サイゴノキセキ
浄化は全てを奪う。
幸せを謳いながら、私の幸せを奪っていったのだ。
一人、浄化に汚染された丘の上で私は約束を思い出していた。
最初に彼にあったのは何年前だっただろうか。
周りは墓銘碑の刻まれた墓石ばかり。
そんなこの丘で少し小高く、唯一死者の眠らない場所。
私の両親は交通事故でなくなった。
近所でも評判の仲の良い両親で。
実家に行く際、少しぐらいデートでもしたら?
なんて気を回して二人で出かけさせたら、次にあったのは病院の霊安室だった。
めまぐるしく状況が変わり、少数派宗教であった両親を土葬で土に入れ。
誰も居なくなった家には居たいとも思えず、かといって涙を流すには少しばかり泣きすぎた。
でも、これからなんて考えられもせず。
とりあえず、何となく見えた目標まで歩いてみて、一本だけ立っている桜の木をどうする訳でもなく呆けて見ている。
「死ぬのは簡単。
でも、幸せに死ねるのは難しいよ?」
右手を掴まれる。
そのとき初めて自分がロープを持っていることに気が付いた。
そのあとはなし崩し的だった。
堰を切ったが如く色々な感情が飛来し、それを黙って聞き続けてくれる彼。
何も言わずに安心感をくれる彼に恋に落ちるのは死ぬことよりも簡単で。
いつの間にか私は彼と婚約するまでに至った。
そこで浄化である。
無差別に全てを白い砂にする怪奇現象は、有る程度の地下層には届かない。
世界はこぞって地下都市の建設を初め、それでも定員は人類の10%にも満たない。
そんな莫大な値の付いた切符を私に渡し。
「地下シェルターの切符は二枚あるから一緒に行こう」
そう言って私を騙したのは一年と少し前。
地下都市への門の前で満員電車の様な動く歩道に私だけを乗せると。
「じゃあね、元気で」
告げていた彼の顔は今でも鮮明に思い出せる。
でも、私は、そんなことよりも。
彼に騙されて、でも別れたくなくて。
どうにかしてもう一度、今度会ったときは怒ってやるつもりで。
私のためって解ってるけど、許せないものは許せなくて。
彼の行為を無駄にするかも知れないけど。
「一年後!
次に扉が開いたら!
最初に会った木の前で!!」
次に地上への扉が開くのは一年後。
そのときに一発お見舞いするつもりで。
そして一年間はあっという間と過ぎ。
やっと戻った地上の世界を見て、私は絶望した。
まるで世紀末。
街道には夜盗が現れ、平気で悪事を働き。
幼い子供達は盗みに明け暮れ、女は春を売って命を繋ぐ。
そんな中で私は必死になって目的地を目指した。
何度も汚れながら、何度と死にかけながら、行き着いた先。
そこは浄化に汚染されていた。
どんなに辛くても流れなかった涙が流れ落ちた。
ただただ、悲しかった。
それでも諦められなかった。
諦めるなんて出来なかった。
……だから。
私は浄化の境界線を越えた。
そこまで思い出して、ふと目を開ける。
ボロボロに崩れ落ちた両足を見て、それでも淡々としている自分。
とうに覚悟は出来ていた。
幸せには死ねなかったけど。
それども後悔なんて一片も無い。
だから、これでいい。
これでいいんだ。
自分に言い聞かせるように頷いて、また体の一部が崩れ落ちる。
ザッ、ザッ、ザッ、って感じのまるで足音のような音で。
足音?
誰も居ない筈のこの場所に。
私の体に影が落ちる。
まさか、まさか、まさか!
今、体を動かせば死んでしまう。
そんなことは解っている。
それでも私は顔を上げた。
「……やっと、会えた」
顔なんて涙で見えない。
それでも解る。
彼だ、彼が来てくれた。
彼を抱きしめようと賢明に腕を伸ばす。
次から次へと手は崩れていくけど、そんなものは構わない。
もう一度抱きしめられた。
それだけで良い。
「幸せに死ねたよ。
きみの……おか…げ……で……」
七回目(幸せを願う謳)改。
幸せを願う謳をリメイクしようとして完全に別物になった気がする。
下地には一回目の『最後の奇跡』が使われています。
ちなみに私は条件付きで自殺肯定派。
「死ぬ瞬間、幸せと思えるなら別に良し」
残念ながら、生きてる方が面白く幸せなんで自殺する機会がありませんけど。




