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異界の刀銃使い  作者: 太公望姜子牙
始まりの章
8/135

第8話 元の世界に帰る方法をご存知ですか?

異世界、ファンタジーと言えば勇者と魔王ですね( *• ̀ω•́ )b

「つまり、不幸な生い立ちのいじめられっ子が異世界転移して、冒険して、人助けして、救世主して、一国一城の主になった、って訳だね」

「……まあ、ざっくり纏めるとそう言うことになるのか」


 結衣の大雑把な纏め方に苦笑しつつも慎也は頷いた。


「ふむ。確かにわしらの知っている歴史と合致するな」

「王祖様はお幸せだったんですね」


 話を聞いていたウィルとユフィアも納得顔だ。


「……自由だから好きに生きろ、か」


 簡単なことではない。

 自分たちはこの世界に付いてなにも知らず、なにも判らない。確かに学校や職場も無いという意味では”自由”と言えるかも知れないが、逆を言えばまったくの(ぜろ)、これまで築き上げて来たすべてを失ったとも言える。


「ウィルさん、ひとつお伺いしてもいいでしょうか?」

「構わないよ、なんだね?」


 改まった様子で訪ねてくる慎也に、ウィルは抑揚に頷いた。


「元の世界に帰る方法をご存知ですか?」


 初代王は見つけられなかったらしい。

 そもそも自分は元の世界に帰る気が無かったが、後からやって来る同胞はそうとも限らないだろうから、その人たちの為に可能な限り調べたが、結局判らなかった、とメッセージには書いてあった。


 ダメ元で物知りそうなウィルに尋ねてみたのだが、案の定、彼は首を横に振った。


「わしは知らん。それに異世界のことなら、わしよりユフィアの方が詳しい」


 そう言ってウィルはユフィアを指した。


「この子は君たちの世界にとても興味を持っていてね。この本をはじめ、異世界のことを記した書物や本を何冊も読んでいるんだよ」

「なるほど。風美の異世界版か」

「ひどいよー」


 だが実際、異世界に興味があってその本を読みまくっているところなど、そっくりではないか。まあ、結衣の場合は単なる創作なのに対し、ユフィアの方は実在が確認されている訳だから微妙に違うかもしれないが。

 そう言う意味では、戦国マニアでそれらの関連書物を読みまくっている慎也の方が近いかもしれない。


「えっと、確かに私は色々と異世界のことを記した本を読んできましたが、向こうの世界に行く方法は存じません。伝承にはいくつか可能性を示唆したものはありますが、どれも確証はありませんし……」

「それって、どういう伝承なの?」

「例えば、メリディスト島の地下迷宮の最下層に異世界に繋がる門があるとか、魔大陸に住む魔王が異世界の渡る方法を研究している、といったもので――」

「迷宮!?」

「魔王!?」


 ユフィアの説明に、結衣と慎也がほぼ同時に声を上げた。結衣は嬉しそうで、慎也は顔を引きつらせている。


「迷宮って、危険な魔物とか財宝のあるダンジョンのこと?」

「は、はい。たぶんそれであっていると思います」

「ホントにあるんだ。凄いね、剣崎君」


 空想とばかり思っていた迷宮が実在すると知り、結衣は興奮気味だ。例えるなら、宇宙人の存在を確認した宇宙学者と言ったところだろう。

 だが慎也はそれよりも、もうひとつの方が気がかりだった。


「それより、魔王っていうのは?」

「魔王とは魔族と言う、魔大陸に住む種族の王――厳密には、非常に強力な魔族の個体のことです」

「君たちの世界には人間しかいないそうだが、私たちの世界には人間以外にも様々な種族が存在している。獣人、ドワーフ、エルフ、妖精。だがその中でも最も強いとされているのが、魔大陸に住む魔族だ」

「この本にも書いてありましたけど、このヤマト王国には世界中のあらゆる種族が混然と暮らしていますが、魔族だけは存在していません。と言うのも、魔族と言う種は自分たち以外のあらゆる種族を敵視しているからです」

