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異界の刀銃使い  作者: 太公望姜子牙
始まりの章
7/135

第7話 メッセージ?

10話くらいまでは毎日更新する予定です(^o^)/

「え?」


 慎也の問いに、結衣とユフィアがそろってきょとんとした。


「なんでユフィアさんが飛行機の存在を知ってるんだ?」


 慎也は再度同じ問いを繰り返した。彼にとっては決して無視できない事実だ。


「なんでって、私たちの世界から来た人が過去にも大勢いたんだから、こちらの世界に飛行機のことが伝わっていてもおかしくないじゃない?」

「……バカか、お前は」


 能天気な結衣の認識に慎也は頭を抱えたくなった。


「ウィルさんが言っただろ? 最後に異世界人が来たのは300年~400年前だ、って。オレらの世界で3、400年前っ言たら、江戸時代だぞ?」

「あ……」


 戦国マニアの慎也の意見に、異世界マニアの結衣もようやく気付いた。


 慎也と結衣は2人とも西暦2002年生まれの15歳。

 この世界に飛ばされたのは2017年の8月。

 単純計算で300から400年前と言えば、西暦1600年から1700年。日本では江戸時代の初期、もしくは中期。世界では産業革命すら起こっていない時代。


 ライト兄弟が世界で初めて有人飛行を成功させたのですら100年ほど前のことだ。

 つまり、飛行機なんてものが存在しなかった時代なのだ。その時代に人間がこちらの世界にやって来ていたとしても、飛行機など知っているはずがなし、伝わっているはずがない。

 なのにいま、ユフィアは飛行機と言うものがどういう物なのか、ほぼ完全に言い当てた。

 常識的に考えてあり得ない。


「あの、どういうことでしょう?」


 そう言った時代背景をまったく知らないユフィアは困惑気味に尋ねて来た。


「んとね。簡単に言うと、飛行機って乗り物は、私たちの世界でごく最近になって出来たもので、300年前にはまだ存在しなかったの。だから私たちと同じ世界の人がこちらに来ていたとしても、300年前の人は飛行機なんて知らないはずなんだ」

「え? でも、確かに本に書いてありましたよ?」

「本?」

「はい。ちょっと待っていてください」


 そう言って席を立ち、ユフィアは部屋から出て行った。少ししてから、一冊の本を携えて戻って来た。


「これです」


 A4サイズほどの大きさで結構な厚みのある本を2人の前に掲げる。ただ、本のタイトルはこちらの世界の文字で書かれていた。無論、慎也たちがこちらの世界の文字を見るのは初めてだ。


「すまないが、オレたちにはこっちの世界の文字が読めな……あ、あれ?」

「なにこれ? 全然知らない文字なのに、意味が判るよ? これって『遠い我が故郷』って書いてあるんだよね?」

「はい、そうです」


 いままで見たことすら無かった文字が、初見で読めてしまうという不可解な現象に困惑する慎也と結衣に、ウィルが助け船を出した。


「スキルだよ」

「スキル?」

「君たちのステータス欄にある<異界の民>という称号と、ユニーク系スキル<異言語習得->の影響さ」


 改めてステータス欄を確認してみると、確かにそれと同じ称号とスキルが付いていた。


<異界の民>

 異世界から転移して来た者の総称。<観察眼>スキルの熟練度50とユニークスキル<異界語習得->が自動的に付与される。


<異言語習得->

 自分の知らない言語、文字を理解することが出来る。言葉も自動的に翻訳される。


 しかもご丁寧に説明まで出て来た。


「言ってみれば、自動翻訳機能って訳か……なんて便利な」

「凄い。これがあったら、英語のテストで0点取らなくて済んだのに……」


 半ば呆れる慎也と、がっくりと肩を落とす結衣。


「スキルとは持っているだけで様々な恩恵を持ち主に与えてくれる。称号というものは、単なる肩書だけのものもあれば、特殊なスキルを与えてくれるものも存在する。まあ、そのことは後回しにして、ひとまずユフィアの本を見てごらん」


