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異界の刀銃使い  作者: 太公望姜子牙
天使の章
74/135

第69話 ホントにただの盗賊か?

盗賊にもいろいろ事情があるのです(=゜ω゜)ノ

 翌朝、宿に備え付けられた食堂で、慎也は酷く居心地の悪い気分を味わっていた。


 慎也、結衣、ユフィア、フェルナ、シアーシャの5人が丸いテーブルを囲んで各々注文した食事を取っていた。本来なら楽しい食事のひと時なはずだったのだが、この時ばかりは酷く空気が悪かった。


 原因は、慎也以外の女性陣の態度だ。


 慎也の右側では結衣がニコニコとした笑顔で焼き魚を頬張る一方、反対側では、逆にムスッとした表情でユフィアがお茶を啜っている。かと思えば、既に食べ終えているフェルナはなにやら複雑そうな顔でこちらを見ているし、シアーシャに至っては、なにが面白いのかテーブルに頬杖をついてニヤニヤとした。


「えーっと、みんないったいどうしたの?」

「自分の胸に尋ねてみれば良いと思います」


 恐る恐る訪ねた慎也に、冷たい声と態度でユフィアが答えた。普段、温厚で誰に対しても物腰柔らかに接する彼女とは思えない、突き放したような態度だ。


「いやー、あたしは君を誤解してたよ、シンヤ君」


 ひどく愉快そうなものを見る目で、シアーシャが茶化すように言った。


「フェルナの初めてを要らない、って言った時は、女に興味が無いんじゃないか、って思ったけど、君もちゃんと男の子なんだね」

「?」


 シアーシャの言っていることの意味が判らず、慎也は頭に疑問符を浮かべるだけだった。


「あの、シンヤさん。私としても他のパーティのそういう事情に口を出すのはどうかと思うんですが、やっぱり依頼をこなしている最中は控えた方が良いと思います」

「? なんのことだ?」


 2人が言っている意味がまるで理解できず、慎也は頭上の疑問符をさらに増やした。 


「またまたとぼけちゃって~。昨日の晩、ユイちゃんと同じ部屋でお楽しみだったんでしょ~?」

「はッ!?」


 ようやく慎也は状況を理解した。

 昨夜、部屋で結衣に求められるがままに頭を撫でてやっていたら、いつの間にか彼女は自分にもたれ掛かったまま寝息を立てていたのだ。彼女の部屋に連れていこうかと思ったのだが、ユフィアも寝ているだろうし、起こしちゃ悪いと思い、仕方なく自分のベッドに結衣を寝かせ、慎也自身は部屋に備え付けられていた粗末なソファで眠ったのだ。


 で、今朝、同じタイミングで起床し、同じタイミングで部屋から出て来た。


「不潔です」


 ユフィアが軽蔑の眼差しを向けてくる。普段は無邪気で子供の様な無垢な眼差しをしているだけに、迫力満点である。


「誤解だ! ユフィアが考えてるようなことはなにもしてないぞ!?」

「私がなにを考えてる、っていうんですか?」


 じろ、とユフィアに睨まれ、慎也は思わずたじろいだ。


「おい、結衣、お前もなんとか言ってくれよ」


 なにを言っても誤解だと判ってもらえそうにないと悟った慎也は、唯一自分の無実を知っている結衣に助けを求めたのだが――


「えへへー」


 何故か結衣はニコニコと笑うばかりで、一向に助け船を出してくれなかった。


「1歩リードだね、ユフィアちゃん」

 

 挙句、勝ち誇った顔でユフィアに言った。


「うぅ、ユイさん、抜け駆けはずるいです」


 恨めしそうにユフィアが呟いた。


「?」


 自分を挟んで行われる2人の少女のやり取りの意味が判らず、慎也は不思議そうに結衣とユフィアを交互に見やった。

 それを傍から見ていたフェルナとシアーシャは、そろって深いため息を付いたのだった。


 ◇◇◇


 午前中は散策したり、装備の手入れを行ったりして村の中で過ごした後、昼前になってから一行は改めて盗賊討伐に出立した。

 もともとこの辺りは、山間部を流れる川沿いに整備された街道沿いにいくつかの小集落が点在するだけの貧しい土地であり、東はキアナの街へと繋がっているが、西は入り組んだ山越えのルートを通る険しい道が続いている。魔物こそ少ないものの、同時に人の往来もまた総じて少ない。


