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異界の刀銃使い  作者: 太公望姜子牙
天使の章
80/135

第75話 異世界人なんじゃ……

一難去ってまた( ゜Д゜;)!?

 砦内にあった金品や武具とトロルの魔晶核(コア)を回収し終わった時点で一行は引き上げることにした。

 当たり前だが回収した金品、武具は人の手で運べる量では無かった為、慎也の共有無限収納空間に一括で納めた。

 余談だが、彼らが<共有無限収納>のスキルを持っていることを知らなかったフェルナとシアーシャは驚き、そして羨ましがっていた。


 唯一生け捕りにした盗賊テイマーはそのまま連行することになったのだが、ロープで縛ったまま連れて歩くのは面倒なので、彼らが強奪した商隊の馬車を利用させてもらうことにした。幸い、馬も繋がれたままだったので、それに縛り上げた盗賊テイマーを押し込み、慎也たちも乗り込んで砦跡を後にした。


 なお、盗賊の根城と化していた砦跡は慎也の強固な主張によって破壊することとなった。2度と盗賊のたまり場にされないように、だ。経年劣化によって既に朽ちかけていたので、結衣やユフィアの攻撃魔法、慎也の魔法剣などをいくらか叩き込んだら割とあっさり崩壊した。


 後始末が終わり、瓦礫の山と化した砦を去る頃には空が白み始めていた。事前にフェルナが予想した通り、来る時に通った罠だらけの山道以外に、馬車の通れる安全な道が隠されており、そちらを通って一行は街道へと抜けることが出来た。


 そのまま盗賊討伐依頼を出した村に寄り、依頼主である村長に盗賊団を殲滅したことを伝え、依頼完了の証書を出してもらい、晴れて依頼を果たした慎也たちはそのままキアナへの帰路についた。


 昼過ぎに街に到着した後、衛兵に事情を説明して盗賊テイマーを引き渡す。当然のことながら彼は犯罪者奴隷として奴隷商に売り渡されることになるが、自業自得なので、日本人である慎也も結衣も同情しなかった。


「あ、皆さん、ご無事だったんですね!」


 盗賊を衛兵に引き渡し、キアナの冒険者ギルドに到着した慎也たちを、顔馴染みの受付嬢であるウィニアが出迎えてくれた。


「あ、ウィニアさん。休暇から戻られたんですね」

「はい。今日から復帰です」


 ユフィアの言葉にウィニアが笑顔で答えた。

 盗賊討伐に出立する時、彼女は用事の為に休暇を取っていて不在だったのだ。


「さっきシンヤさんたちが盗賊討伐の依頼を受けた、って聞いて心配してたんですよ。その……皆さん”初めて”でしょう?」


 初めて、と言うのは、殺人のことだろう。


「やっぱり、初めてだと危ないんですか?」

「ええ。大抵の人は魔物を殺すことには躊躇しないんですが、同じ人間だとどうしても躊躇ったり、情けを掛けたりして命を落とす方が少なくないんです」


 結衣の質問にウィニアはそう答えた。


「けど、皆さん無事に依頼を果たされたようでなによりです」

「ベテランが一緒でしたからね」


 慎也が《槍穹の翼》の2人を指すと、フェルナとシアーシャは照れた様に笑った。


「で、依頼完了を報告に来たんですが、良いですか?」

「はい。伺います」


 慎也たちはウィニアに盗賊討伐のあらましを報告し、村長からもらった依頼完了の証書を渡す。それをウィニアが確認し、完了のサインをしたことで晴れてこの依頼は終了となった。


「盗賊の人数が25人。トロルをテイムしていたんですか?」


 報告の内容にウィニアも驚きを隠せなかった。


「やっぱり、盗賊がトロルを従魔にしているのは珍しいんですか?」

「珍しいと言うか、少なくとも私は初耳ですね。盗賊が魔物をテイムしていること自体は珍しくないのですが、大抵は索敵に便利な狼型の魔物ですね」


 盗賊とは人を襲撃、略奪を糧とする者たちであると同時に、襲撃、略奪される側でもある。常に領軍や冒険者に狙われ続ける訳だから、探索、索敵、警戒に力を入れるのは道理だ。


「トロルは戦闘能力こそ高いですが、肉食の上に大食漢で、飼い慣らすには多くの肉が必要になります。しかも巨大な体躯のせいで否応なく目立ちます。はっきり言って、盗賊がテイムして良い魔物じゃありません」


 呆れた様にため息を付くウィニア。

 言われてみればその通りだ。盗賊と言うのは基本的に目立つのはタブーだ。冒険者や領軍、憲兵に見つかってしまったらアウトなわけだから。そういう意味では、トロルは盗賊との相性は最悪と言って良い。

 目立つ上によく食べるのだから。


(じゃあ、なんでケイドって奴は、盗賊たちにトロルなんかテイムさせたんだ?)


