表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異界の刀銃使い  作者: 太公望姜子牙
始まりの章
9/135

第9話 魔法って、どうやったら使えるんですか?

「それじゃあ、ステータスに付いて聞いてもいいですか?」


 ここまで知った中でも色々と不可解なところのある世界だが、一番訳が判らないのはスタータスだと慎也は思った。なにしろ見た目が完全にゲームそのものなのだから。


「そうだな。では、簡単に説明しよう――」


 親切なウィルさんの説明によれば――


レベル=強さの等級。

生命力=HP。0になると死亡。ダメージだけでなく疲労しても減る。

魔力値=MP。魔力の絶対量。魔法やそれに準じるスキルを使用すると減少する。

経験値=EXP。現在の経験値/レベルアップに必要な経験値。

 筋力=力の強さ。物理的な攻撃力。

 魔力=魔法の威力。強さ。

 敏捷=素早さ。回避力。

 技術=器用さ。武術系、技能系スキルの習得に影響する。

 知力=賢さ。魔法や知識の習得に影響する。

 防御=物理攻撃に対する防御力。

 抵抗=魔法攻撃に対する防御力。状態異常に対する抵抗力。

 精神=意志の強さ。精神異常に対する抵抗力。

 幸運=運の良さ。


 ――ということらしい。


「スキルに関しては、そのまま個々の技能、あるいは技術のことだ。スキル名の横にある数字はそれに関する熟練度スキルレベルさ。スキルを習得した直後では1。何度も使用したり練習を重ねて熟練度が高まるほど数字が増えていき、最終的に1000に達すればそのスキルに関しては極めたと言える。実際に君たちのスキル欄にあるものは、君たち自身がやり込んでいたものばかりだろう?」

「確かにその通りです」

「けど、同じスキルでも<異言語習得->にはスキルレベルがありませんね」


 結衣の言葉にウィルは頷いた。


「スキルの全てが熟練度を必要とする訳じゃない。中には持っているだけで効果のあるものもある。主に、称号によって自動的に付与されるものが多い」


 確かに<異言語習得>は<異界の民>の称号によって自動的に与えられたものだ。恐らく、言語の違う世界に放り込まれた異世界人に対する救済処置なのだろう。


「<観察眼>スキルは称号が無くとも習得は可能だ。スキルレベルが50だと、例えば自分より弱い魔物の名前や、おおよそのHPが判る程度だが」

「なるほど……」


 森でゴブリンと遭遇した時のことを思い出して、慎也は納得した。


「ステータスにある私の名前、名字が無くなってるのはどうしてですか?」


 それは慎也も気になっていた。漢字じゃなくカタカナになっているのは、漢字の存在しない世界の仕様に変化したのだろうが。


「君たちの世界ではどうだったか知らないが、私たちの世界では平民は名字を名乗れないのだよ」

「あ、そっか。そう言えばユフィアちゃんにも言われました」


 慎也も思い出した。ユフィアの名字を名乗った際、彼女は自分たちを貴族だと勘違いした。


「家名を得るには<貴族>や<名誉市民>などの称号が必要なんだよ。これらを得るには領主の許可がいる」


 当たり前だが2人の称号欄にはそのような称号は無い。称号が無ければ家名は名乗れない。


「封建制度か……」

「世知辛いねー」


 現代の日本人にとって家名とは、生まれた時から死ぬまで常に共にある、ほとんど身体、あるいは人生の一部と言って良い。結婚などの諸事情などによって変わることはあっても無くなることはない。

