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異界の刀銃使い  作者: 太公望姜子牙
天使の章
93/135

第88話 ……誰がやったんだ?

グロイ表現がありますm(__)m

「なんだ、これ……」


 掠れた声で、慎也が呟くように言った。他のメンバーは声すら無い。


 情報通りの古びた廃村だった場所。それがいまは、廃墟と化している。否、墓場か。


 元々は放棄され、長い年月を経て朽ちかけた家屋が並んでいるだけの無人の村だったのだろう。だがいまは、そのほとんどが倒壊してしまっている。老朽化によって自然倒壊したのではない。明らかに、何者かに破壊されている。しかも、ごく最近。

 

 そして、破壊された家屋の隙間に、人のいなくなった村の新たな住民だったであろうオークたちが、累々と屍を晒していた。


「なにかに、誰かに襲われたみたいですね」


 予想外の事態に直面して緊張しているのか、ユフィアの声も微かに震えていた。


 オークの屍の数は、全部で100匹近くにはなるだろう。中には子供と思われる小柄なオークも何匹かいた。恐らく、苅場で目撃された奴だろう。

 大人の個体は、多くが武器を手にしたまま死んでいた。襲撃を受け、懸命に応戦したが、力及ばなかったのだろう。


 鋭利な刃物で胴体を真っ二つにされているものもあれば、槍のような物で身体や頭を刺し貫かれているもの、あるいは、身体の一部を抉り取られているもの、魔法かなにかで丸焼けにされているものもあった。


 どう見ても、オークたちが一方的に殺戮された感じだ。


「けど、さっきのオークたちが必死だった理由がこれで判ったな」


 慎也の言葉に、全員が頷いた。


 奴らは逃げようとしていたのだ。自分たちの集落を襲った脅威から、恐らくは死にもの狂いで逃げだし、その途上で運悪く慎也たちと遭遇してしまったのだろう。


「破壊跡や死体の状況から見て、襲われたのはついさっき――せいぜい数時間前みたいですね」


 フェルナの言う通り、家屋の破壊跡はまだ新しく、わずかだがまだ埃を巻き上げている物すらある。オークの死体の方も、いくつかはいまだ血を滴らせている。襲われてからあまり時間は経っていないはずだ。


