墓守の唄
「『浄化』を受けた人ですか?
助かりませんよ。
特に汚染地域内に居れば浸食は早まります。
それでなくとも一度汚染されたら、数週間で砂になってしまうそうですね。
でも、浄化発生時が一番浸食されやすいらしいですから。
何せ、一分とかからずに全身が砂になるって聞きますし」
こほっ、こほっ、と咳き込む少年。
口に手を当てるとそこには白い砂が。
「気分ですか?
痛い訳でも、苦しい訳でもないんです。
ただ、自分が消えていくと言う事が辛い。
……いいえ、違いますね。
きっと、自分が思い出になってしまうのが辛いんです。
そして、忘れられていくのが悲しいんです」
右目と左手に巻かれた包帯は生々しく。
時折、白い砂がこぼれ落ちる。
日本人であった筈の黒髪は、今や色素が抜けて灰色がかり。
彼の死期が近づいている事を物語っていた。
「やり残した事ですか?
……なかなか、意地の悪い質問をされるんですね。
正直に言えば、いっぱい有りました。
例えば『バンドを組んでみたい』とか。
これでもギターだったら弾けるんですよ、ボク」
子供が自慢気に玩具を見せるように微笑む彼。
実に無邪気で、包帯が痛々しく。
「でも、もう、この手ですから」
そう言って見せられた左手は、水で固めて乾かした砂の様にパサパサで。
触れれば砕けてしまうんじゃないかと思わせるに十分だった。
「お話はお終いですか?
それでは、ボクはこれで。
ええ、お墓に向かいます。
忘れるのは悲しいですから。
浄化汚染地域なのは、勿論知っていますよ」
そんな場所と知っていて、尚も足をそちらにむける彼。
何故自分から命を縮める、死にたいのか?
激しいバッシングを受け、それでも墓守の少年と言われた彼は微笑んでこう告げる。
「例え死んでも、せめて一人ぐらいは自分を覚えていて欲しいと思うじゃないですか。
それならボクは覚えておいてあげたい、名も知らない死者達が最後に去りゆく姿を」
それっきり彼は振り返らなかった。
私は何か、何か声をかけて彼の足を止めようとする。
だが、彼の歌い出した唄が聞こえたとき、彼を追う足が止まってしまった。
咳き込みながら
それでも歌う『Amazing Grace』
果たして名も知らない死者達の最後を見届けた彼を、誰が最後に見届けてくれるのだろうか。
四回目、個人的に大好きな作品。
テーマ『墓守』『歌』『取材』
この少年の報われなさはお気に入り。