 盗賊たちの協力者と思われるケイドなる人物の思惑が読めず、慎也が首を捻っていると――


「あと、このケイドという名の人物のことですか――」


 まさにそのことでウィニアが質問してきた。


「盗賊に罠の設置法を教えたり、レアな魔導具や商隊情報を与えていたというのは確かでしょうか?」

「盗賊本人からの情報ですけど、嘘を付いていたようには見えませんでした」


 そう言って慎也はユフィアの方を見るが、彼女も同意する様に頷いた。<虚偽看破>スキルを持ったユフィアが言うなら確かなはずだ。


「なにか気になることでも?」

「いえ、まだ確認は取れていないんですが、他の支部から寄せられた情報で、ここ最近、様々な犯罪者や犯罪組織に技術や武器などを提供し、犯罪を助長している人間がいるかもしれない、と」


 フェルナの質問に、困惑顔でウィニアが答えた。


「それって、まんまそいつじゃん!」


 シアーシャが思わず声を上げた。


「はい。赤い髪に髭を生やした、中年の人族と、情報と特徴が一致します。ですが、そんな人物が実在するとして、何故そのようなことをしているのか、ギルドでも目的を測りかねているんです」


 ウィニアの言う通り、その赤髪の男がなにをしたいのか、慎也にもさっぱり判らなかった。わざわざ手間暇かけて盗賊に技術を教えたり、高価な魔導具を与えたりして、そのくせ自分は報酬などを一切要求しない。そんなことをして、いったいなんの得があるというのか――


「取りあえず、同様の人物がスアード領でも確認できたとギルドには報告しておきますね。最後に戦利品に関してですが、実際に確認させていただいてよろしいですか?」

「構いませんよ。ただ、量が多いのでこの場ではちょっと」

「では、お手数ですが裏手の倉庫にお越し頂けますか?」


 ウィニアに案内されて向かった冒険者ギルドの倉庫で、慎也は収納空間に格納していた戦利品を並べた。


 剣が45本。盾が33枚。全身鎧56セット。魔法杖40本。他にもモーニングブラスターや斧、弓と言った武器が多数。魔隷従の腕輪を含めた魔導具もいくつか。


 なお、金品とトロルの魔晶核(コア)は規定により除外されている。


 ウィニアはそれらをひとつひとつ確認し、記録用紙に書き込んでいく。


「凄い量ですね。1度の討伐でこれだけの戦利品が押収されるのは珍しいです。どこかの大商人の荷駄に違いありません。なにか、持ち主が判るものとかはありませんでしたか?」

「いや、特には」

「捕まえた盗賊も知らない、って言ってたよ」


 慎也の言葉に結衣が補足する。

 商人たちは全員殺されていたし、馬車にも身分証なんかは積まれていなかった。盗賊テイマーももちろん尋問したが、なにも知らなかった。商隊の情報をもたらしたケイドは「お宝を満載した商隊が通りかかる」としか言っていなかったそうだ。


「判りました。手続きが終わりましたので、今日から1週間の間に持ち主が現れなければ、これらの武具の所有権は皆さんに移ります。それまでは勝手に売却したり、使用したりしないで下さいね?」

「判りました」

「どうか持ち主が現れませんように!」

「シア! 不謹慎なこと言わないの!」


 頷く慎也の向こう側で、手を組んで不謹慎な祈りを捧げるシアーシャを柳眉を上げたフェルナが叱っている。

 ふと、ユフィアが手を上げた。


「戦利品は私たちが持っていて良いんですか?」

「構いません。もし持ち切れないのならギルドの方で預かることも出来ますが、皆さんは必要ないですよね?」


 戦利品がどれほど大荷物だろうと、<共有無限収納>スキルがある慎也たちにはなんの問題も無い。


「じゃあ、期間が過ぎるまで戦利品はオレたちが預かるけど、構わないか?」

「オッケーよ」

「お任せします」


 慎也が確認すると、シアーシャとフェルナはすぐに了承した。というより、<共有無限収納>もアイテムボックスも持たない2人にはそれ以外の選択肢が無いのだが。


「買戻しがあった場合、私たちが交渉に当たりますね」

「ああ。その辺は任せるよ」


 慎也たちは買戻しの経験が無いので、実際に何度も買戻しを経験しているフェルナたちに任せるのが妥当だろう。まあ、実際の品物は慎也たちが持っている訳だから、彼らがいないと交渉できないので、買戻しの際は慎也たちも同席することになるが、実際に買戻しをこの目で見る良い経験となるだろう。


