第74話 ホント訳が判んないわ!
盗賊退治して、はい終わり、という訳には行かないのです(-ω-;)
崩れ落ちたトロルの身体の上にフェルナが着地する。
「く……」
闘気を急激に消費したせいか、頭がふら付くのを懸命に堪える。
「ひ! ひいいいい!!」
悲鳴に顔を上げると、頼みの綱であるトロルを殺されたテイマーの盗賊がこちらに背を向けて一目散に逃げだすところだった。
「待――」
追いかけようと試みたが、身体を襲う倦怠感に動きが鈍る。それでも重い身体に鞭打って後を追おうとしたが、結果的にそれは必要なかった。
「ぶごっ!」
砦の中に逃げ込もうとした盗賊が、いきなり変な悲鳴を上げてその場にぶっ倒れた。
「慌てなくても、もうお前を助けてくれる奴はいないぞ?」
その向こう側から現れたのは、慎也とユフィアだった。
どうやら砦に逃げ込もうとした盗賊を、慎也が殴りつけたらしい。
「シンヤさん、ユフィアさん。ご無事でしたか!?」
2人の姿を見てフェルナが安堵の息を付いた。実力を信頼しているとはいえ、初めて人間同士の殺し合いを経験する2人を別行動させるのはやはり心配だったらしい。
「ああ。そっちも無事でなによりだ」
トロルの屍を見ながら慎也は言った。ちなみにユフィアは、慎也が殴り倒して気絶した盗賊テイマーをせっせと縛り上げている。
「それで、中の様子はどうでしたか?」
「フェルナの予想通り、盗賊のボスっぽい奴が部下数人と一緒にこっそり抜け道から逃げ出そうとしてた。全員仕留めたけど、ボスはかなり強かったぞ。冒険者をやってれば身を立てることくらい出来ただろうに、もったいない」
「人質とかは?」
「残念ながら、いなかった。強奪した武器類はいっぱいあったけどな」
「そうですか……」
襲われた商人たちはみんな殺されてしまったということだ。
自分たちがもう少し早く来ていれば、あるいは自分たちにもっと力があって、最初にこのアジトを見つけた時に対処できていれば、助けることが出来たかもしれない――
どうにもならないと知りつつも、フェルナは己の無力さを悔やまずにはいられなかった。
「シンヤさん、フェルナさん」
そこへ、盗賊テイマーを縛り上げていたユフィアがやって来る。
「これを見て下さい」
そう言ってユフィアが差し出したのは、金色の装飾が施された腕輪だった。
「なんだ、これ?」
「あの盗賊が付けていたんです。なにかの魔導具みたいなので」
ユフィアから腕輪を受け取った慎也は、色々な角度から腕輪を観察してみた。青い魔石がはめ込まれていることから確かに魔導具であることが判るが、残念ながら慎也は見たことの無いものだった。
「これって!」
腕輪を覗き込んだフェルナが血相を変えた。
「知ってるのか?」
「これは『魔隷従の腕輪』というものです。<魔物調教>のスキルレベルを大幅に上昇させる効果があります」
「……なるほど。これを使ってトロルを従えていた訳か……」
そう言って慎也は生け捕りにした盗賊を見やる。あんな小者がどうやってあの巨大なトロルを従えることが出来たのか疑問だったのだが、謎が解けた。
「にしても、なんだってこんな田舎盗賊がこんな物を持ってるんだ? これってかなりのレア物だろ?」
「そうですね。キアナのような田舎じゃまず手に入らないです。金額にしてみれば100万は下らないはずですから」
100万と聞いて、ユフィアが思わず息を呑んだのを尻目に、慎也は首を傾げざるを得なかった。
この魔隷従の腕輪は武器商人から奪ったものではない。何故なら、最初にフェルナとシアーシャがこの砦を見つけた時には既にトロルがいたにも拘らず、件の馬車や死体などは無かったと言っていた。
つまり彼らは、2人がいったん街に戻り、慎也たちを連れて戻って来るまでの間に襲われたということだ。
つまり盗賊たちは、最初から魔隷従の腕輪を持っていたことになる。
当然、誰かから奪ったのだろうが、なんとなく慎也は、この腕輪の出どころが気になった。
(なんだろう? 酷く嫌な予感がする)
盗賊が魔隷従の腕輪を持っていたことに、慎也は言いし知れぬ不安を感じた。
◇◇◇
林の中で待機していた結衣とシアーシャと合流した後、慎也は唯一の捕虜である盗賊テイマーの尋問を行うことにした。
もっとも、当人はまだ気絶から目覚めていなかったので――
「起きろ」
ボゴ!