「どうして? やっぱりベルカって国と同じで自分たちが一番でないと気が済まないから?」

「理由はよく判りません。ただ、ベルカと明確に違うのは、彼らは他の種族を迫害するのではなく根絶しようとしているのです。自分たち以外の種族の存在自体が許せないらしくて、大昔から何度も他の種族に対して全滅戦争を仕掛けてるんです。とはいえ、ここ100年ほどはほとんど現れていないみたいですが」

「民族浄化戦争、って訳か……で、それを主導しているのが魔王?」

「詳しくは判らない。ただ、人間の社会と同じ様に魔族の社会にも階級が存在している。人間のそれは血統や権力によって位が上下するのに対し、魔族の位は純粋に”強さ”による分別だ。一番下から、下級、中級、上級の順に強くなっていき、一番上、最強なのが魔王。つまり魔王というのは「最も強い魔族」であるが「最も偉い魔族」ではないんだよ。大昔から続く他種族に対する敵対行動が必ずしも魔王の主導とは限らないし、そもそも魔王が1人だけとは限らないという訳さ。

 ただ、上級以上の魔族は長命種であるエルフと同じかそれ以上の寿命を持つと言われている。魔王ともなると数千年、あるいは数万年生きていると言われるほどだ。それほどの永い年月を生きている魔王なら、異世界についてなにか知らの知識を持っていても不思議では無いということさ」

「なるほど……」

「じゃあ、魔王がいるなら勇者も存在しているんですか?」


 魔王と来れば勇者――

 ファンタジー好きな結衣らしい発想。

 ウィルは少し間を置いて、やや声を固くして答えた。


「……無論、存在しているとも。ただ魔王が最も強い魔族の固有名なのに対し、勇者というのは称号だ」

「称号っていうと、オレたちのステータス欄にある<異界の民>みたいな?」

「その通り。私たちの世界では、特定の条件を達成すると称号を得ることが出来、また称号によっては特殊なスキルが手に入ることもある。<勇者>もその1つだ。過去に<勇者>の称号を得た者は何人もいたが、その具体的な習得条件は定かじゃないんだよ。だが少なくとも、<勇者>の称号を得ることは武に生きる者にとっては最高の栄誉であるのは確かだ」

「じゃあ、ひょっとしたら私でも<勇者>になれるかも知れない、ってことですね?」

「確かに異世界人で<勇者>の称号を得た人もいますから、可能性はありますね」


 子供みたいに目を輝かせる結衣に、微笑ましそうにユフィアが言った。


「がんばろうね、剣崎君!」

「いや、オレは別に<勇者>に興味は無いんだけど……」


 何故か<勇者>を目指す気になったらしい結衣に、慎也は少し引き気味だ。

 どちらかといえば、慎也は勇者よりも魔王の方に興味があった。

 なぜなら彼は戦国マニアだったから。

 史上もっとも有名な戦国大名に、魔王と呼ばれた男がいたから。


「むー、ホントにノリが悪いんだから。勇者と言えば男の子の夢じゃないの?」

「生憎オレは夢は寝て見る主義なんでね。っていうか、そもそも勇者云々じゃなくて元の世界に帰る方法の話だったはずだが……」

「あ、そうでした! すっかり忘れてました」


 そもそも魔王という単語が出てから話がすっかり脱線していた。ユフィアも思い出したらしく、ぽんと手を叩いた。


「と言っても、私が知っていることと言えばいまお話したことくらいなんですが……あ、そう言えば」

「どうしたの?」

「えと、この国の王都に異世界について研究してる有名な学者様がいらっしゃるんですが、その方の、異世界人が元の世界に帰る方法について仮説を読んだことがあるんですが」

「なんだい、その仮説って?」


 俄然興味をそそられた慎也も食い入るように聞いて来る。

 だが、ユフィアが放った言葉はあまりにも無体なものだった。


「――死ぬことです」

「………………………………はい?」


 全く予想外の答えに、慎也はしばしフリーズしてしまった。見れば、結衣も唖然としている。


「その方は、長い時間をかけて各地を回り、異世界人に関する情報を集めて回ったそうなんです。その結果、異世界から渡って来た人たちに、ある共通点があることが判ったそうなんです」

