変な夢見ちゃったな
優香は夢を見た。
世界は真っ白な霧に包まれていて、夜みたいに暗い。ぼんやりとオレンジ色の灯りが漂っていて、それだけが点々とこの道の先まで見えていた。道?そういえば、ここはどこなんだろうか。霧が濃くて、足元もあまり見えない。
でも、彼女には確信があった、先に行けば何かがある。オレンジ色の灯りを追いかけるようにフラフラ歩き続けた。
しばらく行くと先に見える灯りが青っぽい冷たい色に変わっていた。急に空気が冷えて、この先にあるものが自分にとって良いものなのか、疑問に思い始めた。後ろを振り返ると、濃い霧を染め上げたオレンジ色の灯りがまるで夕陽みたいで、寂しくなった。
それでも歩き続けると、途端に霧が晴れた。目の前には大きな鳥居があり、その先に神社のような建物がたっている。
これはいったいなんだろうかと左右を覗き込みながら2、3歩進むと、いつのまにかさっきまでは気づけなかった看板が立っていた。
『来世案内所
御用の方はこちらから→』
矢印の方に目をやると、観音開きの大きな扉がギギギと開いた。
すると、中からガヤガヤざわざわ、人の喋り声や電話の鳴る音、あちこちで打たれるキーボードの音が鳴り始めた。
「ですから、こちらでできるのは来世の案内のみでですね、はい、決まった来世を変えるというのはできかねるんです。申し訳ございません。」
「すいません、新規の来世紹介状ここ置いときます。」
「ちょっと待って、まだその来世の申請書類終わってないから。」
「そうですね、そのような希望はこちらで承ります。はい、では面談の日時なんですが―――」
「お客様、お客様!」
いつの間にか扉のすぐ横に、背の低いスーツを来た男が立っていた。
「お名前をお伺いしてもよろしいですか?」
スーツの男にそう聞かれ、彼女は素直に答えた。
「あ、後藤みのりです。」
見知らぬ名前を口走ったが違和感はない。
スーツの男は大げさに頷き、営業スマイルをニコリと決めた。
「後藤みのり様ですね、面談のご予約、承っております。こちらへ。」
そう言いながら、手のひらで来世案内所の奥を示した。
あくせく働く人々は皆少し背が低いように感じる。机も椅子も少し小さい。その間を抜けて奥の部屋へ。面談室、と札がかかっている。スーツの男は、そのドアをガチャリと開けると、また手で部屋の奥を指し示してどうぞ、と言った。
席につくとスーツの男は片手に持っていたいくつかの書類をまとめたクリップボードを机の上に置き、ペラペラとめくった。
「後藤様の前世ポイントでしたら、大抵どの種類の生き物にもなって頂けますよ。」
「はぁ、そうなんですか。」
「人間以外でしたら人気なのは犬や猫ですね、はい。最近はイルカなんかも―――」
スーツの男が饒舌に来世の生き物のおすすめを語るのを黙って聞きながら、彼女は考えた。
猫になって気ままな野良猫生活もいいし、犬になってご主人様と優雅な飼い犬生活もいい、だけどやっぱり、約束があるし―――
約束?なんだっけ、それ。
「忘れるところだった…。」
いつの間にか言葉が口をついて出た。
「どうかなさいましたか?」
スーツの男は不思議そうな目をこちらに向けている。
「私、前世で約束してたんです、また会おうねって。だから、だから人間に…!」
スーツの男は丸くしていた目を細めてニコリ、と笑った。
「かしこまりました。では来世は人間の、女性でよろしかったですか?」
「はい。」
「では、来世は人間の女性ということで、こちらの書類にサインを―――」