「ぐえ!」
手足を縛り上げられて、地面に寝かされていた盗賊の脇腹に無造作に蹴りを入れると、鈍い悲鳴と共に気を失っていた盗賊が目を覚ました。
「え? あ、え!?」
最初は混乱していた盗賊だったが、自分が地面に倒れたまま動けないことや、冷ややかな目で自分を見下ろしている少年――慎也の姿を見て、ようやく状況を理解したらしい。
「判ってると思うが、仲間は全員死んだ。お前を助けてくれる奴はいない」
「ぐ……」
悔しそうに歯噛みする盗賊テイマー。
「さて……」
すらりと刀を抜いた慎也は、それを盗賊テイマーの首筋に突き付けた。
「ひッ!」
冷たい刃の感触に、盗賊テイマーは真っ青な顔で息を飲む。
「オレの質問に答えてくれれば、お前だけは殺さないでおいてやる」
「こ、答える! なんでも言うから殺さないでくれ!」
殺気を滲ませた慎也の声に、盗賊テイマーは震えながらガクガクと頷いた。意外と意気地が無いようだ。
「この腕輪をどこで手に入れた?」
そう言って、慎也は盗賊テイマーが付けていた魔隷従の腕輪を見せた。
「そ、それは貰い物だ」
「貰い物?」
てっきり誰かから奪ったのだと思っていた慎也は、意外な答えに眉を顰めた。他のメンバーも首を傾げたり互いに顔を合わせて訝しがっているが、盗賊テイマーが嘘を付いている様子は見られない。
確認の為、慎也はユフィアの方を見るが、彼女も無言で首を振った。ユフィアの<虚偽看破>にも反応が無いということは、嘘を付いていないと言うことだ。もちろん、<虚偽看破>がスキルである以上、絶対ではないが、こんな盗賊にユフィアの<虚偽看破>を誤魔化せるほどのスキルがあるとは思えない。
「誰に貰った?」
「ケイド……ケイドとかいう男だ」
盗賊テイマーの話をまとめると、彼らは元々隣国の兵士だったそうだ。
ただ、上官である貴族との折合いが悪く、さらに彼ら自身の尊大で傲慢な態度が住民との軋轢を生み、問題視した上層部によって部隊全員が出仕停止を命じられた。これに不満を爆発させ、酒場で自棄酒を飲んでいたところ、乱闘沙汰を起こして死人を出してしまい、処分されるのを恐れて軍を脱走し、盗賊に落ちぶれた、というどうしようもない理由だった。
元軍の兵士と聞いて、シアーシャは、盗賊のわりに妙に連携行動が上手かったことに納得がいった。
晴れて盗賊となった彼らは、憲兵や冒険者に追われながら逃亡生活を続け、どうにかこの国まで逃げてきたそうだ。
(盗賊の頭目が、貴族や冒険者、平民を酷く嫌っていた理由がこれか)
慎也が内心で納得している間にも話は続く。
逃避行の末、人里離れたこの森で例の砦を見つけ、そこを拠点にしばらくは目を付けられないよう、野菜や家畜を泥棒する程度の活動を続けていたが、ある日、1人の旅人を襲ったことから変化が訪れた。
黒いマントを纏った人族で、赤い髪に髭を生やした40代くらいの男だったそうだ。
人気の途絶えた街道を1人で歩いていたその男を見て、盗賊たちはすぐさま襲撃を決意した。当時、街道を見張っていたメンバーは7人いた。
7対1。失敗するはずが無いと高をくくって、彼らは襲撃を実行した。ところが、その男は武器も使わず盗賊たちを瞬く間に叩きのめしてしまった。しかも誰1人殺さずに、だ。そして、彼らにこう言った。
「ボスの所に案内しな」
男との力の差を痛感した盗賊たちに選択肢は無かった。言われるがまま男を自分たちのアジトに案内した。そこで、男は盗賊の頭目と一騎打ちで戦い、これまた簡単に打ち倒してしまったのだという。
降参した頭目に対し、男は自ら「ケイド」と名乗り、彼らの身の上話を聞いた後、こう答えた。
「オーケー。あんたらの事情は理解した。これもなにかの縁だ。オレがあんたらを強くしてやるよ」
