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異界の刀銃使い  作者: 太公望姜子牙
天使の章
95/135

第90話 マジで災いの種だった訳だ

少し長めです!(^^)!

「……どういうことだ?」


 状況が飲み込めず、慎也は密かに混乱した。

 最初に目にしたのは、広場のど真ん中に佇む3つの人影。いずれも黒装束に覆面を被っていて人相は伺えないが、体格からして全員が人族の男だろう。


 そのうちの1人は、ルピィを盾にするように抱え込んで首筋にナイフを突きつけている。他の2人はそれぞれ長剣と2振りの短剣――カタールという武器だろう――を持っていて、しかもいずれも血に塗れていた。


「……ッ!」


 慌てて周囲を見回して、慎也もようやく気付いた。男たちの近くに、何人かの村人たちが倒れている。

 ルピィを助けようとしたのか、あるいは男たちを取り押さえようとして返り討ちにされたのか。

 幸い、全員が生きているようだが、見た感じ、決して浅い傷ではない。


 その周囲には、武器を手にした村人たちが遠巻きに男たちを男たちを囲んでいたが、ルピィを人質にされて手が出せないでいた。


「ルピィを離せ!」

「よせッ!」


 甲高い声に視線を向けると、ルピィの兄であるリュンが棒を片手に男たちに突進しようとして、父親のヒューゴに取り押さえられていた。


(ヤバいな……こいつら、かなり出来るぞ。しかも、この臭い……)


 正体は判らぬまでも、3人の覆面たちから放たれる威圧感や微塵の隙さえも感じさせぬ立ち振る舞いから、いずれもかなりの手練れである、と慎也は直感した。

 自分でも1対1で戦って勝てるかどうか、というレベルだ。

 しかも、3人の身体から漂ってくる微かな臭い。


 それが、連中がかなりの危険人物であることを如実に物語っていた。


(単なる盗賊じゃないぞ、こいつら。なにが目的だ?)


 先日戦った盗賊たちと比べて、眼前の黒装束たちの雰囲気はまったく別種のそれだ。

 盗賊たちを野犬の群れとするなら、黒装束たちは訓練された軍用犬と言った感じだ。


「なんなんだ、お前ら!?」

「ふざけた真似しやがって! なにが目的だ!?」


 殺気立った村人たちが怒声と共に誰何するが、黒装束たちは無言を通した。

 ただ黙って、覆面から除く鋭い光を湛えた目で、周囲を取り囲む村人たちを1人1人値踏みするかのように睨みつけていく。

 刃のような鋭い眼光に睨まれ、何人かの村人はそれだけで震えあがり、後退った。


(なんだ? なにか――いや、誰か探してるのか?)


 慎也がそんなことを勘繰っていると、村人たちの間を彷徨っていた黒装束の視線が、慎也を捕らえた所でぴたりと止まった。


「おい、アイツだ」

「はっ!?」


 慎也を見つけた黒装束――長剣を持ってる奴――が、他の2人に声を掛けた。


(まさか、奴らの狙いは、オレ?)


 何故? なんで? と困惑する慎也。

 そこへ――


「慎也君!」

「これは……?」


 遅ればせながら、結衣とユフィアが追いついて来た。

 3人の黒装束の目が慎也たちに集中する。


「黒髪に刀、そして拳銃型の魔法銃。間違い無いな」

「確かに、後ろの2人も特徴と一致するな」

「イェーイ、今度こそ当たりだゼェー」


 慎也、結衣、ユフィアの容姿を見た男たちが口々にしゃべり出す。

 慎也は確信した。


(やっぱりこいつらの狙いはオレ――いや、オレたちだ)


 だが何故? そもそも、こいつら何者だ?