 盗賊団が根城にしているのは村からほぼ真北に進んだ山間部に建てられた古い砦で、数百年前、ベルカ帝国時代に敵対していた異民族対策の為に造られ、彼らを駆逐してからはいらなくなってそのまま放棄されたのだという。


 それを聞いた慎也は、なんで壊さなかったんだ、と当時のベルカ人に密かに愚痴を垂れた。


 戦国時代、城を放棄する際は城郭や石垣は必ず破壊することが通例だった。そのまま放置して、万が一敵対勢力に利用されたら困るからだ。じっさい、反乱軍が放棄された廃城跡に立て籠って長期の籠城戦を強いられた例がいくつもある。


 村から砦跡へと向かうには、山の中に出来た細い獣道を進む他なく、先日、村を襲った盗賊もこの道を利用し、フェルナとシアーシャも彼らを追跡する際に通った道だ。


「盗賊って、なんで森とか山の中にアジトを作るのかな?」


 道すがら、そんなことを尋ねて来たのはラノベマニアの結衣だった。木々や草花が鬱蒼と多い茂る森の中を長時間歩かなければならないのが不満のようだ。


「そりゃ、見つかりにくいからでしょ」


 と、普段から盗賊を相手にしているシアーシャは、慣れた様子で獣道を進みながら答えた。

 木々が無秩序に乱立する森の中は、開けた場所なんかよりも断然見つかりにくい。人に見つかりたくない盗賊が森や山などに拠点を置くのは当然と言えた。


 この世界で犯罪を取り締まるのは主に騎士や憲兵といった役職の者たちだが、装備や戦術からこういった山や森の中では活動しにくい一面がある。もちろん、先のゴブリン討伐戦で見た野伏(レンジャー)といった、森林内での活動を得意とする者たちもいるが、それでも広大で障害物や魔物、獣も多い山林内での盗賊探索は容易ではないのだ。


「でも、彼らはどうしてこんな不便な場所に住んでまで盗みや強盗を働くんでしょう? 真面目に働いた方がずっと良い生活を送れると思うんですが」


 今度はユフィアが遠慮がちに尋ねて来た。

 確かの当然の疑問である。森の中で暮らすというのは、見つかりにくい分、不便だ。魔物はいるし、病気や怪我をしても医者に頼ることも出来ない。それに、安定した収入がある訳でもない。苦労して働かずに他者から奪うというのは確かに楽でよいが、その分リスクも高い。反撃されたり、取り締まりの対象にされたり、あるいは自分たちのような冒険者から討伐されてしまうという危険も孕んでいる。

 長期的に見れば、ユフィアの言う通り、真面目に働いた方がずっと効率的に暮らせるのは確かだ。


「それが出来ないのが盗賊なんです」


 と、今度はフェルナが答えた。


「盗賊の多くは、すでに罪を犯している犯罪者です。犯罪を犯し、罪を償うのが嫌で街や村から逃亡し、食べる為に他者の食料や私財を略奪する、救いようの無い輩なんです。あと、スアード領ではあまり見かけませんが、貧困で食べることが出来なくなった農民なんかが盗賊に身を落とす場合もあります」

「前者はともかく、後者は可愛そうだね」


 結衣の言う通り、後者に関しては慎也も同情できる所がある。なにせ、生きる為にやむを得ず盗賊に身を落とすしかなかったのなら、選択の余地など無いだろうから。


 そこでふと、慎也は思い付いた。


「他にも没落騎士とか傭兵なんかもいたりするんじゃないか? あと、この国の政府に従わない、いわゆる反政府勢力とか」


 慎也が言うと、フェルナは驚いた顔で彼の方を見た。


「よくご存じですね。私たちがいままで討伐した盗賊の中にも、没落した貴族子弟や傭兵崩れなんかがいたことがあります。剣を振るうことしか知らない人間や、仕事にあぶれた傭兵、没落したり、取り潰しになったりして地位を失ったものの、平民と共に働くことに嫌悪感を抱く無駄にプライドの高い元貴族が盗賊に落ちぶれることはよくあることです。あと、国の方針に従わない蛮族や人族優位主義者が盗賊まがいの行為を働いているという話も聞いたことがあります」