 それが無くなってしまったことで、2人は言いしれぬ寂しさを感じていた。


 そしてもうひとつ、慎也には気になる点があった。


「なあ、風美」

「結衣」

「へ?」

「もう、いま確認したばかりでしょ? 私たちは名字が名乗れない、って。だからお互いに名字で呼びあったら、ユフィアちゃんの時みたいに貴族と間違われるよ?」

「あ、ああ、そうだな……」


 こほん、とわざとらしく一息ついてから、慎也は改めて口を開いた。


「結衣」

「なーに、慎也君?」


 純情系のヒロインなら、同年代の男子に名前を呼ばれたら顔を赤くするのかもしれないが、結衣にはそんな感性は無いらしい。あるいは既に現実を受け入れてしまったか。

 そのことを少し残念に思いつつ、慎也は続けた。


「レベルと経験値はどうなってる?」

「どうって、レベルは普通に1だし、経験値は0だよ?」

「オレのレベルは2だ。その状態で経験値は13ポイント入ってる」

「えー? レベルって個人で違うの?」


 同じタイミングで異世界に来たにも拘らず、慎也と結衣のレベルと経験値に差がある。

 慎也には心当たりがあった。


「ウィルさん。レベルを上げるには、やっぱり魔物を殺さなきゃダメなんですか?」

「そうだね。魔物だけでなく、普通の動物や人間を殺しても経験値は加算される。強く、レベルの高い生物であればあるほど得られる経験値は増える」


 人間を殺す、と聞いて結衣が顔色を青くした。


「なるほど……オレのレベルが結衣より高いのは、森でゴブリンを殺したからだな」

「あ!」


 言われて結衣も思い出したらしい。

 森を彷徨っている時に遭遇したゴブリンを、慎也は1人で返り討ちにして、うち数匹を殺した。対して結衣の方はただ守られていただけでなにもしていなかった。結果、ゴブリンの経験値はすべて慎也に入り、レベルアップに繋がったのだ。


「ゴブリンを殺した後、身体が軽くなったように感じたのは気のせいじゃなかったんだな」


 おかげで怪我をした結衣を背負って森を抜け出せたので文句は無い。


「生き物を殺せば経験値が得られるとおっしゃいましたけど、それってトドメを刺した者だけですか? 一緒にいた人間は?」

「いや、直接殺した者以外でも一緒に戦っていれば経験値は得られる。無論、トドメを刺した人間が一番多くもらえるが、ただ一緒にいただけでなにもしていないのなら経験値は入らない」

(ラストアタックボーナスと言う訳か……)


 顎に手を当てて慎也は呟いた。ゴブリンを殺した時、結衣は隠れていただけでなにもしていなかったので経験値を得られなかったようだ。

 ほんとにゲームみたいだな、と慎也は思った。


「あの――」


 今度は結衣が手を上げた。


「魔法って、どうやったら使えるんですか?」


 ファンタジーとは切っても切り離せない魔法。ファンタジーもののラノベ好きの結衣にとっては決して見逃せないファクターだろう。なにしろ怪我をした時も自分で回復魔法を使おうとしたくらいだから。


「魔法は誰しもが使えるという訳じゃない」


 ウィルの前置きに結衣は一瞬、緊張した面持ちになった。

 そもそも、魔法の存在しない世界から来たオレたちが使える訳ないじゃん、と慎也は思ったが――


「だが、君たちは大丈夫だ」


 予想に反してウィルは笑顔で頷いていた。


「なんで判るんですか?」


 今度は慎也の方から聞いてみる。


「なに、単純な話だ。魔法は魔力を持たない者には使えない。君たちのステータスにはちゃんと魔力と魔力値があるだろう? 魔法の素質が無いのなら、どちらも0になっているはずさ」


 言われて改めて確認してみると、確かに2人のステータス欄にはMP、魔力両方に数値が示されている。この2つは魔法を使用するのに必須項目らしい。数値が示されているということは魔法が使えるということだ。


「ユフィアはさっき見たから知っているだろうが、いちおう私も魔法は嗜んでいる」

「魔法を使える人って多いんですか?」


 結衣の質問に、ウィルは首を振った。


「魔法を使える人間は全体の2割か3割程度さ」

「割と少ないんですね」

「そうだね。人族は割と魔法が苦手な種族だ。中にはまったく魔法の使えない種も存在するがね」


 魔法の苦手な種族。全く使えない種族。それを聞いて、慎也はふと閃くものがあった。


「じゃあ、逆に魔法が一番得意な種族と言うのは、やっぱり魔族ですか?」

「その通り。やはり君は勘が良いね」


 まあ、族と言うくらいだから、当然なんだろうけど。


「魔法は精神、心の力だ。覚えるにあたって一番大切なのはイメージだ。身体に宿る魔力を自分の意志の力で動かし、凝縮し、イメージ通りに発現させる。あるいは精霊に働きかけ、世界を書き換える。非常に奥が深い。修業は大変だが、君たちなら大丈夫さ。他にも、装備するだけで魔法が使えるようになる魔導具も存在しているしね」