 疑問が尽きぬまま、事態は動いた。


「全員、武器を捨てろ!」


 2本のカタールを持った男が、大声で命令してきた。


「貴様たちもだ、冒険者」


 長剣を持った黒装束が、切っ先を慎也たちに突き付けながら言った。


「でないと、このお嬢ちゃんの首をちょん切っちゃうヨーン」


 奇妙な口調の男が、ナイフの刃をルピィの首に当てる。首に当たる冷たい感触に、ルピィが「ひっ」と小さな悲鳴を漏らした。


「シンヤさん……」

「……言う通りにしろ」


 不安気な声を漏らすユフィアに、苦虫を噛み潰したような顔で慎也は告げた。

 ルピィの生命が奴らの手にあるうちは選択の余地は無い。


 慎也は言われるがままに刀と魔法銃を地面に捨て、結衣とユフィアも悔しそうにしながらもそれぞれ杖を捨てた。

 もちろん、村人たちも同様だ。


「よし」


 全員が武器を手放したのを確認したカタールの黒装束が、慎也たちに視線を向けた。


「お前たち3人、こっちへ来い」

(やっぱオレらが狙いか……でも、なんで……って言うか、そもそもどうしてケミナ村にいることを知ってたんだ?)


 心の中で答えの出ぬ疑問に苛まれながらも、慎也たちは言われるがまま黒装束たちの前まで歩いて来る。


「まず聞いておく。貴様はシンヤという名の冒険者で間違い無いな?」

「……そうだ」


 名前まで調べられてるのか、と慎也は密かに呻いた。


「お前らこそ何者だ? オレたちになんの――」

「質問には応じない」


 慎也の言葉をカタールの黒装束が遮った。


「ガキの命が惜しければ、余計なことはしゃべらず、聞かれたことにだけ答えろ」


 ルピィの命を盾にされては、大人しく従うしかない。


「まず言っておく。私は<虚偽看破>のスキルを持っている。よって嘘は通じない。もしも我々の質問に対して虚偽を弄すれば」

「このお嬢ちゃん殺しちゃうヨーン」


 長剣の黒装束の言葉に、からかうような口調でナイフの黒装束が追従した。


<虚偽看破>に関しては、慎也も良く知っている。ユイナもまた、同じスキルを持っているから。基本的に嘘は通じない。

 しかし、()()()は見破れない。


「……なにが知りたいんだ?」


 冷静にそのことを頭に置いて、慎也は尋ねた。


「まずひとつ。他の仲間はどこにいる? ()()()()()()、一緒だったはずだが?」


 黒装束の質問に、慎也は驚きが表情に現れないように全力を尽くさねばならなかった。


(こいつ、ひょっとして――)


 慎也はひとつの可能性を思い付いた。

 ちらり、と後ろを見ると、結衣とユフィアも気付いたらしい。だが、余計なことをしゃべらないよう、懸命にも口を閉ざした。


GJ(グッジョブ)!)


 沈黙を選択した結衣とユフィアの判断に、慎也は心の中で喝采した。

 そう、<虚偽看破>は「嘘」は見破れるが、「隠し事」までは見破れないのだ。だから余計なことをしゃべらなければ、それがバレることはまず無い。


「答えろ」

「……《槍穹の翼(そうきゅうのつばさ)》のことか?」


 急かして来る黒装束に、努めて冷静な声で、確認の意味も込めて尋ね返す。


「ああ、確かそんな名前だったな。槍使いと、弓使いの女だ」

(間違い無い)


 慎也は確信する。

 この黒装束たちは、どうやってか自分たちのことを調べたようだが、肝心なことを調べ忘れている。


(なるべく時間を稼がないと)


 それは分の悪い賭けに近い試みだったが、選択の余地は無い、と判断した。

 とはいえ、人質を抑えられた現状では、黒装束たちの命令に従う他無い訳だが。


「……あの2人なら、街へ帰った」

「なんだと? 何故街へ戻った? 何故お前たちはここに残っている?」


<虚偽看破>に引っかからないよう、慎重に言葉を選びながら慎也は答えた。


「元々オレたちがここへ来たのは、魔物の調査依頼が目的だ。だがそれに関して予想外のトラブルが起こったんで、2人はそのことをギルドに知らせて指示を仰ぐ為に戻った――それだけだ」


 慎也が答えると、カタールの黒装束は、背後にいた仲間――<虚偽看破>を持った長剣の黒装束へ、確認する様に視線を向けた。


「事実だ」


 長剣の黒装束ははっきりと断言した。


(<虚偽看破>スキルを持ってる、ってのは、ブラフじゃ無かったか)


 ひょっとしたら<虚偽看破>に関しては、脅しの為のブラフではないか、という可能性も考えていたが、いまのやり取りを見て、事実だと慎也は判断した。

 さらに――


「オイオイ、まさかの入れ違いかヨー」


 お喋りなナイフの黒装束が口を滑らせた。


(入れ違い……ってことはこいつら、キアナの街から来たのか?)