 その後、いくつかのやり取りを交わした後、ウィニアから報酬を受け取った慎也たちと《槍穹の翼》は解散となった。なお、盗賊のアジトで手に入れた現金に関しては、慎也パーティと《槍穹の翼》で半分ずつ分けることになった。

 買い戻し相手が現れた時の為に、予め冒険者ギルドが指定した日時にギルドに顔を出さないといけないというのが面倒ではあったが、規則なので文句は言えない。


 徹夜明け、しかも初めての人間相手の討伐依頼。そして――殺人。

 色々あって身も心も疲れ果てていた慎也たちは、寄り道せずにまっすぐ家に帰ることにした。


 キアナの街から森の一軒家までは歩いて2、3時間ほどかかる。馬車で来る場合もあるが、徒歩の場合もある。今回、3人は徒歩を選んでいた。たまに通りかかった乗り合い馬車に乗せてもらうこともあるが、生憎と通りかかることもなかったので、そのまま歩いて帰ることにした。


「なんか、いろいろ疲れたねー……」


 本当に疲れた様子の結衣は、市門を出るなりそうぼやいた。よく見れば目の下に隈ができている。無論、徹夜と疲労だけが原因ではない。


「いつかはやらなくちゃいけなかった事とは言え、きついな……」


 珍しく弱音じみた言葉を吐く慎也も、声に力が無い。


 たった2年前まで、21世紀の日本で暮らしていた少年少女にとって、盗賊とはいえ、人を殺めるという行為は心に深い傷を刻むに充分なものだった。当分2人は血に染まった自分の手を見ながら恐怖と罪悪感に苦しむことになる。

 無論、この世界に生きる者とて、人を殺める、という行為に関しては少なからず忌諱されている。初めて盗賊を殺した冒険者が、ショックと罪悪感に耐え切れずに冒険者を辞る例も少なからず存在する。


 それらを克服し、乗り越えなければ冒険者として生きることはできない。


「どうしたの、ユフィアちゃん?」


 なにやら黙って俯いているユフィアに気づいて、結衣が声をかける。


「いえ、今回私はあまり役に立てなかったので……」


 今回の盗賊戦で、慎也たちや《槍穹の翼》の2人に比べ、活躍の場が無かったことを気にしているらしい。


「気にするな。そういうこともあるさ」


 と、慎也は隣を歩くユフィアの頭をポンポンと優しく叩いた。


「今回はユフィアがオレの切り札だったからな。役に立てなかったんじゃなくて、出るまでもなかっただけのことだ。それに、オレが盗賊の頭目と戦っていたとき、ちゃんと援護してくれただろ? あれがなかったら負けないまでも、かなり手こずることになってた。タイミングもバッチリだった。役に立ってないなんて、とんでもない」


 本心から慎也は言った。


 パーティにおけるユフィアの役割は回復と援護、補助だ。

 だが、今回の作戦は主に奇襲だった。

 全身全霊で攻めに出て、相手に反撃の機会を与えず短時間で一気呵成に殲滅する。それが成功し、盗賊は碌に反撃も出来ないまま殲滅され、慎也たちは誰1人怪我を負うことなく生還した。行動を共にしていた慎也もまた、ほぼ1人で、無傷で敵を殲滅することが出来た。結果的にユフィアの出番が少なかったかもしれないが、それがイコール役立たずと言うことには繋がらない。