 結衣の表情が、ぱああ、と輝くような笑顔になる。それはそうだろう。本の中でしか見たことの無かった魔法というものを直に見れた上、自分が実際に使えるようになると言われたのだから。


「頑張ろうね、慎也君!」

「いや、だからオレに振るなって」

「なんで? 魔法だよ? 魔法使いになれるんだよ!?」

「オレはそんなものより、刀術の方が良い」


 嫌々ではあったが幼い頃からやり込んできたのだ。実際、自分のスキルの中でも刀術のレベルは群を抜いて高い。いまさら魔法を1から始めるよりも、得意としている刀術を磨いた方が良いように思える。


「それなら魔法戦士でもやってみてはどうかね?」

「魔法戦士?」


 聞き覚えの無い単語に、慎也は頭に疑問符を浮かべて聞き返した。


「武器に魔法を纏わせて戦う人たちのことです。剣だけでなく、魔法とそれぞれの武器スキルの両方を高めなければならないので、一般の剣士や魔法使いに比べて圧倒的に数が少ない業種なんです」


 ユフィアはすらすらと説明した後、ウィルの方に目を向けた。


「実はウィルお爺様も魔法戦士なんですよ」

「ええ!?」


 結衣が大仰に驚いていた。


「お爺様はこう見えて、昔は凄腕の冒険者だったんですよ。それこそ、ヤマト王国の中で5指に入るほどの実力者と謳われていたくらい」

「止めてくれ、ユフィア。昔のことだ。いまはただの隠者だよ」


 我がことの様に嬉々としてウィルのことを話すユフィアを、当人は恥ずかしそうに止めた。仲の良いお爺さんと孫娘だ。


「慎也君の言う通り、ホントにただ者じゃなかったんだね」


 感心したように結衣が何度も頷いた。


「気付いてらしたんですか?」


 ユフィアが口に手を当てて驚いている。ウィルも意外そうな顔だ。


「慎也君が最初にウィルさんを見た時、あの人ただ者じゃない、って言ってた」

「まあ……ひょっとして、シンヤさんも戦士なんですか?」

「戦士なんて大仰なものじゃないけど、武芸なら嗜み程度にはやってる。実力はウィルさんの足元にも及ばないけど」


 慎也の言葉を聞いて、ウィルはふと顎に手を置いて考え込む素振りを見せた。


「うまく隠しているつもりだったのだが、初見で見抜かれたのは初めてだよ。君は嗜み程度なんて言っているが、とんでもない。よほど良い師に恵まれ、厳しい修練を何年も積まなければ<刀術>のスキルレベルが200を超えることは無いからね」

「200!? 私、100を超えてるスキルなんてひとつも無いのに……」


 ステータスの見えない結衣が驚き、羨ましがっている。


「シンヤ君といったか。どうかね? 君が望むのであれば、わしが魔法戦士としての手解きをしてあげても良いが?」


 それは慎也にとって願っても無いことだった。

 さっきのゴブリンの事といい、この世界で生きていくには戦う力が必須だと、慎也も理解していた。そしてユフィアの言葉を信じるなら、ウィルは練達の魔法戦士。自分にも同じく魔法戦士としての素質があり、ウィルがその手解きをしてくれるというのなら、これほどの幸運は無い。

 なによりこの世界に来たばかりの自分たちには、住む所も、金も、知識も無い。


「いいんですか? 見知らずのオレたちを助けてくれた上に、そこまでしていただけるなんて……」

「なに、わしもこの年だ。いつ神の御許に旅立つ日が来るか判らん」

「お爺様!」


 縁起でもないことを言い始めたウィルに、ユフィアが柳眉を逆立てる。


「わしも人である以上、死は避けられない。しかし、何十年もの間、修練と研鑽を重ね、仲間と共に高め合った戦技が、わしと共に消え去るのは忍びないと思っていた」


 そこでウィルはふと、ユフィアに目をやった。


「弟子を取ろうかと思ったこともあったが、生憎とユフィアは魔法の素質はあるが、武芸の素質は無かった。そして、少なくともわしの知る限り、魔法と武芸、両方の素質を持つ者はおらず、半ば諦めかけていたところへ、突然、降って湧いたように君が現れた」