 キアナの街の住民か? 

 それとも、自分たちを探してキアナの街に立ち寄ってからここへ来たのか?


「……まあいい」


 そんなことを考えている内に、カタールの黒装束が再び慎也の方へ向き直った。


「続けて問う。先日、マナクレイの森にある古い砦跡に巣食っていた盗賊どもを討伐したのは、お前たちで間違い無いか?」

「……ああ。オレたちと、《槍穹の翼(そうきゅうのつばさ)》の()()でやった」

(そういうことか)


 質問に”正直に”答えながら、慎也はなんとなく黒装束たちの狙いが読めた。


「では、その際に盗賊どものアジトから回収した戦利品はどうした?」

「……全てオレが持ってる」

「オゥイェー! 大当たりジャン!」


 慎也を答えを聞くや、ルピィを抱えている黒装束が奇声を上げた。


「つまり、お前らの目的は、盗賊たちが奪った荷物だった、ということか?」

「その通りだ」


 慎也の問いに、カタールの黒装束が即答した。

 先日、ヨルグに言われたことが脳裏をよぎった。


 盗賊のアジトから大量の武器、防具を手に入れた、と言ったとき、ヨルグはそのことを随分気に掛けていた。本来の持ち主から逆恨みされる可能性がある、と。

 そして、きっぱりとこう言っていた。


 買い戻し期間が過ぎたらすぐに売った方が良い――

 災いの種は早めに捨てるに限る――


 どうやら、彼の予感は最悪な形で的中してしまったようだ。

 この黒装束――あるいは、その背後にいる何者かが、あれらの武具の本来の持ち主。ならばこいつらはいったい何者なのか?

 気にはなるが、確かなことはひとつ。


(マジで災いの種だった訳だ)


 まさか買い戻し期間が終わる前に、こんな形で災難がやってくるとは思いもしなかった慎也は、心の中で歯噛みするしかなかった。


「あの盗賊どもが奪った荷は、すべて我々の物だ。返してもらおう」

「だったらこんなふざけた真似しなくても、買い戻せば良いだろうが。何故こんな――」


 ヒュ――


 慎也の抗議は、眼前に突き付けられたカタールの刃によって中断させられた。


「質問には答えない、と言ったはずだ」


 冷たい目で、黒装束が最後通告のごとく告げる。実際、最後通告なのだろうが。


「渡せばその子を開放して、おとなしく村から立ち去ってくれるのか?」

「……荷が戻れば、こんな村に用は無い」

「……判った」


 山のような大量の高級武具は確かに魅力的だが、罪も無い幼子の命と引き換えにしてまで固執するほどの価値は無い。フェルナとシアーシャに無断で手放すことになるが、この状況では仕方ない。

 慎也は右手をかざすと、<共有無限収納>の亜空間から盗賊退治の戦利品である武具をすべて取り出した。

 光と共に大量の武具が地面の上に現れる。


「これで全部だ。勝手に持って帰れ」


 カタールの黒装束は慎也の苛立たし気な言葉には答えず、無言で武具の山に歩み寄ると、その1つ1つに目を配り、きょろきょろとせわしなく首を巡らせ始めた。


(? なにやってんだこいつ? なにか探してるのか?)


 てっきり武具を回収するものとばかり思っていた慎也は、黒装束の奇妙な行動に疑問符を浮かべるしかない。


「おーい、ナベちゃん? どうしタ?」


 ナイフの黒装束も、仲間の行動に疑問を持ったようで、訝しげな声を掛けた。


(ナベちゃん?)


