楽園は近くも遠く
その声は天使と呼べるべき綺麗な声。
それでも浮かべた笑みはイタズラする小悪魔のようであった。
「ねぇ、お父さま。
全知全能の神様は本当にいらっしゃるのですか?」
盲目の少女は礼拝堂の一番後ろに座り、自分の目の前まで歩いてきた神父に話しかける。
「ああ、勿論いらっしゃるとも。
全知全能かは知らないが、我々は神様の無償の愛に包まれているのだから」
それを既に知っていたかのように、自然に盲目の少女へ対して答える神父。
少女は神父の答えに対して少し首を傾げ。
「それでは、お父さま。
人は何故、生まれてくるのでしょう?
とある教徒では輪廻の輪から外れる事を目標とし。
とある教徒では死後、神の国へ誘って頂けます。
それならば、最初から生まれることの無かった運命が一番清らかなのでは無いでしょうか?
現世に汚れることもなく、罪を背負って生きる事もない。
本当に人を神様が愛して下さっているなら、人という存在は生まれなかったのではないでしょうか?」
その問いかけに神父は微笑みを返し。
子供に教える教師のような態度で、その問いかけに訂正を加える。
「いいや、それは違うよ。
神様は人々を愛して下さっていた。
しかし、人々はその愛を裏切ってしまったんだ。
楽園を追放される罰を犯してしまったんだ。
だから神様は人々に最後の手段として。
死後、神の国への門を開いて下さるんだ」
少女はその答えに少し考えるようにして人差し指を口に当てると、何か思いついたような笑みを浮かべて無邪気に質問を返す。
「では、お父さま。
何故神様は人を楽園から追放したのでしょう?
私なら処分いたします。
全知全能であらせられる神様ならば、最初の人をもう一度作るなんて簡単なことでしょう?
罪を背負ってしまうのならば、愛を持って断罪するのもまた慈悲だと思います。」
神父は困ってしまったような顔を浮かべ、しばしの間考え込んだ。
それでも時間は数秒程度だったのだろう。
「それは……」
意を決して神父は口を開き。
「それは興味が無かったから、ですよね。
お父さま」
少女の声が遮った。
「神の家に悪魔が入れないのと同様に、悪魔に誑かされた人は楽園に居続けることが出来なかった。
追い出されたのではなく、出て行くことしか出来なかった。
神様はそんな物に興味が無かった。
だから、土の子は咎人の生を受けた」
嬉しそうに自分の回答を述べる少女。
そんな無垢な笑みを見て、張っていた気が抜けるかのように苦笑する神父。
「そうだ、だってめんどくさいだろ?
たかだか咎人に時間を割いてやるのは。
勝手に死ぬんだ、別に放っておいても害は無いさ。
死後は神の国に行けると咎人は言うが、私としては罪人と共に有りたいとは思わないな。
全知全能ならば確かに慈愛を持つかもしれないが、楽園を追放される罪を犯すと予知出来ない時点で全知では無いと何故気付かないんだろうね?」
コロコロとまるで鈴が鳴るように笑う少女。
一本取られたと、苦笑する神父。
幸せそうな神の家では、楽園に相応しい光景が広がっていた。
「今日の『人の真似』。
なかなかに面白い趣向でしたね。
ところで、お父さま。
今更何故、『浄化』などをおやりになさったのですか?」
「いやぁ、最近楽園も手狭に感じたから……」
三回目、でも一作品を没に。
『神父』『天使』『皮肉』がテーマ
変わり種をいれたいと思い、宗教をモチーフに
でも、オチは弱いか?