 異世界からやってきた慎也に、降って湧いたとは言い得て妙だ。


「君たちはこの世界に来たばかりで、行く当ても、知識も、目的も無いのだろう? 見たところ悪人という訳でもなさそうだし、そうでなければユフィアがここへ案内する訳がないしね」

「? 悪人かどうか判るの?」

「ひょっとして、そういうスキルを持ってるとか?」


 慎也の何気ない推測に、ユフィアは笑顔で頷いた。


「はい。私は<悪意察知>と<虚偽看破>というスキルを持ってます。簡単に言うと、他人が悪意を抱いているかどうか、嘘を付いているかどうか判別できると言うものです。けっこうレアなんですよ?」


 なるほど、と慎也と結衣は納得した。

 最初に会った時、自分たちの言葉を信じて家まで連れてきたのは、悪意を抱いていないと判っていたからだったのだ。

 実際、あの時2人は純粋に助けて欲しいという一念しかなかったし、ユフィアに言った言葉にも嘘は無かった。


(けど、オレたちが異世界人だと気付かなかったってことは、嘘は見破れるけど隠し事は見破れない、ってことだな)


 目敏くスキルの欠点を見破った慎也。自分からそれをどうこうするつもりはないが、頭に入れておいて損は無いだろう。


「ユイ君は魔法が使いたいんだったね? それならユフィアに教わるのが良いだろう。こう見えて優秀な魔法使いだ。それに、2人だけでこの家で暮らすのも、些か寂しいと思っていたところだし、ユフィアの友達が増えるのはわしとしても嬉しい」

「あ、はい。もちろん私は構いませんよ」


 ユフィアも抑揚に頷いた。もちろん結衣は満面の笑顔で――


「ねね、お世話になろうよ、慎也君。どうせ私たち行く当てもないし、右も左も判らないし、魔法を教えてもらえるし!」


 どう考えても最後のが本命なのだろうが、現状、慎也たちに行く当てが無いのは事実だ。幸い、2人はどう見ても悪人ではない。

 受け入れるか、野垂れ死にか。選択肢は無い。


「よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしく」


 神妙に頭を下げる慎也に、ウィルは笑顔で頷いた。それを見て、ユフィアが表情を輝かせる。


「あの、早速で申し訳ないんですが、御二人にお願いがあります!」


 期待に満ちた目で迫られ、慎也と結衣は少し引き気味になりながらも「構わないよ」「なーに?」と聞き返した。


「御二人の世界のことを、ぜひ聞かせていただきたいんです!?」


 ユフィアは慎也たちの世界――地球のことに興味津々だった。それがいま、実際に目の前にいて、直接話を聞けるのだから興奮しない訳がない。


「ああ、これからお世話になるんだし、それくらいお安い御用さ」

「いっぱい聞かせてあげるね」


 オモチャを前にした子供の様に頬を紅潮させ、目を輝かせるユフィアに、2人は苦笑を交えながらも地球のことを語り始める。


 慎也と結衣が、地球、日本の事、物、様々な機械や道具、建造物といった、慎也たちにすれば生まれた時からごく当たり前に見て、接して来たものを出来るかぎり事細かに話してやると、ユフィアはそれをずっと興奮した様子で聞き入っていた。尻尾があれば千切れるくらいに振っていただろう。

 慎也が自分のスマホを見せてやったら、興奮のあまりひっくり返りそうになっていた。


 ウィルの方も興味深げだったが、年の功か、ユフィアほど興奮した様子も無く、落ち着いた様子で聞いていた。最終的に彼が夜が更けていることに気付き、お開きとなった。興奮し続けのユフィアも疲れた様子だったが、訳も判らぬままに異世界に飛ばされ、何時間も森の中を彷徨い、挙句にゴブリンに襲われた慎也と結衣は、肉体的にも精神的にも疲労がピークに達しており、ウィルが与えてくれた部屋でその日は泥の様に眠った。


 こうして、慎也と結衣の異世界での最初の一日は終わったのだった。

次回は7/20日、午前0時更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