「シンヤ、結構詳しいわね。やっぱウィルさんから教わったの?」

「いや、オレの世界にいた盗賊がそうだったからさ」


 しれっ、と自分の世界のことを話した慎也だったが、彼と結衣が異世界人であることは、フェルナとシアーシャの2人は知っていることなのでなんの問題も無かった。


 ちなみに慎也の言う”オレの世界の盗賊”というのは、もちろん現代に地球のことではなく、戦国時代の話だ。

 当時、敵対する戦国大名に攻め滅ぼされた大名の家臣が、その恨みを晴らす為に仇敵の領内で盗賊となったという事例はいくつもある。没落した武士が盗賊になるのは侍の習わしとさえ言われていたほどに。

 多くの戦国大名が興っては滅んでいった戦国時代は、まさに盗賊の最盛期ともいえる時代でもあったのだ。


「でも、なんで盗賊が村を襲ってるのに、騎士団とかは取り締まってくれないんだろうね?」


 などと結衣が当然の疑問を発した。

 確かに、領内の治安を守るのは本来は騎士団や憲兵の役目である。自領の村で盗賊が略奪行為を働くのは領主にとっては看過できない事態であり、税収などに打撃を受けるだけでなく、治安の悪化や領主としての資質を問われる事態にまでなりかねない。もっとも、魔物というより大きな脅威が存在している以上、食料泥棒程度の盗賊にまでは手が回らないというのも事実であり、そう言った場合は自由度の高い冒険者に盗賊退治が回ってくるのだが。


 フェルナとシアーシャの話では、今回は別件に騎士団の多くが出払っているということだったが、慎也たちは全員が例のゴブリン遺跡の件だろうと考えで一致している。

 遺跡の調査に加え、国から本格的な調査団が到着するまでの周辺の警備などで人手を割かれているのだろう。


 だが一方で、慎也は別の可能性もあるのではないか、と考えていた。


「案外、領主とグルなのかもしれないぞ?」

「え!?」


 慎也の一言に、女性陣は全員が顔色を変えて立ち止まった。


「どういうことですか、領主様と盗賊がグルって?」

「そうよ。そんなことある訳ないじゃん!?」


 盗賊退治を専門にしているフェルナとシアーシャも、領主と盗賊がグルになっている、などという可能性は寝耳に水だったらしい。


「あくまで可能性だけどな。例えばこのスアード領から別の領内に入るとき、通行料を取られるだろ?」

「そうだね。あれって結構馬鹿にならない、ってよく商人の人たちが言ってたわ」


 このヤマト王国では、領主と呼ばれる貴族の治める領地がいくつも存在している。そして、それまでいた領内から別の領内へ入るには、領境にある検問所や砦で入領税と呼ばれる税金を支払わなければならない決まりになっているのだ。


「それを払いたくなくて、山の中とかをこっそり迂回して入領税を免れようとする不定の輩は多いはずだ。もしそれが常態化したら、領主にとっても問題になる。だから盗賊と組んで入領税を免れようとする者を襲わせ、代わりに盗賊行為を黙認する、とか。あるいはワザと盗賊被害を演出した上で、通行する商人たちに危機感を抱かせ、護衛を雇わせて依頼料を稼ぐ、とか」

「あ――」


 それらはあくまで慎也の想像でしかなかったが、確かにあり得ない話ではないな、とその場にいた全員が思ってしまった。

 実際日本の室町時代などでは、同様の事例がいくつもあった。


「まあ、討伐依頼が出されている以上、領主とグルであろうがなかろうが、オレらのやることに変わりはないけどな」

「そ、そうですよね!」


 肩を竦める慎也に、ユフィアが少し口調を乱しながらも追従した。


「っと、言ってる間にそろそろ罠が出始めるから、気を付けて」


 シアーシャの言葉に、一行の緊張感が一気に増した。


 周囲は鬱蒼と木々が多い茂っているだけで、特に不審な箇所は見当たらないのだが――


「ほら、あそこに落とし穴があるよ」


 そう言ってシアーシャが少し手前にある地面を指さした。

 だが、そこには枯葉が堆積しているだけで、どこが落とし穴なのか一見しただけでは区別が付かない。しかし、フェルナが槍を伸ばして地面に積もった落ち葉をどけると、そこには確かに直径1メートルほどの穴が存在していた。細く脆い木の枝をいくつも穴の上に組み合わせて置き、その上から枯葉でカモフラージュしてあった。見れば深さは2メートルほどもあり、ご丁寧にそこには先端を尖らせた木の棒がいくつも突き立てられている。