その後、ケイドは盗賊たちに罠の設置法や、旅人を襲撃するときのコツなどを盗賊たちにレクチャーし、さらには高価な魔導具である『魔隷従の腕輪』を惜しげもなく与えた。そして、元テイマーであり、<魔物調教>スキルを持っていた彼が付けることとなったらしい。その腕輪と彼の協力もあって、盗賊たちはトロルという強大な魔物をテイムすることに成功した。
盗賊たちはケイドの存在を諸手を挙げて歓迎し、頭目自身もぜひ自分たちのリーダーになって欲しい、と頼み込んだそうだが、ケイドはそれをやんわりと拒絶した。
「どうにも1匹狼が染みついちまっていてね。集団行動はガラに遭わねーんだ。それに、こいつらのリーダーはあんただ。手合わせしたオレには判る。あんた盗賊なんてケチな存在で終わる器じゃねぇ。いずれ、平民も冒険者も、貴族すら跪かせる王になることが出来る。自分の力と、可能性を信じな。オレが出来るのは、その為の一助を与えることくらいさ」
そう言って、彼は去っていったのだという。
ただ、別れ際、とある大商人の商隊の情報を残していった。その商隊は金品の他に高価な武器を大量に輸送しており、手に入れれば一財産になるだろう、と。ご丁寧に商隊が街道を通過する具体的なタイミングまで。
「それがあの馬車だったって訳だね」
「そ、そうだ……」
結衣の言葉に、盗賊テイマーは肯定した。
ケイドはそのまま去っていったが、彼が言った情報通りの時間に商隊の隊列が現れた。馬車3台に護衛が十数人。だがそれもトロルの敵ではなく、盗賊たちは首尾よく護衛を殲滅して荷物と金品を奪うことが出来た。そして、大成功を祝って宴会を開いていたところに、慎也たちが襲撃してきたということらしい。
「嘘は付いてないと思います」
<虚偽看破>スキルを持ったユフィアも、ちょっと信じられないような、なんとも言えない表情でそう言った。
「何者なんでしょう、そのケイド、って男……」
「つーか、そいついったいなにがしたかったのよ? 盗賊に襲われたのに、殺すどころか技術を伝授したり、高価な魔導具をあげたり、トロルをテイムしてあげたり、大儲けの情報をあげたり……それでいて報酬も要求せずにどっかに行くなんて、ホント訳が判んないわ!」
盗賊退治専門のフェルナとシアーシャも困惑顔だ。
確かに、ケイドという男の行動原理が慎也にもさっぱり理解できなかった。
自分を襲った盗賊を殺すでもなく、逆に至れり尽くせりの協力をした上で、例や報酬と呼べる物をなにも受け取らずに去っていく。相手が盗賊でなければ充分に美談や英雄譚として通用するエピソードだが、だからこそ曰く言い難い違和感を覚える。
その男がなにをしたかったのか、何者なのか、行動原理がさっぱり理解できない。
ちなみに盗賊テイマーの話では、ケイドが彼らの元から立ち去ったのはほんの2日前だそうだ。ということは、フェルナとシアーシャが最初にこのアジトを見つけた時にはまだいたことになる。ほとんどニアミスのタイミングで、ケイドはここを去っていたということだ。
(幸運、と言うべきなんだろうな。そのケイドという男に遭わずに済んだことは)
話を聞いただけでも得体が知れない上、相当腕が立つことは想像に難くない。もしケイドという男がこの砦に残っていたら、恐らく自分たちは返り討ちになっていただろう、と慎也は確信にも似た予感があった。
願わくば、その男には会いたくないと、慎也は心から思った。
◇◇◇
その後、慎也たちは全員でもう一度砦の中を探索してみた。ちなみに、捕らえた盗賊テイマーは万が一にも逃げられないよう、縛り上げた状態のままもう1度殴って気絶させてある。