「頼りにしてるぞ、ユフィア」

「はい! 私、頑張りますから!」


 慎也がそう言うと、ユフィアも元気を取り戻してくれたようだ。屈託のない笑顔でやる気を漲らせる。


「そう言えば慎也君。ユフィアちゃんから聞いたんだけど、盗賊と戦ってるとき、変なしゃべり方になったんだって?」


 口元に手を当てて、にしし、と悪そうな笑いを隠しながら結衣がそんなことを言った。


「なんだよ、悪いか?」


 慎也はバツが悪そうに視線を逸らす。殺人の罪悪感に耐える為とはいえ、慎也にとってもあれは本意ではなかったのだ。


「悪くはないけど、私も見てみたいなー、と」

「見せもんじゃない!」

「えー。ユフィアちゃんは良くて、なんで私はダメなの?」

「たまたまその場に居合わせただけだろうが!」


 むー、と不満そうに頬を膨らませる結衣だったが、ふとなにか思い付いたように、ぽん、と手を打った。そしてなにを思ったか、慎也の眼前に人差し指を突きつけて――


「私に、見せたくなーる、見せたくなーる」


 指先をくるくると回しながらそんなことをのたまった。催眠術のつもりらしい。

 慎也の額に青筋が浮かんだ。


「よし、そこに直れ。手討ちにしてくれる!」

「きゃー、お代官さまー、お許しを―」

「誰がお代官様だ!」


 刀の柄に手を掛ける慎也から笑いながら結衣が逃げだし、慎也がそれを追いかける。


「ふふ……」


 思わずユフィアの口元から笑いが零れる。


 さっきまで思いつめた雰囲気が、和気藹々とした楽し気なものに変わってしまっていた。もちろん、人を殺めた慎也と結衣の心の傷が癒えた訳では無い。だが、いまこの時だけは忘れても良いはずだ。どうせ後でたっぷりと苦しむことになる。けど、だからと言って苦しんでばかりでは乗り越えることは出来ない。


 こういう時に大切なのは、苦しみを分かち合い、支えてくれる仲間の存在だ。


 ユフィア自身、今回は人を殺めずに済んだが、冒険者として生きていく以上、いずれは手を汚し、苦しみに耐えなければならなくなる。


(でも、シンヤさんやユイさんと一緒なら、大丈夫ですよね)


 走っていく2人の後ろ姿を見つめながら、ユフィアは思った。


「って、2人とも、私を置いていかないで下さい!」


 気付けば遥か彼方まで走り去っていた慎也と結衣を、ユフィアは慌てて追いかけるのだった。


 ◇◇◇


「よ、余計な体力使わせやがって……」

「慎也君が、怖い顔で、追いかけて来るからだよ……」

「ひどいです、私を置いていくなんて」


 結局、追いかけっこは森の近くに来るまで続き、ただでさえ任務明け、徹夜明けの3人はいっそう疲労し、汗だくになって荒い息をしながら揃って木陰でへばる結果となった。


「ああ、そうだ。肝心なことを忘れてたよ……」


 ぜぇぜぇと荒い息を付きながら、慎也が唐突に言った。


「2人に相談したいことがあったんだ」

「なーに?」

「どうしたんですか?」


 2人が聞き返すと、慎也は少し改まった顔で言った。


「実はな――」


 だが、その言葉は最後まで続かなかった。


 こぅ――

 と、言い様も無い違和感が周囲の空気を一変させた。


「なんだ!?」


 慎也の声を合図に、ぐでーとしていた3人が一気に臨戦態勢に入った。


「なんか変な感じ……」


 ただ事ではない気配に、杖を掲げた結衣がすぐに魔法の詠唱に入れるよう息を整える。


「なにかの魔法?」

「これは、魔力の波動です!」


 3人の中で最も魔法に長け、そして詳しいユフィアが断言した。


「でも、こんなおかしな波は初めてです。なにか、私たちの使う魔法とは根本的に違うような……」

「どこだ!? どこから伝わってくるんだ?」


 困惑しつつも魔力の出どころを探るが、辺りには魔物どころか人の気配さえ無い。

 あり得ないことだった。魔力の波動はビシビシと伝わってくるのに、その源が見当たらない。

 例えるなら、すぐ近くから物凄い音が聞こえるのに、音源がどこにあるのか判らない、と言ったところだ。


 これだけ強烈な波動。離れた場所から発動されたものではあり得ない。必ず近くにいる。目に見える距離に。なのに、その出所が判らない。


(こんなことあり得るのか? なにが起こってるんだ!?)