「……誰がやったんだ?」


 オークの集落が全滅していた。ある意味これ以上ない朗報なのだろうが、問題は、それを行ったのが何者か、ということだ。


「他の魔物に襲われたのかな?」

「それなら、オークの死体を食べると思うんだけど」


 セリシエルの推測をシアーシャが否定した。確かにオークたちは殺されてはいるものの、喰われたような痕跡は見当たらない。

 魔物が別種の魔物を襲う場合、その多くは捕食だ。特にオークの場合、ゴブリンと同様、他の魔物の餌にされてしまうことが良くあるそうだ。


「オークって、美味しいの?」

「少なくともゴブリンよりは美味しいみたいよ? まあ、魔物の味覚なんて私には判んないけど」

「うぇー、私はどっちも食べたくないんだよ」


 シアーシャの話を聞いたセリシエルが、青い顔で首をふるふると振っている。


「で、話は変わるんだけどさー……」


 そこで、シアーシャが不意に手を上げた、


「さっきから気になってるんだけど……」

「奇遇だな。オレも気になることがある」

「ええ。私もです」

「あの……私も」


 シアーシャを皮切りに、慎也、フェルナ、ユイナが相次いで声を上げた。


「ほぇ?」

「なにが気になるの?」


 一方で、セリシエルと結衣はまったく判っていないようだ。観察力の個人差がはっきりと現れた瞬間だった。

 慎也は嘆息する。


「死体の傷口だ」


 そう言って、慎也は近くで死んでいたオークの死体を指さした。厳密には、その胸の中央に開いた、人の腕周りほどの穴。


「どの死体も胸に同じような穴がある。気付かなかったのか?」


 殺され方は違うにも拘らず、何故かオークの死体はどれも胸の部分に穴が開いているのだ。見た所、先端の尖った杭のような物を突き刺したような印象を受ける。


「ほえー、全然気が付かなかったんだよ」

「死体って気持ち悪いから、なるべく見ないようにしてたんだもん」


 セリシエルは素で気付いていなかったようだが、結衣の方は死体から目を背けていたらしい。


「この穴の位置……もしかして」


 なにか気付いたらしいフェルナが、死体の1つに歩み寄ると、解体用のナイフを取り出し、死体の胸の辺りをざっくりと掻っ捌いた。

 グロ耐性の低い結衣はすぐに目を逸らしたが、セリシエルは割と平気なようだ。


「やっぱり……」


 露わになったオークの体内を見たフェルナが、深刻な顔をしている。


「なにか判ったのか?」

魔晶核(コア)がありません」

「なに?」


 思わず聞き返した慎也に、フェルナは言った。


「オークの死体に魔晶核(コア)が見当たらないんです。たぶん死体に開けられた穴は、魔晶核(コア)を抜き取った時に出来たんだと思います」

「え? じゃあ、これはもしかして、他の冒険者がやった、ってことですか?」


 結衣の疑問は当然だ。

 オークの集落を襲ったのが魔物なら、死体を喰うはずだ。ゴブリンと同様、オークもまた、他の魔物の餌になることが多いという話だ。

 魔物を殲滅して、死体から魔晶核(コア)を抜き取る――それだけ聞くと冒険者の手口に思えないことも無いのだが。


「それにしては妙だな」


 慎也は懐疑的な言葉を口にする。見れば、結衣とセリシエル以外のメンバーも同じ意見なようだ。


「なにが妙なの?」

「冒険者がこれをやったのなら、オークの死体をそのままにするとは思えない」


 結衣の疑問に、慎也はそう答えた。

 討伐した魔物の死体を放置するのは、冒険者にとってタブーだ。血の匂いに惹かれた他の魔物が寄って来るから。せっかくオークを討伐しても、他の魔物を呼び寄せてしまったら意味が無い。普通は、討伐した魔物の死体は回収するか、そうでなければ燃やさなければならない。これは、冒険者なら誰でも知っている常識だ。


「それに、魔晶核(コア)を抜き取った手段も不明です」

 

 フェルナの言う通り、普通、冒険者が魔物の死体から魔晶核(コア)を抜く際は、死体を刃物で切り裂いて摘出する。だが、オークの死体には穴こそ開いているものの、切り裂かれた跡が無い。まるで、直接えぐり出されたように。


「それに、これってどう見ても襲撃されてからあんまり時間経ってないよ。なのに、私たちがここへ来るまで、誰ともすれ違わなかった」


 と、シアーシャが言った。

 状況を見る限り、オークの集落が破壊されてから現在まで、せいぜい数時間しか経っていない。そしてこの廃村は、酷く山奥に存在する。人の足でここまで来る道は慎也たちが通ってきた獣道しかない。ここを襲撃したのが冒険者なら、当然、その道を通ってここまで来て、そして帰ったはず。にも拘らず、慎也たちとはすれ違わなかった。


「村長さんも、依頼を受けて来たのは私たちが初めてだとおっしゃってましたし」


 ユフィアも困惑顔だ。

 そもそもオーク集落の調査依頼を出した村長の話では、依頼を受けて来たのは慎也たちが最初だと明言していた。

 これらの点から、他の冒険者の仕業とは考えづらい。


「じゃあ、いったい誰がやったの?」


 結衣が首を傾げて尋ねるが、その答えを持ち合わせた者は少なくともこの場にはいない。

 沈黙がその場を支配する。


「……もう少し調べてみよう。これをやった奴の正体が知りたい」


 最初に沈黙を破ったのは慎也だった。

 そもそも慎也たちがここへ来た目的は、オークの集落の調査であり、それが全滅していた以上、ここに居る理由は無いのだが、なにが、なんの目的でオークたちを皆殺しにしたのか、それを確かめた方が懸命だと考えた。


 冒険者。魔物。いずれの可能性も低い。ただ1つ言えることは、100匹前後のオークを皆殺しにし得る”なにか”がこの付近にいる可能性が高い、と言うことだ。

 もしもそれが敵性であった場合、脅威だ。


「前衛と後衛、2人1組で手分けして村の中を探索する。ついでに死体の回収も。なにか見つけたら大声で知らせること。まだ生きてるオークがいる可能性もあるから、充分注意してくれ」

「りょうかーい」

「はい」

「判りました」

「オッケー」

「なんだよ!」


 慎也の言葉に、結衣、ユフィア、フェルナ、シアーシャ、セリシエルが順に答える。


 前衛と後衛がちょうど3人ずついるので、慎也と結衣、フェルナとユフィア、セリシエルとシアーシャのチームに分かれた。死体を回収する為、<共有無限収納>を有する慎也パーティのメンバーを分散する運びとなった。


「滅茶苦茶だね」

「ああ……」


 慎也の後から結衣が呟くように言った。

 ざっと見た限り、無事な家屋はひとつも無く、どれも無残に破壊しつくされている。しかも、そのいずれもが外部から物凄い力で叩き潰され、引き裂かれていた。


(人間の仕業とは思えないな)


 人間でも、高レベルの魔導士や闘気使いなら、朽ちかけた家屋を破壊することくらいできるだろう。だがその方法として多く用いられるのは、爆裂系の魔法で破壊したり、火魔法で燃やしたり、あるいは闘気の塊をぶつけて破壊するといったものだ。

 だが、目の前に広がる光景は明らかに違う。

 純然たる「力」による破壊。単純な力任せの破壊行為。


 物凄い怪力を有した魔物が村の中で暴れまわった、といった感じだ。


「この前の盗賊の所にいたトロルみたいな魔物の仕業かな?」

「……いや」


 ふと、村の一角に目をやった慎也が足を止めた。


「あれはトロルには出来ない」


 彼が指さした先には、一軒の倒壊した家屋がある。

 だが、その崩れ方が他の家屋とは大きく異なっていた。


「なにあれ? ()()()()()?」


 結衣は目をぱちくりさせて言った。


 いつ倒壊してもおかしくない朽ちかけた小さな民家。それが、真っ二つに切断されていた。向かって右上から左下に掛けて。切断され、本体から切り離された家屋の左上半分はそのまま地面に落ちて自重で潰れていたが、右下半分は何事も無かったかのように建ったままだ。


