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異界の刀銃使い  作者: 太公望姜子牙
天使の章
96/135

第91話 これは戦であって決闘じゃないんだ

戦とは複数VS複数が当たり前なのです(=゜ω゜)ノ

 盾投げと蹴りを喰らったナイフの黒装束――モークと言う名らしい――が崩れ落ち、力の抜けた腕の中からルピィをセリシエルが救い出す。

 そして、モークの頭を直撃して跳ね返り、頭上に舞い上がって落ちてきた盾をキャッチして、素早く後方へ跳んで黒装束たちから距離を取る。


「モーク!」

「くそっ、もう1人いたのか!?」


 仲間を倒され、人質を奪われた2人の黒装束が焦った声を上げてセリシエルを見やる。


 そう、黒装束たちは経緯は不明だが、慎也のパーティメンバーに関して情報を得ていた。それだけでなく、《槍穹の翼》のことや、彼女らと合同で依頼を受けてこの村へやって来たことも知っていた。


 だが、彼らの情報には重大な抜けがあった。

 慎也のパーティに新たに加わったセリシエルの情報を、彼らは入手していなかった。


 会話からそのことを確信した慎也は、ちょうど偵察の為に村を離れていた彼女が戻るまで、なんとか時間を稼ぐことに専念した。

 もちろん、そのことは結衣とユフィアも気付いていて、余計なボロを出さないよう、2人はあえて口を噤んだのだ。


 正直、一か八かではあった。

絆の契約パーティ・コントラスト》はパーティメンバーのおおよその位置は伝えてくれるが、通信のような機能は無い。故に慎也には、村を離れていたセリシエルに状況を伝える術が無かった。

 戻って来たセリシエルの行動如何では、危機を脱するどころか悪化させる恐れすらあったのだが、どうやらそれは杞憂に終わったようだ。


「なんかよく判んないんだけど、ルピィちゃんをイジメて泣かしてたし、見るからに悪者っぽいから、取りあえず盾を投げといたんだよ!」


 抱えていたルピィを地面に降ろし、得意げにセリシエルは言い放った後、首を傾げた。


「で、この人たちは誰?」

「ふざけやがって!」


 子供っぽい、傍から見ればふざけているようにも見えるセリシエルの言動に、2人の黒装束は激昂する。


 結果、慎也から注意が逸れた。その隙を見逃さず、《見えざる手(アステロイド)》を発動し、先程地面に捨てた魔法銃を回収。


「ナヴェット!」


 それに気付いた長剣の黒装束が叫ぶのと、慎也がカタールの黒装束に発砲したのはほぼ同時だった。

 ノータイムで発射された魔弾はカタールの黒装束――ナヴェット――の後頭部に直撃する寸前、振り返りもせずに斜めに体勢を傾けたナヴェットの覆面を掠め、明後日の方向へと消えた。


「貴様!」


 回避した際の勢いを利用し、身体を横に回転させつつ、見事な身のこなしでナヴェットが慎也の方へ向き直る。


「黙れ下郎」


 ぞっとするような冷たい口調で、慎也が呟くように言った。

 魔法銃に続いて回収したイクサを手に、ナヴェットの方へ踏み出す。


「幼子を人質にし、罪も無い村人を傷つけた狼藉の数々、もはや是非に及ばず」

「あ、慎也君が武将モードになった」


 口調の変わった慎也の背後で、杖を拾いながら結衣が呑気に呟いた。


「この場で獄門に処してくれる」


 イクサを鞘から抜き放ち、吐き捨てるように慎也は宣言した。


「訳の判らんことを!」


 慎也の時代がかった言い回しを理解できなかったらしく、ナヴェットが苛立たし気に吐き捨てる。


「どうする、ナヴェット?」

「ボルドはモークをやった女を始末しろ。オレはこいつを()る。その後でモークを回収し、村ごと始末して撤収する」


 ナヴェットの言葉を聞いて、慎也は心中で怒りを再燃させた。


(やはり村ごと滅ぼすつもりだったか)


 言動から判断するに、ナヴェットたちが単なる盗賊や暗殺者の類ではないことは判っていた。恐らくなんらかの闇組織、あるいはそれに準ずるなんらかの集団に属する工作員だろう。


 話を聞くに、盗賊たちに奪われた「壺」とやらを回収する為にここへ派遣され、どうやってか、自分たちが「壺」を奪った盗賊を殲滅したことを調べ、奪還する為にここへ来たのだ。


 これだけの騒ぎを起こした以上、目撃者を生かしておくことはしないだろう――と慎也は踏んでいたが、案の定だった。


「外道が」


 人の命をなんとも思わないその性根を、慎也は心の底から嫌悪した。


「ルピィ!」

「お兄ちゃん! お父さん!」

「大丈夫か!? 怪我は無いか!?」


 セリシエルに助け出されたルピィが、リュンやヒューゴと抱き合っているのが見えた。


(殺させてたまるか。村の人たちには、指一本触れさせない!)


