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異界の刀銃使い  作者: 太公望姜子牙
天使の章
85/135

第80話 可愛い武器!

お買い物♪ お買い物♪ (*´▽`*)

「ふ、ふふ~ん♪」


 ご機嫌な様子で鼻歌を口ずさみながら前を歩くセリシエルの後ろ姿は、先ほどまでのボディスーツに外套を纏った姿ではなく、リシル洋服店で買った白いワンピースタイプの麻の服を着ている。他にも何着か服を買ったのだが、セリシエルはいま着ている服が1番のお気に入りらしい。

 理由は、可愛いから、だそうだ。


 慎也から見れば「質素で地味」と言うのが本音だが、セリシエルが着ると不思議とよく似あっている。セリシエル自身が元々かなり可愛い出で立ちをしているからだろう。


 実際、すれ違う男たちの多くが彼女に目を奪われていた。


「ねえねえ、シンヤ。似合ってるかな~?」


 くるっと後ろを振り返り、慎也に見せるように手を広げて感想を求めてくるセリシエルに――


「ああ、似合ってると思うぞ」

「えへへ~」


 率直に答えると、嬉しそうに陽だまりのようなぽんやりとした笑顔を見せる。


 ちなみにこのやり取り、これで3回目だったりするのだが……


「可愛い服をいっぱい買ってもらって、とっても満足なんだよ。シンヤたちには感謝なんだよ!」


 よほど嬉しいのか、セリシエルは笑顔のまま踊るようにくるくるとその場で回り出した。


「また今度あのお店に行ってみたいんだよ! なんとなく店と私と名前が似てるし!」

「はいはーい! 私もセシルちゃんに賛成!」


 などと結衣も同調し始めた。

 セリシエルにリシル。確かに名前は似ているな、と思いつつ、2人があの店に買い物に行きたい理由について、服を買いたいだけじゃないだろうな、と慎也は勘繰った。


「それは、服が買いたいからか? それともミリィがいるからか?」

「「両方!」」

「……」

「あはは……」


 完璧に声をシンクロさせたセリシエルと結衣に、慎也は額を手で押さえ、ユフィアは苦笑いした。


「当分リシルさんの店に行くのは禁止」

「えー!」

「横暴なんだよ!」


 慎也がそう言うと、すかさず結衣とセリシエルが噛みついて来た。


「やかましい! お前らやり過ぎなんだよ。服買う前に店員の耳触りまくって気絶させる奴があるか!?」


 そうなのだ。

 あの後、リシルの許しを得てミリィの耳を触り出したセリシエルに結衣が便乗した結果、2人に耳を弄られ過ぎたミリィが目を回してしまったのだ。


「せっかく辛い経験を乗り越えて新しい人生を歩み出したんだ。その出だしから、文字通り目の前を真っ暗にさせてどうすんだ。自重しろ」

「ぶー」


 頬を膨らませる結衣。ただ、慎也の言っていることも理解できるのでそれ以上の文句を言うのは止めたようだった。ただ、セリシエルの方は不思議そうに目をぱちくりさせて首を傾げた。


「私はミリィちゃんになにがあったのか、なにも知らないよ?」

「あ、そう言えばセシルさんには話してませんでしたね」


 自分たちとミリィの関係を説明していなかったことに気付いたユフィアが、ミリィの実に起きたことを掻い摘んでセリシエルに説明した。


 幼馴染2人と冒険者をしていたこと――

 初の魔物退治でゴブリンに襲われ、仲間を2人とも失ったこと――

 彼女自身もゴブリンに捕らわれ、あわやというところで慎也たちが救ったこと――


「そんな辛い目に遭ってたんだね……」


 一通り聞き終えたセリシエルは、あの可愛らしい少女に起こった悲劇の大きさを知って、先ほどまでとは打って変わって悲しそうに顔を俯けた。


「確かに可哀想だが、それは冒険者なら誰しもに起きうることでもあるしな。オレたちだってそうだし、冒険者をやるなら、お前の身にだって起こりうることなんだぞ? その辺は理解してるか?」


 どうにも無邪気でお気楽という、およそ冒険者に向いているとは思えない性格のセリシエルに、慎也は少し不安を覚えていたので、この機会に改めて覚悟を問い直してみることにした。


「大丈夫なんだよ。私だってそのくらいのことは理解できるし、覚悟は完了済みなんだよ!」


 と、セリシエルはいつもの気楽な調子で答えた。

 それがまた、慎也を不安にする。ホントに判ってるのか、と。


「魔物と戦うって、そう言うことだと思うんだよ。誰だって死ぬのは嫌だし、魔物と向き合うのは怖いけど、戦うことの出来ない人の代わりに魔物と戦って、その人たちを守ってあげるのが冒険者なんだよ。私だって怖くないと言ったら嘘になっちゃうけど、シンヤとユイちゃんとユフィアちゃんが一緒だから、大丈夫なんだよ」

(へぇ……)


