ワールドエンド
機材の準備はオールグリーン。
気分や調子もオールオッケー。
誰が聞いているのか解らないけど。
ガラクタの世界から電波は届く。
スピーカーからノイズ混じりの声が聞こえる
ハロー、ハロー、聞こえてますか?
滑稽な世界のどこかに向けてご挨拶。
まるで人をバカにしている様な気にさえさせる。
定時刻通りに始まるラジオ。
きっと道化の仮面が良く似合うパーソナリティ。
当ラジオは今回を持って、恐らく最終回を迎えます
こちらの生存者は私一名、今もなお止まることなく浄化は続いており
町の殆どは白い砂となってしまいました
食糧も底を尽きました、浄化を止める術もありません
私の生存も絶望的にあります
世界を砂に変えてゆく、謎の自然現象『浄化』
つい四年前に始まった浄化は今も続き、世界を終わらせんとして
一年前に世界の三分の一を砂に変えたところから、私はどうなったかを知りません
このラジオを聞いて居られる方はいらっしゃるでしょうか?
私は居ると信じて、電波を発信し続けて居ます
別に私を助けて欲しいと嘆いて、電波を届けている訳ではありません
むしろ、私を助けないで欲しいとさえ思っています
きっとこのラジオが終わる頃にはこの放送局も砂の楼閣となるのでしょう
無駄に命は散らすモノではありません
アナタの命を指図することは出来ませんが、私の望みはただ一つ
生きて下さい
どんなにみっともなくても良い
生きて居ることに価値があります
勿論、死ぬことにだって価値はあります
でも、生きて続けて下さい
貴方達に託したい思いがあります
貴方達は既に託された思いを背負っているかもしれませんが
それでも託したい思いがあります
気負わないで下さい、気楽に行って下さい
死んでしまう時なんて呆気ないものです
どうせなら、自分の納得出来る死に方を選んで下さい
自分で死んで、本当に納得出来るのでしょうか?
それは貴方達の命なので私ではわかりません
私には全く貴方の気持ちが解らないのです
気持ちが全く解らない
だから、身勝手な思いを貴方に託します
生きて下さい
押し付けてしまうのは心苦しいですが
私は自分で納得できない終わり方なんて認めないのです
せめて最後に何かを
ひとカケラでも良いので何かを
出来ることならこの世界に一つを
私が居たと言う証を残したいのです
だから、生きて下さい
これが貴方に託す最後の言葉です
さて、ここまで散々嘆きました
それでも私は貴方を指図出来る訳がありません
生き方も自由、死に方も自由
最後に決めるのは貴方次第です
私が望んだ願い、私が託したい思いはただそれだけ
せめて、貴方の望む終わりを私は願っています
本当の事を言えば……悔しい
…本当に……悔しいけど
貴方の生き方に…何も出来ない…何も関われない
もう少しだけでも、夢を見続けたかったけど
顔も見えない生きてる貴方が羨ましくて、何より妬ましい
だけど…だから、最後に一つだけ恨みごとを
『生きて下さい』
そろそろ放送終…時刻が迫……きました
ラ…オ『w…d end』、…終…送
パーソ…リティは……し……『……の』………りし…した
マイクをオフにする。
また、何時か仲間達に会える日を夢見て。
流した涙さえ砂に変わってゆくこの中で、私は満足気に微笑んだ。
21回目、最初にして最後の物語
リメイク前の作品に感想を受け、オムニバスで書き出したのが「終わりゆくフラグメント」の最初のきっかけです
短編「world end」は純粋に思いを綴っただけの作品でした。
その思いが変質していない事を祈って物語に幕を下ろさせて頂きます。
見ていただいてありませんございました。