 困惑する慎也だったが、その答えは数秒後、彼らのすぐ目の前に現れた。


「なに!?」


 慎也たちのすぐ近く――地面の上に突然、虹色に輝く魔法陣が出現したのだ。


「なにこれ!? 魔法陣が、どうしてこんな場所に!?」


 珍しく結衣も驚愕している。なにしろいままでなにも無かったはずの眼前の地面に、いきなり強烈な魔力を発する魔法陣が出現したのだから。


「なにも無い所から突然……まさか、転移。空間魔法!」


 ユフィアの推測を裏付けるように、魔法陣の中央に魔力光が収束し、まるで魔法陣の中から湧き出すようにして人影らしきものが現れる。


「あれは……」

「女の……人?」


 見た感じ、それは人間の女に見えた。後ろ姿なのではっきりとは判らないが、身体の輪郭や、腰の辺りまで伸ばした薄紫色の長い髪からして間違い無い。

 女の身体全体が魔法陣から湧き出すと同時に、あれほど激しく荒れ狂っていた魔力の奔流がぴたりと止み、光り輝く魔法陣もまた、幻であったかのように消え去った。


 後に残ったのは、例の女だけ。


 沈黙が辺りを支配する。

 あまりにも突然の出来事に、慎也たちもどうして良いか判らない。

 取りあえず確かなのは、さっき感じた魔力の波動は空間転移の魔法によるものだ、ということ。この女は空間魔法を持ちいて離れた場所からここへ転移して来た。その前兆だったのだ。


 だとしたら気になるのは、女は何者で、何故ここにやって来たか、だが――


(それ以前に、こいつはオレたちの敵か? それとも――)


 女はこちらに背を向けたまま、動かない。何者か判らない以上、いきなり斬りかかる訳にはいかない。だが、万が一の時の為に、臨戦態勢を解く訳にもいかない。

 女との距離は10メートル程。結衣とユフィアを背後に庇い、刀に手を掛けたまま女の動向を油断無く伺う。一挙手一投足。僅かな魔力の動きも見落とさないように。


「……ん?」


 慎也の眼前で、女が動いた。

 ぐらり、と身体を傾がせ、そのまま棒のように背後へ傾いていく。


「くッ!?」


 無意識のうちに慎也は駆けだしていた。<閃駆>を使って素早く女に駆け寄ると、地面に倒れる寸前でその華奢な身体を受け止める。


「おい、なんだこいつ!?」


 女の正体を目の当たりにした慎也は、思わず絶句した。

 視界に飛び込んできた女の顔は、果たして、彼と同じくらいの年頃の少女だった。まだあどけなさが残る輪郭に、陶器のような白くて美しい肌。美人と言うよりは可愛らしいと言った方が正しいだろう。意識が無いらしく、無垢な赤子のような安らかな寝顔を晒している。


 だが、慎也を絶句させたのは少女の纏っている服だった。


 160cmに満たない小柄な身体を覆っているのは、まるでSFアニメや映画なんかに出てくるような、身体にぴったりとフィットしたボディスーツに酷似したものだった。

 そのせいで少女の身体のラインがはっきりと浮き上がっていて若干扇情的ではあるが、いまの慎也にはそのようなことは眼中なかった。


 白を基調とした素材をベースに、見たことも無い金属が編み込まれたその様相は、ファンタジーの鎧とSFに出てくるようなボディスーツを融合させたような独特な作りになっている。布の部分を触ってみるが、まるでプラスチックのような滑々とした奇妙な手触りだ。

 いったいどんな素材を使えばこんな布を編めるのか、慎也には想像すら付かない。


 そしてそれを纏うこの少女は何者なのか――


「慎也く――って、なに、この子の服?」

「見たこともありませんよ、こんな服!」


 後から追いついて来た結衣とユフィアも、少女の奇妙な衣服に驚きを隠せない。


「おい、大丈夫か?」


 意識の無い少女に慎也が呼びかけ、軽く頬を叩いてみるが、反応が無い。呼吸はあるので気を失っているだけだろう。


「まいったな……どうする?」


 突然、空間転移で出現した謎の少女。

 なにもかもが予想外の展開に、さすがにどうして良いか判らず、慎也は仲間の2人に意見を仰いだ。


「どうする、って、ここに放り出していく訳には行かないでしょ?」

「まあ、そうだよなー……」


 結衣のもっともな意見に、しかし慎也歯切れ悪くは唸った。

 確かに道理を言えばその通りなのだ。このままここの放り出していけば、魔物や獣の餌になるか、ゲスな人間に見つかって目も当てられないことになるのは判り切っている。取りあえず、このまま家に連れて帰るのが一番なのだろうが、如何せん得体が知れなすぎる上、厄介ごとの匂いがプンプンするのだ。


「転移……見たことも無い服……」


 少女を見下ろしていたユフィアが、なにやらブツブツと呟いた。


「どうしたの、ユフィアちゃん?」


 気になった結衣が尋ねる。


「もしかして、この人……」


 一拍おいて、ユフィアは衝撃的な言葉を発した。


「シンヤさんたちと同じ――異世界人なんじゃ……」


 その場の空気が凍り付いた。

投稿が遅くなって申し訳ありません。リアルがかなり忙しかったもので。次回は今週末に投降する予定です。

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