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異界の刀銃使い  作者: 太公望姜子牙
天使の章
87/135

第82話 セリスちゃんにピッタリの依頼だと思わない?

豚人間と聞くと「ギャルのパンティおーくれ!」な人を思い出すオイラは古いんでしょうか? (´・ω・`)

「ふわ~、やっと終わったんだよ……」

「大して長い話でもなかっただろうが。寝るなよ」


 眠そうに目元を擦りながら階段を降りるセリシエルに、後ろを歩く慎也が苦言を呈する。


 アドベンチャー・ライセンス・カードが無事に発行され、冒険者としての規則やギルドのルールなどの説明を受けている際、セリシエルは始まって2分で舟を漕ぎ始め、何度も慎也に小突かれていた。


「難しい話は苦手なんだよ」

「お前にとっても大事な話なんだぞ?」

「でもでも、難しい話を聞かされると眠くなるのは、仕方ないと思うんだよ」

「オレは2日徹夜してるが?」


 盗賊討伐、セリシエル暴走と、2日続けて起こった戦いとトラブルによって2夜連続の徹夜を強いられた慎也も疲れ気味のせいか、少し苛立ち気味だ。


「まあまあ」

「セリスちゃんも無事に冒険者になれたんだから、その辺にしよ?」


 ユフィアと結衣に止められ、慎也は気を落ち着けようと嘆息を吐き出した。


「とにかく、これでお前も冒険者なんだから、人前で恥ずかしい真似だけはするなよ?」

「はーい」


 セリシエルの能天気な返事を聞くと、堪らなく不安になる慎也だった。


「あれ? シンヤ君じゃん」


 階段を下りてロビーに来た所で、聞き覚えのある声に呼び止められた。見れば、《槍穹の翼》のシアーシャが入り口から入って来たところだった。その後ろには相棒のフェルナもいる。


 向こうも見知った顔ぶれを見かけて気軽に挨拶しようとして来たが、その中に見知らぬ顔も混じっていたので少々不思議そうな顔になる。


「シンヤ君、その子、新しい女?」

「人聞きの悪いこと言うな!」


 首を傾げながらそんなことを言ってきたシアーシャに、慎也は思わず声を荒げた。


「うちのパーティの新入りだよ。名前はセリシエル。ちょっと訳ありで、森で迷子になってたところをオレらが見つけて保護したんだ。昨日、お前さんらと別れて帰ろうとした直後に、な」

「へー……」


 慎也の説明を聞きながら、興味深げにセリシエルをまじまじと見つめるシアーシャ。少し居心地が悪くなって不安げな顔になるセリシエルに気付いたフェルナが、シアーシャの首根っこを掴んで引き戻す。


「行く当ても無くて、落ち着くまでオレらと一緒に冒険者でもしたらどうか、って話になってな。善は急げ、と言うことで、登録に来たんだよ」


 冒険者ギルドのロビーと言う、人が大勢いる空間だけに、慎也は例によって最低限の説明にとどめた。


「……なるへそ」

「事情は、まあ、なんとなくですが、理解しました」


 どうやらシアーシャとフェルナも、なにか人に話せない事情があることを察したようだ。


「でも、いきなり冒険者なんかやらせて大丈夫なんですか?」


 フェルナが当然の心配を口にする。

 セリシエルは見た目、可愛らしい女の子で、お世辞にも強そうには見えないから。


「大丈夫だ。レベルは30だし、戦闘スキルレベルもかなり高い。実際に戦ってみたけど、実力は確かだ」

「「レベル30!?」」


 思わぬ高レベルにフェルナとシアーシャが揃って驚きの声を上げた。レベル30と言うのはキアナの街の冒険者にとってはかなり高レベルの分類に入る。


 ちなみに、慎也がセリシエルのレベルを口にした時、ロビーに屯していた冒険者の何人かも驚いた様子を見せていた。どうやらこっそり話に聞き耳を立てていたらしい。実際、慎也はそのことに気付いていてワザと聞かせたのだ。セリシエルの見た目に騙されて絡んでくる馬鹿がいないとも限らないので、牽制の意味も込めて。


