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ひとことでは話せない

「ボクはね、『思い出』って物が一番嫌いなんだ」

 唐突に幽霊の彼女は口を開いた。


「いっつも、いっつも、思い返しては悦に、或いは鬱に。自分を構成する一部って言ってるけど。大半は恥ずかしかったり、忘れたかったり。人は忘れる動物?細部を記憶できず、何となくで感情ばっかり記憶して。そんな曖昧な物に何の意味が有るって言うんだい。失敗を生かしたくば鮮明に覚えて置くべきだし。経験だけを残しておきたいなら、感情なんて記憶保存させるべきじゃない。大事なのは客観性を持って記憶する事だ。それを何故主観的に覚えているか、ボクは不思議でならないよ。

 ああ、人間はなんでこんなに不完全なんだろうね。

 せめて感情を残すにしても、感情を先行させずに残しておきたいものだ。さっきも言ったとおり、記憶は客観性を持って更に有用性を増す。

 何で思い出は何時でも。こんなにも、腹立たしいんだろうね?」


 桜の木の下、季節外れで華は無く。

 それでも柳の下にいるよりは、この幽霊に似合う気がする。

 その幽霊、綺麗ではある。

 だが、おどろおどろしくも無ければ誘うような華も無い。

 強いて挙げるなら、ただひたすらに空に向かって葉をのばす木々の強さ。

 華麗であると言うよりは、例え地を這いつくばっても立ち上がる美しさ。

 死んで幽霊になった、だから何だ?

 そんな風に一笑してしまうような強さがその幽霊にはあった。


「思い出で一番多いのは後悔だ。

 次いで悲哀、同順で恐怖と怒気。その後にようやく優越や喜び、楽しみが続く。

 まるで人間はネガティブに生きているようじゃないか。何故、自身の喜びを鮮明に記憶しない。なに、『ぼくは喜びや楽しみの方が多く覚えている』だって?

 それは、笑わせる。

 思い出したくないだけの間違いだろう?

 後悔や失敗の果てに初めて成功があるんだ。一の成功をするためにはそれ以上の失敗が必要だ、ざっと見積もっても。

 何倍の失敗で凡才。

 数回の失敗で秀才。

 同数の失敗で天才だろう。

 一を知らずに一を得るのは神様だけの特権だろうさ。

 ボクは別に思い出がネガティブだから悪いって言ってるわけじゃない。ネガティブに思えるのが悪いって言ってるんだ。失敗は成功までのステップだ。なのに腹立たしい事が腹立たしい。必要なことを必要と思わせづらくする、人間のシステム。

 これが本当に頭に来る」


 そこまで一気にまくし立てると一息ついた。

 よくもまあ、あれだけしゃべってられるものだ。

 幽霊だから、息を吸わなくてすむのだろうか?

 そんな風に眺めてるとまだ釈然としない様子で。


「つまりだ。思い出したくない事は仕方のないことだ。後悔が先行し、嫌な気分になることだろう。思い出など思い出さない方が良い。その上、客観性をともわない記憶なんて価値が薄い。ならば両者思い出さないのが最良なのではないか?

 ……ってので、手を打たないか?」

 

 彼女は赤い顔を隠すようにそっぽを向く。


 あれだけ長いことを喋っておいて、言いたいことはただ一つ。

 ようは『仲直りしたい』って言っているらしい。

 全く、素直に言えば言いものを。

 彼女との仲直りは解り辛くて困る。

 ぼくは彼女に見えないよう、こっそりと微笑むようにため息を吐いた。

祝10回目かつアクセス300ヒット。

読んで頂いている皆様に感謝を込めつつ。

最初に戻ってテーマ設定。

『思い出』『仲直り』『幽霊』の三つでした。

最初は死んだ彼女が幽霊になって仲直りするストーリーを考えましたが、ここは敢えて自分に厳しく、悲劇ジャンルを封印。

そして作者は難産に苦しみながら、ツンデレってものに挫折しました。

何気にキャラクター下地で『下らない話』を使用しています。

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