「なんだい、その共通点って?」

「この世界に渡ってきた人たちは、()()()()()()()()()だと」

「――」


 死ぬはずだった人間と聞いて、慎也と結衣は身を固くした。2人は飛行機事故の最中にこの世界に来たからだ。まあ、慎也と違って結衣は寝ていて知らなかったらしいが、初代王もメッセージの中で飛び込み自殺の直前だったと書いていた。


「この世界に来た人たちは、なんらかの事件、事故、あるいは災害に巻き込まれて死が目前に迫った人たちばかりなんだそうです。もちろん、向こうの世界で事故や災害に遭った人がすべてこっちの世界に来る訳じゃありません。むしろ、その中でもほんの一握りの人たちだけだと。でも、”理不尽な死”という出来事がきっかけで、何千、もしくは何万分の一の確率で異世界に来たのなら、こちらの世界で同じことをすれば、同じだけの確率で向こうの世界に行けるんじゃないか、と書いてありました」


 かなり乱暴な仮説だが、少なくとも”理不尽な死”が切っ掛けだったことは間違い無い。可能性が無いとは言い切れない。

 向こうの世界からこちらの世界に転移出来るのなら、その逆もまた然り。実際、地球には、エルフ、ドワーフ、ドラゴンと言った、存在しないはずの種族、生物の伝承が多く存在している。

 もしかしたらそれは、この世界から地球に渡った者が伝えたのではないか――


「まあでも、それを試す訳にはいかないな」

「はい……」


 ユフィアも同意する様に頷く。

 数万分の一の確率で元の世界に帰れる()()()()()()、ってだけでわざわざ死ぬなんて馬鹿げてる。

 そしてもうひとつ、慎也には気掛かりなことがあった。


 こちらの世界に来た人たちは、向こうの世界で死を目前にした人ばかり――

 だが、その全員がこちらに来れる訳じゃない――

 確率は何千、何万分の一――


 ユフィアはそう言った。


 だったら、あの飛行機の乗っていた人たちは?

 見知ったクラスメイト、友人、教師。その他、見知らぬ乗員、乗客多数。

 さっきまでは、自分と結衣がこの世界に来たのなら他の連中も来ている、と思っていたが、実際は、その中でもほんの一握りの人間しか来れないのなら、自分たち2人以外のあの飛行機に乗っていた人たちは……


 結衣も同じ可能性に気付いたらしく、さっきまでの嬉しそうな雰囲気がすっかり成りを潜め、沈痛な面持ちになっていた。

 そこでふと、なにかを思い出したようにポンと手を打った。


「そういえば、異世界からこっちの世界に来る人って、大抵複数人なんですよね?」

「文献にはそう記されている」

「その、異世界人の現れる場所って毎回同じなんですか? 私たちは森の中でしたけど」


 結衣の質問の答えをウィルは知らなかったらしく、ユフィアの方を見た。


「その都度、バラバラです。現れるタイミングは同じらしいんですけど、場所は人やタイミングによって全然違うそうです。森だったり、草原だったり。中には砂漠に現れた人もいたとか。当然、場所によっては魔物の襲われたりして亡くなる方もいらっしゃるでしょうから、具体的に一度にどのくらいの人数がこちらの世界に渡ってきているのかは判りません」


 結衣は過去の読んでいた異世界転移物の小説を思い出す。異世界人による勇者召還ものだと、複数人が同じ場所に転移してくるので人数の把握は容易だが、今回のような場合だと、どうしようもない。


「なので、御二人がこの世界に現れるのと同時に、別のどこかで同じ様にこの世界に渡ってきた方が他にもいらっしゃる筈です」


 ユフィアは断言した。

 飛行機事故に巻き込まれた自分たちがこの世界に転移したのだとすれば、同じ事故に巻き込まれた人たちがこの世界に来ていても不思議じゃない。


 生きていれば、きっとまた会える――


 そう信じて慎也と結衣はお互いに目を合わせて頷きあった。

 

次回は7/19日、投降予定です。

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