「へー、凄いじゃん。うちのパーティに来ない? お姉さんが手取り足取り、いろいろ教えてあげちゃうわよ?」

「シア!」


 しれっと怪し気な文言で勧誘を始めたシアーシャを、フェルナが窘める。


「あのー……」

「ああ、悪い」


 そう言えば、セリシエルに2人を紹介するのを忘れていたのを慎也は思い出した。


「この2人は知り合いの冒険者だ。槍を持ってる方がフェルナ。弓を持ってるのがシアーシャだ」

「紹介の仕方が雑っぽい」

「よろしくお願いしますね、セリシエルさん」


 慎也の紹介の仕方に文句を付けるシアーシャと、気にも留めずにこやかに会釈するフェルナ。同じパーティなのに性格の違いが良く判る。


「よろしくなんだよ!」


 好意的な2人に、セリシエルも笑顔で挨拶する。


「御二人は、今日も依頼を受けに来られたんですか?」


 頃合いを見計らってユフィアが尋ねた。

 先日、徹夜で盗賊を討伐したばかりで疲れているのに加え、報酬と戦利品とで懐があったかいはずなのに、2人が冒険者ギルドに来た理由が気になったようだ。

 まあ、それは慎也たちも同じなのだが。


「や、武器をメンテしてもらった帰りに通りかかったもんだから、ついでに買戻しの確認でもしとこうかと思って」


 なるほど――と慎也たちは頷いた。

 先日の戦いで、フェルナとシアーシャは盗賊だけでなく、トロルとも戦っている。武器が痛んでいないか気になるのは当然だろう。慎也たちがそうだったように。冒険者の場合、武器が破損したら致命的だ。戦いの後、メンテナンスをしておくのは当然だ。


「ちなみに、みんなは?」

「私たちはセリスちゃんの初依頼を受けるつもりです」

「冒険者デビューなんだよ」


 シアーシャに聞かれて、結衣とセリシエル本人が答えた。

 セリシエルの実力は確かなのだが、慎也と戦った時は精神操作された状態だった為、実際の実力は未知数と言って良い。なにより、パーティを組む以上、仲間との連携も必須になってくる。


 慎也、結衣、ユフィアの3人はウィルの元で2年間訓練したお蔭で息の合った連携行動を取れているが、そこに新たなメンバーが加わるとなると、これまでの連携行動を根本的に見直さなければならなくなってくる。

 なので、早めに問題点を抽出する為にも、まずは軽めの魔物退治依頼を受けることにしたのだ。


「ふ~ん……」


 それを聞いて、シアーシャが顎に手を当て、目をキラーンと光らせた。


「ねえねえ、フェルナ。面白そうだから私たちもご一緒しない?」


 好奇心丸出しの表情を浮かべたシアーシャがフェルナに言った。


「ちょっと、シア。シンヤさんたちのご迷惑になるでしょ?」

「いや、オレは別に構わないぞ?」


 フェルナが注意するが、慎也はあっさりと頷いた。


「先輩冒険者の戦い方を参考にするのも、良い勉強になるだろうし」


 なんだかんだ言いつつも、フェルナとシアーシャは冒険者になって長く、慎也たちよりもずっと先輩なのだ。その分場数を踏んでいるし、2人での連携行動もベテランの域に達している。