 セリシエルの答えに、慎也は少し驚かされた。なにも考えていなように見えて、意外と達観しているし、きちっとした覚悟と決意をもっていたセリシエルを見直した。


「でも、私1人じゃきっと無理なんだよ。シンヤたちが一緒にいてくれなかったら、冒険者になろうなんて考えなかったかも。だから、仲間を失ったミリィちゃんが冒険者を辞めたくなった気持ちは、凄く良く判るんだよ」


 それに関しては、慎也たちも同意見だった。まだまだ新米とはいえ、何度も魔物と戦って危ない目に遭って来ただけに、仲間と言うものの大切さは身に染みて理解している。間違っても単独(ソロ)で冒険者をやってみたいなどとは考えたことも無い。


(意外と考えてたんだな)


 セリシエルについて、なにも考えていないんじゃないか? 冒険者と言うものを軽く考えているんじゃないか? と思ってしまったことを反省しつつ、慎也は彼女のことを見直した。


「だから、傷ついたミリィちゃんの心を癒す為に、これから毎日店に行って、耳を揉んで慰めてあげようと思うんだよ!」

「それをやめろと言っとるんじゃ!」


 セリシエルの評価を改めたことを撤回しつつ、慎也は彼女の頭に手刀を振り下ろした。


 ◇◇◇


「それで、今度はなにを買うんですか?」

「もちろん、武器と防具だ」


 通りを歩きながら尋ねて来たユフィアに慎也はそう答えた。


 冒険者をやって行く上で、武器と防具は絶対外せない。

 セリシエルのステータスから、彼女は<小剣術><小盾術>のスキルを持っていたので当然それらを装備させることになったのだが、生憎とウィルはそれらの武器を持っていなかった。


 なので、セリシエルの服を買った後、冒険者登録を行う前に彼女の武器と装備も調達することにしたのだ。


「なるほど。それでヨルグさんとこに向かってるんだね」


 結衣が納得顔で頷いた。彼女の言う通り、慎也たちが向かっているのはドワーフ鍛冶師のヨルグの店だった。

 最初にこの街に来て防具を買って以降、慎也たちはリシル洋服店と同様、ヨルグの店の常連にもなっていたので当然の選択とも言える。


「そう言うことだ。さて、着いたぞ」


 言っている内に目的地である「ヨルグ武具店」の前に着いた。


「こんにち――」


 慎也が店の扉を明けると――


「てめぇ、もういっぺん言ってみやがれええええ!!」

「何度でも言ってやるってんだ、このアホ親父がああああ!!」


 もはや恒例と化したヨルグとケーナの親子喧嘩の真っ最中だった。


「……ここはいつ来ても賑やかだな」

「……お客さんは居ないんだけどね」

「あはは……」


 もはや見慣れてしまった光景に、達観した様子で慎也と結衣が呟き、ユフィアが苦笑している。


「はわわ、喧嘩はダメなんだよ~」


 壮絶な親子喧嘩をセリシエルがなんとか止めようとしたが、あまりの激しさに手も足も出せずに右往左往している。


「やるところまでやったら止まるから、巻き込まれないように離れてた方が良いぞ」


 毎度過ぎて止める気など欠片も無い慎也に促され、ハラハラしながらもセリシエルは早く収まるように祈るしかないのだった。



 結局、2人が力尽きて喧嘩が収まったのはそれから10分以上経った後だった。


 我に返った後、慎也たちが来店していたことに気付いた2人はお約束通り大慌てだったが、「大事な話とお願いがある」という慎也の言葉に促され、店の奥の客間で話を聞くことにした。


「なるほどな。記憶喪失とは、また面倒だな」

「それに、ステータスの異常に精神操作、ですか……相当な訳ありっぽいですね」


 お互いに傷だらけ、痣だらけになったヨルグとケーナに、慎也たちはセリシエルの付いて一通りの事情を説明した。

 ただし、ミリィの時とは違い、森の外れに転移してきたことや、ステータスの異常、精神操作されていたことも包み隠さず、だ。


「嬢ちゃん、ホントになにも覚えてねぇのか?」

「全然覚えてないんだよ……」


 ヨルグの問いに首を振って否定した。声に若干の怯えがあるのは、ただでさえ強面気味なヨルグの顔が、ケーナとの喧嘩で出来た傷やら痣やらで凄いことになっていたからだろう。


