第81話 面白いルールだな
結構複雑なルールがあるんです(=゜ω゜)ノ
「討伐した盗賊のアジトから、大量の武器と防具がねぇ……」
「ええ。一応ギルドに報告していまは買戻しを待ってる状態なんですが、なにか心当たりありませんか?」
慎也がヨルグに相談したのは、先日の盗賊討伐戦で手に入れた大量の武具のことだった。
ちなみにいまこの場にいるのは慎也とヨルグだけで、結衣とユフィアはケーナと一緒にセリシエルの防具の採寸を手伝いに行っている。
「いやぁ、無ぇな。付き合いのある同業者はいくつあるが、どこもんなに大きい店じゃねぇし、そんなに多く武器を仕入れられるような店じゃねぇ」
「じゃあ、奪われた武具はキアナの街の武器屋のものじゃない、ってことですか?」
「まず無いな」
ヨルグは断言した。
「うちを含めて、この街の武具屋の主な客は冒険者だ。お前さんらもそうだが、冒険者ってのは個人によって戦うスタイルや扱う武器がまったく違ってくる。そこへ種族による身体的な特徴の差もあるから、同じ武器や防具を大量に仕入れるメリットは薄いんだ。同じ種類の武器なんかは、10個もありゃ充分。それだってあくまで見本だ。ほとんどの場合、扱う冒険者の要望によってカスタマイズしちまうからな。だから武具屋には必ず専属の鍛冶師がいるんだが」
「なるほど……」
確かに、慎也たちが知っている冒険者たちは、扱う武器も戦闘スタイルも個人によってまったく違う。全員が同じ武器、同じ防具を扱っているパーティなど見たことも無い。
「同じ武器や防具を何十個も必要な奴らと言えば、やっぱ軍隊だろうな。この辺りで言えば、スアード伯爵の領軍だ」
「やっぱ、そうですよね」
ヨルグの推察に関しては、慎也も半ば以上予想していた。
個人の技量や少数でのチームワークが必須な少数精鋭の冒険者に対し、軍隊は数十人、或いは数百人、それ以上の大人数が同じ武器、同じ鎧を着込み、隊伍を組んで戦う集団戦法を旨としている。
同じ武器、同じ鎧を大量に欲するのは当然だ。
しかも先日のゴブリン討伐戦で、スアード伯爵領軍は冒険者たちと共にゴブリンの集団と交戦している。その際に多くの武具が破損し、その補充として発注された物が、たまたま盗賊たちに略奪されたのだとしたら頷ける。
「ま、もしお前さんらの手に入れた武具がスアード伯爵の領軍に納品されるはずの物なら、ギルドから領軍に問い合わせが行くだろうから、すぐに判るだろうさ」
「そうですね」
ギルドもその辺りの事情は知っているだろうから、既にスアード伯爵に問い合わせているはずだ。
「ただ――」
ヨルグが表情を曇らせる。
「もしもその武具が領軍の物じゃなかった場合、持ち主が判らなかった場合は、買戻し期間が過ぎたらすぐに売っ払った方が良い」
「何故です?」
ヨルグの言葉が少し気になり、慎也は聞き返した。
「そんだけの武具を扱ってるってことは、持ち主はよっぽど大商人か領主規模の貴族、もしくはそれに準ずる大組織ってことだ。んで、本来の持ち主にとって、今回の一件は大損害な訳だ。高価な武具を根こそぎ奪われた訳だからな。大抵の連中は物分かりが良いし、輸送途中の武具を盗賊に奪われたのなら自己責任だってことは理解してるだろうが、中にはそれを認めようとしない連中もいる。そいつらが、自分たちの武具を手に入れたお前さんらに八つ当たりしてこないとも限らねぇからな」
「なるほど……」
この世界は地球とは違って封建社会。一部の特権階級の人間は他の一般市民に比べて理不尽とも言える力や財力を持っている。冒険者のような立場の弱い者は、そう言った者たちをなるべく敵に回さないのが得策なのだ。
「災いの種は早めに捨てるに限る。もし持ち主が現れなかった場合は、冒険者ギルドに売っちまえ」
「え? 冒険者ギルドが武具を買ってくれるんですか?」
「そりゃそうさ。なにしろ、ギルド直営の武具屋なんてものがあるくらいだからな。たぶん、買戻し期間が過ぎた時点で、向こうが「買いたい」って言ってくるはずだぜ? つーか、キアナの街でそんだけの量の武具を欲しがる奴は、領主か冒険者ギルドしか無ぇぞ?」
「そうなんですね。判りました」
その辺りの事情を慎也はまったく知らなかっが、たぶんフェルナとシアーシャは判っているはずだから、丸投げしようと決めた。
そこへ――
「お待たせです!」
バーン、と扉が開き、ケーナの元気の良い声が響いた。
「じゃーん、なんだよ!」
それに続いて扉の奥から現れたのはセリシエル。
彼女が着ているのは、可愛らしいドレス風の戦闘服だった。
空を思わせる農紺色の下地の上から純白の金属製の装甲を、胸元、腰回りに装着している。動き易さを重視した為か、装甲は少なめだが、同時に露出度も控えられている。
