第92話 リビング・アーマーだと?
少し短めです。m(__)m
「くそっ、この小娘が!」
「小娘じゃなくて、セリシエルなんだよ。名前くらい覚えてほしいんだよ!」
「黙れ!」
どことなく間の抜けた言い合いと剣戟の音が響く。
セリシエルとボルドの戦いは、ほぼ五分と五分で推移していた。
スピード重視のナヴェットとは違い、ボルドはパワー重視の戦闘スタイルらしく、攻撃力自体はボルドの方が上回っているのだが、セリシエルは女性特有のしなやかな身体を生かして巧みに攻撃を回避し、或いは小盾で受け流していなすので、有効打を与えられずにいる。
「いい加減、死ねェ!」
攻撃が当たらないことに苛立ったのか、大雑把なボルドの剣戟を、セリシエルはバックステップで距離を取って回避した。
そこへ――
ボォン!!
「がぁ!!」
真横から飛んで来た炎の矢をまともに浴び、衝撃で吹き飛ばされてしまう。
「私のことも忘れないでほしいな」
結衣の《赤熱の矢》だった。
「おのれ、小娘どもが……」
身体から黒煙を立ち上らせながらも、ボルドは剣を杖代わりにして身を起こした。
見れば、《赤熱の矢》が直撃したにも拘らず、纏っている黒装束は所々焦げているだけで目立った破損が見られず、本人も軽い火傷で済んでいた。
「あれ? あんまり効いてない?」
仕留めるつもりで放ったにも拘らず、あまり効果が無かったことに結衣が首を傾げて訝しがる。
「たぶんあの服、魔法防御力が高い素材で出来てると思うんだよ」
「なーる」
セリシエルの推測に、結衣は納得気に頷いた。
「じゃあ、私はあんまり役に立てないね」
「援護してくれれば充分なんだよ。魔法単体じゃ効きにくいかもしれないけど、<魔法剣>なら通じると思うから」
「貴様、魔法剣士か!?」
結衣とセリシエルの会話を聞いて、ボルドが驚きの混じった声を上げた。加えて、セリシエルの推測は図星だったらしく、覆面から除く相貌には焦りの色も浮かんでいる。
「たかが小娘どもに、このオレが――」
「小娘だけじゃないぞ?」
突然背後から掛けられた声に、ボルドがぎょっとして振り返ると、刀を担いだ慎也と、その背後にユフィアが立っていた。
「何故お前が? ナヴェットはどうした?」
「お仲間なら、向こうで黒焦げになってるよ。一応、生きてはいるがな」
実際、ナヴェットはまだ息があったが、もう時間の問題だろう。仮に意識を取り戻しても戦えるような状態ではないので、止めよりも結衣とセリシエルの加勢を優先したのだ。
「大人しく降伏するなら命は取るつもりはないが、どうする?」
「ぐっ――」
覆面越しでも、ボルドが苦虫を噛み潰したような顔をしているのが判った。もう1人の仲間、モークは相変わらずのびたまま。ナヴェットも敗れ、孤立無援状態。逃げようにも慎也たちに包囲されていて、その隙も無い。
完全なチェックメイト状態――と、思いきや。
「舐めるな、冒険者風情が!」
突然ボルドが叫び声を上げたかと思うと、懐から野球の硬球ほどの大きさの紫色の水晶を取り出した。
「召喚!」
ボルドの声を合図に、水晶が魔力の光を発したかと思うと、地面に水晶と同じ紫色の魔法陣が浮かび上がり、そこからなにかが這い出して来る。
「なんだ!?」
「召喚!?」
慎也とユフィアの声が重なる。
現れたのは、重厚な甲冑に身を包んだ2人の騎士。双方ともまったく同じ赤の鎧を纏い、どちらも両端に鋭利な刃を有するスピアを装備していた。身長はどちらも2メートル近い。
「こいつら……」
突如現れた2人の騎士を見て、慎也は憎々し気に呻いた。
彼の目には、2人の騎士の正体が映っている。
レッド・リビング・アーマー×2
レベル:29
生命力:3000
魔力値:444
筋力:893
敏捷:589
スキル:<槍術597><体術460><連携509><魔力操作453><魔法槍511><火魔法362><氷魔法362><雷魔法362>