 一瞬、なべを思い浮かべた慎也だったが、すぐにそれがカタールの黒装束の名前か、あるいはそれに類似するものだと理解した。


(もう少し……)


 黒装束の行動は理解不能だったが、慎也にとっては好都合でもあった。なにもせずとも時間が稼ぐ結果になっているから。


「…………無い」


 ややあって、ナベちゃんこと、カタールの黒装束が言った。


「”壺”が無い」

「なんだと?」


 カタールの黒装束の答えに、長剣の黒装束が動揺の混じった声を上げた。


「おい貴様! 壺をどこへやった!?」

「壺? 壺ってなんだよ?」


 強い口調で訳の判らないことを聞かれ、慎也は困惑気味に聞き返す。


「盗賊どもが奪った荷の中に、黒い壺があったはずだ!」

「なんだそれ? そんなもん知らないぞ」

「とぼけるな!」

「とぼけてなんかいない。オレたちが盗賊のアジトから回収した戦利品はそれで全部だ。黒い壺なんか本当に知らない。そうだろ、お仲間さん?」


 そう言って、慎也は<虚偽看破>を持った長剣の黒装束に、オレは嘘なんかついてないだろ? という意味と共に視線を投げかけた。釣られるように、カタールの黒装束も仲間の方を振り返る。


「……嘘はついていない。壺に関して、こいつは本当になにも知らない」


 長剣の黒装束は断言した。だが、その声色には微かに動揺が混じっている。


「オイオイ、壺が無かったら意味ねージャン!」


 ナイフの黒装束が苛立たし気な声を上げた。


(なるほど。こいつらの本当の目的は、武具じゃなくてその”壺”の方だった訳か)


 恐らくその”壺”とやらは、大量の武具と一緒にいずこかへと運ばれていたのだろう。それが盗賊たちの襲撃にあって諸共奪われた。だからこいつらは、盗賊たちを討伐した自分たちが、戦利品と共に”壺”も一緒に回収したものと思い込んで、取り返えす為にこんなことをやらかした。


(ところが、戦利品の中にお目当ての”壺”が無かったんで焦ってる、って訳だ。けど、なんなんだ、その”壺”って。奴らの反応を見る限り、相当大事な物みたいだが、盗賊のアジトに壺なんか無かったぞ?)


 実際、盗賊たちを倒した後でアジト内を調べたが、壺などどこにも無かった。心当たりも無い慎也は、ただ黙って黒装束たちの会話に耳を傾けた。


「どうする? 壺が回収できなければ、任務を果たせない」

「どうもこうもない。こいつらが持っていないということは、”壺”は既に割れてしまっている可能性が高い」

「オイ、最悪ジャン、それ!?」

「すぐに撤収する。一度戻って首領に報告を――」

「しかし、それでは――」


 なにやら仲間内だけで相談し始めた黒装束たちを離れたところから眺めながら、慎也は機が熟したのを悟った。ちらり、と結衣とユフィアに目配せすると、2人も既に気づいているらしく、無言で頷いた。


(なんか色々と気になることがあるけど、残念ながら時間切れだ)


 幸いにも、黒装束たちはまだなにも気づいた様子がない。

 自分たちの身に危機が迫っていることに。


「おい」


 慎也が声をかけると、彼らは話し合いをいったん中断して、そちらを向いた。

 注意を引かれたとも知らずに。


「お前らの言ってる、壺ってやつは残念ながら持ってないから渡せないが、別のものなら渡せるぞ?」

「なんだと?」


 慎也の奇妙な言い回しに、カタールの黒装束が訝し気な顔になる。


「引導だ」


 ブン、と風を切る音が、黒装束たちの背後で聞こえた。

 気付いたのは、3人の中で、カタールの黒装束だけだった。弾かれたように背後を振り返り――


「モーク、避けろ!」

「へ?」


 大声で仲間に警告を発したが、遅かった。


「がっ!」


 ゴチン、という盛大な衝撃音が、ナイフの黒装束――モークの後頭部で轟いた。続けてそれを発した物体が、モークの後頭部で跳ね返って勢いのまま宙を舞う。


 丸い、小型のバックラー。


「ルピィちゃんを離すんだよ!」


 続けざまに、おそらくは既に意識を失っているモークの頭を、背後からセリシエルが思い切り蹴とばした。


エンジェル・プラネットの方も更新しました。これからは『異界の刀銃使い』と同時進行で更新していこうと思いますので、宜しければそちらの方も読んでいただけると幸いです。

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