 その決意が伝わったのか、セリシエルもまた、黒装束たちを挟んだ向こう側で、剣を抜き、盾を構えて臨戦態勢を取る。


「皆さん、ここから離れてください!」


 ユフィアが集まった村人たちに避難を呼びかけていた。一触即発の雰囲気を察した村人たちは、それに従って蜘蛛の子を散らすように逃げていく。


「兄ちゃんたち、頑張って!」


 ルピィを抱えたヒューゴに手を引かれたリュンが、慎也たちに声を掛けて走り去っていった。


「シンヤ、この人たちって、悪者だよね?」


 途中参加で状況がいまいち飲み込めていないセリシエルが、慎也に確認してきた。


「ああ、極悪人だ。村人を傷つけ、ルピィを泣かせたた上に、オレたちを皆殺しにするつもりらしい」

「むっ! やっぱりとっても悪い人たちなんだよ! それなら、遠慮なくやっつけるんだよ!」

「やってみろ、クソガキども!」


 ナヴェットが吠えると同時に、2人の黒装束はそれぞれ慎也とセリシエルに躍りかかった。


 慎也のイクサとナヴェットのカタールが、セリシエルのショートソードとボルドの長剣が激突し、激しく火花を上げた。


(速い!)


 判ってはいたが、ナヴェットと呼ばれた黒装束の腕前はかなりの物だ。踊るような軽やかな身のこなしで、リーチの短い2本のカタールを変幻自在に操り、息付く間も無く次々と斬撃を放ってくる。しかも速度重視に見えるその攻撃には、カタールに纏わせた相当量の闘気によって、見かけとは裏腹にかなり重い。その技量は、先日戦った盗賊の頭目の比では無かった。


「どうした? さっきまでの威勢の良さはこけおどしか?」


 防戦一方の慎也を小馬鹿にするように、ナヴェットが挑発する。


「されば――」


 横真一文字に放たれた斬撃を慎也は身を屈めて躱し、同時にナヴェットの膝目掛けてイクサを振るう。だが、ナヴェットはそれを読んでいたらしく、慎也に繰り出そうとした斬撃を中断し、その場で地面を蹴って飛び上がり、慎也の刀を躱すと同時に顔面目掛けて蹴りを放つ。


「!」


 こめかみ目掛けて飛んで来たナヴェットの爪先を、慎也は身体を真横に投げ出す勢いで傾けることで辛うじて回避した。爪先を掠めた髪の毛が数本、宙を舞った。


 地面に倒れ込む形で体勢を崩しながらも、慎也は咄嗟に魔法銃を引き抜いて発砲した。


「チィ!」


 追撃を仕掛けようとしていたナヴェットが、舌打ちしながらも飛来した魔弾をカタールで弾く。それによって稼がれた貴重な時間を使って、慎也は体勢を整えて改めて刀を構え直した。


「なかなかやるようだが、いつまで持つかな?」

「無論、お前がくたばるまでだ」

「ほざけ!」


 再度斬撃の嵐を放ってくるナヴェットに、慎也は内心で舌打ちした。


(悔しいが、確かに技量に関してはこいつの方が上だ)


 カタールを持ちいた変則的な戦い方と、闘気を扱う技量。実際に刃を交えたことで、慎也は単純な戦闘能力に関してはナヴェットの方が自身を上回っていることを素直に認めた。


(ならば――)


 大振りに放たれたカタールの一撃を後方に飛んで躱しつつ――


「《戦具に宿りし雷の精サンダー・エンチャント》」


 自身の十八番(おはこ)である<魔法剣>を発動。

 俄かにイクサの刀身にバチバチと言う音を立てて蛇のような紫電が纏わりつく。


「雷属性の<魔法剣>!? クソ!」


 戦いを優勢に進めていたナヴェットが焦りの声をにじませる。


戦具に宿りし雷の精サンダー・エンチャント》は、その名の通り武器に雷を纏わせる魔法剣であり、退魔物戦よりも、対人戦において大きな効果を及ぼすことが多い魔法だ。


 何故なら、人間の多くは電気を通しやすい金属製の武器や防具を身に付けていることが多いから。もちろん、例外も存在する。例えば、ミスリルやオリハルコンといった希少金属は魔法に対する耐性が極端に高い為、雷属性の魔法と言えどほとんど効果を及ぼさない。

 他にも、魔法耐性を高める魔導具などを装備していた場合においても同様だ。


 だが、それらはいずれもかなり希少で高価な品物である為、おいそれとは手に入らない。

 ナヴェットたちの属する組織がどれほどの規模かは知らないが、敵対者に捕まる可能性の高い一工作員にそんな希少な物は持たせないだろう、と慎也は推測したが、どうやら正解だったらしく、慎也が《戦具に宿りし雷の精サンダー・エンチャント》を発動させた途端に逃げるように距離を取った。