結論から言うと、盗賊の残党も、商隊の生き残りも見つからなかった。代わりに、商隊から強奪したと思しき金品や武器の数々が見つかった。金品だけでもかなりの額になる上、武器は見た目からして高価な物と判る一品ばかりだった。
「うおー、これで当分、金欠生活とオサラバできるー!」
武器や金品を見たシアーシャがピョンピョンと飛び跳ねて喜んでいた。それを見て、慎也は首を傾げる。
「なんでそんな喜んでるんだ? 自分の物でもないのに……」
「あれ? シンヤさん、ご存じないんですか?」
不思議そうにする慎也に、フェルナが説明する。
「冒険者が盗賊を退治した場合、盗賊が奪った物は基本的に退治した冒険者の物になるんですよ?」
「マジで!?」
「はい。なのでこれらの品々の所有権は私たちにあるということです。もちろん、この場に当事者がいた場合は別ですが」
襲われた商隊の人間はみんな殺されていて、当事者はいない。つまりこの場合、盗賊を討伐した慎也たちがこれらの金品や武器の法的所有権を得たことになる。
「でもこれは、本来の持ち主がいて、奪われたものなんだろ? もしその人が返してほしい、って言った来たらどうなるんだ?」
「その時は、冒険者ギルドを通じて、所有権を持った私たちに相応の代金を支払って買い戻す必要があります。お金に限っては買い戻しは不可能で、無条件で冒険者の物となります」
「金」を買うことなど出来ないのは当然だ。
「大抵は代金を得て買い戻すのが通例です。無償で返却する冒険者も居ますが、あまりお勧めできません」
「なんで?」
「先ほど言った通り、大抵は代金を得て買い戻すのが通例だからです。無償返却を繰り返していると、そういった人たちが買い戻しをしにくくなってしまいますから」
確かに、他の冒険者がお金を受け取って戦利品を買戻ししている傍らで、一部の冒険者だけが無償で返却していれば、それを糧にしている冒険者たちは良い顔をしないのは当然だ。
「なら、買い戻しを希望している人がいても、その前に戦利品を売ってしまった場合はどうなるんだ?」
「そういったトラブルを避ける為に、買戻しには期間が設けられているんです。具体的には、盗賊の討伐をギルドに報告してから1週間は戦利品の売却は禁止されているんです。買い戻しを希望する場合、その間にギルドを通して討伐した冒険者に依頼するのが原則です。それを過ぎた場合、買戻しは不可能となり、冒険者側は売却自由ということになります」
「けっこう細かく決められてるんだな……」
「そうしないとトラブルになってしまいますからね。冒険者ギルドとしても、そういったトラブルに巻き込まれるのは避けたいんでしょう。あ、ちなみに戦利品を得ていながら隠したりすると罰則を受けることになりますから、しないでくださいね?」
「判ってるよ」
ギルドの職員には、大抵ユフィアと同じ<虚偽看破>スキルを持った職員がいるから、誤魔化しは難しいだろう。
「ちなみに、今回の戦利品はいくらくらいになると思う?」
「そうですね。現金だけでも500万を超えてますし、武具の類はどれも高価な物ばかりですから、買戻しがあったとして、さらにそれを全員で山分けしてもかなりの額になると思いますよ? 私たちも長い間『賞金稼ぎ』を続けてきましたが、ここまで大量の戦利品を得たのは初めてです」
なるほど、と慎也は顎に手を当てた。
(いままでの儲けと今回の儲けを合わせれば、資金は充分かな)
内心で、兼ねてより計画していたある目論みを実行に移す時が近づいたことを慎也は確信した。
前にイクサ→ミコトの伏線が強引だと言われたので、今回の盗賊編に関していくつか伏線を仕込んでみました。これまでのストーリーにも絡んでくることなので、今度は自然だと思います。答えは本編にて開示するので、判るのはかなり後の方になると思いますが。