 ウィルに促されてユフィアから本を受け取り、開いてみる。書かれていたのはいくつもの手書きの絵と、その説明だ。


「剣崎君、これって……」

「ああ、間違い無い……」


 手書きの絵なので判りにくいが、2人が住んでいた東京の街を描いたものや、自動車、電車等の絵もある。東京名物スカイツリーの絵まであった。

 そしてユフィアが言った通り、飛行機の絵も載っていた。

 古竜並みの大きさを誇りながら、風よりも速く空を飛び、内部に何百人もの人間を乗せることの出来る乗り物と書いてある。


 自分たちと同じ世界の人間でなければ決して書けないものだ。


「これは、いったい誰が書いたんですか?」

「この国の初代国王だよ」


 慎也の問いに、ウィルが答えた。


「王様が?」

「そうさ。私たちがいま居る国の名前は、ヤマト王国というんだ」

「「ヤマト!?」」


 慎也と結衣の声がダブった。


「やはり君たちには判るみたいだね。ヤマトという国名は、初代国王が自分の故郷から名付けたものなんだそうだ」

「ってことは、初代国王はオレたちと同じ……」

「そう。300年以上前にこの世界にやって来た異世界人だったんだよ。この本は、初代王が生前、自分の故郷のことをこの世界の人々に知ってもらおうと、自ら執筆したものだと言われている。建国から数百年経ったいまでも数多く増版され、異世界の風景や物事を伝える貴重な資料として多くの人々に親しまれているよ」

「…………あり得ない」


 ウィルの説明に、慎也は愕然とした様子で頭を振った。


「あり得ない、とは、どういうことかね?」

「この本に書かれている内容は本当です。確かにオレたちの世界、オレたちの故郷そのものです。でもこれは、いまの、オレたちが生きていた時代のものなんです。飛行機と同じで、この本に書かれている物はすべて、300年前には無かった物ばかりだし、中には数年前に出来たものすらある。断言できます。この本を書いたのは、300年前どころか、オレたちと同じ時代を生きていた人間です!」

「剣崎君、ちょっと待って」


 興奮した様子の慎也を、結衣が制した。


「もしかしたら、向こうの世界とこちらの世界では時間の流れが違うのかも……」

「時間の流れ?」

「私たちには認識出来ないだけで、こっちの世界の時間は、私たちの世界に比べて速いんじゃないかな? 例えば、私たちの世界での1年イコールこっちの世界の100年、みたいな」

「なんだよそれ? 浦島太郎かよ……」

「もしくは、これを書いた人は私たちとは違う時代に飛ばされのかも知れない。異世界転移があり得るんだから、時空間転移なんてものがあっても不思議じゃないでしょ?」

「……」


 異世界物の小説を愛読していただけあって、こういう場面での詩乃の想像力は馬鹿にできない。確かに世界の壁を越えられるなら、時間の壁を越えるという現象が起こっても不思議では無い。


(どうせなら異世界じゃなくて、戦国時代に行きたかった……)


 声には出さず、身も蓋も無いことを考える慎也だった。


「あの、ちょっといいですか?」


 そこへ、傍観していたユフィアが割って入って来た。


「どうしたの?」

「この本の最後の方を読んでいただきたいんです」

「本の最後?」

「はい。この本は王祖様……初代国王様が書かれた物なんですが、本の最後の方に意味の判らない一文があるんです。見たことの無い文字で書かれていて、噂では、それは異世界の文字で、王祖様が自分と同じ異世界の人に当てたメッセージじゃないか、って」

「メッセージ?」


 すぐさま本のページをめくる。そこに書かれていたのは――


「日本語だ」


 まぎれも無く日本の文字だった。


「やっぱり! これは王祖様が住んでいた世界の文字なんですね!?」

「ああ、間違い無い。確かにこれは、オレたちの世界……オレたちの国で使われてる文字だ」


 慎也が認めると、ユフィアはさらに喜びを強くした。


「凄い、数百年越しの謎がこんな形で明らかになるなんて!?」

「ユフィア、少し落ち着きなさい」


 はしゃぎまくりのユフィアを、呆れ顔のウィルが窘める。


「ご、ごめんなさい。私ったら、はしたない」


 我知らず大声を出してしまったのが恥ずかしかったのか、ユフィアは顔を赤くして小さくなった。

 一方で、慎也と結衣は本の文章に目を走らせる。


『このメッセージを、同郷の者が読んでくれることを祈る』


 という、前置きを置いて書かれていたのは、初代王の生い立ちであった。


 元の世界で、彼は不幸のどん底にいたそうだ。

 酒乱にして暴力的、浮気三昧のどうしようもない父親。そんな父の為に母親は心を病み、正気を失って奇行を繰り返すようになった。そのせいで息子である彼は学校で虐められるようになり、中学生であった彼はとうとう耐え切れなくなって線路に飛び込んだらしい。