「逃がすか」


見えざる手(アステロイド)》で逃げるナヴェットの足を掴む。


「ぬぅっ!」


 だが、さすがと言うべきか、ナヴェットはすぐさま足を振り払って《見えざる手(アステロイド)》の効果を霧散させ、拘束から逃れた。

 だが、そのわずかな隙に、慎也はナヴェットとの距離を詰めていた。


「くっ!」


 苦し紛れに地面を蹴り上げ、舞い上がった砂埃で目潰しを狙うが、慎也は頭をわずかに傾けただけであっさりを砂埃をいなし、勢いを緩めること無く紫電を纏わせた斬撃をナヴェットの肩口目掛けて振り下ろす。


「馬鹿め」


 嘲りの言葉を残して、ナヴェットの姿が慎也の視界からかき消すように消失し、イクサが虚しく宙を斬る。


(<閃駆>か!)


 致命的な油断。

 自分がもっとも得意とする移動法を、相手も習得している可能性に、何故至らなかったのか――


「死ね」


 背後に回り込んだナヴェットの、無慈悲な殺意を秘めた声。

 無防備に眼前に晒された慎也の首目掛けて放たれる、致命の一撃は――


「お前がな」

「な――」


 ――慎也に達する前に、間に展開された光の壁によって阻まれた。


 神聖系魔法《神秘なる光壁(セイント・ウォール)》。


 致命的な油断を犯したのは、慎也だけではなかった。より重大な油断と失敗を、ナヴェットは犯していた。

 それは、慎也1人だけに気を取られ過ぎたこと。

 敵は慎也だけでななかった。


 弾かれたように振り返るナヴェットの視線の先で、杖を掲げたユフィアが微笑んだ。


「私たちを忘れてもらっては困ります」

「この――」


 勝利を目前にしながらそれを邪魔されたことに、ナヴェットが怒りを沸騰させた、次の瞬間。


「おい」

「!!!」


 冷たい声に振り返ると、眼前に雷の刃を振りかざした慎也の姿があった。


「死ね」

「ぐ――」


 頭上から真一文字に振り下ろされた斬撃を、ナヴェットは<閃駆>で躱そうと試みたが、躱すにはあまりに遅く、あまりに間合いが近すぎた。

 頭への直撃を回避出来たことだけでも驚嘆に値するだろう。

 だが、それが限界だった。結果として、右の肩口に刃を受け、右腕を根元から切断されてしまう。しかもその刃は雷の魔法を帯びていた。


「ぎゃああああああ!!」


 腕を斬り落とされると同時に、ナヴェットの全身を凄まじい電流が駆け巡る。皮膚を焙られ、血を沸騰させられたナヴェットが、絶叫を迸らせ、黒煙と、肉の焼け焦げた堪らない悪臭を漂わせながら地面に崩れ落ちた。


「ぎ……ざ……まっ……」

「まだ意識があるとは恐れ入った」


 信じがたいことに、ナヴェットはまだ生きていた。並みの人間なら即死を免れない高電流に感電し、全身が焼け爛れた無残な姿になりながらも、その眼にどす黒い憎悪の光を宿らせ、ぜぇぜぇと荒い息を吐きながら怨嗟の声を漏らしている。


「ひ……きょ……う……」


 どうやら自分と慎也の戦いに、ユフィアが助太刀したのは卑怯だと言いたいらしかった。


「なにを言ってるんだ、お前は」


 虫の息のナヴェットを見下ろしながら、慎也は馬鹿にしたように嘆息した。

 ちなみに口調は元に戻っている。


「これは(いくさ)であって決闘じゃないんだ。複数人で数の優位を生かして当たるのは当たり前だろ? まあ、卑怯と言われればその通りかもしれないが、女の子を人質に取るような卑劣な連中には、相応しいやり方だろ?」

「ぐ……」


 呻き声を漏らして、ナヴェットは白目を剥いて動かなくなった。

 死んだかと思ったが、まだ息はあるようだ。虫の息だが。もちろん、だからと言って助ける気はないが。


「お疲れ様です、シンヤさん」


 そこへ、ユイナが歩み寄ってきた。


「さっきは助かったよ、ユイナ。ありがとな」

「いいえ。シンヤさんのお役に立てて、私も嬉しいです」


 無邪気な子供もような、屈託のない笑みで素直に喜びを表すユイナに、不覚にも慎也はドキっとしてしまった。


(聖女だな)

「? どうしたんですか?」

「なんでもない」


 誤魔化すようにわざとらしく咳払いする。


「さて、あっちはどうなった?」


 そう言って、慎也はセリシエルとボルグが戦っている方へ目を向けた。


エンジェル・プラネットも更新しています。よろしければそちらもどうぞ。

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