「ふむ。取りあえず、事情は判った。自分が何者なのかはっきりするまでお前さんらと一緒に冒険者をやることになって、その為の装備を揃えに来た、って訳だな?」

「そう言うことです」


 ヨルグの要約に慎也が頷く。


「よかった。5日振りにお客さんが来てくれた。やっぱり人との繋がりは大事にしないといけねーですね」

「……」


 安堵に胸を撫で下ろすケーナの言葉に、慎也たちは頬を引き攣らせて顔を見合わせた。

 人との繋がりを大事にする、というのはさっきリシルも言っていたが、ケーナの言葉にはまた違った重みと言うか、深刻さが伺えた。

 この店、5日間も閑古鳥状態だったと言うことだ。それで何故潰れないのか、摩訶不思議な超常現象を見た気分になって、慎也たちは内心で首を傾げた。


「で、セリスさんはどんな武器をご要望ですか?」


 そんな慎也たちの心中など露知らず、ケーナが客であるセリシエルに尋ねた。


「可愛い武器!」

「いや、可愛いって……」


 間髪入れずに発せられたセリシエルのリクエストに、ケーナは困った顔で慎也を見た。


「取りあえず、本人に選ばせてやってくれるか?」

「そうっすね」


 そう言う訳で、セリシエルが使う武器に関しては、店にある物から本人が選ぶことになった。


「これ、これが良いんだよ!」


 そう言って彼女が真っ先に選んだのは、小型の円盾――バックラーだった。


「丸くて小っちゃくて、とっても可愛いんだよ!」

「そ、そうか……」


 よく判らないセリシエルの感性に、慎也は少し引き気味に答えた。


「ねぇねぇ、あの盾ってどこが可愛いの?」


 慎也同様、セリシエルの感性が良く判らなかったらしい結衣が傍らのユフィアに尋ねた。


「さあ、私にはちょっと……」

「ま、その辺は人それぞれじゃねーんですか?」


 ユフィアやケーナも首を傾げている。


「盾はそれで良いとして、武器はどうすんだ?」

「んーっと……」


 ヨルグに促され、セリシエルは居並ぶ武器類に目を走らせた。


「これにするんだよ」


 そう言ってセリシエルが手に取ったのは、刃渡り50cmほどのショートソードだった。


「んじゃ、試しにちょっと振ってみな」

「はーい」


 ヨルグに言われるがままセリシエルはショートソードを鞘から抜くと、それを片手で構えてその場で素振りした。


 セリシエルが剣を振る度に、ヒュッ、という鋭い音が響き、太刀筋もまた、慎也に匹敵するほど速く、隙も無駄も見当たらない。


「ふむ、明らかに素人の太刀筋じゃねぇな。記憶を無くす前はショートソードを武器としてたのは間違い無さそうだ」


 顎に手を当てて思案顔のヨルグが断言する。確かにセリシエルの<小剣術>は500超えと、慎也の<刀術>に匹敵するほど高いものだった。<小盾術>も400を超えていたし、相当な修練を積んでいたことは疑いようが無い。


「どうだ? 武器を振ってみて、なにか思い出したことはあるか?」

「んー、特に思い出したことは無いんだけど、この武器はとってもしっくり来るんだよ。ヨルグさんの言う通り、私はショートソードを使ってたんだと思うんだけど、どこで使ってたかは全然判らないんだよ」

「そうか……」


 残念そうにヨルグが呟いた。

 慎也もまた、使い慣れた武器を振るっていればなにか思い出せるんじゃないかと密かに期待していたが、そこまで甘くはなかったようだ。


「まあいい。んじゃ、武器と盾はそれで良いとして、次は防具だな。慎也と同じ魔法剣士で、おまけに天使と来れば、やっぱ動き易さ重視の軽装備がいいだろう」

「けど、天使族用の装備なんか置いてあるんですか?」


 疑問に思った慎也が質問する。冒険者を続けてまだ一カ月ほどだが、キアナ支部に登録している冒険者の中には、慎也が知る限り天使族はいなかったはずだ。

 もちろん、本人が隠しているということも考えられるが。


 実際、獣人の場合もそうだが、人種が違うと身体的な構造も大きく違ってくる。ともなれば当然、纏う装備も種族によって異なる。


 なので、天使族のいないキアナの街にある武器屋に、天使用の装備が置いてあるのか疑問だったのだが。


「さすがに天使専用の装備ってのは無ぇが、幸い嬢ちゃんの外見は人族と大差無い。要は背中の翼を考慮すりゃ良いだけの話だからな。それなら、人族用の装備でも充分流用可能だ。ちょうど着られそうな防具もあるし、どうとでもなると思うぜ?」

「そうですか。それを聞いて安心しました」


 一番の心配事だった装備が問題無しだったことで、慎也も安堵の息を付いた。


「つー訳だ、ケーナ。嬢ちゃんの着れそうな装備を見繕ってやれ」

「判ったですよ。んじゃ、セリスさん。取りあえず採寸したいんで、向こうへ来てもらえますか?」

「はーい」


 元気よく返事をするセリシエル。


「あ、出来れば――」

「はいはい、可愛いのが良いんでしょ? ちょうど良いのがありますから」

「ホント!? 楽しみなんだよ!」


 ワクワクしながらセリシエルはケーナに付いて部屋を出て行った。


「随分と可愛らしいお嬢ちゃんじゃねぇか」

「保護した直後は大変だったんですけどね……」


 精神操作されたセリシエルに殺されそうになった慎也は、少し複雑な笑いを漏らした。

 が、すぐに真面目な表情になって言った。


「ヨルグさん。実はちょっとお尋ねしたいことがあるんです」

「あん? なんだ?」


 急に真面目な雰囲気になった慎也にきょとんとしながらも、ヨルグは彼に尋ね返した。

次回更新は土日のいずれかの予定です。

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