?」


「だから、こ、孤高の人!」


 耐えきれなくなったマリーが吹いた。


 レイは全く笑わなかったのだが密かに、私だけ妖精だなんて……やっぱりね、と思っていた。



「で、誰が良かったのよ。レイの好みの護衛騎士とかいた?」


 話が変わって、どんなのがタイプなのタイムになり、マリーが体を乗り出して聞いてきた。

 心なしかアユミまで興味がある様子でソワソワしている。


「騎士様?は別に。私のタイプはエル様だから」


「ええっ!?エル様ってあの神官長?嘘でしょう?あなた、あんなヒョロヒョロ色白オバケがいいの?趣味悪いわね。私はやっぱり、騎士みたいに実戦で使える筋肉がないと嫌だわー」


「そうかしら?こっちこそムッキムキ筋肉オバケとか本当にムリなんですけど」


「あっそ。趣味が全く違うわね」


「そうね」


 け、喧嘩になるのかな?


 アユミは二人の間でハラハラした。



「ナイスタイプ違い!」


 急に二人がハイタッチしたので、アユミは固まった。


「あーよかった!レイは顔も良いし儚い感じがホント妖精みたいだから、こっちでウケよさそうでしょ?ライバルとしては危険だと思ってたのよー」


「そうでしょうね、よくわかるわ。だけどそういうマリーも、その身体はもはや凶器でしかないわ。何その胸。何か入ってるの?」


「やダーもう自前よ、自前!」


 二人は盛り上がってキャッキャし始めた。


 私は?


 と、アユミは思った。



 その時、夕食のお時間です、と扉の外から声がかかり、今日の談話が終わった。


 夕食は軽めの洋食コースで、其々の部屋で食べる。

 異世界人は、保護される立場なので、どうしても国の重鎮か護衛や侍女に囲まれることが多くなり、中にはそれをストレスに感じてしまう人もいるらしい。

 レイは昔からその容姿で、人に囲まれることには慣れていたので全くストレスを感じなかったが、一般の人は食事の時くらい一人になりたい、といったところなのだろう。

 そして、いろいろ話したのにも関わらず神官長のことをすっかり聞き忘れたのだった。



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