焼肉とキシリトールガム -5-
「僕とお付き合いを!」
「お付き合いを……何よ」
「お付き合いしてください!」
「やだ」
僕の5度目の告白もあっけなく散った。こんなこと言うとあれだが、予定通りである。
今から、僕の増大された魅力を存分に彼女へお伝えしたいと思う。
「貴女にあの日言われてからですね。ジムに通い始め、更にはアメフト、サッカー、ドッチボールにセパタクローと……スポーツ三昧の日々を過ごしてきました」
「【セパタクロー】って何?」
「簡単に言うと、足を使って行うバレーボールです」
「へー、楽しそう」
「よければ、ご一緒に」
「それは、いいや。就活で忙しいし」
彼女が珍しく机に向かって、ペンを手に取っているのはそういう訳か。
僕は背後から、それを覗いた。
「あっ、その会社は去年僕、受けたよ」
「え、どうだった?」
「一次面接後に、無事お祈りされました」
「だよね」
彼女はさらっと僕の心を抉った。
「あんたは就活始めないの?」
「僕は、今そんなことしてる場合じゃないからさ」
「いやいや、セパタクローしてる暇あったら就活すべきでしょ」
彼女はど正論で、またしても僕の心を抉る。
僕が、セパタクローをしてるのは彼女に見初められたいが為なのに。
全然報われない。
「あんた、それより単位は大丈夫なの?また留年する気?」
「……大丈夫」
「もうそろそろ、ちゃんと卒業に向けて頑張った方がいいんじゃない?」
「……そうかもしれない」
なんだか自分が情けなくなってきた。
こんなんじゃ、彼女に見初められるどころか、軽蔑されかねない。
「そ、それじゃあこういうのはどうです?」
「ん、なに?」
「僕が卒業することができたら、僕と――」
「あのさ」
彼女はペンを机の上に投げた。
「そういうの、もうやめない?」
「え?」
「あんたさ、本気で私と付き合う気あるの?」
「い、いや、それは勿論……」
「ならさ、そうじゃなくない?」
彼女はため息を吐いた。
「別に私、あんたのこと嫌いじゃないわよ」
「へ?」
「顔も悪くないし、私のことを好きだって言ってくれるのも嬉しい。私が言ったことを鵜呑みにして努力してくれる姿は、可愛いとも思う」
「……」
「だからこそ言うけど、私を本気にさせたいんなら軽口みたいに【付き合って】って言ったり、私の言ったこと鵜呑みにしてやってる場合じゃないでしょ。あんた、私に遊ばれてるんだよ?分かってる?」
「……」
「……ちょっと言い過ぎたかもしれない……でもさ。あんたが本気なんだとしたら、なんか可哀想な気がして。この前、あんたの顔見てて、そう思った」
「僕は、その……」
「ちょっと気まずくなっちゃったね。今日はこんなもんかな。ごめんね、一方的にしゃべっちゃって」
彼女は立ちあがり、帰り支度を始めた。
僕はそれを立ち竦んで、見つめた。
「じゃあね。とりあえず、来年は、卒業しなさいよ。あんたの為にもね」
彼女はそう言って立ち去る。
僕は、頭の中がぐちゃぐちゃになってしまった。
焼肉とキシリトールガム -5- ー終ー