 もし気付かずに落ちていたら串刺しだ。


「あそこにも注意してください」


 そう言ってフェルナが指さした先には、2本の木が5メートルほどの間隔を開けて並んで立っているだけで、特に罠らしきものは見えない。


「なにも無いよ?」

「根元の辺りをよく見てください。木と木の間にワイヤーが張ってあります」


 首を傾げる結衣に、フェルナが説明した。

 よく見れば、確かに木の根元――地面よりも少し上あたりに透明なワイヤーが、2本の木を繋ぐように張られている。


「もし気付かずに木の間を通ろうとしてワイヤーに引っかかったら――」


 そう言いながらフェルナはワイヤーを指していた指をそのまま木の上まで上げる。


「ひっ!」


 釣られて樹上に視線を上げたユフィアが小さく悲鳴を漏らした。そこには、金属製のスパイクを打ち込んだ大きな丸太がぶら下がっていた。ちょうどワイヤーの真上。木の葉に巧みにカモフラージュされて判りづらい。

 もしワイヤーに引っかかれば、あの丸太が頭上から降って来て串刺し+圧し潰しの二重苦となる。


「かと言って、あの罠を避けて通ろうとすれば――」


 シアーシャが丸太の罠が仕掛けられている木のすぐ脇――地面に堆積していた落ち葉を手で払いのけた。

 そこには、やはり釘を何本も撃ち込んだ木の板が仕掛けられていた。おかしなことに釘は板の上半分に集中して打ち込まれており、下半分にはなにも無い。


「なにも気付かずにこの板の端っこを踏むと――」


 シアーシャが板の端――釘が打たれていない方の端っこを手で押すと、その部分はそのまま下へ下がり、釘が打ち込まれている方がせりあがってきた。

 どうやら板――釘が打ち込まれていない方の下に穴が掘られており、そこを踏むと板がシーソーの要領で跳ね上がり、板の上に打ち込まれた釘が腹、或いは腰の辺りに突き刺さる仕組みだ。


 素人でも簡単に作れて、しかも見破りにくいえげつない罠だ。


「罠だらけじゃないですか」

「そーなの。しかも判りにくい罠ばかりで、とても素人が仕掛けた物には思えないのよ」


 青くなるユフィアに、シアーシャが肩を竦めて嘆息交じりに愚痴った。


「確かにこれは、素人じゃないな」


 腕を組んで慎也も唸る。

 森の特性や地理を巧妙に利用し、判りにくく偽装された罠ばかり。ゴブリンの仕掛けるそれとは比べ物にならない。<罠察知>のスキルが無い者が踏み込めば、最初の1つで命を落としている。少なくとも、相当罠に熟知した人間でなければここまでうまく偽装できないだろう。

 しかも明らかに対人を想定しての罠だ。


「ホントにただの盗賊か?」


 慎也はここに来て少し不安になった。

 この罠を見る限り、盗賊というよりはゲリラ部隊といった印象を受ける。しかもまだ未確認だが、相手はトロルすらテイムしているという話だ。

 とてもただの盗賊とは思えない。


「少なくとも、私たちが直接見た限りでは、砦跡にいるのはただの盗賊に見えました」


 実際に現物を見てきたフェルナはそう断言した。

 うーん、と慎也は腕を組んで唸った。これまで何度も盗賊を相手にしてきた彼女が言う訳だから、信憑性は高いだろう。だが、盗賊に偽装した別の犯罪組織という可能性が無い訳でもない。あるいは、たまたま盗賊の中に罠に熟達した者がいるだけの可能性もある。


「……判った。取りあえず、予定通りこのまま進もう。ただ、もし砦にいるのが単なる盗賊じゃなかった場合、すぐに撤退するということで、いいか?」

「判りました」

「あたしも」


 フェルナとシアーシャだけでなく、結衣とユフィアも慎也の意見に賛成する。

 こうして一行は、張り巡らされたいくつもの罠を避けながら砦跡を目指したのだった。

今年最後の更新となりました。やっぱり年末年始は忙しくて執筆スピードが鈍くなりがちです。

本年は「異界の刀銃使い」をご愛読いただき、誠にありがとうございました。来年は早ければ1/5日までには更新したいと思いますので、引き続きご愛読の程、よろしくお願い致します。


それでは皆様、来年も良いお年をm(__)m

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