 猛スピードで迫りくる電車を目前に、ようやく地獄のような人生から解放されると目を閉じた矢先、気付けば見知らぬ草原のど真ん中に立っていたそうだ。

 天国だと思ったが、自分が生きていることを自覚し、ここが天国ではなく異世界だと悟った。その後、運良く親切な旅人に拾われ、その人から過去にも自分のような異世界人が大勢来ていたことを知った。

 彼は、これが神様がくれたチャンスだと考えた。


 第2の人生を異世界で歩め、と。


 彼は冒険者となり、異なる世界を旅して周った。様々な場所に赴き、色々なものを見て回り、多くの人、様々な種族と触れ合った。そして最後にたどり着いたのが、ベルカ帝国という国だった。


 ベルカ帝国を一言で言い表すなら、人間至上国家。

 この世界には人間以外にも様々な種族が暮らしているが、ベルカ帝国は人間以外の他種族を徹底して迫害していた。奴隷という言葉すら生易しいほどで、他種族に対して家畜以下の扱いを強いていたそうだ。しかも積極的に他国を侵略し、他種族狩りを行い、捕らえた者を奴隷化し、散々弄んだ上でゴミの様に捨てる。そんな常軌を逸した蛮行が至る所で繰り返されていたという。


 この世界、この国では当たり前のことなのかもしれないが、初代王はそれがどうしても許せなかった。ベルカ帝国に虐げられていた人々の姿が、かつて苛めを受けて自殺にまで追いやられた自分と重なり、どうしても見過ごすことが出来なかったのだという。


 結果、彼は虐げられた者たちと手を取り合い、ベルカ帝国に対して反乱を起こした。


 反乱と言っても、最初の内は奴隷たちを連れての逃避行と変わらないものだったという。だが、冒険者として各地を旅してきた際に築いた人脈を生かし、数少ない良心的な貴族を味方に付けるなどして、少しずつ力を蓄えて反撃の機を待った。そして、ベルカ帝国内で起こった帝位継承を巡る跡継ぎ争いに付け込んで一斉蜂起し、独立戦争を起こしたそうだ。


 世界中の、あらゆる種族が平等に暮らせる国を作る為に。

 自分の故郷、日本のように。


 だが、跡目争いで疲弊していたとはいえ、ベルカ帝国との独立戦争は熾烈を極めたそうだが、そこでも彼を支持する多くの人に助けられた。

 興味深いことに、その中には初代王と同じ異世界人も含まれていたそうだ。

『西ベルカ戦争』と呼ばれる激しい戦いの末、初代王たち独立軍はベルカ軍を打ち破り、ベルカ帝国領の西部をぶん取ってヤマト王国を樹立し、自身は初代国王となった。


 とは言え、初代王本人の談によると「話し合いの最中にトイレに行って、戻ってきたら自分が王様になることが決まっていた」そうだが。


 その後、真面目だった彼は、残りの人生をちゃんと王として生きたらしい。その間もあらゆる種族が平等に生きられる国を作る為に働き続けた。奴隷制の改善や、貧富の格差の解消、他種族を貴族に向かえるなどして、最後の最後まで自分の作った国の為に腐心し続けたのだという。


『私はこの世界で第2の人生を精一杯生きた。辛いことも色々あったが、本当に幸せな人生だった。愛する妻、最愛の我が子、掛け替えの無い友。そして、私を王と呼んでくれる多くの国民たちに囲まれ、いまこうして死期を前に筆を取っている間も、私の胸には充足感しかない。私をこの世界に導いてくれた存在に心から感謝している。この世界に来て、初めて私という存在は生まれたのだ。


 私は好きに生きた。だから、君たちも好きに生きろ。

 旅をしても良い。冒険者をするのも良い。強さを求めるのも良い。騎士や貴族、王を目指してみるのも良いかもしれない。私は見つけられなかったが、元の世界の戻る方法を探すのも自由だ。ただ、悪行に走るのだけは出来れば止めてほしい。


 この世界で君たちは自由であり、主人公でもある。これは君たち1人1人の紡ぐ、壮大なファンタジーだ。歩みを止めるな。物語を紡ぎ続けろ。そして私の物語がそうであったように、君たちの紡ぐ物語にも幸せな結末(ハッピーエンド)が訪れることを心から願う。

                     ヤマト王国初代国王 一条いちじょう悠真ゆうま


次回は7/18日午前0時更新予定です。

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