狂話終焉
「かくして世界は終りゆく」
誰に聞かれる訳でも無い、それでも溜め息のように吐き出された言葉は重く。
彼の瞳はゆらり、ゆらりと揺れていた。
彼を人と言うものは居ないだろう。
人と言うには余りに強く。
人と表すには二本の角がそれを否定してる。
その姿はまさに鬼。
ただ強く、人の届かぬ頂きにて人の世を儚む。
人を越え、人が恐れ、人が敬う。
それゆえに人は彼を鬼と呼ぶのだろう。
その鬼は独り、桜の木の下で盃を干す。
その独白を聞く生者は無く。
傍らには壊れかけたラジオが一つ。
ノイズ混じりの電波が、まるで人を馬鹿にしたような軽薄なノリを届けてで終わりを飾っている。
「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。
沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理を表す…か」
周りを見渡せば何と言う事はなく。
今すぐにでも人間の生活が成り立ちそうな空間が広がっている。
ただひとつ違う点があるとすれば、人は全て己が身体を忘れて動いていることだろう。
「結局、人とは滅びゆく運命だったのだろうな。
林檎をかじった時から楽園を逐われる。
神様だろうと理に逆らえないのだから、存分に栄えた人間なんて脆いものだよね」
いつの間にかラジオも終焉を伝え、もうすぐ最後の人間も消えるだろう。
鬼は人の顔ほどある黄色い盃をひと撫でし、静かに無表情で終わりを待つ。
人を愛し、人と語り、人を知るモノは最後に何を思っているだろうか?
その表情から計り知ることは出来ない。
悲しみ、だろうか?
慈しみ、だろうか?
ノイズ混じりの声が終わる頃、そんな無表情は微笑みに変わる。
「猛る神にも終わりはある。
盛者は何時か衰退する。
また会おう友よ」
声と共に盃を空へと放り投げる。
黄色い盃はまるで満月のように空で輝き、地面に落ちて砕け散った。
「欠けぬ望月などないのさ」
20回目、エンディングになりそうな話がテーマ
今回の没話数は中途半端も併せて13作
全ては最良を目指して書いていたがため。
自分はプロじゃないのだから書くことに意味がある…と感想に元気づけられた。
読者さんが優しくて泣きそうになったのが、俺のなかでの一番の収穫だとおもう。