「セイクリッド・ドレス・アーマー、って言うんだって」
「すっごく可愛いです!」
後からやって来た結衣とユフィアが、にこやかな笑みを浮かべている。
「どうかな、シンヤ。似合うかな~?」
頬を赤くし、もじもじとしながら感想を求めてくるセリシエルに。
「ああ、凄くよく似合ってる」
慎也は嘘偽りの無い感想を述べた。
確かに、鎧とドレス。凛々しさと可愛らしさがミスマッチしたセイクリッド・ドレス・アーマーの外装は、セリシエルの可愛らしさも相まってとてもよく似合っていた。
可愛い。でも強い――という二面性を持ったセリシエルには、ある意味ぴったりの防具かもしれない。
「わーい!」
慎也に褒めてもらえたのが嬉しかったのか、セリシエルがその場でくるり、と横に一回転した。
「!」
その際、スカートがまくれ上がり、魅力的な太腿が露わになってしまう。しかもその時まで気付かなかったのだが、セイクリッド・ドレス・アーマーは、背中の部分が肩から背中の中ほどまで開いており、セリシエルが一回転した際に長い髪が翻って、一瞬だけ白い肩甲骨の滑らかなラインや白く滑々した肌が露わになった。
「おいっ、ちょっと、背中――」
「ああ、これはこういう仕様なんですよ」
動揺したのか、声が少々上ずってしまった慎也に、ケーナが冷静に説明する。
「それに、背中を覆っちゃったら翼が出て来た時に破れちゃうもんね」
と、結衣が補足する。
言われてみれば、天使族であるセリシエルは背中から翼を生やすことが出来る。しかも必要ない時は体内に格納しておけるという便利かつ謎使用なのだ。背中が覆われた服を着ていたら、翼を生やした時に破れてしまうのは道理だ。
「ん? じゃあ、前に着てたスーツはどうだったんだ?」
昨夜、セリシエルと戦った時、彼女はスーツを着たままで背中から翼を出していた。あの時、スーツが破れたような様子は無かったはずだ。
「ああ、それなんですけど、このスーツ、元から背中に切りこみが入ってたみたいなんです」
そう言ってユフィアが、セリシエルが着ていたボディスーツを掲げて見せた。
よく見れば、確かに背中の部分――肩甲骨の辺りに細い切れ込みが入っている。明らかに翼が出てくるのを想定した造りだ。
「ってことは、この服のデザインって、天使族の間では一般的だったりするのか?」
「さあ? あたしは天使族なんてセリスさん以外に見たことね―ですから、判んないっス」
と、首を傾げながらケーナが答える。
「……まあ、その辺りはどうでも良いか」
気にはなるが、いま優先して考えるべきことでもない、と慎也は言ったん思考を打ち切った。
「嬢ちゃん、動きにくい所とか無いか?」
「無いんだよ。可愛いし動き易いし、とっても気に入ったんだよ!」
「そうか。そいつはなによりだ」
新しい服を買ってもらった子供の様にはしゃぐセリシエルに、ヨルグも満足そうに頷く。
自分たちが作った物に、客が満足感と喜びを露わにしてくれる――商人冥利に尽きるというやつだ。
「取りあえず、今日はこれで終わりです。実戦で使ってみてもし不具合があったらまた来てください」
「はーい。ケーナちゃん、ヨルグさん、ホントにありがとう!」
ぺこり、と頭を下げてセリシエルは礼を述べた。
◇◇◇
その後、念の為に慎也たちの武器のメンテナンスもしてもらった。こちらはすぐに終わり、概ね問題無いということで、ヨルグの店での用を済ませた慎也たちは代金を支払うとすぐさま次の目的地へと足を運んだ。
もちろん、行先は冒険者ギルドだ。
正面入り口の扉を開けると、既に昼前にも拘らず、ロビーは相変わらず熱気と喧騒に包まれていた。
「ふわ……」
さすがのセリシエルも、冒険者たちの放つ喧騒に当てられてか、少し緊張気味だ。
「大丈夫だ」
「う、うん……」
緊張をほぐすようにセリシエルの頭をポンポンと撫でてやると、ぎこちなく頷いた。
「ここはいつ来てもこんな感じだもんね」
「私も未だに慣れません」
結衣とユフィアもここの雰囲気は苦手らしい。実際、普通の女性に取って冒険者ギルドの荒々しい空気は受け入れがたいだろう。そう言う意味では、毎日そんな冒険者の相手をしている受付嬢の人たちは肝が太いと言える。
「んじゃ、さっさと登録しちまうぞ」
「ゴーゴー」
慎也が先んじ、結衣がセリシエルの背中を押して、冒険者登録の受付がある2階へと足を進める。
慎也たちがここへ来るのは冒険者になって以来、およそ1月半振りだ。あの時、慎也たちの受付を担当したのはウィニアだったが、彼女は故あって1階の依頼の受付に異動になってしまった為、今回は名前の知らない別の受付嬢が担当してくれた。