 慎也は慎重な足取りで切断された家屋に近づくと、扉の無い入り口から中を覗き込んだ。


「な――」


 内部にもまた、予想外の光景が広がっていた。

 さして広くもない廃屋の中に、ミイラ化した死体がいくつも散乱していた。数は12体。しかも明らかにオークの死体ではない。いずれも人間の――全裸の女性だ。


「なにがあったの?」


 中を覗き込んだまま硬直していた慎也に、おずおずと結衣が声を掛ける。我に返った慎也は彼女の方を振り返り――


「見ない方が良い」


 ――と、一言だけ言った。


「う、うん……」


 それだけで大体の事情を察したらしい結衣が、青い顔で頷いた。


「ちょっと調べてくるから、ここで待ってろ」

「判った。気を付けてね」


 結衣に見送られて廃屋内に足を踏み入れた慎也は、近くに仰向けで倒れているミイラの傍らに膝を付いて全体に視線を走らせ、観察する。


 完全に水分が失われ、枯骸と化した死体。一見するとかなり前に死んで、そのまま乾燥してしまった単なるミイラに見える。

 だが、いくつか気になる点があった。

 そのひとつが、いずれのミイラも、身体のどこかしらに穴が開いているのだ。


(この穴、オークの死体にあったものと同じだ)


 大きさや形と言い、表で死んでいたオークたちの死体に開けられたのと同じものだろう。だが、オークたちのそれは一様に魔晶核(コア)の存在する胸部に穿たれていたのに対し、これらのミイラの穴は死体によって開けられた場所が違うのだ。胸に開けられたものもあれば、腹に開けられたものあるし、首にやられているものもある。

 さらに身体に開けられた穴の周囲に、穿たれた時に飛び散ったと思われる鮮血の跡があるのだが、よく見れば、それらの血の跡が完全に乾き切っていなかった。飛び散ってから、まだそれほど時間が経っていない証拠だ。


(っとなると、これはオークをやった奴の仕業と見て間違い無いな。オークたちが魔晶核(コア)を抜き取られたように、この人たちは体液を吸い取られてミイラ化した。ってことは、ひょっとして、この人たちがオークの母体か? どこかからオークに浚われてきて、繁殖用の母体にされ、最終的に集落を襲った奴にオーク諸共殺された?)


 だとしたら、これ程無残な死に方は無いだろう。

 オークに穢され、孕まされ、仔を生まされ、最後には生きたまま体液を吸い尽くされて殺された、ということだ。


(だとすれば、ここを襲撃したのは冒険者じゃなくて、他の魔物ということだ)


 冒険者なら、オークの集落に捉えられていた女性を殺すことなどしないし、殺すにしたって、こんな訳の判らない殺し方などしない。

 こんなことをするのは人外の魔物以外あり得ない。


(だけど、いったいなんだ? どんな魔物がこれをやったんだ? 正体は? 数は? っていうか、そもそもどこから来た?)


 少なくとも慎也が知る限り、このようなことをする習性を持った魔物など、マナクレイの森やその周辺には存在しないはずだ。

 以前に出くわしたウォー・ウルフや、ゴブリン・エンペラーという例外やイレギュラーな個体も存在するので、断言することは出来ないが。


(いずれにしても、100匹ものオークの集団を一方的に殺戮する魔物の個体、或いは群れがマナクレイの森のどこかに潜んでいる訳だ。こりゃ、すぐに街に戻ってギルドに報告しないと)


 意を決して慎也が立ちあがった、その時――


「皆さん! ちょっと来てください!」


 フェルナの呼び声が聞こえた。

 急いで外に出て、結衣を伴って声のした方へ駆け付ける。集落の中央に存在する空き地。そこには既に2人以外の全員が集まっていた。


「見て下さい、これ」


 フェルナが指さしたのは、剥き出しの地面に残された大きな足跡だ。明らかにオークのものではない。しかもまだ新しい。


「ここを襲った犯人のものでしょうか?」

「多分そうでしょうね。見た感じ、爬虫類っぽいけど……」


 足跡をまじまじと眺めながらシアーシャが呟いた。

 慎也も同じ感想を抱いた。


 鋭く尖った3本の前指を備えたその足跡を一言で表すと「ティラノサウルスっぽい」だろう。大きさは慎也の胴体ほどもある。


「この大きさからして、足跡の主の体長は5メートルはあるぞ? 少なくとも、ワイバーンよりは確実にでかい。そんな魔物、この辺りにいる、って聞いたことあるか?」


 仲間の顔を見回して尋ねるが、全員が困惑顔で首を横に振った。


(ヤバいな、酷く嫌な予感がする)


 不吉な予感と、得体の知れない犯人に対する恐怖を胸に、慎也は黙って地面に残された足跡を見下ろした。

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