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墓守の詩

「すみません、火をつけていただけませんか?

 え、ああ。ライターはズボンの左ポケットに入ってますので」

 浄化アポカリプスの境界付近。

 私は不思議な少年と出逢った。

 左腕は無く。両足も無い。

 顔は口と右目以外を隠すように包帯で覆われ。

 真っ白に漂白したかのような髪の毛は、まるで白い砂の結晶のようだ。

 時折咳き込むと砂を口から吐き出し。

 その動作だけで、体のあちこちから砂の体が崩れていく。

 誰の目から見ても浄化の末期だと解るだろう。

 私は言われるがままに彼のポケットからライターを取り出し、くわえている煙草に火をつけた。


「ありがとうございます」

 車椅子を隣に置いて石碑に寄りかかる彼は。

 顔をしかめて思いっきり煙草を吸い込み。

 そして、大きく咳き込んだ。

「カライ……」

 吸い慣れてないのに煙草を吸うからだろう。

 苦く多い副流煙から、かなりキツい煙草だと言うことが直ぐに解る。

 嗜好品なんて手に入らないこの時代に、彼は何を思って吸っているのだろうか?

 ジッと煙草を見ている事に彼も気が付いたのだろう。

 彼は恥ずかしそうにはにかみながら。

「ところで、貴方はここにどのような用で?此処にはこの石碑しかありませんよ」

 目を閉じ、私に言葉を投げかけ。

 咳き込まないよう吐き出された紫煙はゆったりと空に舞い上がり、苦い匂いを残して消えて行く。

 口を開こうとしたとき、その一瞬前に彼は閃いたようで。

「ああ、この石碑を見に来たのですか。物好きですね」

 目線で悟ったのだろう。

 気怠げに唇を歪め、もう一度紫煙を吐き出し。

 私は黙って頷いた。


「これは実験で死んでいった者達の慰霊碑です。

 浄化アポカリプスの人体実験の。

 幾人も幾人も光が及ぼす効果を計る為、この先の境界を越えさせられました。結局解ったことは『何も解らない』ことが解っただけ。それだけのために今や境界を越えた全員がこの慰霊碑に名を刻んでいます。

 ボクの名前も……ほら、ここに」

 口の端にくわえられた煙草。

 何時の間にか煙草は短くなり、静かに灰は地に落ちる。

 その煙が昇って行く先を見ながら、彼は語り続けた。

「ボクたちは、ね。希望に賭けたんです。

 自分で自分の短い希望に火を灯した。

 結局、燃え尽きてしまったんですけど。後悔なんて無い」


 一度煙草を指に挟み、口から離す。


「だって、貴方達に希望は託せたのだから」


 吐き出されたのは紫煙じゃなくて、感情だった。


「人類の科学では太刀打ち出来ない事が解ったのです。

 それはつまり、人類に残された時間が後僅かしかないと言うこと。

 でも、元から人間なんて死んでしまう生き物でしょう?

 だったら結局、同じ事。

 大丈夫、貴方達なら楽しく生きれる。

 残った時間で、悔いなく生きれる。

 1分でも、1秒でも、楽しく、笑って」

 そう言い終えると彼は煙草をもみ消し、箱を右手で回して遊ぶ。

 私はなんとなく、これ以上居てはいけない気がして。

 踵を返そうとした。

 だが、それは少年の声で止められる。


「もう行かれるのですか。なら、ここで会ったのも何かの縁。

 よければ、これ。さしあげますよ」

 そう言って私に箱を投げてよこした。

 放物線を描きながら飛んでくる煙草の箱。

 だが、飛距離が足りずに途中で墜落し。

 転がりながら私の靴にぶつかる。

 煙草なんて据えない私は、苦笑いしながら屈んで受け取ると。

 一応、礼を言おうと少年の方に視線を戻し。

 そのままの姿勢で固まった。

 動けるはずもない、少年はどこにも居ない。

 今までの事が白昼夢と言う奴なのだろうか。

 唯一残った煙草の箱を見つめる。

 小さな箱には青い文字で『HOPE』と書かれ。

 箱をスライドさせると、まだ八本入っている。


 煙草なんて吸えないけど。

 一本くわえて、火をつけた。


 希望ホープなんて名前の癖に、なんて辛い。

19回目、初回原案の『墓守』。

実は『墓守の唄』は第3案だったり。

私(作者)は愛煙家です。

作中の出てきた煙草は実際の煙草で『HOPE』。

タール14mgのなかなかキツい、でも旨い名作煙草です。

ところでこの作品、何か足らない気がする。

何が足りないんだろうか?


21話で完結予定。

後少しの間、よろしければお付き合いください。

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