ライセンス・カードを提示して自分たちの名前とランクを名乗った後、セリシエルの冒険者登録と、彼女を自分たちのパーティに加えたい旨を説明すると、あの時と同じ様に冒険者登録用紙への記入を求められた。
慎也たちの説明を受けながら、セリシエルは言われた通りに必要項目を書き込んで受付嬢に渡した。
「え? 天使族?」
受け取った登録用紙をチェックしていた受付嬢が、一瞬、驚いたように声を漏らした。
どうやらセリシエルが、人前に滅多に現れない天使族だと知って驚いたようだ。
「天使族だと、なにか問題でも?」
「い、いえ、問題ありません。すぐに手続きを行いますので、少々お待ちください」
少し威圧気味に慎也が尋ねると、焦りながらも受付嬢は手続きを再開した。
「では、鑑定版の上に手を置いてください」
「はーい」
言われるがままにセリシエルは、受付嬢の差し出した鑑定版に手を乗せた。
「レベル30!?」
鑑定版に表示された結果を見て、またしても受付嬢が驚きの声を上げる。
(そう言えば、オレらの年頃でレベル20以上ってのは異常なんだったな)
最初に冒険者登録をした時、ウィニアが驚いていたのを思い出した。当初は驚きを露わにしていた受付嬢だったが、さすがプロと言うべきか、すぐに落ち着きを取り戻すと、鑑定版に表記された結果を用紙に書き込んで行く。
(どうやらウィルさんの言う通り、大丈夫っぽいな)
この時まで、慎也の胸中には一抹の不安があった。
それは、セリシエルのステータス異常が、ギルドの鑑定版によって明らかになってしまうのではないか、と言うものだった。もしバレれば問題視されるのは確実だ。
ここに来る前、そのことについてウィルに尋ねたのだが、彼は大丈夫だろう、と答えた。
ギルドが使用している鑑定版は決して性能の良いものではないらしい。セリシエルのステータス異常は、あくまでウィルの鑑定スキルと、その上位互換であるユニークスキルがあればこそ気付けるものであり、慎也たちが異世界人だと判らない程度の機能しかない鑑定版では、セリシエルのステータスの異常には気付けないだろう、と断言した。
実際その通りだったようで、受付嬢は気付いた様子も無く書類作成を進めている。
その後、スキルの自己申請の書類も書き終わり、何事も無くセリシエルの冒険者登録は許可された。
なお、受付嬢の話によれば――
・既に存在している冒険者パーティに新たな冒険者を加える場合、見習いである9級、10級以外であればランクに関係無く自由に加えられる。極端な話、1級冒険者パーティに8級冒険者を加えることも可能。
・ただしギルドが許可しているパーティの人数制限(15人)をオーバーしてはならない。
・本来、冒険者は定められたランク以上の依頼を受けてはならないが、パーティメンバーで、上位ランクの冒険者が付き添う場合に限り、2ランク上の依頼を受注することが許可される。つまり、7級冒険者でも、5級以上の冒険者のパーティメンバーが一緒にいれば、5級の依頼を受けることが出来る。
――と言ったルールが存在するそうだ。
(面白いルールだな)
受付嬢の説明を聞いて、慎也は思った。
パーティランクなんてものが存在するから、てっきり冒険者ランクがパーティランク以下の新人の加入は認められないのではないか、と考えていたのだが、その辺りはまったく関係無いらしい。
ただし、依頼のランクは当然の様に考慮される。低ランクの冒険者が一緒にいると、受注できる依頼のランクも極端に下がってしまう。
例えば1級冒険者パーティに7級冒険者が加入した場合、新人を連れて受けられるのは5級までだ。ただ、別行動をさせればなんの問題も無いということでもある。
(やっぱ、新人育成を目的とした措置なんだろうな)
どこの職場でも、なにも知らない新人を育成するのに最も有効な方法は、先輩が手本を見せることだ。経験者、熟練者が自らの技術、体験を実際に新人に教え込むこと。
当然、それは冒険者にも言える。1級冒険者に直接戦い方を教えてもらっていた慎也たちがその典型的な例だ。残念ながらウィルは既に冒険者を引退しており、一緒に依頼を熟すということは出来なかったが。
新人だけでパーティを組み、多くの経験を積んで大成する例もあるが、実際それらは非常に稀有な例であり、大抵は途中で限界を悟るか、魔物や盗賊に敗れて命を落とす。ミリィたちがそうであったように。
冒険者ギルドもその辺りの事情は知っている。だからこそ、こんな制度を設けたのだろう。熟練冒険者が、新人を育て易いようにする為に。そうして、新たな世代の冒険者を育成する為に。
(奥が深いんだな、冒険者ってのは……)
冒険者と言う職業、それを統括する冒険者ギルドという組織の考えの深さに感心しつつ、慎也は、受付嬢の説明を聞きながら欠伸を漏らしているセリシエルの頭に手刀を落とすのだった。