【魔術によって生み出された動く鎧。様々な亜種が存在する。生物ではなくゴーレムの一種。意志を持たない為、上位者の命令に機械的に従うだけの存在。非常に高度な魔術によって作り出されたため、戦闘能力は熟練の騎士や冒険者にも匹敵し、<魔法槍>スキルも持つ。同じ型の2体による連携攻撃を得意とする】
「リビング・アーマーだと?」
視界に表記された情報から、眼前の騎士が人間ではなく、リビング・アーマーだと知って愕然とした声を出す慎也。
「その通りだ。こいつらは我らが作り出した最新鋭の魔術生物。そこいらの魔物とは訳が違う。出来れば使いたくなかったが、止むを得まい!」
ボルドが自慢する通り、レベル、ステータス、スキル共にその辺の魔物とは段違いのスキルだ。しかも魔法まで使えるらしい。
「お前ら、いったい何者だ?」
これほどの魔術生物を有している以上、ボルドたちのバックに居るのは単なる犯罪組織ではあり得ない。
「これから死ぬ貴様らに教えてやる義理は無い。やれ、お前たち。そいつらを切り刻んでやれ!」
ボルドが命令すると、リビング・アーマーたちの兜の隙間に魔力の光が宿り、ガチャガチャと音を立てて慎也の方へと歩んでくる。
「慎也君!」
「セリスと結衣はそいつを倒せ! リビング・アーマーはオレとユフィアでなんとかする!」
「判ったんだよ!」
慎也の指示を受け、セリシエルと結衣が改めてボルドに向き直る。
幸い、2体のリビング・アーマーはいずれも慎也とユフィアの方へ向かって来ている。
「馬鹿め、勝てると思っているのか!」
「思ってなきゃやらねぇよ!」
勝ち誇るボルドに慎也が怒鳴り返し、イクサを構えてリビング・アーマーを睨みつける。
幸い、レベルやスキルに関しては慎也の方が上だが、楽観出来るほどの差ではない。しかも相手は2体ともなれば、尚更だ。
「シンヤさん……」
「頼むぞ、ユフィア。いまは、お前だけが頼りだ」
心配そうなユフィアに、慎也は振り返ること無くそう答えた。その声に余裕は無く、濃い緊張が含まれていた。
ぎゅっと、ユフィアは杖を強く握った。
結衣やセリシエルと一緒であったなら、さほど苦戦すること無く倒すことの出来る相手だろうが、いまは慎也とユフィアだけで戦わなければならない。正直、かなり厳しいと言わざるを得ない状況だ。
(私がしっかりしないと!)
いま、慎也の背中を守れるのは自分しかいない。自分がしっかりしなければ、慎也を、大切な人を死なせてしまうことになる。
(それだけは、絶対にさせません!)
決して譲れない想いと覚悟を込めて、ユフィアは答えた。
「はい、任せてください!」
私がシンヤさんを守るんだ――
その想いをあざ笑うかのように、2体のリビング・アーマーが、その鈍重そうな見かけとは裏腹の素早さで慎也に突進してくる。
(速い!)
予想外のスピードに面食らいながらも、慎也は刀にありったけの魔力を宿してそれを迎え討つ。
ガキンッ、と、激しい剣戟と魔力の光を迸らせ、3枚の刃が激突した。
拮抗は一瞬。2体のリビング・アーマーが力任せにスピアを押し切ると、慎也はそれに逆らわず、身体ごと剣を退いて後方へ下がる。それに追い打ちを掛けるように、リビング・アーマーの1体が前に出て来て、慎也の腹目掛けてスピアを突き出す。
それを刀で払い退けた次の瞬間、もう1体が仲間の背後から慎也の側面に回り込み、真横から奇襲を掛けて来た。
「うおっ!」
首を狙って突き出された槍撃を間一髪、上体を仰け反らせて回避。眼前を横切るように突き出されたスピアを左手で掴み、お返しとばかりにリビング・アーマーの腹に蹴りを見舞った。
「痛った!」
だが、それでダメージを受けたのはむしろ慎也の方だった。
リビング・アーマーというから、てっきり甲冑の中身は空っぽだと思いきや、実際はびっくりするくらい重かった。恐らくリビング・アーマーの体重は100キロを遥かに超えている。そんなものを蹴飛ばせば、当然痛い。
(中になにが入ってんだよ!)
