星に願いを
浄化が公になって3年も過ぎる頃になると、世界終焉は目前のものとなっていた。
浄化とは光にして毒。
触れたものに幸福感という甘い思いを与えながら、砂へと帰す災害。
紫外線の如く世界を覆い。
汚染の強弱はあれど、地球内の万物は浄化と言う毒素に侵され。
有象無象の区別無く、白い砂となりだしていた。
そして紫外線に弱い人間が居るのと同様に、浄化に対抗出来る強弱も、やはりある。
浄化の光毒が回りやすい体質の者は……。
夏の海、時刻は夜。
空は見渡す限り星が自己主張しあい。
うちよせては返す波の音以外に聞こえる物は無い。
世界が変わることのない平穏だったならば、今頃は観光地としてにぎわっていたであろうその場所。
けれど今は俺と彼女以外に誰も居ない。
どうやら俺に気が付いた彼女は髪の毛を揺らし、微笑んでいる。
今のミディアムも似合ってはいるが、こうしてみるとロングを懐かしく思ってしまう。
前まで腰ほどあった長い髪は、今は肩口までしかなく。
彼女が振り向くと同時に毛先から砂を落とす。
髪を切ったわけじゃない、髪が砂になって消えたんだ。
浄化の病状は個々でバラつきがあり、それこそ十人十色。
彼女の病状は外見に目立った変化はそれぐらいしか無い。
だが、既に彼女の中はほとんどが砂となり、医者は生きている事を不思議がる程に汚染は進行している。
「夜風は体に毒なんじゃないの?」
質問に対して真面目に考え込む彼女。
その間に俺は彼女の隣に腰をおろす。
彼女もこの質問が挨拶代わりと最初から解っていたのだろう。
シニカルに笑いながら「今更なんじゃないかな?」なんて答え、目は閉じられたまま俺の方へと振り向いた。
「それに浄化なんて猛毒が空気の如く蔓延しているんだ、夜風の毒なんて微々たるものだろ。だったら、こんなに綺麗な夜空を一番良い場所で見て居たいな」
彼女の瞼の中に両目は無い。
それでもこの空を『綺麗』なんて言う彼女の無い目には、一体どんな風景が見えているのだろう?
ふと疑問に思って空を見上げ、やはり相も変わらず眩しい程に光り輝く星達が目に映る。
彼女もこんな夜空が見えているのだろうか?
「ふふ、星を見上げたね」
敏感に気配を感じ取り、シニカルだった笑いを嬉しそうに変えてくる。
その様子はまるで尻尾を振ってるにゃんこみたいだ。
気まぐれな所が特に。
そんな気まぐれにゃんこは嬉しそうに微笑みながら。
「星はなんで輝くか知ってる?」
意地悪そうに質問を投げかける。
無難な答えを探しつつ、俺は首を傾げながら。
「水素か何かが燃焼してたり、恒星の光を反射したりするんじゃないの?」
何時も通りに知ってる知識を動員し。
やっぱり何時の通りに、結局はにゃんこに笑われてしまう。
「ははっ、相も変わらず真面目さんだね。嫌いじゃないよ、そういうの」
いやいや、好き嫌い以前に模範的解答だし。
「私としてはもう少しロマンチックな答えが欲しかったかな」
そう言って、遠い所を眺めるように顔を上げる彼女。
そんな仕草を見ていると、彼女が近くに居るのに遠い気がして。
背筋が冷たくなった。
だから会話を続けて、彼女が近くにいると言うことを自分に言い聞かせる。
「じゃあ、君の解答は?」
「人は星に願いを乗せ、願いで星は輝き出すの。
でも時々、願いを想い過ぎて星達もおちてしまう。
そして、願いも星も流れて消えてしまう。
流れ星に願いを込めるなんて皮肉なものよね。
流れた雲だって二度と同じ物は無いわ。
それと同じように、流れた星も流れた願いも二度と叶わないのに。
終わりゆく願いの最後に願いを乗せるなんて、笑っちゃう。
それとも3回唱えるなんて無理な注文をつけてるあたり、最初から叶わないって言ってるのかしらね?」
喋っているうちに寂しそうな顔になる彼女。
何時の間にか2人の会話は無くなり、波の音だけが残る。
彼女の寂しそうな、それでいて悲しそうな。
心が裂かれるような空気が辺りを支配する。
何か喋りたい。けど、何を喋ればいいか解らない。
そんなジレンマの中で、ふと肩に暖かい物が乗っかった。
何時もより近い彼女の声が寂しそうに聞こえる。
「私はね、星に願ってるんだ」
何となく「何を?」なんて聞こうと思えなかった。
その代わりに、頭を撫でてやる。
「もう少しだけ君と一緒に居れる事を」
空に一筋の光が流れおちた。
18回目、北極星から連想したストーリー。
携帯からだと会話は一言で切らない方が読みやすい。けど、PCからだと切った方が伝わりやすい。迷うところですが、切る物と切らない物を分ける方向で。基本は切ります。
最近、自分の哲学を入れだして初心を忘れてる気がする。
メッセージ性なんてどうでもいいから「綺麗な散り方」を練習しようよ、俺。