 先ほど聞いた冒険者パーティの加入条件ではないが、やはり新人冒険者を成長させるには、先輩のお手本を見るのが1番だ。正直、慎也にとっては願っても無いことだ。


「んー、良いんじゃないかな。フェルナさんたちなら、大丈夫そうだし」


 慎也が目配せすると、結衣は少し考え込んだが、あっさりと慎也に同意した。


「私も良いと思います。私たちも、御二人から学ぶべきことは多そうですから」


 にっこりとした笑顔でユフィアも頷いた。


「決っまり―!」

「もうっ!」


 にこやかな笑顔で拳を上げるシアーシャに、腰に手を当ててフェルナが嘆息した。



「あ、皆さん。今日も仕事ですか?」


 合流して依頼に当たることになった慎也たちと《槍穹の翼》を、馴染みの受付嬢であるウィニアがカウンターで出迎えた。


「ええ。新入りの練習がてら、軽めの依頼でも、と思って」

「新入り、ですか?」

「はーい。新入りのセリシエルでーす」


 首を傾げるウィニアに、セリシエルが元気良く挨拶した。


「今日からうちのパーティのメンバーになった、セリシエルです。さっき冒険者登録も済ませて来ました。特例措置で7級スタートです」

「なるほど。判りました。シンヤさんたちのパーティメンバーとして取り扱わせていただきます」


 営業スマイルを浮かべたウィニアが言った。


「それでさ、この前の盗賊討伐の戦利品の買戻しはまだ無いの?」


 横から顔を出したシアーシャが尋ねる。


「そちらはまだありませんね」

「よしっ!」


 ウィニアの答えを聞いてガッツポーズを見せるシアーシャ。


「買戻し?」


 それを聞いて、セリシエルが首を傾げている。


「あ、そう言えばセリスさんにはまだ話してませんでしたね」


 ポンと手を打った後、ユフィアがセリシエルに先日の盗賊討伐の一件について説明した。


「――で、いま私たちは買戻しを待っている、という訳です」

「ほへー」


 大して難しい話でもないはずなのに、セリシエルは良く判らない顔をしていた。


(アホの()、ってやつか……)


 なんとなく先が思いやられる気がして、慎也は内心で嘆息した。


「では、こちらの依頼なんかどうです?」


 そう言ってウィニアが一枚の依頼伝票を差し出して来た。



   番号:651(常時受け付け)

 依頼内容:オークの調査

必要ランク:6級以上

 成功報酬:10万テラ

   期限:無期限

   説明:マナクレイの森近辺に近頃、オークの姿が頻繁に見られるようになっ

      た。状況から見て、森のどこかに集落を作られた可能性が高い。知っ

      ての通りオークは人や家畜を襲うだけでなく、ゴブリン同様、女性を

      手籠めにして繁殖する習性がある為、犠牲者を出さない為にも、早急

      に集落の場所を突き止めてほしい。なお、集落の場所が判明次第、こ

      の依頼は取り下げるので注意。



 依頼ランクは6級。セリシエルは7級だが、パーティメンバーである慎也たちが6級なので、問題なく受けることが出来る。


「……なんか、この前のゴブリン騒ぎを思い出すね」


 伝票を読んだ結衣が、開口一番にそう言った。


 不本意ながら、慎也も全面的に同意だった。隣を見ると、ユフィアも苦笑いを浮かべていたので、たぶん同じ気持ちなのだろう。


 実際、この依頼はゴブリン遺跡討伐戦の切っ掛けになった、ゴブリン増加の調査依頼と色々と被っていた。


「オーク……また面倒な魔物が出てきましたね」


 フェルナが嫌そうな顔で呟いた。


「オレらは戦ったこと無いけど、よく出るのか?」


 オークと聞くと、想像するのは豚と人間を掛け合わせたような姿をした魔物だ。ゴブリンやスライムと同じくらいマイナーな魔物でもある。

 2年間、マナクレイの森で暮らして来た慎也たちだったが、オークと出くわしたことは無かった。


「マナクレイの森には滅多に現れません。数年に1度、小規模な群れが他所から流れてくるくらいです。ただ、10年くらい前に大規模な集落を作られたことがあって、結構な被害が出た、って話を聞いたことがありますね」