足の痛みを我慢しつつ、心中で毒づく慎也。
だが、蹴られたリビング・アーマーの方もその衝撃で数歩、後方へたたらを踏んだ。その間にもう1体が横薙ぎに槍を振るうが、これもバックジャンプで躱す。
後方へ跳びながら、慎也は手にしていたイクサを空中へ放り投げた。代わりに、腰のホルスターから魔法銃――スコルとハティを抜き、着地と同時に2体のリビング・アーマーに狙いを定め、間髪入れずに連続発射する。
マシンガンを凌ぐ連射速度で放たれる魔弾の雨を、2体のリビング・アーマーは、信じがたいことにスピアを振り回しながらことごとく叩き落していく。
(マジかよクソッタレ!)
まさか数百発もの嵐のような魔弾を放ちながら、1発も命中しないというのは完全に慎也の想定外だった。しかし、リビング・アーマーたちも、押し寄せる魔弾を迎撃するので精一杯らしく、その場から動けずにいる。
それによって稼がれた貴重な時間を消費して、ユフィアは呪文の詠唱を終えていた。
「《聖霊の祝福》!」
ユフィアが杖を掲げると、離れた場所にいた慎也の身体を神々しい、神秘的な光が覆い包んだ。
その瞬間、慎也は、身体の底から力が沸き上がってくるような不可思議な感覚を覚えた。いや、実際に力が沸き上がってくる。
神聖系の上級魔法《聖霊の祝福》。
使用者、あるいは対象者の能力を一時的に向上させる効果を持つ。
具体的には、各種のステータスを大幅に増強し、さらに<HP回復量増加><MP回復量増加>などのスキルを与えることが出来る、補助系の上位に属する魔法であり、ユフィアが使用できる最上級の補助魔法だ。
「サンキュー、ユフィア」
救いの手を差し伸べてくれたユフィアに礼を言いつつ、慎也は射撃を中断し、魔法銃を2丁ともホルスターに戻すと、徐に右手を頭上に掲げた。
そこへ、計ったようなタイミングで、先程頭上に放り投げたイクサが落ちて来た。
「《我が身に宿れ火の精》」
さらに慎也は自分自身に新たな補助魔法をかける。
ユフィアの掛けた神聖系の魔力光に覆われた慎也の身体の表面に、うっすらと赤い魔力光が発せられる。
《我が身に宿れ火の精》は<火魔法>に属する補助魔法の一種で、自分自身の攻撃力を上昇させるというもの。
ユフィアの使った《聖霊の祝福》とは比べるべくも無いが、魔法を操りつつ接近戦を旨とする魔法戦士が好んで使う魔法だった。
慎也もまた、その例に漏れず、《我が身に宿れ火の精》を習得している。もっとも、使えるようになったのはつい最近だが。
「《満たせ》――ミコト」
慎也の言葉を合図に、彼の愛刀であるイクサが淡い光に包まれ、見る間に形を変え、白塗りで染めたような白色の刀へと変化した。
慎也の愛刀であるイクサは、進化型複合霊刀と呼ばれ、《剣神》と呼ばれたドワーフの鍛冶師、ヴァルディが造り上げたエクセリオン・シリーズという、進化する武器の一種だ。
人間と同様、経験値を溜めてレベルアップさせることが出来る。そして、レベルアップするごとに新たな型が解放される仕組みになっており、型に応じて特殊なスキルが宿っている。
そして、一度解放されると”機動句”という、特定の合言葉を発することで任意に解放することが出来るのだ。
慎也が使える型はまだひとつだけ。それが、壱の型・ミコトだった。機動句は――《満たせ》。
生命力を司る刀であり、回復、補助系魔法の効果が増幅する他、<闘気>が強化される効果を持つ。
「さあ、第2ラウンドと行こうか」
ミコトを上段に構える慎也に、2体のリビング・アーマーが殺到した。
エンジェル・プラネットも更新していますので、よかったらそちらもどうぞ。