 と、フェルナが説明してくれた。


「フェルナさんのおっしゃる通りです。ですので、2度と同じような被害を出さない為にも、早急に手を打っておきたいというのが、ギルドと領主様の方針です」

「なるほど……」


 ウィニアの言う通り、事前に大きな被害を出した事例があって、同じ被害が2度も3度も繰り返されたら、ギルドはもちろん、領主の沽券にもかかわる。


「私はこの依頼、引き受けるべきだと思う」


 最初に賛成票を投じたのは結衣だった。


「だって、オークは乙女の天敵――ゴブリン、スライムと同じ、くっころ四天王の1人だからね」


 理由がいかにも結衣らしくで、慎也は苦笑した。

 だが実際、結衣が言うような習性がオークにはあるようなので、一概に馬鹿にも出来ない。


「それに、こう言うのって、セリスちゃんにピッタリの依頼だと思わない?」

「?」


 結衣が付け加えてきた言葉の意味が判らず、慎也は頭上に疑問符をうかべた。


「……! なるほどな」


 少し考えた後、結衣が言わんとしていたことの意味を理解して、慎也は頷いた。


 マナクレイの森は広い。その中に作られているかもしれない集落を見つけろ、と言っても、個人パーティの冒険者には至難の業だ。前回のゴブリン遺跡の時はマクレーンたちが事前に情報を纏めておいてくれたことと、彼の鋭い勘のお蔭ですぐに発見することが出来たが、今回は彼らはおらず、事前情報も無い。そもそも、可能性が高い、と言うだけで、実際に集落が存在するかどうかも判らない。

 仮にあったとしても、見つけるにはかなりの時間が掛かるだろう。


 だが、今回はセリシエルがいる。天使族である彼女は、空を飛ぶことが出来る。地上から探すのは困難だが、空から探せば断然、発見出来る可能性が高まる。


 確かにピッタリの依頼だ。


 ユフィアも理解したらしく、慎也の目配せに頷いて見せた。


「この依頼を受けようと思うけど、2人はどうする?」

「構わないわよ。オークとは戦ったことあるし」

「私もです」


 シアーシャとフェルナも同意した。


「セリスはどうだ?」

「もちろん良いんだよ!」


 セリシエルの賛成も得られたことで、全員一致で「オーク集落の調査」の依頼を受けることとなった。


「けど、調査だけじゃなんですから、他の依頼もいくつか受けておきませんか?」

「そうだな。ただ、セリスは今回が初めての依頼だから、軽いのにしよう」


 フェルナの意見ももっともなので、慎也たちは掲示板に掛かっている依頼の中から、比較的簡単なものを見繕うことにした。

 壁にずらりと並ぶ伝票を見ていると、ふとある依頼伝票に慎也の目に留まった。


 なんの変哲もない「ゴブリン討伐」なのだが、それを見て、先日のゴブリン遺跡での出来事――厳密には、それに先駆けて起こったゴブリンの増加の件がどうなったのか気になったのだ。


「そう言えば、例のゴブリン遺跡の一件以降、ゴブリンの数はどうなったか判りますか?」

「はい。まだ一月ほどですが、ゴブリンの増加は収まったという報告を受けています。と言うより、むしろ減少傾向にあるそうです」


 カウンターのウィニアに尋ねてみると、そんな答えが返ってきた。


「ゴブリンの数が減少している、ってことは、マナクレイの森にゴブリンが多く住みついていたことも、ゴブリン・エンペラーが関係していた、ってことですか?」

「さすがにそこまでは……ただ、それも含めて現在も例の遺跡では調査が行われているそうです。それに伴って、あの遺跡の周辺は領軍によって封鎖されていますから、近づかないでくださいね」

「なるほど、了解です」


 まあ、原因がなんにせよ、ゴブリンが減るのは良いことだ、と慎也は思った。

 それが理由という訳では無かったのだが、取りあえず慎也は「ゴブリン討伐」の依頼も受けることにした。

次回は木曜日更新の予定なんですが、仕事の都合によっては遅れるかもしれません。

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